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7章 大根役者
7-5
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「神父のところへ行くって、桜下さん。まさか、教団に殴りこむんですか!?」
ウィルがまぁ、と口を大きく開けた。ウィルの俺に対するイメージって、そんな感じなのか?
「殴り込みって。普通に行って、話を聞いてみるだけだよ」
「あ、そうですか。そりゃそうですよね、さすがに」
「……」
ま、いまは俺の印象については置いておこう。
「とはいえ、正面切って質問しても、素直に教えてくれはしないだろうけどな……ただ、まだ一度も、クライブ神父とはまともに話せていないんだ。どんな人なのかもわからないから、せめてそこだけでも、ってな」
クライブ神父については、俺はあまりいい印象を持ってはいない。しかし、リンは神父を心の底から信頼している様子だった。リンをノーマの立場から救ったのも彼だっていうし……けど、そのリンに売春同然のことをさせているのも、彼だ。
「御神堂のあった場所に、教団関係者の事務所だってとこがあったんだ。そこに行ってみようかなって。エラゼムとライラは、ついてきてくれるだろ?」
二人はこっくりうなずいた。
「ウィルはどうする?途中で連れ出しちまったけど」
「ん~……そうですね、私はまた酒場に戻ります。ちょっと気になる話も聞けたので。もう少し様子を見てみたいんです」
「わかった。悪かったな、災難な目に合わせて」
「いえ、誰のせいというわけではありませんから……ただ、本音を言えば、ちょっと気持ち悪かったですけど」
ウィルはうえーという顔をした。まあ、無理もないな。俺だって、知り合いの情事を覗き見たいとは思わない。
「それじゃあ、また後で」
「はい。無茶はしないでくださいね」
俺たちは手を振って、ウィルと別れた。道すがら、俺はちらりと視線を向けて、マーステンの宿を覗き見た。あそこで、リンたちが……彼女たちは、いったい何時から、ああいうことをやらされていたんだろう。そして、それをさせるシュタイアー教の目的は何なんだろうか。やっぱり金?それじゃあ、明日の儀式の目的も金儲けなのか……そして忘れちゃならないのが、この町に巣食う怪物の正体だ。旅人が何人も行方不明になる理由も、まだはっきりしてこない。
(ピースは埋まってきている気がするんだがな。肝心の、全容がまだ見えてこない……)
なので、俺はクライブ神父に会って、そのもやもやが少しでも晴れることを期待していた。だが、それはあえなく潰えることとなった。
「クライブ神父は、今は外出されていていらっしゃらない」
「え」
御神堂の上の事務所についた俺たちは、出てきた司祭姿の男にそう告げられた。
「神父は夜までお帰りにならない。また日を改めてくれたまえ」
男は冷たくそう告げると、俺の鼻先でばたんと扉を閉めてしまった。
「なにあいつ、感じわるー!」
ライラがべーっと舌を突き出す。
「用事か……どこに行ってんだろう」
今日は儀式の前日だ、もしかするとなにかの準備をしに行ってるのかもしれない。その真っ最中の現場を押さえることができたら、儀式についての手がかりがつかめるかも。俺たちはそれを期待して、日が暮れるまで町中歩き回ったんだけど……結局、神父の姿は町のどこにもなかった。
「くぁー。空振りに終わっちまった。どこいったんだ、あのおっさん」
日が落ちてはしょうがなく、俺たちはやむなく宿へと戻った。昼間のリンたちの行為を考えると、部屋の中にいても落ち着かない……この宿のひどい匂いも、とか。考えちゃうんだよな。
「……ん。もう戻ってたんだ」
「お、フラン」
今日は、先に帰ってきたのはフランだった。
「お帰り。どうだった?」
「ん。まあ、そこそこ収穫はあった」
「おお、そっか。ウィルがまだだから、全員揃ったら聞くな」
「わかった」
ウィルが戻ってきたのは、そのすぐ後だった。
「あ、今日は私が最後ですね……それにしても、この宿。アレの後だと、居心地悪くありませんか?」
「ははは……同感だ」
俺たちの会話に、フランは不思議そうな顔をしている。
「ま、それじゃ今日の報告と行こうか。とりあえず、俺たちから話すよ。実は、今日の昼間……」
俺は、今日あったことを話して聞かせた。明日の儀式のこと、リンの出自のこと……リンの生まれに、ウィルとフランは目を丸くした……次に酒場でマスターに受けた忠告、そしてリンとローズがしていた事……
「ふーん……」
すべてを聞き終わっても、フランはとくだん顔色を変えなかった。
「その宗教のインチキ臭さは、ますます高まったね」
「だな……ただ、まだその目的が見えてこないんだ。金なのか、はたまた他の何かなのか……それについて、神父に話を聞いてやろうと思ったんだけど、今日は一日どっか行ってるみたいでさ」
「神父……?」
俺の言葉に、フランが赤い瞳を細めた。
「……その神父って、どんな人?」
「え?俺は怪しいと思ったけど、リンはいい人だって言ってて……」
「じゃなくて、外見。年齢とか、着てる服とか……」
「ああ、ええっとたしか……歳は、四十くらいだったかな?」
ライラがそれに重ねる。
「服は真っ黒だったよね。カラスみたいだって思ったもん」
さらにエラゼムが補足する。
「人相につきましては、しわが濃い印象でしたな。顔のほりも深かったです」
「中年、黒服、深いしわ……」
フランが、俺たちが挙げた特徴を復唱する。
「……うん。わたし、その人見た」
「え!フランが見たってことは……まさか、神父は城に行ってたのか?」
「うん。こんなところに珍しいと思って、様子を見てたんだ」
あ、でもそうか。明日の儀式で、リンが行くことになるのはあの城だ。そこの下見にでも行ったんだとしたら、クライブ神父がいてもおかしくはない。
「それで、神父は何をしてたんだ?」
「何も」
はぁ?思わず肩がずり下がってしまった。隣でライラががくっとずっこけている。
「な、何にもしてなかったのか?」
「そう。ずっと門のところに張り付いて、それっきり」
な、なんじゃそら。想像すると、かなりシュールな光景だ。
「けど、唇を動かしてるようには見えた。遠すぎて何を言ってるのかは聞こえなかったけど」
「何かを、しゃべってたのか……?でも、近くにほかの誰もいなかったんだよな?」
「うん。一人だけだった。それを小一時間くらいしてから、また山を下りて行ったよ」
い、意味が分からない……わざわざ独り言を言うために、山を登ったってことか?
「……それ、もしかするとまほーかもよ」
少し考え込んだのち、ライラが言う。
「メッセージ系のまほーなら、離れた相手とおしゃべりできるんだ。それを使って話してたのかも」
「それだと、クライブ神父は魔法を使えるってことか?」
「それか……城にいる誰かが、使ったとか。メッセージのまほーは、かけたい相手の場所さえわかれば、どこからでもかけられるから」
城にいる誰か……つまり、城主ってことだ。そう考えれば、確かに納得だ。あの城の主は、モンスターを召喚できるほどの腕前をもつ魔法使いなんだから。
「クライブ神父が、城の主と知り合いなんだとしたら……儀式の最終目的地があの城なのは、偶然なんかじゃなさそうだな」
あの城にいる何者か……そいつもきっと、儀式に関わっている。
「あの、だとするとやっぱり……その儀式を行うシスターは、生贄……なんでしょうか」
ウィルが蒼い顔でつぶやく。
「そのお城にいるのが、この町に巣食う怪物で……儀式は、シスターを供物としてささげるための口実なんじゃ?」
生贄……怪物の正体が本当にヴァンパイアなんだとしたら、リンはヴァンパイアに捧げられる、血の杯そのものということになる。
「でも、この儀式……満月祭は、一年に一回行われているんだぜ?毎年毎年シスターがいなくなってたら、町の人たちも不審がるんじゃないか?」
「それは……そうですねぇ。これだけ大々的に儀式を告知してるんだから、言い訳もきかないでしょうし……」
しかし、ウィルの言った生贄という表現は、的を射ている気がした。けど、まだ何かが足りていない……この町を覆っている闇を明かす、最後のピースが……
「……あ、そうでした。町の人たちで思い出したんですけど。私の報告がまだでしたよね?」
ウィルが思い出したように、ぱちんと手を合わせる。
「皆さんの話を聞くと、この町の人たちはシュタイアー教に協力的みたいですけど。あの酒場に集まる人たちだけは、どうやら例外みたいです」
「ん?あのマスターたちは、シュタイアー教の教徒じゃないってことか?でも、屋根にはエンブレムが飾ってあったよな?」
「ええ。根っから反発しているわけではないみたいでした。どちらかといえば、いけ好かないみたいな……だからあの酒場は、そういう人たちが飲んだくれながら愚痴をこぼすお店みたいですよ。一日中、ずっと教団の悪口ばかり言ってました」
なるほど……町の中にも、シュタイアー教に疑念を持つ人がいるんだな。けどそれは、かなり少数派みたいだ。裏を返せば、ほとんどの人は、シュタイアー教に疑問を抱いていないことになる。
「うーん……?シュタイアー教を疑ってるのは、かなりの偏屈ものばかりってことなのかなぁ。あのマスターも、悪い人ではなさそうなんだけど、素直じゃないしな」
「そうですねぇ、それは言えてるかもしれません。あそこのお客さん、みんなかなりお年寄りで、若くても四、五十代でしたもん。それもみーんな、ムスッとした顔しちゃって」
「あー。そういう人たちは、なんにでも反発しそうだしなぁ……」
「……ねぇ。それよりも、大事なことがあるんじゃない?」
ずいっと、フランが俺たちの間に割り込んできた。大事なこと?
「明日の夜までに、ここを出るように忠告されたんでしょ。だったら、そろそろ引き際も考えないと」
「あー、そうだった……俺たち自身のことも考えないとな」
う~ん、しかし。
「でもさあ、ここで手を引くのも気が退けないか?儀式の全容を知ろうと思ったら、やっぱりギリギリまで残らないと……それに、リンのこともある。あいつを放っとけないよ」
俺は彼女を騙した。そのけじめは、きっちりつけないとならない。
「でも、それであなたが危険な目に遭ったら意味ない。わたし、あなたとそのシスターとだったら、迷わずシスターを見捨てるよ」
「それは、そうだけど……けど、まだ何が危険なのかもわかってないだろ?それなのに逃げ出すのも……あ、じゃあこうしようぜ。明日の夕方までに全部の謎が解けなかったら、そんときは安全のために町の外に避難する。でも、危険の正体が分かって、対処ができそうだったら、町に残って儀式を見守ろう。これならどうだ?」
リンを守るためには近くにいた方がいいだろうが、さいあく一番最後の城の近くに居られれば、最悪の事態は避けられるだろう。城は町からも離れているし、俺たちの安全も保証できる……気がする。
「……」
フランはしばらく黙っていたが、渋々ながらもうなずいた。他の仲間たちも同意のようだ。
「でも、夕方になっても正体が分からなかったら、その時は引きずってでも町の外に出るからね」
「わ、わかったって」
明日の夕方か……正直厳しい気もするが、男に二言はないからな。いずれにせよ、明日の夜には全てが終わっているだろう……一年に一度の、満月の宴の後には。
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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ウィルがまぁ、と口を大きく開けた。ウィルの俺に対するイメージって、そんな感じなのか?
「殴り込みって。普通に行って、話を聞いてみるだけだよ」
「あ、そうですか。そりゃそうですよね、さすがに」
「……」
ま、いまは俺の印象については置いておこう。
「とはいえ、正面切って質問しても、素直に教えてくれはしないだろうけどな……ただ、まだ一度も、クライブ神父とはまともに話せていないんだ。どんな人なのかもわからないから、せめてそこだけでも、ってな」
クライブ神父については、俺はあまりいい印象を持ってはいない。しかし、リンは神父を心の底から信頼している様子だった。リンをノーマの立場から救ったのも彼だっていうし……けど、そのリンに売春同然のことをさせているのも、彼だ。
「御神堂のあった場所に、教団関係者の事務所だってとこがあったんだ。そこに行ってみようかなって。エラゼムとライラは、ついてきてくれるだろ?」
二人はこっくりうなずいた。
「ウィルはどうする?途中で連れ出しちまったけど」
「ん~……そうですね、私はまた酒場に戻ります。ちょっと気になる話も聞けたので。もう少し様子を見てみたいんです」
「わかった。悪かったな、災難な目に合わせて」
「いえ、誰のせいというわけではありませんから……ただ、本音を言えば、ちょっと気持ち悪かったですけど」
ウィルはうえーという顔をした。まあ、無理もないな。俺だって、知り合いの情事を覗き見たいとは思わない。
「それじゃあ、また後で」
「はい。無茶はしないでくださいね」
俺たちは手を振って、ウィルと別れた。道すがら、俺はちらりと視線を向けて、マーステンの宿を覗き見た。あそこで、リンたちが……彼女たちは、いったい何時から、ああいうことをやらされていたんだろう。そして、それをさせるシュタイアー教の目的は何なんだろうか。やっぱり金?それじゃあ、明日の儀式の目的も金儲けなのか……そして忘れちゃならないのが、この町に巣食う怪物の正体だ。旅人が何人も行方不明になる理由も、まだはっきりしてこない。
(ピースは埋まってきている気がするんだがな。肝心の、全容がまだ見えてこない……)
なので、俺はクライブ神父に会って、そのもやもやが少しでも晴れることを期待していた。だが、それはあえなく潰えることとなった。
「クライブ神父は、今は外出されていていらっしゃらない」
「え」
御神堂の上の事務所についた俺たちは、出てきた司祭姿の男にそう告げられた。
「神父は夜までお帰りにならない。また日を改めてくれたまえ」
男は冷たくそう告げると、俺の鼻先でばたんと扉を閉めてしまった。
「なにあいつ、感じわるー!」
ライラがべーっと舌を突き出す。
「用事か……どこに行ってんだろう」
今日は儀式の前日だ、もしかするとなにかの準備をしに行ってるのかもしれない。その真っ最中の現場を押さえることができたら、儀式についての手がかりがつかめるかも。俺たちはそれを期待して、日が暮れるまで町中歩き回ったんだけど……結局、神父の姿は町のどこにもなかった。
「くぁー。空振りに終わっちまった。どこいったんだ、あのおっさん」
日が落ちてはしょうがなく、俺たちはやむなく宿へと戻った。昼間のリンたちの行為を考えると、部屋の中にいても落ち着かない……この宿のひどい匂いも、とか。考えちゃうんだよな。
「……ん。もう戻ってたんだ」
「お、フラン」
今日は、先に帰ってきたのはフランだった。
「お帰り。どうだった?」
「ん。まあ、そこそこ収穫はあった」
「おお、そっか。ウィルがまだだから、全員揃ったら聞くな」
「わかった」
ウィルが戻ってきたのは、そのすぐ後だった。
「あ、今日は私が最後ですね……それにしても、この宿。アレの後だと、居心地悪くありませんか?」
「ははは……同感だ」
俺たちの会話に、フランは不思議そうな顔をしている。
「ま、それじゃ今日の報告と行こうか。とりあえず、俺たちから話すよ。実は、今日の昼間……」
俺は、今日あったことを話して聞かせた。明日の儀式のこと、リンの出自のこと……リンの生まれに、ウィルとフランは目を丸くした……次に酒場でマスターに受けた忠告、そしてリンとローズがしていた事……
「ふーん……」
すべてを聞き終わっても、フランはとくだん顔色を変えなかった。
「その宗教のインチキ臭さは、ますます高まったね」
「だな……ただ、まだその目的が見えてこないんだ。金なのか、はたまた他の何かなのか……それについて、神父に話を聞いてやろうと思ったんだけど、今日は一日どっか行ってるみたいでさ」
「神父……?」
俺の言葉に、フランが赤い瞳を細めた。
「……その神父って、どんな人?」
「え?俺は怪しいと思ったけど、リンはいい人だって言ってて……」
「じゃなくて、外見。年齢とか、着てる服とか……」
「ああ、ええっとたしか……歳は、四十くらいだったかな?」
ライラがそれに重ねる。
「服は真っ黒だったよね。カラスみたいだって思ったもん」
さらにエラゼムが補足する。
「人相につきましては、しわが濃い印象でしたな。顔のほりも深かったです」
「中年、黒服、深いしわ……」
フランが、俺たちが挙げた特徴を復唱する。
「……うん。わたし、その人見た」
「え!フランが見たってことは……まさか、神父は城に行ってたのか?」
「うん。こんなところに珍しいと思って、様子を見てたんだ」
あ、でもそうか。明日の儀式で、リンが行くことになるのはあの城だ。そこの下見にでも行ったんだとしたら、クライブ神父がいてもおかしくはない。
「それで、神父は何をしてたんだ?」
「何も」
はぁ?思わず肩がずり下がってしまった。隣でライラががくっとずっこけている。
「な、何にもしてなかったのか?」
「そう。ずっと門のところに張り付いて、それっきり」
な、なんじゃそら。想像すると、かなりシュールな光景だ。
「けど、唇を動かしてるようには見えた。遠すぎて何を言ってるのかは聞こえなかったけど」
「何かを、しゃべってたのか……?でも、近くにほかの誰もいなかったんだよな?」
「うん。一人だけだった。それを小一時間くらいしてから、また山を下りて行ったよ」
い、意味が分からない……わざわざ独り言を言うために、山を登ったってことか?
「……それ、もしかするとまほーかもよ」
少し考え込んだのち、ライラが言う。
「メッセージ系のまほーなら、離れた相手とおしゃべりできるんだ。それを使って話してたのかも」
「それだと、クライブ神父は魔法を使えるってことか?」
「それか……城にいる誰かが、使ったとか。メッセージのまほーは、かけたい相手の場所さえわかれば、どこからでもかけられるから」
城にいる誰か……つまり、城主ってことだ。そう考えれば、確かに納得だ。あの城の主は、モンスターを召喚できるほどの腕前をもつ魔法使いなんだから。
「クライブ神父が、城の主と知り合いなんだとしたら……儀式の最終目的地があの城なのは、偶然なんかじゃなさそうだな」
あの城にいる何者か……そいつもきっと、儀式に関わっている。
「あの、だとするとやっぱり……その儀式を行うシスターは、生贄……なんでしょうか」
ウィルが蒼い顔でつぶやく。
「そのお城にいるのが、この町に巣食う怪物で……儀式は、シスターを供物としてささげるための口実なんじゃ?」
生贄……怪物の正体が本当にヴァンパイアなんだとしたら、リンはヴァンパイアに捧げられる、血の杯そのものということになる。
「でも、この儀式……満月祭は、一年に一回行われているんだぜ?毎年毎年シスターがいなくなってたら、町の人たちも不審がるんじゃないか?」
「それは……そうですねぇ。これだけ大々的に儀式を告知してるんだから、言い訳もきかないでしょうし……」
しかし、ウィルの言った生贄という表現は、的を射ている気がした。けど、まだ何かが足りていない……この町を覆っている闇を明かす、最後のピースが……
「……あ、そうでした。町の人たちで思い出したんですけど。私の報告がまだでしたよね?」
ウィルが思い出したように、ぱちんと手を合わせる。
「皆さんの話を聞くと、この町の人たちはシュタイアー教に協力的みたいですけど。あの酒場に集まる人たちだけは、どうやら例外みたいです」
「ん?あのマスターたちは、シュタイアー教の教徒じゃないってことか?でも、屋根にはエンブレムが飾ってあったよな?」
「ええ。根っから反発しているわけではないみたいでした。どちらかといえば、いけ好かないみたいな……だからあの酒場は、そういう人たちが飲んだくれながら愚痴をこぼすお店みたいですよ。一日中、ずっと教団の悪口ばかり言ってました」
なるほど……町の中にも、シュタイアー教に疑念を持つ人がいるんだな。けどそれは、かなり少数派みたいだ。裏を返せば、ほとんどの人は、シュタイアー教に疑問を抱いていないことになる。
「うーん……?シュタイアー教を疑ってるのは、かなりの偏屈ものばかりってことなのかなぁ。あのマスターも、悪い人ではなさそうなんだけど、素直じゃないしな」
「そうですねぇ、それは言えてるかもしれません。あそこのお客さん、みんなかなりお年寄りで、若くても四、五十代でしたもん。それもみーんな、ムスッとした顔しちゃって」
「あー。そういう人たちは、なんにでも反発しそうだしなぁ……」
「……ねぇ。それよりも、大事なことがあるんじゃない?」
ずいっと、フランが俺たちの間に割り込んできた。大事なこと?
「明日の夜までに、ここを出るように忠告されたんでしょ。だったら、そろそろ引き際も考えないと」
「あー、そうだった……俺たち自身のことも考えないとな」
う~ん、しかし。
「でもさあ、ここで手を引くのも気が退けないか?儀式の全容を知ろうと思ったら、やっぱりギリギリまで残らないと……それに、リンのこともある。あいつを放っとけないよ」
俺は彼女を騙した。そのけじめは、きっちりつけないとならない。
「でも、それであなたが危険な目に遭ったら意味ない。わたし、あなたとそのシスターとだったら、迷わずシスターを見捨てるよ」
「それは、そうだけど……けど、まだ何が危険なのかもわかってないだろ?それなのに逃げ出すのも……あ、じゃあこうしようぜ。明日の夕方までに全部の謎が解けなかったら、そんときは安全のために町の外に避難する。でも、危険の正体が分かって、対処ができそうだったら、町に残って儀式を見守ろう。これならどうだ?」
リンを守るためには近くにいた方がいいだろうが、さいあく一番最後の城の近くに居られれば、最悪の事態は避けられるだろう。城は町からも離れているし、俺たちの安全も保証できる……気がする。
「……」
フランはしばらく黙っていたが、渋々ながらもうなずいた。他の仲間たちも同意のようだ。
「でも、夕方になっても正体が分からなかったら、その時は引きずってでも町の外に出るからね」
「わ、わかったって」
明日の夕方か……正直厳しい気もするが、男に二言はないからな。いずれにせよ、明日の夜には全てが終わっているだろう……一年に一度の、満月の宴の後には。
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