じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
269 / 860
7章 大根役者

13-2

しおりを挟む
13-2

「ふぁ……ぁあ。しかし、くたびれたなぁ。色んなことがありすぎた」

この数日間、実に気の休まらない日々だった。おまけに今日は、夜通し動き回ってくたくただ。エラゼムが心配そうに俺の顔色をうかがう。

「桜下殿、さぞお疲れかと存じますが……今はできる限り、あの町から離れたいところでございますな」

「ああ、まったくだ……ふわ」

またいつ、あいつらがアルルカを取り戻そうと追ってくるかもわからないし……俺はそのアルルカの様子をうかがう。アルルカはさっきから微動だにせず、ひたすらうつむき続けていた。ここまで落ち込まれるとさすがに憐れに思えてくるが、かといって逃がしてやるわけにもいかない。もとより、身から出た錆だ。

「とりあえず、日が出るまでは歩いておこうか」

日の出まであとどれくらいかは分からないが、俺たちは町を離れるべく、黒い木々が茂る林の中を歩き始めた。

「ま、けどな……慣れない事はするもんじゃないな。やっぱり、俺に勇者は務まらないぜ」

俺は誰に言うでもなくひとりごちた。俺が勇者に扮した理由は、シリス大公の耳に今回の一件を伝えるためだ。どこぞの旅人がヴァンパイアを退治しました、じゃ、シリス大公が俺たちだって気づかないかもしれないだろ?
それ以外にも、ややこしい因縁をもらわない目的もある。セイラムロットの連中は、仮面の勇者がヴァンパイアを連れて行ったんだと思っているからな。ようやく王国兵に追われなくなったんだ、すぐに追っかけができちゃたまったもんじゃない。

「やっぱり、気楽なのが一番だ」

そもそも、今回この町に来た経緯からして、いつもと違った。シリス大公に半ば脅される形で始まった今回のクエストは、思い返せばしんどい事ばかりだった。

「そうですね……いつもの冒険とは、ちょっと毛色が違いました」

ウィルも俺に同意する。彼女も、リンたちのことでショックを受けていたからな。しんどい思いをしただろう。

「最終的に、殺しはしないで済んだからよかったけど……もう王様の言いなりになるのはこりごりだ」

「ほう。そうなのかね?」

え?今の、誰の声だ?どこかで聞いたような……俺たちはいっせいに声の主を探したが、辺りには木の陰ばかりで、人の姿は見えない。

「ど、どこだ!隠れてないで出て来い!」

「隠れてなどいない。君たちが見当違いの方向を向いているのだ」

なに?するとフランがある一点をさして、鋭い声を上げた。

「あそこだ!」

どこだ?フランは、木の上の方を指している。目を凝らすと、そこには一羽のフクロウが止まっていた。

「フクロウしかいないけど……?」

「どこ見てんの!あいつが喋ってるんだよ!」

な、なんだって?フクロウが?

「その娘の言う通りだ」

うわ、ほんとにフクロウが喋った!

「ど、どうなってんだ……何かのモンスターか?」

「いや、そうではない。これは魔術師の使い魔ファミリアだ。私が君たちの働きを視察するためにやった、召使いだよ。その体を借りて、こうして私が喋っている」

「つ、使い魔?じゃあ、その主であるあんたは、一体誰なんだよ?」

「思い出さないか?ついに数日前に、王宮で会ったというのに」

王宮だって……?あ、こ、この声!

「あんたまさか、シリス大公!?……ですか?」

「そうだ」

な、なんてこった……フクロウは黄色い瞳をぱちくりさせ、あざけるように顔を九十度傾けた……ん、まてよ。そういえば、俺たちが城から町へ帰って来る時も、木にフクロウが止まっていたな。まさか、あん時から見られていたのか……

「さて。君たちは、見事私の頼みを成し遂げてくれたようだね。礼を言おう」

「……別に。あなたの為にしたわけじゃないですから」

「うん、百点の回答だ。私は正式に君たちへ依頼したわけではない。君たちと世間話をし、それを君がたまたま覚えていて、成し遂げただけだ」

わかってるんだったら、最初から言うなよ!俺は突っ込みたくて、唇がムズムズした。

「しかし、君たちは我が国へ貢献をしてくれた。これは王室からの報酬を得るに値する行為だよ」

「いいですよ、そんなもん。気持ちだけもらっておきます」

「そうはいかない。細々した決まりがあって、褒美はきちんと授与されなければいけないことになっているのだ」

すると突然、フクロウの腹が蛇腹状にびろんと伸びた。

「うわっ!きも……」

「面白い生き物だろう。イツマデンという鳥だ。腹に多くのポケットを持ち、物を運ぶのに便利な使い魔だよ」

そのイツマデンとかいうフクロウは、腹をゆすると、手のひらサイズの巾着をどさっと地面に落とした。

「受け取りたまえ。褒美だ」

な……俺に拾わせるのかよ?くぅ~、どこまでも馬鹿にしやがって。

「おい、シリス大公!」

「なんだ?言っておくが、返品は受け付けないぞ」

「あ、そう……じゃなくて!こっちこそ言っておくけどな、こんなことはこれっきりなしだからな!」

「うん?こんなことというのは、今回のような取引のことか?」

「そうだ。今回は仕方なく引き受けたけど、二度目はもうないぞ」

「なぜだね。君たちは名声と報酬を得られ、私は国内が安定する。いい取引だと思うが。そもそも、なぜ君は勇者であることを拒絶する?」

シリス大公の使い魔は、黄色い双眸で俺の顔を覗き込む。

「この一連の騒動で分かっただろう。君は、まぎれもなく勇者だ」

「まさか、冗談じゃないよ。俺が勇者を演じるのは、あまりにも役不足……じゃなかった、役者不足……でもなくて」

あれ、こういうの、なんていうんだっけ?フランがため息交じりにつぶやく。

「大根役者」

「そう、それだ!つまり、何が言いたいかっていうと、俺には勇者役は務まらないよ。それに、俺自身全然楽しくない。俺たちは、自由な勢力だ。誰かに命令されるなんて、まっぴらだ」

「……ふむ。今の発言は、ともすれば反逆ともとれるが」

「どうぞ、ご自由に。もうあんたとのやり取りはこれっきりだよ。脅そうが何しようが、もう決めたことだ」

フクロウは、さっきとは逆の方向に顔をぐりんと回転させた。

「なるほど。そういう生き方もあるだろう。二の国の王女は、とんだじゃじゃ馬をつかまされたものだな」

「ふん。否定はしないよ」

「よかろう。私としても、そんな不誠実な者たちに仕事を振ろうとは思わない。君たちがわが国で不遜な動きを見せない限りは、君たちとはこれっきりだ」

「そりゃ、どうも」

「うむ。君たちのような賢くない生き方がどこまで通用するのか、せいぜい見届けさせてもらうとしよう。では、さらばだ」

一方的に会話を打ち切ると、フクロウは最後にホーッと鳴いて、静かに飛び立っていった。それを目で追うと、空がだいぶ白んできている。そろそろ夜明けも近いな。

「ったく、最後まで嫌味なヤローだぜ。ゴミみたいに放り投げていきやがって……」

俺はぶつくさ言いながら、フクロウが地面に落としていった巾着を拾い上げた。わ、重い。じゃらりと中身が揺れる。

「うわ……中身、金貨だ……」

袋の中には、そこそこの量の金貨が詰まっていた。

「んでもなぁ、あいつから貰ったってのが気に食わないなぁ……」

「でも桜下さん、お金には変わりありませんよ」

ウィルが俺の手元をのぞき込みながら言った。

「こっちに来てから、何かと出費もかさんでたじゃないですか。せっかくですから、もらっときましょうよ」

「くっ、癪だが……」

ちぇ、背に腹は代えられないな。俺は巾着を自分のカバンにしまった。するとフランが、フクロウの消えていったあたりを見ながら眉をひそめた。

「それより、よかったの?確かにいけ好かないけど、あいつはこの国の王なんでしょ。そいつの手をひっぱたくようなことして……」

「あー、いいよいいよ。あいつとつるんでも、絶対ろくなことにならないぞ。こんな面倒ごとばかり押し付けられて、次こそは本当に殺しをしなくちゃならなくなるかもしれない」

「それは……そうかもね」

「だろ?あいつが求めてるのは、勇者としての俺だ。でも俺は、この第三勢力としての俺しかないから。二役も演じれないよ」

するとフランは、からかうようにクスッと笑った。

「大根役者だから?」

「そのとーりだ。俺は俺だ、何度も言ってるだろ」

俺がニヤッと笑うと、エラゼムが声を立てて笑った。

「はははは。よいではありませぬか。二面性を持つ人間というのは、えてして信用が置けぬものです。その点桜下殿には、迷いなく信頼を寄せられますからな」

「お、エラゼム。いいこと言う」

笑いあう俺たちをフランがあきれた目で見ていたが、俺はちっとも気にならなかった。大根役者でいいじゃないか。自分の道を見失ったら、きっと望むものは手に入らなくなってしまう。そのことを、今回の一件で学んだのだ。
俺は、俺を大事にしていけばいい。今は、それで十分さ。



八章へつづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...