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8章 重なる魂
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「こういう時、まずは自己紹介から始めるのだったな。私の名はぺトラという」
ぺトラ、と名乗った女は、自分の胸に手を置いて言った。
「先ほどは、どうもありがとう。おかげで助かった」
「いや、助けになれてよかったよ。あ、俺は桜下ってんだ。それでこっちの無口なのがフラン。この鎧がエラゼムで、この子がライラ、それでこの失礼なのがアルルカだ」
「誰が失礼なのよ!」とアルルカが噛みついてきたので(比喩だ)、俺はお前のことだという意味を込めて、びしっと額に指を突き付けた。それを見たぺトラが笑う。
「ははは。楽しそうな面子だな」
「まあ、そうなんだけどな……だから、諸事情でお茶を飲まないやつもいるんだけど、気を悪くしないでもらえるかな」
「わかった。私からさそったのだ、無理強いはしまい」
ペトラは素直にうなずいた。
「ところで、お前たちが乗っていたのは、ストームスティードだろう?さっきの戦闘といい、魔術に造詣《ぞうけい》が深いみたいだな」
「ああ、うん。あれ、あなたもひょっとして?」
「私か?いや、私はあいにくとこちらの魔術はからっきしだ。理論がまるで違うから、さっぱり理解できなかった」
“こちらの”、魔術?なんだか引っかかる言い回しだな。
「その……ペトラって、別の国の出身なのか?」
「ああ」
あ、やっぱりそうなのか。どことなく異邦人感があったんだよな。別世界から来た、俺が言うのも変かもしれないが。
「三の国か?それとも、一の国?」
「いや、そのどちらでもない。私の故郷は、海を渡った先にある」
「え?うわー、じゃあ本当に海外なんだ」
そうか、一・二・三の国以外にも、海を渡れば人がいるんだな。三国以外は聞いたことなかったから、そんな事ちっとも考えなかった。この大陸の外は、どんな世界なんだろうか。
「ペトラの故郷は、どんなところなんだ?」
「ここと大して変わりはしないよ。多少文化の違いはあれど、そこで暮らす者たちは似たようなものだ……もっとも、それももはや過去の話だが」
「え?それは、どうして……」
「滅びたのだ。国は崩壊し、民は散り散りになった。私がここにいるのも、そういう理由だ」
ペトラはあっけらかんと言った。
「あ……ご、ごめん。悪いこと聞いたな」
「謝ることはない。私が勝手に話したことだ」
取り繕っているわけでもなく、ペトラは本当に、少しも気にしていない風だった。さばさばしているんだな……俺のほうがかえって気を遣ってしまう。すると今度は、ペトラが逆に俺たちに質問してきた。
「それより、お前たちこそ、一体どういう一団なのだ?見た所、人間は一人しかいないようだが」
ピシリ。
俺たち全員が硬直した音がした……ちょうどその時、火にかけていたやかんからピー!と蒸気がふき出した。ペトラはやかんを火から上げると、蓋を取って中に茶葉を入れる。そして再び蓋を閉じると、手首を左右に揺らして茶葉をくゆらせ始めた……ペトラの一挙手一投足に注目したせいで、その動作を細かく目で追ってしまう。
「む。このようなことを初対面で言うのは、失礼にあたるのだったか?だとしたらすまない」
固まった俺たちを見てか、ペトラがやかんを揺らしながら言った。その淡白な表情からは、少なくとも悪意は感じ取れない……俺は慎重に口を開いた。
「いや……まあその、事実だから構わないんだけど……」
「そうか?まだこちらの文化に馴染んでなくてな。探り探りなんだ」
「そ、それよりも。どうして、俺たちのことを人間じゃないと……いや、それは見ればわかるか、うん」
「そうだな。実際、見てわかった」
だよな。アルルカなんかもろに翼が生えていたし。
「そっか。それじゃあ、こう聞かせてもらうけど……ペトラは、どう思った?」
「どう?どうとは、お前たちの大半が人間でない事実に対してか?」
まったくそのとおりだ。俺は黙ってこくりとうなずく。
「別に、どうとも思わないが。珍しいとは感じたな」
「……へ?それだけ?」
「ああ。こちらではどうか知らないが、私たちの故郷では、外観を見ただけで中身まで理解できたと判断するやつは、愚か者と呼ばれる。桜下、君は白い毛皮を被ったオオカミを仲間だと思い、まんまと食われる羊を何と呼ぶ?」
「……愚か者、ってことか?」
「よかった。君と私の感性は同じのようだな」
ペトラは薄くほほ笑んだ。
「親切そうな外見に騙されてはならない。逆に、厳めしい外面に怯えすぎてもならない。賢き者とは、外見を見ただけで内面まで理解するものだ。私はその域には遠く及ばないが、お前たちが私を助け、そして騙そうとしていないことはこの目で見ている。それだけ分かれば十分だろう?」
あ……だから、最初に馬から下りずに、じっとこちらを観察していたのか。ってことは、あの時点で俺たちの正体を見抜き、そして信用できると判断していたってことか?ぐわー、感服だ。このペトラって言う人は、実は仙人が皮を被った姿なんじゃないか?
「……驚いたな。俺たちの正体を知っても、普通に接してくれた人は初めてだ」
「そうなのか?ふむ、この国では私の考え方は、あまり浸透していないようだな」
「あはは。そうなのかもな」
まあでも、それが人間って奴だろう。皮肉とかじゃないぜ?ただ、オオカミを見れば怖がり、アンデッドを見れば逃げるのが普通だろって話だ。君子危うきに近寄らずって言うしな。だからこそ、俺たちは自分たちだけの第三勢力を作ろうとしているんだし。
「えーっと、それで、俺たちについてだっけ?確かに俺たちはアンデッドばかりだけど、みんな旅の仲間なんだ。それぞれの未練を解消する方法を探してあちこち回っているうちに、今日あんたに会ったってわけさ」
「なるほど。では、桜下。君はどうして旅をしている?君はアンデッドではないから、旅をする理由がないはずだが」
「俺?俺は……」
どうしよう、みなまで話してもいいだろうか?しかしなぜだか俺は、今日初対面のペトラを、不思議と信用していた。この人は、普通の人間とは違う……独特の価値観しかり、纏っている空気感しかり。外国人だからか?なんにせよ、俺はこの人になら、自分の目的を打ち明けても笑われないような気がしていた。
「……俺は、自分だけの第三勢力を作ることが目的なんだ」
「なんと。国を興す気か?」
「いや、そういうんじゃなくて……自分の居場所っていうのかな?誰にも文句を言われない、俺が俺らしく、自由に堂々と過ごせる場所。それを世界に認めさせるために、押すに押されぬ軍勢を作りたいんだよ」
「自由に……」
ペトラは心底驚いたと言うように、目を真ん丸くした。そして頬を膨らませたかと思うと、突然大口を開けて笑い出した。
「ぷっ……あはははははは!」
うわ、さっきまで笑っても口の端を持ち上げる程度だったのに……誰だよ、ペトラが笑わないとか言ったやつ?肩を落とす俺の隣で、フランが酔っ払いでも見るような目をペトラへ向けている。
「あははは……」
「……そんなに可笑しかったかな?」
「はぁ、はぁ。いや、すまない。馬鹿にしたわけじゃないんだ。ただ、あまりにも予想だにしない答えだったものだから……」
「突拍子もないってことは、理解しているよ」
「いや、そんなことはないだろう。人間というものは、皆お前と同じ望みを抱いているはずだ。口にしないだけで」
そう……なんだろうか。まあそりゃ、ありのままの自分を受け入れてもらえたら、それほど楽なことはないんだろうけど……
「まあ、普通の人なら、こんなこと言わないだろうな」
「そうだ。それをお前は、敢えて口にした。それも少しも躊躇せず、恥ずかしげもなくな。それはあまりにも短絡的であり、動物的であり、刹那的であり、そしてもっとも純真な願いだ。そんな願いを持つ人間がまだいたのかと思うと、くくくっ。無性に嬉しくなってきてしまってな」
「はぁ……」
なんだかよくわからないけど、やっぱり悪意はないみたいだ。フランがぼそっと「それって結局バカにしてない?」とこぼしたが、深く考えないでおこう。
「ふふふ。私は何の役にも立てないが、せめて君の野望を応援させてもらうよ。さ、カップを出しなさい」
「そりゃ、どうも」
俺はブリキ製のカップを三つ差し出した。いつかに貰った、猟師のウッドのお下がりのカップだ。たぶん、俺、フラン、そしてウィルの分だったんだろう。
ペトラはカップに紅色のお茶をなみなみ注ぐと、器用に三つの取っ手に長い指を通して、こちらに差し出した。俺、ライラ、アルルカがそれを受け取る。俺はアルルカのマスクの金具を緩めて、口元までずり下げられるようにしてやった。
「お口に合うといいのだが」
ペトラが茶を勧めるので、俺はふーふー息を吹きかけると、カップのふちに口を付けた。一口、ごくり。
「……!う、うまい……」
「そうか。よかった」
ペトラはにこりと笑った。いや、俺に紅茶の味なんか分かるわけないけどさ。けど、それでも思わず口をついてしまったんだ。これ、相当いい茶葉なんじゃないか……?
「わ、ほんとだ。おいしい!」
続いてライラもぱっと顔をほころばせる。アンデッドであっても分かる味なんだな。俺たちのリアクションを見て、アルルカも慌ててカップを傾けた。
「ごく………………!ほんとね。いい味だわ」
「お眼鏡にかなってなによりだ」
ペトラは機嫌良さそうに笑う。ここでこんなことを聞くのは野暮かもしれないが、俺はどうしても気になってしまった。
「なあ、ペトラ。このお茶っぱって、けっこういいものなんじゃ……?」
「いや、大したものじゃない。私の故郷の品なんだ。ハナカツミの花弁から作られる茶だよ」
「へ~……こんなおいしいお茶ができるなんて、いい所だったんだな」
「ああ。自然豊かで、美しい国だった」
俺はもう一口お茶をすすった。うん、やっぱりおいしい。ウィルが興味津々で覗き込んでいるので、アルルカはお茶を飲みづらそうにしていた。
「ところで、ペトラ。あんたはなんで、あんななんにもない荒野にいたんだ?ラクーンに行く途中だったとか?」
「いや、そうじゃない。もともとラクーンの町には寄らないつもりだったんだ。しかし夜道を少しでも進もうと無理をしたのがいけなかった。人攫いに出くわして困っていた所に、お前たちがやってきたというわけだ」
「そうだったのか。どこか、行くところがあるのか?」
「いや、当てのない旅だ。目的地もなく、あちこちさまよっている」
「じゃあ、旅することが目的ってやつなのか。すごいなぁ、冒険家みたいだ」
「はは、冒険家か。それは、言い得て妙かもしれない。じつは、とくに目標は定めてないと言ったが。今は七つの魔境を訪れてみようかと思っているんだ」
「へ?七つの……魔境?」
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「先ほどは、どうもありがとう。おかげで助かった」
「いや、助けになれてよかったよ。あ、俺は桜下ってんだ。それでこっちの無口なのがフラン。この鎧がエラゼムで、この子がライラ、それでこの失礼なのがアルルカだ」
「誰が失礼なのよ!」とアルルカが噛みついてきたので(比喩だ)、俺はお前のことだという意味を込めて、びしっと額に指を突き付けた。それを見たぺトラが笑う。
「ははは。楽しそうな面子だな」
「まあ、そうなんだけどな……だから、諸事情でお茶を飲まないやつもいるんだけど、気を悪くしないでもらえるかな」
「わかった。私からさそったのだ、無理強いはしまい」
ペトラは素直にうなずいた。
「ところで、お前たちが乗っていたのは、ストームスティードだろう?さっきの戦闘といい、魔術に造詣《ぞうけい》が深いみたいだな」
「ああ、うん。あれ、あなたもひょっとして?」
「私か?いや、私はあいにくとこちらの魔術はからっきしだ。理論がまるで違うから、さっぱり理解できなかった」
“こちらの”、魔術?なんだか引っかかる言い回しだな。
「その……ペトラって、別の国の出身なのか?」
「ああ」
あ、やっぱりそうなのか。どことなく異邦人感があったんだよな。別世界から来た、俺が言うのも変かもしれないが。
「三の国か?それとも、一の国?」
「いや、そのどちらでもない。私の故郷は、海を渡った先にある」
「え?うわー、じゃあ本当に海外なんだ」
そうか、一・二・三の国以外にも、海を渡れば人がいるんだな。三国以外は聞いたことなかったから、そんな事ちっとも考えなかった。この大陸の外は、どんな世界なんだろうか。
「ペトラの故郷は、どんなところなんだ?」
「ここと大して変わりはしないよ。多少文化の違いはあれど、そこで暮らす者たちは似たようなものだ……もっとも、それももはや過去の話だが」
「え?それは、どうして……」
「滅びたのだ。国は崩壊し、民は散り散りになった。私がここにいるのも、そういう理由だ」
ペトラはあっけらかんと言った。
「あ……ご、ごめん。悪いこと聞いたな」
「謝ることはない。私が勝手に話したことだ」
取り繕っているわけでもなく、ペトラは本当に、少しも気にしていない風だった。さばさばしているんだな……俺のほうがかえって気を遣ってしまう。すると今度は、ペトラが逆に俺たちに質問してきた。
「それより、お前たちこそ、一体どういう一団なのだ?見た所、人間は一人しかいないようだが」
ピシリ。
俺たち全員が硬直した音がした……ちょうどその時、火にかけていたやかんからピー!と蒸気がふき出した。ペトラはやかんを火から上げると、蓋を取って中に茶葉を入れる。そして再び蓋を閉じると、手首を左右に揺らして茶葉をくゆらせ始めた……ペトラの一挙手一投足に注目したせいで、その動作を細かく目で追ってしまう。
「む。このようなことを初対面で言うのは、失礼にあたるのだったか?だとしたらすまない」
固まった俺たちを見てか、ペトラがやかんを揺らしながら言った。その淡白な表情からは、少なくとも悪意は感じ取れない……俺は慎重に口を開いた。
「いや……まあその、事実だから構わないんだけど……」
「そうか?まだこちらの文化に馴染んでなくてな。探り探りなんだ」
「そ、それよりも。どうして、俺たちのことを人間じゃないと……いや、それは見ればわかるか、うん」
「そうだな。実際、見てわかった」
だよな。アルルカなんかもろに翼が生えていたし。
「そっか。それじゃあ、こう聞かせてもらうけど……ペトラは、どう思った?」
「どう?どうとは、お前たちの大半が人間でない事実に対してか?」
まったくそのとおりだ。俺は黙ってこくりとうなずく。
「別に、どうとも思わないが。珍しいとは感じたな」
「……へ?それだけ?」
「ああ。こちらではどうか知らないが、私たちの故郷では、外観を見ただけで中身まで理解できたと判断するやつは、愚か者と呼ばれる。桜下、君は白い毛皮を被ったオオカミを仲間だと思い、まんまと食われる羊を何と呼ぶ?」
「……愚か者、ってことか?」
「よかった。君と私の感性は同じのようだな」
ペトラは薄くほほ笑んだ。
「親切そうな外見に騙されてはならない。逆に、厳めしい外面に怯えすぎてもならない。賢き者とは、外見を見ただけで内面まで理解するものだ。私はその域には遠く及ばないが、お前たちが私を助け、そして騙そうとしていないことはこの目で見ている。それだけ分かれば十分だろう?」
あ……だから、最初に馬から下りずに、じっとこちらを観察していたのか。ってことは、あの時点で俺たちの正体を見抜き、そして信用できると判断していたってことか?ぐわー、感服だ。このペトラって言う人は、実は仙人が皮を被った姿なんじゃないか?
「……驚いたな。俺たちの正体を知っても、普通に接してくれた人は初めてだ」
「そうなのか?ふむ、この国では私の考え方は、あまり浸透していないようだな」
「あはは。そうなのかもな」
まあでも、それが人間って奴だろう。皮肉とかじゃないぜ?ただ、オオカミを見れば怖がり、アンデッドを見れば逃げるのが普通だろって話だ。君子危うきに近寄らずって言うしな。だからこそ、俺たちは自分たちだけの第三勢力を作ろうとしているんだし。
「えーっと、それで、俺たちについてだっけ?確かに俺たちはアンデッドばかりだけど、みんな旅の仲間なんだ。それぞれの未練を解消する方法を探してあちこち回っているうちに、今日あんたに会ったってわけさ」
「なるほど。では、桜下。君はどうして旅をしている?君はアンデッドではないから、旅をする理由がないはずだが」
「俺?俺は……」
どうしよう、みなまで話してもいいだろうか?しかしなぜだか俺は、今日初対面のペトラを、不思議と信用していた。この人は、普通の人間とは違う……独特の価値観しかり、纏っている空気感しかり。外国人だからか?なんにせよ、俺はこの人になら、自分の目的を打ち明けても笑われないような気がしていた。
「……俺は、自分だけの第三勢力を作ることが目的なんだ」
「なんと。国を興す気か?」
「いや、そういうんじゃなくて……自分の居場所っていうのかな?誰にも文句を言われない、俺が俺らしく、自由に堂々と過ごせる場所。それを世界に認めさせるために、押すに押されぬ軍勢を作りたいんだよ」
「自由に……」
ペトラは心底驚いたと言うように、目を真ん丸くした。そして頬を膨らませたかと思うと、突然大口を開けて笑い出した。
「ぷっ……あはははははは!」
うわ、さっきまで笑っても口の端を持ち上げる程度だったのに……誰だよ、ペトラが笑わないとか言ったやつ?肩を落とす俺の隣で、フランが酔っ払いでも見るような目をペトラへ向けている。
「あははは……」
「……そんなに可笑しかったかな?」
「はぁ、はぁ。いや、すまない。馬鹿にしたわけじゃないんだ。ただ、あまりにも予想だにしない答えだったものだから……」
「突拍子もないってことは、理解しているよ」
「いや、そんなことはないだろう。人間というものは、皆お前と同じ望みを抱いているはずだ。口にしないだけで」
そう……なんだろうか。まあそりゃ、ありのままの自分を受け入れてもらえたら、それほど楽なことはないんだろうけど……
「まあ、普通の人なら、こんなこと言わないだろうな」
「そうだ。それをお前は、敢えて口にした。それも少しも躊躇せず、恥ずかしげもなくな。それはあまりにも短絡的であり、動物的であり、刹那的であり、そしてもっとも純真な願いだ。そんな願いを持つ人間がまだいたのかと思うと、くくくっ。無性に嬉しくなってきてしまってな」
「はぁ……」
なんだかよくわからないけど、やっぱり悪意はないみたいだ。フランがぼそっと「それって結局バカにしてない?」とこぼしたが、深く考えないでおこう。
「ふふふ。私は何の役にも立てないが、せめて君の野望を応援させてもらうよ。さ、カップを出しなさい」
「そりゃ、どうも」
俺はブリキ製のカップを三つ差し出した。いつかに貰った、猟師のウッドのお下がりのカップだ。たぶん、俺、フラン、そしてウィルの分だったんだろう。
ペトラはカップに紅色のお茶をなみなみ注ぐと、器用に三つの取っ手に長い指を通して、こちらに差し出した。俺、ライラ、アルルカがそれを受け取る。俺はアルルカのマスクの金具を緩めて、口元までずり下げられるようにしてやった。
「お口に合うといいのだが」
ペトラが茶を勧めるので、俺はふーふー息を吹きかけると、カップのふちに口を付けた。一口、ごくり。
「……!う、うまい……」
「そうか。よかった」
ペトラはにこりと笑った。いや、俺に紅茶の味なんか分かるわけないけどさ。けど、それでも思わず口をついてしまったんだ。これ、相当いい茶葉なんじゃないか……?
「わ、ほんとだ。おいしい!」
続いてライラもぱっと顔をほころばせる。アンデッドであっても分かる味なんだな。俺たちのリアクションを見て、アルルカも慌ててカップを傾けた。
「ごく………………!ほんとね。いい味だわ」
「お眼鏡にかなってなによりだ」
ペトラは機嫌良さそうに笑う。ここでこんなことを聞くのは野暮かもしれないが、俺はどうしても気になってしまった。
「なあ、ペトラ。このお茶っぱって、けっこういいものなんじゃ……?」
「いや、大したものじゃない。私の故郷の品なんだ。ハナカツミの花弁から作られる茶だよ」
「へ~……こんなおいしいお茶ができるなんて、いい所だったんだな」
「ああ。自然豊かで、美しい国だった」
俺はもう一口お茶をすすった。うん、やっぱりおいしい。ウィルが興味津々で覗き込んでいるので、アルルカはお茶を飲みづらそうにしていた。
「ところで、ペトラ。あんたはなんで、あんななんにもない荒野にいたんだ?ラクーンに行く途中だったとか?」
「いや、そうじゃない。もともとラクーンの町には寄らないつもりだったんだ。しかし夜道を少しでも進もうと無理をしたのがいけなかった。人攫いに出くわして困っていた所に、お前たちがやってきたというわけだ」
「そうだったのか。どこか、行くところがあるのか?」
「いや、当てのない旅だ。目的地もなく、あちこちさまよっている」
「じゃあ、旅することが目的ってやつなのか。すごいなぁ、冒険家みたいだ」
「はは、冒険家か。それは、言い得て妙かもしれない。じつは、とくに目標は定めてないと言ったが。今は七つの魔境を訪れてみようかと思っているんだ」
「へ?七つの……魔境?」
つづく
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