じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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8章 重なる魂

6-3

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6-3

キイィ……少しきしむ扉を開けると、予想外に高い天井に目を奪われた。あれ、こんなに大きな建物だったか?あ、もさもさの植物に埋もれて、全部が見えてなかったのか。
中もやっぱり白で統一されていて、ところどころに背の高い観葉植物の鉢が置かれている。そのせいで全体的に縦長に見えるな。日陰に入ったおかげで、ずいぶん涼しいのが助かるぜ。室内は高い天井を活かして、二層構造になっていた。一階が中ほどからロフトみたいになっており、下が調理場、上が食事スペースとして使われているようだ。
俺たちに気づいたのか、調理場の奥から、宿の主人が出てきた。

「おや。お客さん……かい?」

出てきたのは、青いシャツにエプロンをした老婆だった。顔のしわや真っ白な髪を見るに、結構な歳なんだろうけど、背筋はしゃんと伸びていて、見た目よりずっと若く見える。
その老婆は俺たちの様相(暑さでふらつく幼女、このクソ暑いのに全身鎧の騎士、担がれる伸びた女など……)を見て、怪訝そうな顔をしている。

「ずいぶん変わったメンツだね……言っとくけど、あたしんとこは恵まれない子どもへの寄付はしてないからね。キリがないから」

どうやら俺たちは、みなしごの一行だと思われたらしい。まあ確かに、過半数が少年少女だしな……

「いや、いちおう客だよ。今晩泊まりたいんだけど……」

「あら、そうかい。それじゃ、ついてきとくれ。部屋に案内しよう」

ありゃ。拍子抜けするほどあっさりと、婆さんは俺たちを客だと認めてくれた。よかった、ドレスコードがどうとか言われなくて。
客室は中二階の先にあるようだ。手すりのついた階段を上ると、テーブルがいくつか置かれた、ゆったりとしたスペースになっていた。二人組の爺さんが、隅っこの席でカードゲームに興じている。それ以外の客は見当たらなかった。婆さんはそこを通り過ぎて、奥にある並んだ扉の前へと向かった。

「男と女は別の部屋にするかい?」

「あ、いや。一部屋で頼めるかな」

「あいよ。それじゃ、この部屋を使っとくれ」

婆さんは目の前の扉を開けた。中はシンプルな作りで、テーブル、イスに、ベッドが一つ置かれているくらい。しかし今までの宿との大きな違いとして、大きな窓と、バルコニーが設けられていた。

「うわー!とってもいい眺めですよ!」

ウィルがはしゃいで窓へ駆け寄る。窓からは、まるで海のような広さの湖が見えていた。

「へー、いい部屋じゃん」

俺が素直に言うと、婆さんはにこりと笑った。

「あんたたち、運がいいよ。この部屋は人気で、いつもはすぐ埋まっちまうんだ」

「へー……この町は、やっぱり観光の名所なのか?」

「まあね。けど、今の時期は大半が商人さ。こう暑いんじゃ、みんな来たがらないんだろうね」

「ああ、それは確かに……今の時期って、いつもこれくらい暑いのか?」

「ああ。つい二、三日くらい前から、地熱の動きが活発になってね。湧き水の量も増えるから商売人は多く来るけど、そうじゃなきゃ温泉目当ての物好きくらいしかやってこないかね」

「はー、なるほど……」

今はシーズンじゃないってことかな。商人が多く来るのは、湧き水か何かを売り物にしているんだろうか?ミネラルウォーターみたいな。

「でも、温泉もあるんだ。なぁ、この近くで入れたりするのか?」

「ああ。なんだったら、この宿にもついてるよ」

「え!そりゃすごい」

なんだ、思ったよりいい宿だぞ。温泉付きなんて、旅館みたいじゃないか。

「それ、いつでも入れるのか?」

「入りたきゃ勝手にお入り、一階の裏口からでてすぐのところさ。今日は客も少ないから、男でも女でも時間を気にせず入れるよ」

「あ、そっか。男湯女湯の時間があるのか。何時から何時なんだ?」

「だから、それがないから言ってるんだよ」

「え?」

「風呂場は一つしかないんだ。嫌なら時間を決めるとかして、交互に入りな」

それは、つまり混浴ってことになるのか?おいおい、ウィルんとこの神殿といい、こっちの世界の風呂はこんなのばっかりだな。 

「それじゃ、ゆっくりしておいき。あたしは下にいるから、何かあったら下に来とくれ」

婆さんがさっさと部屋から出て行こうとしたので、俺は慌てて呼び止めた。

「あ、待ってくれ。あと一つ、水が貰えないか?」

「水?そこにあるだろう」

「え?」

あ、ほんとだ。婆さんが指さした先には、テーブルの上に乗っている、ガラスの水差しがあった。全然目に入ってなかった……

「今日みたいに暑い日は、おかしな客も多くなるもんさ。水をたっぷり飲めば、若いのに耄碌もうろくした憐れな少年も、多少はマシになるだろうさ」

「……どうも」

くぅー……俺が唇を嚙みながら礼を言うと、今度こそ婆さんは部屋を出て行った。婆さんの言う通り、だいぶ暑さでやられているらしい。婆さんがキテレツな俺たちをすんなり受け入れた理由が、これで分かったな。
エラゼムはベッドまで行くと、担いでいたアルルカをぼすっと下ろした。アルルカはベッドに投げ出されても、ピクリとも動かない。大丈夫かな?

「アルルカ、生きてるか?水飲むか?」

俺がたずねると、ベッドにうつぶせになったアルルカは、マントの裾から指だけ出して、虫を払うようにぴっぴっと振った。のーさんきゅー、ということらしい。

「じゃあライラは?」

今度はライラに声をかける。ライラは床にぺたんと座り込むと、そのままずるずる倒れて、タイルに頬をこすりつけている。

「いらない……」

「お、おう……ライラ、汚れるぞ?」

「床、つめたくてきもちー……」

ああ、そういう……そんなに暑いなら水を飲んだほうがとも思ったが、よく見るとライラは全く汗をかいていない。暑いと感じることはあっても、生きている人間のように代謝があるわけではないんだ。一方俺は、喉がカラカラだった。グラスに水をなみなみ注ぐと、一気に飲み干す。

「ぷはっ。はぁ~、ようやくひとごごちだな」

水分が体中に染み渡っていくようだ、袖で口元を拭うと、椅子にどっかり腰掛ける。あぁ~、疲れた。暑さのせいで、いつもの二倍疲れた気がする……

「この暑さはなかなか応えたな。前はこんなことなかったから、悪いタイミングだったわけだ」

「チネツのせいで暑いんだ、みたいなことを言ってましたよね?おばあさん」

そこでウィルは言葉を区切ると、不思議そうに首をかしげる。

「けどチネツって、一体なんでしょう?」

俺は目を丸くする。

「ウィル、知らないのか?あれだよ、地面の中から上がってくる熱のことだろ」

「え?地面が勝手に熱くなるんですか?」

「え?ほら、マグマとか、火山活動とかあるじゃないか。この町の場合は、地下水も関係してるのかもな」

俺だって詳しくはないが、これくらいのことは一般常識として知っている……のだが、ウィルはぽかんとしていた。

「……桜下さん、変なことに詳しいんですね」

「へ、変なことって……別に、学校で習うレベルのことしか、俺だって知らないよ」

「学校かぁ……桜下さん、学校に通ってたんですね。すごいなぁ」

え?あ、そういえば。ウィルは学校に通ったことがないって言ってたっけ。ずっと神殿で暮らしてきたから。

「そっか、ウィルは学校知らないのか」

「ええ。学校って、やっぱりいろんなことを教えてくれるんですね」

「んー、まあな。生きてく上ではそんなに役には立たないけど……」

「そんなことないですよ。こうして、この町のことを理解できているじゃないですか。学があるっていうのは、やっぱりうらやましいです」

「そうか?俺はウィルみたいに、料理ができるとか、魔法が使えるほうがすごいと思うけど」

「えー?そう言ってくれるのは、桜下さんだけだと思いますよ」

そう言いつつ、褒められたウィルはまんざらでもなさそうだった。ふうむ。学校に憧れるウィルと、技術をうらやむ俺。これは、今まで生きてきた環境の違いなのかもしれないな。俺にとって、学校教育は当たり前だった。ウィルにとっては日々の料理や、神殿で教わる魔法のほうが当たり前だったんだろう。そう考えると、すごい世界だな。

(学校、ねぇ)

ウィルはすごいと言ってくれたが、正直あまりいい思い出はない。どちらかというと、辛い思い出の方が多い場所だ。あの頃の俺は、それこそ切れたナイフみたいなやつだった……ちっ。昔のことを思い出したのは久々だな。骸骨剣士に胸を切られてからは、ほとんど思い起こすことはなかったから。

「……」

嫌なことを思い出してしまった。日に焼かれ過ぎたせいか?気分が沈むと、疲れた手足が鉛になったように感じた。ええい、やめだ、やめ。頭を使うのもくたびれたし、このまま寝てしまおうか。そう意識すると、とたんに眠気が……
俺は瞳を半分閉じながら、ぼんやりみんなの様子を見た。フランはバルコニーのほうに歩いて行って、靴をひっくり返している。砂地を走ってきたから、砂がずいぶん入り込んだみたいだ。エラゼムもまた、鎧や荷袋に詰まった砂埃を窓際ではたいている。アルルカはベッドに突っ伏したままピクリとも動かない。ライラは床にへばりついたまま眠りそうになっていたので、ウィルがゆすり動かしていた。

「ライラさん。そんなところで寝ちゃだめですよ。ベッドで寝ましょう?」

「……寝てないよぉ。まだ昼だもん……」

「ならせめて、椅子に座ってください。ね?」

「ぅえ~?うぅ~ん……」

ライラは目をこすりながら起き上がると、俺の隣の椅子ぎぎっとを引いた。そのころには俺は、半分夢の世界に足を突っ込んでいた……うとうとしながら、ぼんやりとライラが隣に来た気配を感じる……

「……あれ?」

ふいに、ライラが何かに気づいた声を上げた。何かあったのか……?薄目を開けると、ライラは、俺のほうへ手を伸ばしているようだ……

「桜下、こんなに暑いのにまだ帽子かぶってるの?取ればいいのに」

ライラの伸ばした手が、俺の頭に触れる。その瞬間、ウィルが明らかに焦った声を発した。

「ライラさんっ」

そして俺の頭の中に、稲妻が走った。
ドクンッ!



「さわるなっ!!!!」



パシーン。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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