じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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8章 重なる魂

9-2

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9-2

「まだ試作品だけど、楽しんでくれると嬉しいな。それじゃあね」

それだけを言い残すと、マスカレードの姿はまばゆい光に包まれ、一瞬で消えてしまった。

「消えた……帰ったのか?」

「まだ、油断しないで。あれはまだ消えてない」

フランの鋭い声。本当だ、宙に浮かぶ球体は、まだぼんやり光りながら漂っている。

「い、いったい、なんなんでしょう、あれ……?」

怯えた顔で、ウィルがつぶやく。

「あいつの残していったものだ。きっとロクなもんじゃないぞ……」

俺たちは空に浮かぶ球体から片時も目を離さず、何かあったらすぐ動けるよう身構えていた……

「動いた!」

球体がゆっくり、移動を始めた。まるで見えない地面を転がるように、球体は水平に、そして徐々に加速しながら、俺たちから離れていく……?

「なんだ?どっかにいっちまうぞ?」

「後を追わせるつもりなんでしょうか……追いついたところをドカン、とか」

しかし、球体はどんどん小さくなって、ついにはほとんど見えなくなってしまった。

「行っちゃった……」

「囮か……?あれに気を取らせて、不意打ちをする気なのか」

「いえ、吾輩が見ていた限り、そのような動きはありません」

「ここは見通しもいいし、どこかに隠れられそうもないよ」

俺たちが疑心暗鬼ぎみにあたりを警戒していると、ふいに上空から声がした。

「いいえ。あれが本命で間違いないみたいよ」

アルルカの声だ。そういえば、ずっと空を飛んでいたんだっけ。

「アルルカ、どういうことだ?何が見えてる?」

「さぁてねぇ。あたしもあんなもの、初めて見るわ。ぶっさいくな顔」

「顔……?おい、もっと具体的に言ってくれよ」

「待って。なにか、聞こえる……」

フランは俺を制すと、ガントレットのはまった手を耳元にあてた。フランは五感が異様に鋭い。俺には聞こえない音でも、彼女には聞こえているはず……

「……悲鳴。それに、物の壊れる音」

「なに?どこかで、戦いが起こってるのか?」

「みたい。たぶん、そこまで遠くない……」

するとアルルカが、無視されたのが気に食わなかったのか、むすっとした声で言った。

「音なんかより、見たほうが早いわよ。さっきまでいた町のほうで、何かが動いてんのよ」

町……!!

「……野郎、狙いは俺たちじゃなくて、ボーテングの町か!」

それがプレゼントの正体ってわけか!ちくしょう!

「くそ!ライラ、ストームスティードを!すぐに町に戻るぞ!」

「う、うん!」

俺が叫ぶと、ライラはすぐさま呪文の詠唱に入った。すかさずエラゼムが、俺のそばにやってきてたずねる。

「念のためお聞きしますが。よろしいのですか、桜下殿。今町に戻れば、やつの策に嵌りに行くようなものですが」

「逆に聞くけどさ。ここでほっとくって言ったら、エラゼムは、これかも俺についてきてくれるのか?」

俺がそう返すと、エラゼムは鎧の奥で、ニヤッと笑った気がした。もちろん、実際には首がないからわからないんだけど。

「それでこそ、桜下殿ですな。微力ながら、お供いたします」

「頼むぜ。みんな、行こう!」

俺たちは、今しがた後にした町に、飛ぶような速さで戻っていった。マスカレードのやつ、いったい何をしやがったんだ……?

「見えてきた!町だ!」

ストームスティードの馬上で、俺が叫ぶ。前方にはボーテングの町の入口が、ぽつんと小さく見えている。薄暗い曇天の下で、町にはオレンジ色の光がぽつぽつと上がっていた。

「火が出てるぞ!」

「こっちからも見える!」

俺たちのとなりを跳ねるように走るフランが、目を鋭くさせて言う。

「なにか、大きな生き物が暴れてる!」

「なんだって?モンスターかなにかか……」

さしずめ、マスカレードの手下ってところか。くそ、冗談じゃない。そんなのを町中で暴れさせたら、どんな被害が出ることか!

「あの野郎!どうして町を狙うんだ!」

「私たちが町にいたこと、知ってたんでしょうか……」

俺の肩につかまるウィルが、耳元で不安そうな声を出す。それを聞いて、俺は一つの考えに思い至った。

「まさかあいつ、だから町を狙ったのか……」

「桜下さん?どういうことですか?」

「あいつはこういう場面で、俺たちが町に向かうとわかってたんだ。むしろこうしたほうが、俺たちが逃げられないことを知ったうえで……」

「じゃあ……町すべてを、囮にしたってことですか?桜下さんを、私たちを戦いに巻き込むためだけに……?そんな……」

「どうやら、そういうことらしい。くそったれめ!」

俺がこぶしを握り締めると、ストームスティードの速度がぐんと上がった。今の話、エラゼムとライラも聞いていたんだろう。

「桜下殿、どう動かれますか?」

俺の前で馬を操るエラゼムが、固い声でたずねる。

「……とりあえず、化け物を町から引き離そう。町の人たちを巻き込むわけにはいかない。それに、町から離れさえすれば、ライラが最大火力を出せるようになる」

ライラの魔法は強力だが、それゆえに民家の近くでは使えない。だが今俺たちがいる町はずれなら、被害を受けるものは何もない。

「とにかく、暴れている化け物を鎮めてみよう。もしかしたら、マスカレードに操られているだけかもしれない。けど、もしどうしようもなくなったら……その時は、俺が言うよ」

「……承知致しました」

正直、暴れるモンスターをなだめることができるかは、わからない。最悪なら、俺たちの信条に反することになるだろう……たぶん、エラゼムも重々わかっているはずだ。だが、その決断を下すのは、他ならぬ俺じゃなければいけない。
ストームスティードは風のように走り、まもなくボーテングの入り口が見えてきた。

「……見えた」

目のいいフランが、真っ先に標的を発見する。やがて、俺の目にも巨大な影が見えてきた。
はじめに飛び込んできたのは、大きな背中。くすんだ肌色をした皮膚は、ブヨブヨとした肉がむき出しになっていて、幾筋もの血管が浮いて見えている。そこからコウモリのような皮膜の翼が生え、下部には長い尾が、肉紐のようにぶら下がっていた。

「うえ……気持ち悪い見た目だな。内臓に羽としっぽが生えたみたいだ……」

「あれ……ひょっとして、マンティコアだ!」

エラゼムの前に座るライラが、大声で叫んだ。

「ライラ、知ってるのか?」

「まほーで生み出される、人造の魔物だよ!ゴーレムみたいなんだけど、ゴーレムとは違って生きてて、だけどゴーレムと同じ原理で動くから……」

ど、どういう意味だ?俺が混乱していると、首から下げたアニが代わりに説明してくれた。

『マンティコアは、人の手で作られる、人造生物です。肉をベースにしたゴーレムといったところでしょうか』

「じゃあ、やっぱり生きものなのか……」

『いいえ、生物ではありません。生きているだけ、です』

「……は?」

『マンティコアを殺すことはできますが、奴ら自体には生存本能や、子孫を残す力は備わっていないのです。ただ造られたままに暴れ、傷つき、最後には死にます。兵士として消費されるのみであり、そこに生きようとする意志は存在しません。故に、生き物ではないのです』

「……なんだよ、それ」

そんなふざけたものを、この世界の魔法は生み出すのか……!

「ちくしょう!そんな奴に、命を奪われてたまるかよ!みんな、頼むぞ!俺たちで奴を止めるんだ!」

「はい!」「ええ」「うん!」「了解」



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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