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9章 金色の朝
2-1 忘れていた課題
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2-1 忘れていた課題
翌朝は快晴だった。マスカレードが呼んだ黒雲もきれいさっぱりなくなり、勿忘草色の空には雲一つ浮かんでいない。湖の水で水筒をいっぱいにすると、俺たちはストームスティードに乗り込んで、街道を疾走し始めた。目指すは、北だ。
「おうかさーん!今、ふっと思ったんですけどー!」
俺の肩口で、ウィルが大声で叫んだ。
出発してから、数時間は経っただろうか。ストームスティードは今やトップスピードだ。耳元でうなる風が凄すぎて、叫びでもしないと会話もできない。
「ウィル、なんだー!?」
「あの、これからエラゼムさんの剣を直しに、北に行くんですよねー!」
「そうだー!それが、どうかしたかー!?」
「いえ、私も詳しくないから、わかんないですけどー!そういうのって、少なからず料金が発生するじゃないですかー!」
料金?そりゃ、そうだろうな。鍛冶屋に頼むにしても、タダではやってくれないだろう。ましてや、エラゼムの剣はドワーフにしか扱えない代物なんだから。
「で、それがどうしたー!?」
「思ったんですけどー!ドワーフの方って、人間のお金を使ってるんでしょうかー!」
へ?ありゃ、待てよ。そう言われればそうだ。ドワーフってのは、つまり人間に似ているけど、人間じゃない。別の種族だ。俺はそんなに重要に考えてなかったけど、それは国が違うとか、人種が違うとかの問題どころじゃない、とても大きな違いなのではないか……?
「あれ、どうなんだろう……?アニー!聞こえるかー!?」
『聞こえていました。ドワーフについてですね』
さすが、話が早い。しかしながら、様々な知識が豊富なアニですら、ドワーフについての引き出しは乏しいみたいだった。
『ドワーフという種族は、そもそもあまり他の種族と積極的に関わろうとはしないのです。とにもかくにも、穴を掘ることだけに執着する種族ですからね……彼らについてわかっていることは、あまりに少ないと言わざるを得ません』
「わかんないってことかー!?」
『断言ができないということです。こうなんじゃないか、レベルのことならお話しできますが。その代わり、いざ現地に行ったら違っていた、なんてことになっても知りませんよ』
「それでいいから、頼むー!」
『かしこまりました。では、まず通貨についてですが。彼らはおそらく、人間の貨幣を使っている可能性が高いです。というのも、ドワーフの国があるカムロ坑道では、産出したマナメタルを二の国が買い取り、国内外に流通させています。彼らの掘った鉱物を買い付ける際には、人間の貨幣も使われるのではないかと』
なるほど。そもそも二の国の内部に坑道がある以上、ある程度文化が浸透していてもおかしくはないな。
『そして次に、ドワーフの価値観について。先述した通り、ドワーフは種族全体が地下へ魅了されきっています。真に価値あるものは地の下にしか生まれないというのが、彼らモットーです。となれば、彼らが貨幣的な意味での金銀、とりわけ人間が作った貨幣なんぞに執着するとは、とても思えません』
「え!?カネなんかに興味はないってことかー!?」
『カネが欲しくて、人間に買い取ってもらおうと鉱物を掘っているとは、およそ考えにくいですね。しかしながら、人間の貨幣にも、別角度の価値ならばあるかもしれません』
「別角度?」
『ええ。交換材料としての価値です。いくらドワーフでも、宝石を食べて腹が膨れることはないでしょう。農作物も地下では育ちませんし。となると、人間の貨幣を使って、衣食住を充実させているのかもしれません』
金はあくまで交換材料であって、本命は物資ってことか。ドワーフは鉱物を、人間は食料を品物にして貿易をしているってわけだ。
『物資と鉱石を物々交換している可能性もありますが……それだとレートの管理が大変でしょうから、やはり貨幣取引が現実的なところですかね』
「ってことは……この国の金でも、大丈夫な確率は高いってことだなー!」
『その気はします。しかし、そうなるともう一つ懸念が……』
「え?」
『ドワーフはみな、非常に職人意識が強いのです。プライドが高く、自分を安くみられることをとても嫌います』
みんながみんな、職人気質の頑固おやじ、みたいな感じかな?なるほど、イメージ通りっちゃ通りだ。
『つまりですね、安い仕事は受けないということです。鍛冶仕事を頼む場合でも、人間に頼むそれと同じ金銭感覚でいては、痛い目を見るかもしれません』
「え……」
そ、そうか。ドワーフにしか直せない剣の修復、とりわけエラゼムの剣は、希少なマナメタルとやらで作られている。それの修繕費となると、いかほどになるんだ……?まったく予想がつかないぞ。
「ま、まずくないか。俺たちが用意できる金額なんて、たかが知れてるぞ……」
『そうですね。そのことを、もっと早く考えておくべきだったかもしれません』
しまった、直すことばかりに気を取られて、肝心の資金のことを何一つ考えていなかった……!後ろで話を聞いていたウィルが、俺の肩をぎゅっと握るのを感じた。
「……いや、まて。まだ、手遅れってことはないはずだ」
『はい?』
「だって、俺たちはこれから王都に入るんだぜ?この国最大の都市じゃないか。そこでなら、仕事のあてだってあるかもしれない。ひょっとすると、一攫千金のチャンスも……」
『と、いうことは』
「王都で必要な銭を稼ぐ!それしかないだろ」
ドワーフの鉱山についてからだったら、完全に詰んでいた。しかし、その手前で気付けたのなら、まだやりようはいくらでもある!……気がする。
「でも、桜下さん!それって、そうとう大変じゃないですか?王都で寝泊まりながら大金を稼ぐなんて!」
ウィルが不安そうに叫ぶ。なんだか、甲斐性無しの旦那になった気分だ。
「一か八か、やってみるしかないだろ!それに、俺たち全員で当たれば、そこまで無理な話じゃないはずだ!」
俺たちは六人パーティだ。幼女であるライラを除くとしても五人。もちろん、ウィルは姿が見えないし、ほかの仲間も仕事を選ぶ形にはなるだろうけど……百万円だって、五人で割れば一人二十万だ。そう考えれば、出来ないこともなく思えるだろ。
シリス大公にもらった金貨は、ここまでの旅路でかなり減ってしまった。旅から旅の根無し草だと、貯金なんてしている余裕はない。ドワーフの町までの旅費も考えると、ここで全額を稼ぐしかないだろう。
「王都なら、儲け話の一つや二つ、きっと転がってるはずだ!この際、毒だろうが皿だろうが、なんでも食いついてやるぜ……!」
「もう、それしかなさそうですね……!こうなったら、一発当ててやりましょー!」
ウィルの言う通り、ここでドカンと一発あてるっきゃない。俺たちはギラギラした視線で目の前を、そのはるか先にある王都を見つめていた。
つづく
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「おうかさーん!今、ふっと思ったんですけどー!」
俺の肩口で、ウィルが大声で叫んだ。
出発してから、数時間は経っただろうか。ストームスティードは今やトップスピードだ。耳元でうなる風が凄すぎて、叫びでもしないと会話もできない。
「ウィル、なんだー!?」
「あの、これからエラゼムさんの剣を直しに、北に行くんですよねー!」
「そうだー!それが、どうかしたかー!?」
「いえ、私も詳しくないから、わかんないですけどー!そういうのって、少なからず料金が発生するじゃないですかー!」
料金?そりゃ、そうだろうな。鍛冶屋に頼むにしても、タダではやってくれないだろう。ましてや、エラゼムの剣はドワーフにしか扱えない代物なんだから。
「で、それがどうしたー!?」
「思ったんですけどー!ドワーフの方って、人間のお金を使ってるんでしょうかー!」
へ?ありゃ、待てよ。そう言われればそうだ。ドワーフってのは、つまり人間に似ているけど、人間じゃない。別の種族だ。俺はそんなに重要に考えてなかったけど、それは国が違うとか、人種が違うとかの問題どころじゃない、とても大きな違いなのではないか……?
「あれ、どうなんだろう……?アニー!聞こえるかー!?」
『聞こえていました。ドワーフについてですね』
さすが、話が早い。しかしながら、様々な知識が豊富なアニですら、ドワーフについての引き出しは乏しいみたいだった。
『ドワーフという種族は、そもそもあまり他の種族と積極的に関わろうとはしないのです。とにもかくにも、穴を掘ることだけに執着する種族ですからね……彼らについてわかっていることは、あまりに少ないと言わざるを得ません』
「わかんないってことかー!?」
『断言ができないということです。こうなんじゃないか、レベルのことならお話しできますが。その代わり、いざ現地に行ったら違っていた、なんてことになっても知りませんよ』
「それでいいから、頼むー!」
『かしこまりました。では、まず通貨についてですが。彼らはおそらく、人間の貨幣を使っている可能性が高いです。というのも、ドワーフの国があるカムロ坑道では、産出したマナメタルを二の国が買い取り、国内外に流通させています。彼らの掘った鉱物を買い付ける際には、人間の貨幣も使われるのではないかと』
なるほど。そもそも二の国の内部に坑道がある以上、ある程度文化が浸透していてもおかしくはないな。
『そして次に、ドワーフの価値観について。先述した通り、ドワーフは種族全体が地下へ魅了されきっています。真に価値あるものは地の下にしか生まれないというのが、彼らモットーです。となれば、彼らが貨幣的な意味での金銀、とりわけ人間が作った貨幣なんぞに執着するとは、とても思えません』
「え!?カネなんかに興味はないってことかー!?」
『カネが欲しくて、人間に買い取ってもらおうと鉱物を掘っているとは、およそ考えにくいですね。しかしながら、人間の貨幣にも、別角度の価値ならばあるかもしれません』
「別角度?」
『ええ。交換材料としての価値です。いくらドワーフでも、宝石を食べて腹が膨れることはないでしょう。農作物も地下では育ちませんし。となると、人間の貨幣を使って、衣食住を充実させているのかもしれません』
金はあくまで交換材料であって、本命は物資ってことか。ドワーフは鉱物を、人間は食料を品物にして貿易をしているってわけだ。
『物資と鉱石を物々交換している可能性もありますが……それだとレートの管理が大変でしょうから、やはり貨幣取引が現実的なところですかね』
「ってことは……この国の金でも、大丈夫な確率は高いってことだなー!」
『その気はします。しかし、そうなるともう一つ懸念が……』
「え?」
『ドワーフはみな、非常に職人意識が強いのです。プライドが高く、自分を安くみられることをとても嫌います』
みんながみんな、職人気質の頑固おやじ、みたいな感じかな?なるほど、イメージ通りっちゃ通りだ。
『つまりですね、安い仕事は受けないということです。鍛冶仕事を頼む場合でも、人間に頼むそれと同じ金銭感覚でいては、痛い目を見るかもしれません』
「え……」
そ、そうか。ドワーフにしか直せない剣の修復、とりわけエラゼムの剣は、希少なマナメタルとやらで作られている。それの修繕費となると、いかほどになるんだ……?まったく予想がつかないぞ。
「ま、まずくないか。俺たちが用意できる金額なんて、たかが知れてるぞ……」
『そうですね。そのことを、もっと早く考えておくべきだったかもしれません』
しまった、直すことばかりに気を取られて、肝心の資金のことを何一つ考えていなかった……!後ろで話を聞いていたウィルが、俺の肩をぎゅっと握るのを感じた。
「……いや、まて。まだ、手遅れってことはないはずだ」
『はい?』
「だって、俺たちはこれから王都に入るんだぜ?この国最大の都市じゃないか。そこでなら、仕事のあてだってあるかもしれない。ひょっとすると、一攫千金のチャンスも……」
『と、いうことは』
「王都で必要な銭を稼ぐ!それしかないだろ」
ドワーフの鉱山についてからだったら、完全に詰んでいた。しかし、その手前で気付けたのなら、まだやりようはいくらでもある!……気がする。
「でも、桜下さん!それって、そうとう大変じゃないですか?王都で寝泊まりながら大金を稼ぐなんて!」
ウィルが不安そうに叫ぶ。なんだか、甲斐性無しの旦那になった気分だ。
「一か八か、やってみるしかないだろ!それに、俺たち全員で当たれば、そこまで無理な話じゃないはずだ!」
俺たちは六人パーティだ。幼女であるライラを除くとしても五人。もちろん、ウィルは姿が見えないし、ほかの仲間も仕事を選ぶ形にはなるだろうけど……百万円だって、五人で割れば一人二十万だ。そう考えれば、出来ないこともなく思えるだろ。
シリス大公にもらった金貨は、ここまでの旅路でかなり減ってしまった。旅から旅の根無し草だと、貯金なんてしている余裕はない。ドワーフの町までの旅費も考えると、ここで全額を稼ぐしかないだろう。
「王都なら、儲け話の一つや二つ、きっと転がってるはずだ!この際、毒だろうが皿だろうが、なんでも食いついてやるぜ……!」
「もう、それしかなさそうですね……!こうなったら、一発当ててやりましょー!」
ウィルの言う通り、ここでドカンと一発あてるっきゃない。俺たちはギラギラした視線で目の前を、そのはるか先にある王都を見つめていた。
つづく
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読了ありがとうございました。
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