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9章 金色の朝
3-1 魔術大会
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3-1 魔術大会
アニの案内の下、俺たちはメインストリートから外れて、町の北西に通じる脇道へとそれた。埃っぽい古書店が立ち並ぶこの道は、なにかの学術に関する専門通りのようだ。人気は少なく、閑散としている。
「ここ、まほーに関するお店ばっかりだよ」
ライラが、店先のガラスに鼻をくっつけながらつぶやく。なるほど、そのようだ。俺が見ても、タイトルすら理解できない本ばかりだったから。
その通りを進んでいると、他の店より一回りほど大きな建物が見えてくる。その軒先には“魔術師ギルド”という看板が取り付けられていた。
「魔術師ギルド……話には聞いてたけど、本物は初めて見たな」
ギルドと言えば、ファンタジーでは定番だ。冒険家や凄腕の魔法使いがたむろし、新たな物語の始まる場所……そういう、活気のある印象があるんだけど。
「……ちょっと、さびれてるな?」
「ちょっと、どころではないような……」
三の国にあった、そびえ立つたっかい塔を思い出す。あそこの魔法研究所はなかなか立派な建物だったが……ここのギルドは、看板はさび付き、窓には厚くほこりが積もっている。およそ活気とは無縁の出で立ちだった。
「王都の魔法使いって、そんなに儲からないのかな」
『いえ、そんなはずは……』
アニが動揺したように、ちりんと揺れる。
『王都の魔術師ギルドは、勇者のパーティ候補の最大手です。国からも多額の助成金が出ているはずなので、寂れるということは……』
確かに、前にアニからそんなことを聞いたような。せっかく召喚した勇者が活躍しないと、国の威信にかかわるから、その仲間を輩出するギルドは重宝されるんだったな。
「てことは、このギルドはずっと前に解散しちゃったのかな。表札をはがし忘れてるとか」
『そう、ですね。まだそちらのほうがあり得ます。従来の制度なら、所属魔術師がゼロ人ということでもない限り、経営難で潰れることはないはずですから……』
それもすごい話だなぁ。魔術師はギルドに所属していれば、まず食いっぱぐれないってわけだ。
わぁー!
「……ん?」
そんなほこり臭い通りを歩いていると、前方からかすかな歓声が聞こえてきた。
「なんだろう?」
「人だかりができているようですな……」
もう少し進むと、通りの途中に広場が見えてきた。そこに大勢の人が集まっているようだ。時折、おおー!という興奮した歓声が上がっている。
「なにかやってんのかな?」
「催し物でしょうか?」
気になって近づいてみると、人だかりの向こうに、なにやら薄紫色で半透明の、ドームのようなものが立っている。ドームは広場に沿って円形に広がっていて、それを人垣が囲んでいるようだ。中で何をやってるんだろう?
ドカーーーーン!
「うわっ」
「きゃあ!」
突然ドームの中で爆炎が上がり、街並みが一瞬オレンジ色に染まった。ウィルは思わず耳をふさぎ、ロッドがその手を離れて地面に落ちる。カランカラーン。
「びっ……くりしたぁ。い、いったいなんだ?」
俺が首を伸ばして、人垣の向こうを覗いていると、ウィルのロッドの音に反応したのか、群衆の中の一人が、くるりとこちらへ振り返った。
「ん?その杖、もしかしておたくらも魔術師?」
「へ?」
そいつは、痩せて背の高い、ひょろりとした男だった。男は落ちたロッドを拾い上げると、それをじっと見つめてから、こちらに差し出す。
「この杖、マナ回路が開かれてるでしょ。杖を媒介にして、魔法を使った証拠だよ。てことは、やっぱり魔術師だ」
「え。いや、俺たちは……」
どうしよう。ウィルは魔術師に間違いないが、この男に見えているはずがない。俺とウィルが顔を見合わせて、どう説明したもんかと頭を悩ませているうちに、男は勝手にどんどん話を進めてしまった。
「ね、ね、ね。おたくらも魔術師ならさ、いっちょ腕試ししていかない?」
「はい?腕試し?」
「いまやってんの。ほら、ちょうどいま挑戦中」
男はにやっと笑って、ドームの中を指さした。すると再び、薄紫のドームのなかでドーンと火柱が上がった。
「あれが、その腕試し……?」
「そそ。魔術師ギルド主催、魔法使いの腕試しコンテスト。最優秀者には、なんと賞金金貨百枚!」
「ひゃ、百枚!?」
俺とウィルの目の色がギラリと光った。金貨百枚って言ったら、そりゃとんでもない大金じゃないか。それだけあれば、エラゼムの剣の修理代を払ってもお釣りが出そうだぞ……
つんつん。
「あん?」
背中をつつかれて振り向くと、じとっとした目のフランがいた。フランは無言で、唇をぱくぱく動かす。
(は・な・し・が・う・ま・す・ぎ・る)
おっと、本当だな。目先のエサにほいほい釣られるところだった。まずは、きちんと話を聞こう。
「えー、あー……それは、なかなか興味深い催しだけど。まず、詳細を聞かせてくれないか。一体、どういうルールなんだ?」
「それは簡単、かんたん。最大三名まで参加できて、あのドームの中へ入る。課題をクリアすれば見事合格。最も難しい課題を、最も高得点でクリアしたものが最優秀賞!金貨百枚!」
「ほほー……その、課題っていうのは?」
「こちらの指定する、クリア条件だよ。火を起こせだとか、水を湧きあがらせろだとか。難易度別に選べるから、自分たちの腕にあったものでトライできるよ。魔術師であれば参加費無料、絶対ケガしない安全保証付き。こんなの滅多にないよ。やらなきゃ損だよ?」
へー……そんならいいな。失敗してもペナルティはないし、チャレンジしてみるだけして、ダメならおとなしく仕事を探せばいいんだ。
「ちょっと、おもしろそうだな……」
「そうでしょ、そうでしょ!お兄さん、挑戦してみなよ。ソロで活躍したらポイント高いよ?」
男は揉んだ手をくねくねさせながら俺に詰め寄る。さっきから俺を魔術師と勘違いしているみたいだけど、あいにくと俺は専門外なんだよな。
「あの、ちょっと待ってくれないか。仲間と相談させてくれ」
俺は後ろに振り返り、仲間たちにコソコソと顔を近づけた。
「ってことなんだけど。どうする?」
「ライラは、別にいーけど」
俺たちの中では随一の腕の持ち主である、ライラは賛成のようだ。しかし、慎重派のフランは首を横に振る。
「おかしいよ、こんな道端で金貨百枚も出すイベントしてるなんて。きっと始めっから賞金なんか出す気なくて、客寄せにしたいだけなんだ」
「うーん……確かに、そんな気もするよな」
「でもさー、だとしてもライラたちは損しないでしょ?それならそれで、やってみてもいいんじゃない?」
ライラの言うことも一理ある。あちらの思惑がどうであれ、こちらが損をしないのであれば、トライする価値はありそうだ。
「けど出場しようと思ったら、出られるのはライラ、ウィル、それにアルルカの三人か……」
「わ、私は、ちょっと厳しくないですか?」
ウィルがロッドを握りしめながら、自信なさげに言う。
「お客さんに姿も見えませんし、なにより腕に自信なんて……」
「おねーちゃん、そんなことないよ。最近すっごく上手になってきてるって!」
ライラが励ますが、それでもウィルはあまり乗り気ではなさそうだ。そして、アルルカも当然ながら反対だった。
「あたしはパス。見世物役なんて、やってられないわ」
「うーん、そっか……」
さすがにライラ一人参加させるわけにもなぁ。けど話を聞くに、課題は絶対ケガしない安全保証付きだと言う。うーんと優しい課題なら、一人でも余裕だったりするのだろうか?
「なあ、ちょっと聞きたいんだけど」
俺は男に振り返ってたずねてみた。
「その課題って、例えば子どもでもできたりするのか?」
「へ?子ども?」
すると男は目を丸くして、それから目をゆっくりライラへ向けた。
「まさか、お兄さんじゃなくて、その女の子が出るってこと?」
「まあ、そうなるかもしれないとしてさ」
すると男は、頬をぷくっと膨らませたかと思うと、盛大に噴き出した。
「ぶふーーーっほっほははは!冗談でしょう!」
「え?いや、俺は本気で……」
「まさか、そんなおこちゃまが魔術を?冗談言わないでよお兄さん、あーおっかしい!」
む……ライラがまなじりをぴくっと動かした。仲間を馬鹿にされて、俺もいい気分じゃない。
「……あんた、あんまりこの子を、なめないほうがいいぜ」
「うっしっし……さすがにそんなのには引っかからないって。男の子ならともかく、女“なんか”に高度な魔法が使えるわけないよ」
ぴしっ。今度は、女性全員のまなじりが動いた。
「……桜下。ライラ、出るよ」
「え?」
ライラが小さな肩をいからせて、俺の隣へと並び出た。
「見せてあげるよ。魔力の強さは、年齢や性別で決まるんじゃない。魂の強さで決まるんだってことをね!」
つづく
====================
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しばらくの間、毎日0時と12時の1日2回更新を実施します。
長期休暇に、アンデッドとの冒険はいかがでしょうか。
読了ありがとうございました。
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アニの案内の下、俺たちはメインストリートから外れて、町の北西に通じる脇道へとそれた。埃っぽい古書店が立ち並ぶこの道は、なにかの学術に関する専門通りのようだ。人気は少なく、閑散としている。
「ここ、まほーに関するお店ばっかりだよ」
ライラが、店先のガラスに鼻をくっつけながらつぶやく。なるほど、そのようだ。俺が見ても、タイトルすら理解できない本ばかりだったから。
その通りを進んでいると、他の店より一回りほど大きな建物が見えてくる。その軒先には“魔術師ギルド”という看板が取り付けられていた。
「魔術師ギルド……話には聞いてたけど、本物は初めて見たな」
ギルドと言えば、ファンタジーでは定番だ。冒険家や凄腕の魔法使いがたむろし、新たな物語の始まる場所……そういう、活気のある印象があるんだけど。
「……ちょっと、さびれてるな?」
「ちょっと、どころではないような……」
三の国にあった、そびえ立つたっかい塔を思い出す。あそこの魔法研究所はなかなか立派な建物だったが……ここのギルドは、看板はさび付き、窓には厚くほこりが積もっている。およそ活気とは無縁の出で立ちだった。
「王都の魔法使いって、そんなに儲からないのかな」
『いえ、そんなはずは……』
アニが動揺したように、ちりんと揺れる。
『王都の魔術師ギルドは、勇者のパーティ候補の最大手です。国からも多額の助成金が出ているはずなので、寂れるということは……』
確かに、前にアニからそんなことを聞いたような。せっかく召喚した勇者が活躍しないと、国の威信にかかわるから、その仲間を輩出するギルドは重宝されるんだったな。
「てことは、このギルドはずっと前に解散しちゃったのかな。表札をはがし忘れてるとか」
『そう、ですね。まだそちらのほうがあり得ます。従来の制度なら、所属魔術師がゼロ人ということでもない限り、経営難で潰れることはないはずですから……』
それもすごい話だなぁ。魔術師はギルドに所属していれば、まず食いっぱぐれないってわけだ。
わぁー!
「……ん?」
そんなほこり臭い通りを歩いていると、前方からかすかな歓声が聞こえてきた。
「なんだろう?」
「人だかりができているようですな……」
もう少し進むと、通りの途中に広場が見えてきた。そこに大勢の人が集まっているようだ。時折、おおー!という興奮した歓声が上がっている。
「なにかやってんのかな?」
「催し物でしょうか?」
気になって近づいてみると、人だかりの向こうに、なにやら薄紫色で半透明の、ドームのようなものが立っている。ドームは広場に沿って円形に広がっていて、それを人垣が囲んでいるようだ。中で何をやってるんだろう?
ドカーーーーン!
「うわっ」
「きゃあ!」
突然ドームの中で爆炎が上がり、街並みが一瞬オレンジ色に染まった。ウィルは思わず耳をふさぎ、ロッドがその手を離れて地面に落ちる。カランカラーン。
「びっ……くりしたぁ。い、いったいなんだ?」
俺が首を伸ばして、人垣の向こうを覗いていると、ウィルのロッドの音に反応したのか、群衆の中の一人が、くるりとこちらへ振り返った。
「ん?その杖、もしかしておたくらも魔術師?」
「へ?」
そいつは、痩せて背の高い、ひょろりとした男だった。男は落ちたロッドを拾い上げると、それをじっと見つめてから、こちらに差し出す。
「この杖、マナ回路が開かれてるでしょ。杖を媒介にして、魔法を使った証拠だよ。てことは、やっぱり魔術師だ」
「え。いや、俺たちは……」
どうしよう。ウィルは魔術師に間違いないが、この男に見えているはずがない。俺とウィルが顔を見合わせて、どう説明したもんかと頭を悩ませているうちに、男は勝手にどんどん話を進めてしまった。
「ね、ね、ね。おたくらも魔術師ならさ、いっちょ腕試ししていかない?」
「はい?腕試し?」
「いまやってんの。ほら、ちょうどいま挑戦中」
男はにやっと笑って、ドームの中を指さした。すると再び、薄紫のドームのなかでドーンと火柱が上がった。
「あれが、その腕試し……?」
「そそ。魔術師ギルド主催、魔法使いの腕試しコンテスト。最優秀者には、なんと賞金金貨百枚!」
「ひゃ、百枚!?」
俺とウィルの目の色がギラリと光った。金貨百枚って言ったら、そりゃとんでもない大金じゃないか。それだけあれば、エラゼムの剣の修理代を払ってもお釣りが出そうだぞ……
つんつん。
「あん?」
背中をつつかれて振り向くと、じとっとした目のフランがいた。フランは無言で、唇をぱくぱく動かす。
(は・な・し・が・う・ま・す・ぎ・る)
おっと、本当だな。目先のエサにほいほい釣られるところだった。まずは、きちんと話を聞こう。
「えー、あー……それは、なかなか興味深い催しだけど。まず、詳細を聞かせてくれないか。一体、どういうルールなんだ?」
「それは簡単、かんたん。最大三名まで参加できて、あのドームの中へ入る。課題をクリアすれば見事合格。最も難しい課題を、最も高得点でクリアしたものが最優秀賞!金貨百枚!」
「ほほー……その、課題っていうのは?」
「こちらの指定する、クリア条件だよ。火を起こせだとか、水を湧きあがらせろだとか。難易度別に選べるから、自分たちの腕にあったものでトライできるよ。魔術師であれば参加費無料、絶対ケガしない安全保証付き。こんなの滅多にないよ。やらなきゃ損だよ?」
へー……そんならいいな。失敗してもペナルティはないし、チャレンジしてみるだけして、ダメならおとなしく仕事を探せばいいんだ。
「ちょっと、おもしろそうだな……」
「そうでしょ、そうでしょ!お兄さん、挑戦してみなよ。ソロで活躍したらポイント高いよ?」
男は揉んだ手をくねくねさせながら俺に詰め寄る。さっきから俺を魔術師と勘違いしているみたいだけど、あいにくと俺は専門外なんだよな。
「あの、ちょっと待ってくれないか。仲間と相談させてくれ」
俺は後ろに振り返り、仲間たちにコソコソと顔を近づけた。
「ってことなんだけど。どうする?」
「ライラは、別にいーけど」
俺たちの中では随一の腕の持ち主である、ライラは賛成のようだ。しかし、慎重派のフランは首を横に振る。
「おかしいよ、こんな道端で金貨百枚も出すイベントしてるなんて。きっと始めっから賞金なんか出す気なくて、客寄せにしたいだけなんだ」
「うーん……確かに、そんな気もするよな」
「でもさー、だとしてもライラたちは損しないでしょ?それならそれで、やってみてもいいんじゃない?」
ライラの言うことも一理ある。あちらの思惑がどうであれ、こちらが損をしないのであれば、トライする価値はありそうだ。
「けど出場しようと思ったら、出られるのはライラ、ウィル、それにアルルカの三人か……」
「わ、私は、ちょっと厳しくないですか?」
ウィルがロッドを握りしめながら、自信なさげに言う。
「お客さんに姿も見えませんし、なにより腕に自信なんて……」
「おねーちゃん、そんなことないよ。最近すっごく上手になってきてるって!」
ライラが励ますが、それでもウィルはあまり乗り気ではなさそうだ。そして、アルルカも当然ながら反対だった。
「あたしはパス。見世物役なんて、やってられないわ」
「うーん、そっか……」
さすがにライラ一人参加させるわけにもなぁ。けど話を聞くに、課題は絶対ケガしない安全保証付きだと言う。うーんと優しい課題なら、一人でも余裕だったりするのだろうか?
「なあ、ちょっと聞きたいんだけど」
俺は男に振り返ってたずねてみた。
「その課題って、例えば子どもでもできたりするのか?」
「へ?子ども?」
すると男は目を丸くして、それから目をゆっくりライラへ向けた。
「まさか、お兄さんじゃなくて、その女の子が出るってこと?」
「まあ、そうなるかもしれないとしてさ」
すると男は、頬をぷくっと膨らませたかと思うと、盛大に噴き出した。
「ぶふーーーっほっほははは!冗談でしょう!」
「え?いや、俺は本気で……」
「まさか、そんなおこちゃまが魔術を?冗談言わないでよお兄さん、あーおっかしい!」
む……ライラがまなじりをぴくっと動かした。仲間を馬鹿にされて、俺もいい気分じゃない。
「……あんた、あんまりこの子を、なめないほうがいいぜ」
「うっしっし……さすがにそんなのには引っかからないって。男の子ならともかく、女“なんか”に高度な魔法が使えるわけないよ」
ぴしっ。今度は、女性全員のまなじりが動いた。
「……桜下。ライラ、出るよ」
「え?」
ライラが小さな肩をいからせて、俺の隣へと並び出た。
「見せてあげるよ。魔力の強さは、年齢や性別で決まるんじゃない。魂の強さで決まるんだってことをね!」
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