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9章 金色の朝
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ライラがぎりっと睨みつけても、男はにやにや笑ってそれを受け止めるだけだ。
「ありゃりゃ、気に障っちゃったかな?でもね嬢ちゃん、これはお遊戯大会じゃないんだ。魔法ごっこをされてもねぇ」
「じゃあ、チームで出るよ」
そう言ってライラは、俺の手をぐいと引っ張った。おいおい、よりにもよって俺かよ?
「男がいればいいんでしょ。なら、この人もいっしょなら文句ないよね」
男はそれなら仕方ないと言った様子でうなずいた。マジかよ?俺はライラの耳元に口を寄せる。
「おい、ライラ……俺じゃ何もできないぞ?」
「だって、男は桜下とエラゼムしかいないじゃん。消去法で桜下だよ」
あ、さいですか……消去されたエラゼムがひそかにショックを受けている。
「それじゃ、お二人は参加決定だね……っと」
男がもみ手をしながら、俺たちをじっくり眺める。
「さて、三人までならエントリーできるけど、どうする?もう一人出す?」
あと一人か……するとライラが、俺の手をつかんでいる方とは逆の手を伸ばし、アルルカのマントをむんずとつかんだ。
「じゃあ、コイツで」
「あいよ。じゃ、三人だね」
「はぁ?ちょっとこら、何勝手に決めてんのよ!」
三人目の選手に勝手にされたアルルカが、ライラに食って掛かる。
「このガキ!あたしはパスだって言ったでしょ!」
「だって、お前しかいないんだもん。おねーちゃんは出たくないっていうし」
「あ・た・し・も!出ないっつってんのよ!だいたい、こんな低俗なイベントになーんで高貴なあたしが……」
低俗、と言ったところで、今度は男がまなじりを引くつかせる番になった。男はアルルカの頭の先からつま先までじっくり眺めると……
「ハン……」
心底馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「は?」
あ。アルルカの目つきが変わった。マジのやつだ。フランがとっさに後ろから羽交い絞めにしなければ、今頃男に銃口を向けていたかもしれない……そうとも知らず、男は小ばかにしたような笑みを浮かべていた。
「ま、期待してるよ。今の挑戦者が終わったら呼ぶから、そしたら前に出てきてよ。まぁおたくらじゃ難しいとは思うけど、笑いはたっぷりとれそうだからね。それじゃ」
男はひらひら手を振ると、さっさと次の客引きに行ってしまった。あーあ、煽るだけ煽っていきやがって……おかげで火がついちゃったじゃないか。
「……放しなさい」
アルルカが、自分を押さえつけるフランに言う。フランがこちらに目配せしてきたので、俺がこくりとうなずくと、フランはアルルカを自由にした。
「……おいこら、クソガキ」
アルルカは、ライラのそばにゆらりと並び立った。俺はごくりと唾をのんだ。アルルカがどう出てくるか……
「あのクソヤロウの鼻、ぶっぽじってやるわ。手ぇ抜くんじゃないわよ!」
「ふん。誰に言ってるの、ライラは大まほー使いだよ。そっちこそ、足引っ張らないでよね」
あ、あれ?言葉遣いこそ荒いが、ライラとアルルカは奇妙に協調しているみたいだった。共通の敵の存在が、二人の手を結ばせたようだ。でも……
「どうしよう。俺、すげえ自信なくなってきたんだけど……」
この二人とトリオを組まされる俺は、一体どうしたらいいんだ。それぞれの手に、狂犬の手綱を握らされた気分なんだけど。ウィルがあきらめた顔で、俺の肩にポンと手を置く。
「頑張ってください、桜下さん。私たちは見守ってますから」
くっそー、他人事だと思いやがって……
「さあ、次のチャレンジャー!前へ出てください!」
進行役と思しき男が、俺たちの順番が来たことを高らかに宣言した。
「さあ!いくよ、桜下!」
ライラが鼻息も荒く、ずんずんと人垣を押しのけて、薄紫のドームの中へと向かう。うわー、いよいよか。ここまで来たら、腹をくくるしかないな。俺たちが近づくと、ドームの壁につぅっと穴が開いた。そして俺たち三人がくぐると、また元通りに塞がってしまった。後戻りはもうできないな。ドームの周りは、三百六十度すべてを野次馬が取り囲んでいる。うぅ、まるで見世物小屋の檻の中にいる気分だ。
「さあ、次の挑戦者はなんとも異色のチーム!少年少女、そしてちびっこの即席チームだ!健闘に期待したいけど、びびってお漏らしはしないでくれよ!?」
進行役があおると、観客はどっと笑った。けっ、言ってろ言ってろ。しょっぱなで馬鹿にされたおかげか、俺の中の緊張感はだいぶ薄らいだ。その点では、進行役の男に感謝だな。
「さて、それでは最初に、挑戦する課題の難易度を決めてもらいましょう。難易度は全部で十段階!もっとも簡単な第一段では、まきの山に火をつけてもらうというシンプルなもの。火属性魔法が使えれば簡単ですが、ポイントはあまり高くはありません」
なるほどな、確かにその程度なら、俺たちはいつもやっているくらい簡単だ。けど段階が上がったら、そうもいかないかもしれない。ここは条件をよく見極めて……
「そして、第二段階では……」
進行役が説明を続けようとしたが、それを唐突にライラが遮った。
「一番で」
え、ライラ?観客たちがあきれたようなため息を漏らした。まだ説明も聞いていないのに、一番簡単な一段に決めちゃうのか?さすがに進行役も面食らっている。
「おいおいお嬢ちゃん、せめて説明くらい聞いたらどうだい?いくら自信がないからって、そんなに逃げ腰じゃ……」
「はぁ?何言ってるの。一番難しいのでって言ったんだよ」
な、なに?今度は観客にどよめきが走った。進行役は、こいつら正気か?とでも言いたげな顔をしている。
「おいライラ、大丈夫なのか?」
俺がひそひそと耳打ちすると、ライラは途端にしょぼんと眉尻を下げた。
「桜下……ライラのこと、信じてないの?」
「そ、そうじゃないけどさ。けどまだ、課題の内容も聞いてないじゃないか。もし、とんでもないことを吹っ掛けられたら……」
「だったら、大丈夫。どんな難問がきても、解いてみせるよ」
ライラは自信を秘めた瞳でそう言った。……やせ我慢で言っているわけではなさそうだ。ライラの魔術師としてのプライドが、この自信の源なのだろう。
「……そうか。わかった、そんなら俺は、何も言わないよ。お前を信じるぜ、ライラ」
「うん!まかせて!」
よし、覚悟は決まった。進行役が、撤回するなら今のうちだぞ?という目を向けてくるが、俺はそれを真っ向から受け止めてやった。
「えー、一応言っときますけど。最高難易度は、本日一人もクリア者はおりません。今日は八段のおしいところまでいったのが最高記録なんですよ?それでも、やるんですね?」
「おう!」「うん!」
進行役はやれやれと首を振ると、手招きしてギルド員らしい四人の男を呼びつけた。
「それでは、最高難易度の課題に挑戦していただきましょう!お題は、こちらー!」
四人の男たちは、四角形の配置で並んだ。何をする気だ?すると男たちは、一斉にぶつぶつと呪文を唱え始めた……魔法を使う気だ。
「ミラーナルシス!」
四人が同時に叫ぶ。すると地面に、大きな魔法陣が描かれた。魔法陣からは、キラキラ輝く水の粒が立ち上っていく。雨が天に向かって降っているみたいだ……やがて水の粒は、固まって一つの像を結び始めた。しだいに出来上がっていくのは、太い足、厳めしい肩……そして最後に、恐ろしい角の生えた頭が形作られた。
「さあ!最高難易度の課題のお出ましです!チャレンジャーには、このオーガと戦っていただきます!」
つづく
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「じゃあ、チームで出るよ」
そう言ってライラは、俺の手をぐいと引っ張った。おいおい、よりにもよって俺かよ?
「男がいればいいんでしょ。なら、この人もいっしょなら文句ないよね」
男はそれなら仕方ないと言った様子でうなずいた。マジかよ?俺はライラの耳元に口を寄せる。
「おい、ライラ……俺じゃ何もできないぞ?」
「だって、男は桜下とエラゼムしかいないじゃん。消去法で桜下だよ」
あ、さいですか……消去されたエラゼムがひそかにショックを受けている。
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男がもみ手をしながら、俺たちをじっくり眺める。
「さて、三人までならエントリーできるけど、どうする?もう一人出す?」
あと一人か……するとライラが、俺の手をつかんでいる方とは逆の手を伸ばし、アルルカのマントをむんずとつかんだ。
「じゃあ、コイツで」
「あいよ。じゃ、三人だね」
「はぁ?ちょっとこら、何勝手に決めてんのよ!」
三人目の選手に勝手にされたアルルカが、ライラに食って掛かる。
「このガキ!あたしはパスだって言ったでしょ!」
「だって、お前しかいないんだもん。おねーちゃんは出たくないっていうし」
「あ・た・し・も!出ないっつってんのよ!だいたい、こんな低俗なイベントになーんで高貴なあたしが……」
低俗、と言ったところで、今度は男がまなじりを引くつかせる番になった。男はアルルカの頭の先からつま先までじっくり眺めると……
「ハン……」
心底馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「は?」
あ。アルルカの目つきが変わった。マジのやつだ。フランがとっさに後ろから羽交い絞めにしなければ、今頃男に銃口を向けていたかもしれない……そうとも知らず、男は小ばかにしたような笑みを浮かべていた。
「ま、期待してるよ。今の挑戦者が終わったら呼ぶから、そしたら前に出てきてよ。まぁおたくらじゃ難しいとは思うけど、笑いはたっぷりとれそうだからね。それじゃ」
男はひらひら手を振ると、さっさと次の客引きに行ってしまった。あーあ、煽るだけ煽っていきやがって……おかげで火がついちゃったじゃないか。
「……放しなさい」
アルルカが、自分を押さえつけるフランに言う。フランがこちらに目配せしてきたので、俺がこくりとうなずくと、フランはアルルカを自由にした。
「……おいこら、クソガキ」
アルルカは、ライラのそばにゆらりと並び立った。俺はごくりと唾をのんだ。アルルカがどう出てくるか……
「あのクソヤロウの鼻、ぶっぽじってやるわ。手ぇ抜くんじゃないわよ!」
「ふん。誰に言ってるの、ライラは大まほー使いだよ。そっちこそ、足引っ張らないでよね」
あ、あれ?言葉遣いこそ荒いが、ライラとアルルカは奇妙に協調しているみたいだった。共通の敵の存在が、二人の手を結ばせたようだ。でも……
「どうしよう。俺、すげえ自信なくなってきたんだけど……」
この二人とトリオを組まされる俺は、一体どうしたらいいんだ。それぞれの手に、狂犬の手綱を握らされた気分なんだけど。ウィルがあきらめた顔で、俺の肩にポンと手を置く。
「頑張ってください、桜下さん。私たちは見守ってますから」
くっそー、他人事だと思いやがって……
「さあ、次のチャレンジャー!前へ出てください!」
進行役と思しき男が、俺たちの順番が来たことを高らかに宣言した。
「さあ!いくよ、桜下!」
ライラが鼻息も荒く、ずんずんと人垣を押しのけて、薄紫のドームの中へと向かう。うわー、いよいよか。ここまで来たら、腹をくくるしかないな。俺たちが近づくと、ドームの壁につぅっと穴が開いた。そして俺たち三人がくぐると、また元通りに塞がってしまった。後戻りはもうできないな。ドームの周りは、三百六十度すべてを野次馬が取り囲んでいる。うぅ、まるで見世物小屋の檻の中にいる気分だ。
「さあ、次の挑戦者はなんとも異色のチーム!少年少女、そしてちびっこの即席チームだ!健闘に期待したいけど、びびってお漏らしはしないでくれよ!?」
進行役があおると、観客はどっと笑った。けっ、言ってろ言ってろ。しょっぱなで馬鹿にされたおかげか、俺の中の緊張感はだいぶ薄らいだ。その点では、進行役の男に感謝だな。
「さて、それでは最初に、挑戦する課題の難易度を決めてもらいましょう。難易度は全部で十段階!もっとも簡単な第一段では、まきの山に火をつけてもらうというシンプルなもの。火属性魔法が使えれば簡単ですが、ポイントはあまり高くはありません」
なるほどな、確かにその程度なら、俺たちはいつもやっているくらい簡単だ。けど段階が上がったら、そうもいかないかもしれない。ここは条件をよく見極めて……
「そして、第二段階では……」
進行役が説明を続けようとしたが、それを唐突にライラが遮った。
「一番で」
え、ライラ?観客たちがあきれたようなため息を漏らした。まだ説明も聞いていないのに、一番簡単な一段に決めちゃうのか?さすがに進行役も面食らっている。
「おいおいお嬢ちゃん、せめて説明くらい聞いたらどうだい?いくら自信がないからって、そんなに逃げ腰じゃ……」
「はぁ?何言ってるの。一番難しいのでって言ったんだよ」
な、なに?今度は観客にどよめきが走った。進行役は、こいつら正気か?とでも言いたげな顔をしている。
「おいライラ、大丈夫なのか?」
俺がひそひそと耳打ちすると、ライラは途端にしょぼんと眉尻を下げた。
「桜下……ライラのこと、信じてないの?」
「そ、そうじゃないけどさ。けどまだ、課題の内容も聞いてないじゃないか。もし、とんでもないことを吹っ掛けられたら……」
「だったら、大丈夫。どんな難問がきても、解いてみせるよ」
ライラは自信を秘めた瞳でそう言った。……やせ我慢で言っているわけではなさそうだ。ライラの魔術師としてのプライドが、この自信の源なのだろう。
「……そうか。わかった、そんなら俺は、何も言わないよ。お前を信じるぜ、ライラ」
「うん!まかせて!」
よし、覚悟は決まった。進行役が、撤回するなら今のうちだぞ?という目を向けてくるが、俺はそれを真っ向から受け止めてやった。
「えー、一応言っときますけど。最高難易度は、本日一人もクリア者はおりません。今日は八段のおしいところまでいったのが最高記録なんですよ?それでも、やるんですね?」
「おう!」「うん!」
進行役はやれやれと首を振ると、手招きしてギルド員らしい四人の男を呼びつけた。
「それでは、最高難易度の課題に挑戦していただきましょう!お題は、こちらー!」
四人の男たちは、四角形の配置で並んだ。何をする気だ?すると男たちは、一斉にぶつぶつと呪文を唱え始めた……魔法を使う気だ。
「ミラーナルシス!」
四人が同時に叫ぶ。すると地面に、大きな魔法陣が描かれた。魔法陣からは、キラキラ輝く水の粒が立ち上っていく。雨が天に向かって降っているみたいだ……やがて水の粒は、固まって一つの像を結び始めた。しだいに出来上がっていくのは、太い足、厳めしい肩……そして最後に、恐ろしい角の生えた頭が形作られた。
「さあ!最高難易度の課題のお出ましです!チャレンジャーには、このオーガと戦っていただきます!」
つづく
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