じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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9章 金色の朝

3-3

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3-3

お、オーガだって?
観客の何人かが悲鳴を上げた。俺だって同じ気分だ。目の前に現れた、俺の倍くらい背丈のありそうな怪物は、どう見ても鬼にしか見えなかった。その厳めしい顔つきを見て、俺は風神雷神の屏風絵を思い出した。

「観客のみなさま、ご安心ください!このオーガは、魔法によって生み出された虚像、幻にすぎません」

進行役の男が、騒ぐ観客を落ち着かせようとアナウンスする。な、なんだ。本物じゃないのか。俺はほっと胸をなでおろした。それなら、全然楽勝だな……

「しかし、チャレンジャーは油断なきよう。幻と言えど、このオーガにはある程度の実体があります。殴られれば痛いですし、蹴られればぶっ飛びますので、ご用心を」

「な、なに!」

それじゃあ実戦とほとんど変わらないじゃないか!

「このオーガを倒せれば、チャレンジャーの勝利!課題はクリアとなります。もしもダメそうでも、死ぬ前にこちらでオーガを止めますので、そこはご安心ください」

「おい!絶対安全なんじゃなかったのか!?」

「さぁさぁチャレンジャーは、卓越した魔法を駆使して、このオーガを見事倒してください!このドームは魔法を含むあらゆる衝撃を吸収しますので、思う存分ぶっかましてもらって構いませんよ。ま、できたらの話ですがね?それじゃ、スタート!」

「あ、おいってば!」

俺たちの了承も得ず、勝手に課題が始まってしまった。それと同時に、オーガが恐ろしい眼で、俺たちをぎょろりと睨む。

「グルルルル……」

「あ、あはは……どうぞお手柔らかに……」

「ギュララララララッ!」

うわぁ、とても話が通じそうにない!

「アルルカ、陽動!」

俺はそれだけ叫ぶと、ライラのわきに手を突っ込んで持ち上げ、死に物狂いで駆け出した。

「ギュララララララ!」

オーガは狂ったように叫びながら、ハンマーのような拳を振り下ろす。バゴーーン!

「ど、えぇ!?」

嘘だろ!オーガが殴った部分の敷石が、木っ端みじんになったぞ!ひ、広場の一部が砂利道になってしまった……

「や、やべえ。あんなの、指一本にでも触れたらアウトだ……」

あんなのにまともに殴られたら、確実に骨が粉々になってしまうだろう。冗談じゃ済まないぞ……!
オーガは俺たちとアルルカ、二手に分かれたどちらを追うか迷っているようだった。するとアルルカがマントの前を外し、ばさりと翼を広げた。

「ふん。図体だけはでかいようだけれど、空にまでついてこれるかしら?」

あ、なるほど。前にマスカレードに取った戦法と同じで、遠距離から狙撃する気なんだ。
……しかしアルルカは、ここがドームで覆われていることを失念していた。ゴチン!

「あいたぁ!」

アルルカはドームの天井にしこたま頭をぶつけてしまった。それを見た観客たちがどっと笑う。しかし、今はそんなのんきな場面じゃないぞ。オーガがアルルカを狙っている!

「アルルカ!危ないぞ!」

「え?」

オーガのパンチが、油断したアルルカの腹に直撃した。
バキッ!メキメキ!嫌な音を響かせ、アルルカの腰から上がちぎれ、飛んだ。観客から悲鳴が上がる。

「あ、アルルカーーーっ!」

「なによ、うるさいわね」

「ある、ぅえ?」

俺のすぐ隣に、腕組みしたアルルカが立っている。え、じゃあ真っ二つになったアルルカは……?ちぎれたアルルカの体は、地面に落ちてゴトンと転がった。ごとん?

「氷で人形を作る魔法よ。あたしは影になって、分身と入れ替わったの。あんたが陽動しろっていうからやってあげたんじゃない」

「あ、そ、そうだったな……」

び、びっくりした。さっきのは偽物か……転がったアルルカの分身は、すぐに透明な水になって溶けてしまった。

「で?こっからどうすんのよ」

「あ、ああ。いや、とりあえず気を引いてもらえれば、あとはライラの魔法でどうにかなるかと思ったんだけど……」

ライラの火力なら、いくらでっかいオーガといえどイチコロだろう。しかし、魔法の詠唱にはどうしたって時間がかかる。いつもはエラゼムが、その間防御をしてくれたが、今はそうもいかない……ならば、詠唱の時間がほとんどかからない、アルルカの魔法の出番だ。

「ライラ、何秒くらいあればやつを倒せそうだ?」

「……十秒。それだけあれば、きっと倒すよ」

「だそうだ。アルルカ、それだけ時間を稼げるか?」

「はっ。誰にものを言ってるの?なんだったら、十秒であいつを倒してあげるわよ!」

ばさ!アルルカが翼を広げ、今度はドームの天井にぶつからない程度の高さにとどまった。オーガのほうも騙されたと気づいたのか、再び空に舞い上がったアルルカを睨み付ける。

「さあ、いくわよ!スノウ・ウィロウ!」

ピシピシピシ!アルルカの手に握られた杖の先から、氷の鞭が生成される。アルルカは大きく体をそらすと、掛け声とともに鞭をしならせた。

「せいや!」

ビューン!鞭はオーガの手首に巻き付いたが、オーガは怪力の一捻りで、氷の鞭を粉々に砕いてしまった。破片が俺たちのほうにまで飛んでくる。

「うひゃ!アルルカ、気を付けろよ!」

「う、うっさいわね!ちゃんと避けなさいよ!」

俺たちがいがみ合っていると、再びオーガの拳がアルルカ目がけて飛んでくる。しかし今度は、アルルカもそれを読んでいた。横に羽ばたいてかわし、空中で体をひねると、杖の銃口をオーガへとむける。

「食らいなさい!メギバレット!」

ダァーン!撃ち出された弾丸は、オーガの右目を直撃した。うわ、すごい精密射撃だ。あんな体勢で……

「ギャルルゥ!」

オーガが右目を押さえて呻く。しかし、それくらいじゃオーガの幻影は消えない。もっと大きなダメージを与えないと……!

「ほら、今よ!」

アルルカがこちらに目配せする。すると、言われるまでもないとばかりに、ライラが呪文を叫んだ。

「マウルヴルフ!」

ライラが宙を掻くように手を動かす。すると、ゴゴーン!広場の敷石が吹っ飛び、オーガの足元にぽっかりと大穴が開いた。

「ギャララ!?」

オーガもさすがに驚いたようで、奇声を発して穴に落っこちた。しかし、俺の背丈の倍くらいある相手だ。大穴に落ちてなお、やつのたくましい上半身は穴からのぞいていた。

「ちょっと!ぜんぜん弱ってないわよ!」

穴から出ようともがくオーガを見て、アルルカが苛立ったように叫んだ。ライラも負けじと言い返す。

「うるさいな、これはまだ準備!次ので確実に仕留めてやるんだから!」

そういうとライラは、まるで歌うかのように、なめらかな声で呪文の詠唱を開始した。

「……ん?この呪文、前にも……」

俺は、この唄うような詠唱を前も聞いたことがある。ライラの周囲でつむじ風が舞い始めたことで、俺は完全に思い出した。これ、初めてライラと出会った時。サイレン村で、アイアンゴーレムを倒した呪文じゃないか?

「いぃ!?ま、まずいぞ。アルルカ、そこにいちゃヤバい!早く戻れ!」

俺は、オーガのそばで飛んでいるアルルカを、必死に呼び戻した。アルルカは怪訝そうな顔をしているが、俺もなりふり構っていられない。あんなとこにいたら、アルルカまで巻き添え喰らって、吸血鬼の刺身になっちまう!
ゴオォォォ。いよいよ風が渦を巻き、地面の小石をはじき飛ばす。アルルカが一はばたきで隣へやって来ると同時に、ライラはかっと目を見開き、両腕をがばっと広げた。

「カマイタチッ!」

ブゥン!ライラは広げた腕を、見えないヴェールを引き裂くように振り下ろした。その瞬間、目の前の空気がぐにゃっと歪み、そこから音速の風の刃が飛び出した。風の刃は地面の敷石を抉り取りながら、オーガへまっすぐ飛んでいく。

ズカッ!

直撃だ!風の刃は、オーガを一刀両断した。顔の中心で真っ二つになったオーガは、パシャッとはじけて、ただの水になってしまった。

「おお!なんだ、けっこうあっけなかったな」

所詮は幻か。とはいえ、これで無事にクリアだ……
ほっと息をつこうとしたその時、俺の脳裏に違和感が走った。なんだ……?脳内に、過去の映像がフラッシュバックする。前にアイアンゴーレムを倒したときは、こんなにあっけなかったか……?もっとすさまじい爆発が起こって、俺もライラも吹っ飛ばされたような……

その違和感の正体は、すぐにわかった。風の刃は、まだ消滅していない。

バキィィィィ!

あっ!風の刃が、薄紫のドームにぶつかった!カマイタチの魔法は、オーガの幻を倒してもまったく勢いが衰えていない。けど、このドームは魔法を外に通さないから、さすがにそのうち消滅して……

ミシィ!ミシミシミシミシ……

……なんだよ、このミシミシいう音。まさか、まさか……ふと視線を上に向ければ、薄紫色のドームが限界までカマイタチに引っ張られ、今にもはちきれそうになっている。ああ、見るんじゃなかった……

「や、やばくないかコレ……」

風の刃の威力は、少しも消えていない。考えてみれば、巨大な鉄の塊であるアイアンゴーレムを、スクラップに変えるほどの威力があるんだぞ。オーガの幻ごときで、その勢いが殺せるはずなかったんだ。それが万が一にも、このドームを突き破って、町に飛び出したら……俺とライラとアルルカは、鳴り響くミシミシ音の中、知らず知らずのうちにお互いを抱き合っていた。

ピシィ!

「ひえぇ」

ああっ!ついにドームに、白いヒビが入った!

「やや、やばい!外にいるやつら!逃げろーーーー!」

俺が叫ぶまでもなかった。大勢いた人だかりは、蜘蛛の子を散らすように、われ先にと逃げ出した。そしてついに、ドームの限界が訪れる。ピシ!キシキシキシ……

バリーーーーン!



つづく
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読了ありがとうございました。

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