じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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9章 金色の朝

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「優勝ってことは、金貨百枚もらえるんだよね?」

「もちろん!ただ……今すぐというわけには、いかないんです」

あれ、そうなのか?ライラが露骨に肩を落としたのを見て、進行役は慌てて付け加える。

「ああ、勘違いしないで。額が額なので、この場に持っていないというだけです。この近くにある私共のギルドでお渡ししますよ」

「ギルド?」

「ええ。我々は、魔術師ギルド“黒手団ブラックハンズ”の一員なのです。大金を持って歩くのは、この王都と言えど危険ですからね。まずはギルドまで行って、そこで安全に取引といこうじゃありませんか」

まあ、それもそうか。宝くじだって、その場で換金はしないっていうしな。それじゃ、次はこいつらのギルドまで行かないと……俺が腰を上げかけると、今まで黙って聞いていたフランが、しずかに待ったをかけた。

「……あなたたちのギルドに行って、そこで賞金がもらえるの?」

「え?ええ。そうですよ、お嬢さん」

「だったら、わたしだけが行く。ほかのみんなは残ってて」

「え?」

「え?フラン?」

俺と進行役は、そろってフランの顔を見た。

「わたし一人で受け取りに行く。その場で、現金でくれるんでしょ。だったらみんなぞろぞろ行く必要ない。わたし一人で十分だ」

「お、お嬢さん?金貨百枚といったら、相当の大荷物ですよ?とてもお嬢さん一人じゃ……」

「心配しなくていい。ほら、早く行こう」

フランが急かすと、進行役は露骨にまずい、という顔をした。なんだって、そんなしかめ面を……一人で行かれると困ることでもあるのかな?ちょっと、雲行きが怪しくなってきたぞ。

「……なぁ。ほんと~に、その場ですぐに金貨がもらえるのか?」

俺が改めて問いかけると、進行役の目が泳いだ。ますます怪しいぞ、こいつ。なにか裏があるのか?すると、旗色の悪くなってきた進行役に代わって、客引きの男がずいっと前に出てきた。

「あー、お兄さんたち?俺たちは別に、嘘は言ってないよ。ただ、なんもせずにほいと大金を渡せるわけじゃないってこと。要は、手続きが必要だってことさ」

「手続き?」

「ああ。なにせ、額が額だからねぇ。うちらギルドにも、しかるべき処理ってもんがあるのよ」

回りくどい言い方だな。フランがイラついた様子でたずねる。

「で?その処理ってのはなに」

「んー、まあギルドから金を出す際に、必要なことなんだけど。賞金はギルドの金なのね。んで、ギルドの金はギルドメンバーのために使うって決まりがあるんだ。でも、君たちはギルドメンバーじゃないから、そのままじゃ金を渡せない。そこで、さ。ねぇ?」

ねぇ、って言われても……つまり、俺たちがギルドの人間になる必要がある、ってことか?

「こう言いたいのか?俺たちに、あんたたちのギルドに入れって?」

「そそそ!それなら、何の問題もなく賞金を渡せるってわけ」

なんじゃそりゃ。そんなこと、最初に聞いてないぞ。

「話が違うじゃないか。俺たち、賞金をもらったらすぐに王都を離れるぜ?それなのにギルドに入ってもしょうがないだろ」

「いや~、でもそうしないといけない決まりなのよ。じゃなきゃ俺たちもお金が渡せないんだ。これも手続き上しょうがないんだって、ね?」

「つっても、ギルドに入る気なんてないし……」

どうも、お互い話が平行線だな。俺たちの間の空気が悪くなってきたのを察してか、さっきの進行役が慌てて割り込んできた。

「ま、まぁまぁ!お兄さん、名前だけ置いておいてもらっても構わないんですよ。とりあえず、書類上ギルメンってことにしておけばいいって話なんですからね……」

「はぁ……書類上?」

「そうそう。お名前をちょこちょこっと書いてもらえば、それだけで……」

するとすかさず、フランがガントレットのはまった手を進行役の目の前に突き出した。進行役がびくっと身をすくめる。

「書類」

「へ、へ?」

「その書類。どうせ今も持ってるんでしょ。出して」

え?だって、そんな大事な書類は、ギルドに行かなきゃないんじゃ……しかしなんと、進行役はおずおずと、ポケットから四つ折りになった用紙を取り出した。あ。今、小さくだけど客引きの男が舌打ちしたぞ……フランは書類を受け取ると、それを広げて目を通し始めた。

「………………」

「フラン?なんて書いてあるんだ?」

「……すごいね。名前だけ貸すなんて嘘っぱち。一度ギルドに所属したら、ギルドマスターの承認なしには抜けられないようになってる」

「え?なんだよ、それは」

そんなものにうっかりサインしちまったら、絶対面倒なことになるじゃないか。そしてそれを、男は一言も説明しなかった……俺がにらみつけると、進行役の男は、取り繕うように愛想笑いを浮かべた。こいつ……

「他にもいろいろあるよ。一つ、ギルド員がクエストで得た報酬の五割をギルドに納めないといけない。一つ、ギルドからの招集に、ギルド員は可能な限り応じなければならない。一つ、ギルドの契約内容、その他情報を漏えいしてはならない。一つ、これらを破ったら、違約金が課せられる……だって。呆れてものも言えないよ」

フランはぴしっと契約書を指ではじいた。ひらひら舞う書類を、進行役があわてて取り押さえる。

「は、はは……まあ、ちょっと制約はありますけど。ギルドに所属すると、いいことずくめだよ?魔術の知識が手に入るし、自分の実力を生かした仕事ができますからね。やりがいありますよ?」

けっ、冗談じゃないぜ。こんな詐欺まがいのやり口で、やりがいもクソもあるか。

「あいにくと、メリットよりデメリットのほうが目立って見えるけどな。それじゃあサインはできないよ」

俺がぴしゃりとはねのけると、進行役はぎょっとしたように目をむいた。

「ま、待ちなさい!それじゃあ、賞金は出せないんだよ!?賞金がほしいんだったら、ギルドに入ってもらわないと……」

「……は?」

ぎょろりと深紅の目をむいたフランに、進行役は震え上がった。

「出せる、出せないの話はしてない。お前たちは、賞金を出す・・って言ったんだ。わたしは、それを貰いに行こうって言ってるんだけど」

「で、ですから、それにはギルドに入ってもらわないと……」

「出さないの?わたしたちを騙したわけ?」

「あの、話を……」

「ねえ。どうなの?」

進行役は完全にびびっている。ていうかフラン、それはヤクザのやり口だぞ……するとその時、通りのずーっと向こうから、何やらガチャガチャと騒がしい一行が現れた。俺たち全員が、その方向に目を奪われる。鎧を着ている……兵士の集団みたいだ。

「あ……やべ」

進行役の男がぼそりとつぶやいた。そのとたん、二人の男はすごい勢いで立ち上がった。

「いやぁ、無理強いしてすまなかったね!無理だというならあきらめよう!では!」

早口にまくしたてると、そのままくるりと踵を返し、男たちは走り去ろうとする。だがフランは、すばやく進行役の腕を捕まえた。

「なっ!は、放しなさい!君たちは条件を断ったんだろう!?」

「まだ話は終わってない。わたしたちは貰うものを貰ってないんだ」

進行役はフランの手を振りほどこうとするが、フランの細腕は見た目に反して、鋼のようにびくともしない。先に遠くへ逃げた客引きの男が叫ぶ。

「おい!早くしろ!ぐずぐずするな!」

「わ、わかってる!ちくしょう!」

すると進行役は、自分のポケットに手を突っ込んだ。まさか、何か武器を出す気か?だがそこから出てきたのは、くすんだ色の石ころだった。なんだありゃ?

「わ、わかった。金は出せないが、代わりにこれをやろう」

「はぁ?こんな石ころで誤魔化そうっての?そんなウソ、まぬけなノールでも引っかからないよ」

「違う違う!これは、貴重なマナメタルの鉱石なんだ!借金のかたに受け取ったやつだが、高価なものだ。代わりにこれをやるから、もういいだろう!ほら!」

ぐいと石を押し付けられて、フランは思わず男の手を放してしまった。するとあっと言う間もなく、男たちは一目散に駆け出し、街角の中に消えて行ってしまった。



つづく
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