じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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9章 金色の朝

10-1 ロアの訪問

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10-1 ロアの訪問

次の日の朝、俺は目が開けられなかった。昨日の疲労が、まだずっしりと残っている……あんなに疲れるバスタイムは初めてだった。

(あんにゃろう……)

フランとライラは、まだいいのだ。フランと風呂に入るのはこれが初めてじゃないし、ライラは女児だ。が、問題児が一人。俺の精神を激しく摩耗させたのは、ちじょ……ではなく、アルルカだった。
あいつは、俺がいたいけな少年であるのをいいことに、事あるごとにからかってきやがった。どうにもあの露出狂は、普段の恰好から察する通り、体をさらすことにほとんど抵抗がないらしい。俺がろくに反撃できないとみるや、最高のサンドバッグを見つけたいじめっ子のように顔を輝かせていたからな……そういや、あいつは絶対優位の立場で相手をいたぶるのが大好きだった。ほんっっとに性格悪い。

「ううぅ~ん」

結局俺は、夢の中にまででてきたアルルカにいじめられ続け、明け方近くまでギリギリと歯ぎしりをしていた。目覚めは最悪だったし、できることならベッドの中で一日過ごしたかったけど、早朝ラッパと共にフランに叩き起こされてダメだった。

眠い目をこすりながら朝礼の列に並ぶと、なんだか昨日とは違う空気を感じた。一昨日まではバカにしたような視線、昨日はおっかないものを見る視線を感じていたが……今日は、恐れというよりは、畏怖……尊敬や、関心のような……みたいだ。

(これは、昨日の噂が早くも広まったかな)

ライラとアルルカの魔法、フランとエラゼムの力とスタミナ。トラブルさえ起こさなきゃ、仲間たちの実力は腕っこきだ。ひひひ、こりゃ今後が楽しみだぜ。

午前中は、ほとんど外にいた。魔術師たちは性懲りもなくライラに意地悪をしてくるし、フランは男だらけの中の紅一点ということで、なにかとちょっかいを掛けられやすいようだ。エラゼムは堪えてくれていたが、いずれにせよ仲間の実力を引き出すには、メンタルケアは欠かせなかった。
正午の鐘が町に響くと、俺は一度営舎に戻った。

「ウィル、戻ったぞ……」

「あ、おかえりなさい」

「おう……はあぁぁぁ」

俺はでっかいため息とともに、椅子にぎしりと腰かけた。勢いよく座り過ぎて、お尻が痛い……

「お疲れ様です。今朝から辛そうでしたもんね」

「ほんとだよ。それに、めんどくさい奴に絡まれてさぁ」

「まぁ、こんどはなんですか?またライラさんが?」

「いや、今回はフランだ。土方の一人の、ちょっと若い兄ちゃんが、やたらとフランに話しかけてきてさ。ずーっと無視してるんだけど、もうしつこいのなんの」

「あー。それってアレですか?」

「そ。まぁ、ナンパだろうな」

「うぇ、フランさんまだ十代ですよね?まあでも、大人びてるし、なにより美人さんですしねぇ」

「だな、美人も大変だ。見かねたエラゼムが止めに入ったんだけど、今度はエラゼムに食って掛かりだして。あいつ、自分は棚に上げて、エラゼムをロリコン呼ばわりしたんだぜ?」

「うわ」

「ありゃ、誰だって怒るぜ。今日はじめて、エラゼムにおすわりを使ったよ……けどおかげで、とりあえず今んとこは順調。はぁー、腹減った」

寝不足と疲れと空腹で、目が回りそうだ。脳みそがふわふわ宙に浮いている気がする。

「そろそろ昼飯だよな?」

「ええ、そのはずです。あの、下の食堂で食べるんですよね?」

「ん?そのつもりだけど」

「あの、でしたら……」

ウィルがそこまで言いかけたとき、部屋の扉が、ドンドンドンと荒っぽくノックされた。ここ最近、ウィルが話そうとするたびに来客がある気がする。

「ったく、誰だ?昼飯時に……」

「入るぞー」

まだ返事をしてないのに、勝手に扉が開かれた。どかどかとぶしつけに入ってきたのは、エドガーだった。

「よう。やってるな、元勇者」

「なんだなんだ。今日はなんにもやらかしてないはずだぞ」

「なに?ああ、違う違う。そうではない、むしろ逆だ」

エドガーはがらにもなく、口元に笑みを浮かべていた。

「頑張っているようだな。あれから、特にもめ事の報告は上がってこない。むしろ、評価の声もパラパラ聞こえるくらいだ」

「え、ほんとか?」

「うむ。お前の生意気な大口は、どうやらホラにならずに済んだようだな。わはは」

ちぇ、一言余計なんだよな。褒めるなら、素直に褒めりゃいいのに。

「それで?わざわざそれを言いに来たのか?」

「そんなわけなかろう。こっちが本題だ……おい、今夜城に来い。ロア様がお呼びだ」

「へ?ロアが?」

「ロア“様”が、な!」

「あー、はいはい。お姫様がお呼びってことは、あれのことか?」

「うむ。お前たちの旅について、直接報告を受けたいとのことだ」

やっと来たか。マスカレードのことに、三の国でのこと。話したいことはいくつもある。

「わかった。で、城のどこに行けばいい?」

「そうだな……いやまて、やはりお前たちはここにいろ。私が直接迎えに来る」

「うん?いいけど、ずいぶん仰々しいな。なんでVIP待遇なんだ?」

「馬鹿者、貴様が貴賓というガラか!王城は本来、お前のような浮浪者が気軽に訪れていい場所ではないのだ。その上礼儀知らずだし、態度はでかいし……いらんトラブルを起こしかねん。私が随行して監視せねば」

「……」

いっそ、断ってやろうか?

「そういうわけだから、今夜私が部屋を訪ねるまで、おとなしくじっとしておけよ。ロア様は多忙であらせられるから、遅くまで公務が絶えんのだ。今もお昼時だというのに、これから大事な会議に出席される予定であるから……」

俺がエドガーの長話にうんざりしていると、ウィルがちょんちょんと肩をつついた。

「桜下さん、おうかさん」

「うん?」

「あの、さっき窓の外に見えたんです。あの人が……」

あの人?その答えは、再び扉がバーンと開けられたことで明らかとなった。そのうち建付けが悪くなりそうだな、とぼやきたくなったのだが……入ってきたのは、予想外の人物だった。

「エドガー、元勇者。いるか?」

入ってきたのは、上等なシルクのドレスを着た、長い髪の女性……って、え?

「ロア?」

「ロア様!?ぐほっ」

勢いよく開け放たれた扉に背中を強打され、エドガーがうずくまる(哀れな……)。ギネンベルナ王国現王女であるロアは、ちっとも悪びれずに目をぱちくりした。

「エドガー?なんでそんなところにいるんだ」

「そ、それはこっちの……ごほっ、げほげほ!」

エドガーは驚きのあまり、背中を丸めて激しくむせた。

「ごほ、げほげほげほ……ごほっ、がほっ、ごほっ!」

……にしては、ずいぶんむせこんでいるな。さすがにロアも心配そうにしている。

「だ、大丈夫かエドガー?そんなに驚くとは……」

「い、いえ。ごほ。すこし気道が詰まっただけです……げほ」

エドガーは深く息を吸い込むと、ようやく息を落ち着けた。

「ロア様、どうしてここに?会議に出席されているはずでしょう!」

「会議?そんなものあったか?」

「ありました!本日は、城の各長たちとの定期報告会のはずで……」

「ああ、わかったわかった。ちっ、ばっくれて来てやったのだ、あんなもの」

「ば、ばっくれ……」

エドガーが魂の抜けたような声を出す。今ばっかりは、エドガーに同情できる気がした。ばっくれただって?とても王女の口から出てきた言葉だとは思えない。

「だいたい、あんな会議何の意味もないではないか。城内のカビの生えた長老たちが、うだうだと毎回おんなじことを繰り返すだけだ。私がいなくてもどうとでもなるだろう。というか、する必要があるか?」

「し、しかしロア様は、王女殿下であるわけですから……」

「だからなんだ?この前など、私は会議の半分近く寝ていたが、だれにも咎められなかったぞ。出るだけ無駄だ。それより、こちらのほうがよっぽど有意義だろう」

ロアはエドガーの小言も聞かず、後ろ手にバタンと戸を閉めると、つかつかと作業机に歩いてきて、俺の正面に腰かけた。

「聞いたぞ?三の国で大捕物をやったそうだな」

座るなり、ロアは瞳を細め、薄く笑いながら俺の顔を覗き込んだ。大捕物……つまり、あれだな。三の国における、“勇者様”の活躍について言いたいわけだ。

「は、は、は。みたいだな……」

「ふふふふふ。事前連絡もへったくれもなかったから、こちらは大変慌てることになったぞ。そのあとの事後処理について、軽く三日は話せそうだが。聞きたいか?」

「い、いやぁ。王女様はお忙しいみたいだし、遠慮しとこうかな……」

「そうか?ふむ、それは残念だ」

て、手厳しい……



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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