じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
343 / 860
9章 金色の朝

13-2

しおりを挟む
13-2

「でも、どうやって城門を越えようか?」

ウィルを迎えに行くと言ったはいいものの、その前には物理的な障壁が待ち受けている。城門の跳ね橋は、十二時になると通れなくなってしまうのだ。

「ライラが、風のまほーで飛ばしてあげよっか?」

ライラが指をくるくると回す。しかし、それにはエラゼムが首を横に振った。

「おそらく、城壁の上には歩哨の兵がいるでしょう。怪しげな人影を見つけられれば、最悪攻撃を受けかねないかと」

ライラはムッとしたが、エラゼムの言う通りだ。ライラの風の魔法は、ふわふわとゆっくりしか動けない。そんな状態で見つかったら、恰好の的、七面鳥だ。城門の上には、松明も照らされているから、闇夜に紛れることもできない。俺たちを出迎えるのは、きっと矢の嵐だろう。

「……だったら、見つからないくらい早く飛んだらいい」

「え?フラン?」

フランが、突拍子もないことを言う。けど、フランは冗談を言うタイプじゃないから、本気だろう。ならば……

「……俺を、投げ飛ばす?フランの力なら、壁を剛速球で飛び越えて……」

「は?寝ぼけてるの?」

「……」

「そうじゃなくて、いるでしょ。自力で空を飛べるのが一人」

フランはそう言って、部屋のすみで壁にもたれていた、アルルカを見た。

「は?あたし?」

アルルカはきょとんとして、自分の顔を指さした。俺も驚きだ。まさか、アルルカの力を借りようってことか?

「お前なら、人ひとり抱えて飛ぶくらい余裕でしょ」

「はぁ~?あたしに、このボウズを担いで飛べってこと?」

確かに、ヴァンパイアのアルルカならば、闇夜の中を人目に見られず飛ぶことができるかもしれない。正直不安も残るが……ほかに妙案も思いつかなかった。

「……それが、一番良さそうだな。背に腹は代えられないか」

「あ、あんたたちねぇ……この際、はっきりさせてもらうけどね!!あたしを、便利屋か何かと勘違いしてるんじゃない!?いい?あたしは、高貴なる……」

「よし、そうと決まれば早速実行だ!外にいこう!」

「聞きなさいよ!何回目よこのパターン!」



営舎を出れば、目の前には高くそびえる城壁が、漆黒の帳のように立ちふさがっていた。はるか頭上に、星が煌めく夜空が見える。これを越えていかなきゃならないのか……

「アルルカ、いけそうか?」

「誰にモノを言ってんのよ。あたしは偉大なる、強大なる、尊大なるヴァンパイアよ?こんなちゃちな壁どころか、山一つだって飛び越えられるわ」

「よし、じゃあ問題ないな」

「けどね、できるのとやるのとは違う話よ。お断りだわ、オ・コ・ト・ワ・リ!」

「なんだよ、ここまで来てまだゴネるのか?」

「だーかーらー、あたしは最初っからオッケーなんてしてないんだって!あんたたちが勝手に……」

ふつと、言葉を途切れさせるアルルカ。な、なんだ?急に黙って……

「……いいわ。引き受けてあげる」

「え?」

ど、どういう風の吹き回しだ?アルルカは突然、ぶーぶー言うのをやめ、素直に従い始めた。ぶー垂れるのがデフォルトのこいつだ、逆に怖いんだけど……

(けど、変なこと言って、また機嫌を崩されてもめんどうだな)

今は、四の五の言っていられない。逆にチャンスだととらえよう。

「それじゃ、行ってくるな」

仲間たちは、こくりとうなずいた。

「桜下殿、ご武運を」

「桜下、おねーちゃんを必ず連れ戻してね!」

エラゼムとライラが、珍しく息を合わせて激励する。フランはアルルカをギロリと睨みつけた。

「……お前なんかにこの人を任せるのは、不本意だけど。何かあったらどうなるのかくらい、さすがにわかってると思うから」

「わーってるわよ。あたしもそこまで馬鹿じゃないわ。ま、大船に乗ったつもりで、安心なさいな」

驚くべきことに、そのあとにフランが「泥船の間違いじゃないの」とつぶやいたにもかかわらず、アルルカは声を荒立てなかった。従順すぎて、逆に不安になるレベルなんだけど……

「ほら。いくわよ」

「う、うん」

アルルカに後ろから抱きしめられる形で、俺は彼女の腕に捕らえられた。もう逃げられないな……ええい、ままよ。腹を括ろう。

「そお、れ!」

バサー!アルルカは、マントが変化した翼を広げた。大きく翼を振り下ろすと、ふわりと俺たちの体が浮く。へその下がぐいっと引っ張られるようだ。
そのまま数回羽ばたいただけで、俺たちはみるみる地上から離れ、真っ暗な空へと舞い上がっていった。

「う、う、うわ。どうなってるんだ、こんなに軽々と……」

「ヴァンパイアの能力よ。体を軽くして、風に乗りやすくしてんの」

な、なるほど……確かに、明らかに物理法則を無視した上昇の仕方をしている。魔法の存在するこの世界じゃ、今更だけども。
そんなことを考えているうちにも、あっという間に営舎の屋根を追い越し、城壁の中ほどまで差し掛かろうとしていた。もう半分も上昇すれば、高い城壁も軽々飛び越えてしまえるだろう。

「……ねぇ、ところでぇ……」

ぞくっ。うわ、アルルカが突然、俺の耳元でぼそりとささやいた。

「うぉ、耳元でぼそぼそしゃべるなよ」

「うふふ、そんなこと気にしている場合?あなた、ちょっと油断しすぎなんじゃないの?」

油断……?

「なんのことだ?」

「ばっかねぇ。護衛とも離れて、あんたは今、あたしと夜空に二人っきりなのよ?今あたしが変な気を起こしたら、あんたはどうなると思う?」

なんだと……?その間にもアルルカはどんどん高度を上げていき、今や営舎すらおもちゃのように小さく見えるほどになった。そして俺はというと、アルルカに抱きかかえられて、一歩たりとも動くことはできない。

「……何が言いたいんだ?」

「くふふ、とぼけないでよ。たーしか、あんたも言ってたわよねぇ?人の心は変わりやすいって。もしもあたしの気が変わって、今ここであんたを宙にほっぽりだしたら、どうなると思う……?」

アルルカは上昇を止めると、空の上で制止した。城壁の高さはもうとっくに超えていた。もう俺たちの上にあるものは、薄い雲とまたたく星だけだった。

「あんたはなす術もなく、地上に真っ逆さま。地面にたたきつけられて、潰れたトマトみたいに、真っ赤な血をぶちまけることになるのよ。くすくす……あんたの血を失うのは惜しいけれど、それでも自由になれるんだったら、悪くない話だと思わない?」

「……それは、本気で言ってるのか?俺を殺したところで、そのマスクは外れない。どころか、一生取れなくなるぞ。それを外せるのは、俺だけなんだからな」

「あら、意外と冷静ね。もっと慌てふためくかと思ったのに」

「あのなぁ、今はそれどころじゃないんだってば。気が済んだなら、早いとこ……」

「うふふ、だぁーめ。あたしがあんたのためだけに、わざわざこんな役を引き受けると思ったの?」

「……じゃあ、なんだってんだよ」

俺がイライラと聞き返すと、アルルカの指が、俺の胸の上を這い回った。ぞわぞわぞわっと、鳥肌が走る。

「やめろよ!くすぐったいだろうが……」

「ほんとに?ほんとにそれだけ?そうじゃなくて、気持ちよかったんじゃなくって?」

「は、あ?」

アルルカがもうひと撫でしたので、途中で声が震えてしまった。それをどう捉えたのか、アルルカは上機嫌で笑う。

「うふふふ!かぁーわいぃわねぇ、カラダは正直で。若い子はいいわ、ビンカンで感じやすいもの」

「……お前、まだ酔ってるのか?」

「強がらなくてもいいのよ。素直になりなさい……あたし、あんたのこと憎たらしいけど、結構気に入ってもいるのよ。あのクソ村の連中みたいに、あたしを酷い目にはあわせないし。それに、あんたの血は格別だわ。あたし、病みつきになっちゃった」

アルルカの腕が、今度はぎゅっと、俺を抱きしめた。背中に二つ、ふくよかな膨らみが押しつけられる。その部分だけ、肌がジリジリと熱を持っているみたいだった。

「ねぇ……あたし、あんたのこと好きよ。あんたは、あたしのこと嫌い?」



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...