じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
342 / 860
9章 金色の朝

13-1 ウィルの失踪

しおりを挟む
13-1 ウィルの失踪

「……なんだか、色んなことがあったな」

俺は城への帰り道を歩きながら、ぽつりとこぼした。前半の乱痴気騒ぎはともかくとして……ウィルに関わりのある人が、一日に二人も現れるなんて。さすが、何万人もの人が行きかう王都と言ったところだろうか。

「……おねーちゃん、大丈夫?」

ライラが心配そうに、ウィルの顔をのぞきこむ。ウィルはまだ少し酔いが残っているのか、ぽーっとした顔をしていた。

「ライラさん……ええ、大丈夫ですよ。ただ、私もちょっと驚いてしまったというか……少し、悪酔いしてしまったかもしれませんね」

ウィルは無理して笑ったが、そのぎこちなさは誰の目にも明らかだった。

「……あの、すみません。すこし、酔いを醒ましていってもいいですか?」

「え?そりゃ、いいけど……」

「皆さんは先に戻っていてください。少し、そのあたりを散歩したら戻りますから」

ウィルの声は静かだったが、その声にはどこか、他人を寄せ付けない拒絶感があった。彼女の気持ちを汲むと……

「……わかった。それじゃ、先に戻ってるぞ」

「ええ。ありがとうございます……」

ウィルは小さく頭を下げると、ふらふらと夜の街並みへと溶け込んでいってしまった。

「桜下。おねーちゃんのこと、ほっといていいの?」

雑踏の中に消えていくウィルを見て、ライラが不安そうに俺の袖にすがる。俺はライラの手を握ると、ウィルの消えていった方向を見た。

「……誰だって、たまには一人になりたいときがあるんだよ。たぶんウィルも、今夜はそんな気分だったんだ」

ウィルの悩みは、俺にはわからない。デュアンとの再会や、お父さんの話。村の人たちを思い出したのかもしれないし、自分を捨てた人たちを思い出したのかもしれない。だけど……

「今は、そっとしておいてやろう」

ウィル自身が、一人になりたいと言ったんだ。今は少し、自分の心と向き合う時間が必要なんだろう。だけど、ほんの少しだけ……俺じゃ力になれないことが、寂しい気がした。
ライラが、ぎゅっと俺の手を握って、上目遣いに顔をのぞき込む。

「桜下……?」

「……戻ろうか」

俺はライラの手を引いて、帰路に就いた。夜の街に、ウィルを残して……



それから営舎に戻って、十二時を告げる鐘の音が鳴り響いても、ウィルは戻ってこなかった。

「おねーちゃん、大丈夫かなぁ……」

ライラは、ウィルがいつまでも戻ってこないので、部屋の中を忙しなくウロウロしていた。いつもならとっくに眠りこけている時間だが、不安のあまり眠くもならないらしい。

「さすがに少々、心配ですな。事故や事件の不安はないでしょうが……」

エラゼムの言う通り、幽霊であるウィルは事件に巻き込まれる心配はない。だが、ということはつまり、ウィルは自分の意思で戻ってきていないことになる。

「どうしようか。探しに行ったほうがいいのか……?」

一人にしてくれと言ったのはウィルだが、ここまで遅いと……しかし、アニがチリンと揺れると、それは無理だと告げてくる。

『十二時以降、城門の跳ね橋は通ることができなくなります。翌朝六時になるまで、城から出ることはできませんよ』

「ええ!そうなのか……」

なんてこった。城の周りは高い城壁に囲まれ、さらにその周囲をお堀が囲っている。門を通らずに外に出ることは不可能だ。以前の俺みたく、上から飛び降りでもしないかぎりは……

「……わたしなら、城壁を越えることはできると思う」

「え?フラン?」

フランが窓の外を見つめながら言った。確かにフランなら、鉤爪を壁に突き刺してよじ登れるかもしれないが……

「でも、そこまでするか……?ほら、まだウィルが戻ってこないと決まったわけじゃないし……」

「それ、本気で言ってるの?」

ドキリ。フランの深紅の瞳にまっすぐ見据えられて、俺は胸がわななくのを感じた。思わず、目をそらしてしまう……

「まあけど。たぶんわたしが行っても、意味ないと思う」

「え?それは……?」

「迎えに行くったって、首根っこ掴んで引きずってくればいいわけじゃないでしょ。ウィルの悩みを聞いて、説得して、連れ戻さないといけないんだ」

それは、そうだ。無理やり連れ帰るんじゃ、何の意味もない。あいつが戻ってこないということは、まだ悩みを振り切れていないということだから……

「わたしには、ウィルを説得できないよ。いくつもの夜を過ごして、いろんなことを話してきたけれど……きっと、今あの子に必要なのは、わたしじゃない」

「そ、そうか……でも、それじゃあ誰が?」

そんな説得に適役なやつなんて……すると、フランがこちらをじっと見つめていた。エラゼムも、ライラも。

「……俺か?」

フランは、こくりとうなずいた。

「そうだと思う。今、あの子のそばに必要なのは、生きてる人の温かさだと思うから」

まあ確かに、それなら俺しか適任はいないが……

「で、でも。そりゃたしかに、俺は生きてるし、ネクロマンサーだけど。俺、ウィルの悩みなんて、さっぱりわからないんだ。人の相談に乗ったこともないし。俺なんかじゃ……」

「ねえ」

ぴしゃりと遮られて、俺ははっと視界を上げた。いつの間にか、うつむいていたのか?
見上げた先には、また深紅の瞳。

「何をそんなに、不安そうにしているの?」

フランの言葉は、俺の胸にずぐりと刺さった。

「いつものあなたなら、こっちが頼まなくたって、ずかずかおせっかいを焼くくせに」

「う……まあ、そうなんだけど。けど俺だって、悩む時くらいあるさ。そしてそれは、ウィルもそうだろ?」

正直言うと……俺は、怖いのだ。たぶん、ウィルが今悩んでいることは、彼女の根っこに座すことなんだと思う。それはつまり、心の奥底の、一番深い部分の悩みだということだ……俺は少し前に、その部分に触れられて、暴走してしまった。なら、ウィルは?

「……この王都に来てから、ウィルと何度か話す機会があったんだけどさ。その中で、何回意外だな、知らなかったなって思ったか。そこそこ一緒にいたつもりだったけど、俺はまだまだ、ウィルのことぜんぜん知らないんだ。それなのに、あいつの悩みを分かってあげられるのかな……」

「じゃあ、あの子を見捨てるの?」

ぎゅっと、心臓が縮んだ。フランは、真剣だった。

「たぶん、今夜を逃したら。あの子……もう、戻ってこないよ」

「そんな、まさか……」

「わたしも、零時になるまではそう思ってた。けど、それは間違い。今しかない……そうじゃないときっと、手遅れになる」

手遅れに……その言葉が、俺の頭の中で何度もこだました。ちょっとだけ、ほんの少しの散歩にでも行くかのように、夜の街に消えていったウィル。まさか、大げさすぎだ、じきに戻ってくるさ……脳裏に浮かんだ言葉は、一つも口をついてはこなかった。なんでか、俺も胸騒ぎがするのだ。さっきまでは、ウィルを心配する気持ちだと思っていた。けど、それだけじゃない……
……これは、予感だ。最悪の、予感。

「……フラン。一発、どついてくれないか」

フランはまばたきを一つして、俺を見つめ返した。

「なっさけないよな、日和ってたみたいだ。俺たちは、誰一人欠けちゃいけない……みんなが未練を見つけて、成仏するまではな」

「やっと、思い出した?」

「おう。だから、気合を入れなおしたいんだ……頼む」

俺はぎゅっと目をつむった。普段から、俺の尻に強烈な蹴りを入れてくるフランだ。キツイ一撃を覚悟しておいた方がいいだろう。
フランと思しき気配が、俺の至近距離に立つ。くるか……

とすっ。

(え?)


俺は思わず、目を開けてしまった。俺の胸のあたりに、さらさらとした銀色のものが押し当てられている……フランの頭だと理解するのに、数秒かかった。背中に回されているのは……フランの、手?

「心配しないで。わたしたちは、あなたを信じてるから……きっと、あの子も同じ」

「……」

俺が何も言えずにいると、フランはすっと俺から離れた。その顔は、いつもと変わらず無表情だ……いや、ほんの少しだけ違う気がする。けど、今まで見たことない顔だ……

「気合い、入った?」

「えっ?あ、お、おう」

予想外の方法で喝を入れられ、ちょっとドギマギしたけれど。とはいえ、これで気持ちは固まった。

「行ってくるよ……ウィルを、迎えにな」



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...