じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
345 / 860
9章 金色の朝

13-4

しおりを挟む
13-4

「さて、しかし探すって言ってもなぁ……」

俺は今、物静かな通りを一人で歩いている。俺以外には、人っ子一人見当たらない。それはつまり、探し人であるウィルの姿も見えないということだ。
通りには一定間隔で、三の国との国境で見た、光の球のついた街灯が立っている。おかげで夜道でも歩ける程度には明るかったが、幽霊であるウィルの手がかりを見つけるには不十分だった。

「この辺で幽霊を見かけませんでしたか?なんて聞けるわけもないしなぁ」

そもそも、人がいないし。俺は闇雲に、道という道、家という家の前を歩き回っていた。

「あ。そういや、アニ」

『なんですか?』

「前にさ、ライラのことを、魔力だかで見つけてくれたことがあったよな。あれ、もう一度できないか?」

『ああ、ありましたね。というか、実はさっきからやってはいるのですが』

「あれ、そうなの?」

『ええ。ですが、どうにも探知範囲は広くないようです。幽霊シスターの魔力は、全く掴めません』

「そうか……」

『ただ、主様ならば、より広範囲を探知できるやもしれません』

「え?俺?」

『はい。何といっても、ネクロマンサーですから。以前から、アンデッドの気配を掴むことはできていたでしょう?』

ああ、言われてみれば。フランやエラゼムみたいな、強い力を持ったアンデッドの存在を、俺は察知することができた。ただ、ウィルはどうだろうか……

「ウィルの“力”は、アンデッドとしては弱いからな……」

アンデッドになって間もないからか、ウィルの“気配”はかなり弱い。とはいえ、手がかりらしい手がかりがない以上、これが唯一の糸口だ。

「やってみるしかないか」

俺は目を閉じて、意識を集中させた。
視界が暗くなり、俺はぽつんと、闇に取り残される。真っ黒な海を、独りぼっちで漂っているみたいだ。
……遠くに、強い輝きを感じる。海のかなたの灯台のように、またたいている……違うな、これはフランたちだ。ウィルはこんなに強い輝きじゃない。どちらかというと、吹けばすぐに消えてしまいそうな……恒星じゃない。六等星くらいの、そんな輝き……

「……見つけた」

俺は、目を開けた。はっきりとではないけど、見えた気がする。ゆらゆらと、明滅するような光。じっと見つめてやらなければ、そこにあることさえ気づかないような、そんな弱い輝きを……

『主様、わかったのですか?』

「ああ。たぶん、こっちだ」

俺は自分の直感を信じて、足の進むままに歩き始めた。驚いたことに、俺の進む方向は、闇雲に歩き回っていたころと変わらなかった。無意識のうちに、俺はウィルのいる方へ引き寄せられていたらしい。

『主様。再三ですが、警告しておきたいことがあります』

「アニ?なんだよ。さっきの続きか?」

『そうと言えばそうですが……先ほども言いましたが、主様の下僕はアンデッドです。人間ではありません』

「それは、わかってるよ」

『本当ですか?私から見れば、主様は彼ら彼女らを、人間と同じように扱っているように感じます』

「……それは、どういう意味だ?」

『彼らは、人間とは違う種族なのです。もとは人間でしょうが、今はモンスター。両者は本来、相容れない存在です。主様の能力のおかげで、他の人間とも多少は対話ができていますが、ひとたび離れれば、モンスターとしての本能を取り戻していくのですよ』

「だから、それがどういう……」

言いかけて、はっとした。つい最近、そんなような事がなかったか。俺が目を離したすきに、仲間が人間ともめ事になることが、あったじゃないか。

「……まさか、この前の喧嘩のことを言ってるのか?城で働いてた時の」

『そうです。あれは全然可愛いほうだとは思いますが。本当なら、アンデッドが人間と共同作業などできるはずがないんですよ。私も驚きましたが、それだけ主様の能力が強いということなんでしょうね』

「そう、だったのか……」

だけど、考えてみればもっともだ。アンデッドうんぬんということを抜きにしても、仲間たちは全員、過去に深すぎる傷を負っている。特に、フラン、エラゼム、ライラの三人は、人間に強い恨みを抱いているのだから、喧嘩程度で済んだのは、むしろ幸運だったのかも……

「ん……ちょっと待てよ。てことは、一人でいればいるほど、あいつらはモンスターに近づいていくってことか……?」

『その予感がします。単純に能力の効果が薄れるのもありますが、一人でいることによって、孤独感から精神汚染が加速し、そして狂気に飲まれれば、アンデッドはより狂暴になります』

「孤独……」

ここしばらくの間、俺はウィルとほとんど話せていない。ライラやフランたちに掛かりきりで、ほったらかしにしがちだった。そして今、あいつはこの町のどこかで、一人でいる……

「これか……嫌な予感の正体は」

さっき感じた胸騒ぎ。フランが言っていたことの意味も、これならわかる。このまま放っておけば、ウィルは……

「……急ごう!」

ちんたら歩いてはいられない。街頭に照らされた道を、俺は全速力で走り出した。

王都の町はきっちりと区画が整理されていたが、それは似たような十字路がいくつも現れると言うことだった。つまり、めちゃくちゃ道が分かりづらい。今どこにいるのかさっぱり分からないが、それでも、ウィルの居る方角だけは微かにわかる。それを頼りに、俺はいくつも曲がり角を曲がり、階段を上り、行き止まりを引き返し……いつしか、王都の一番外郭、町をぐるりと取り囲む城壁のそばまでやっていていた。

「はぁ、はぁ……う、ウィルは……」

全力疾走を続けて、心臓がはちきれそうだ。けど確実に、ウィルはこの近くにいる。彼女の魂の存在を、さっきよりもいっそう強く感じているからだ。俺は汗をぬぐうと、震える膝に喝を入れて、石段を上り始めた。

「……ん?」

ふと、階段のわきから少し離れた所に立っている、一軒の家が目に留まった。つたに絡まれたその家は、ずいぶん背が高い。三階建てくらいか?崖のふちに身を乗り出すようにして建っているから、より縦に長く感じるのかも。階段の途中で脇道が伸びて、その家まで続いているが、背の高い雑草が生い茂ってほとんど獣道みたいになっている。たぶん、空き家になってずいぶん経つんだろう。

「なんだろう……」

なんてことはない、ただの空き家だ。だがなぜか、俺はその家が気になって仕方なかった。その理由を探して、俺は家の隅々に目を凝らす。割れた窓ガラス、つたの生い茂るバルコニー、ひびの入った壁……そして、その一番上。瓦のはげかけた屋根の上に、一人の少女が座っていた。半透明で、夜の闇に溶け込むように透けている……

「あ……!」

間違いない、ウィルだ!ウィルはまだ、こちらに気付いていない。

「……」

『主様。気付いていますか』

「ああ……ビリビリくるぜ」

俺は手の甲で、あごに垂れた汗を拭った。
ここまで来たら、はっきりと感じ取れるようになった。あいつは、ウィルだけど、ウィルじゃない。魂が、変容しかけているんだ。月に影が落ちるように、闇が空を覆うように。

ウィルは、悪霊になりかけている。



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...