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9章 金色の朝
14-1 夜明け
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14-1 夜明け
「……え?」
幼いウィルはきょとんとして、まぶたをしばたかせた。
「それは……お兄さんとわたしが、結婚するっていう意味ですか?」
「う、まぁ、そうだよな……えっとな、ウィル。これだけははっきり伝えておく。俺は……お前が好きだよ」
「ぇ……」
幼いウィルが、瞳を見開く。
「ウィルの料理はうまいし、魔法が使えて頼りになるし、もっと上達しようと努力してるところを尊敬してるし、命にとても優しいし、意外と泣き虫なところが可愛いって思うし、しょっちゅうからかってきてむかつくし、何かとお姉さんぶるし、それに……俺といっしょに、笑ってくれるだろ。そういうところが好きなんだよ」
「それって、ほとんど全部じゃ……」
「そうだよ。俺たちは、ウィルだから好きなんだ。他の誰でもいいわけじゃない。たとえお前より優れた人が現れたとしても、そいつがウィルの代わりになるわけないだろ。俺たちが好きなのは、技術とか能力とかじゃなくて、ウィルっていう一人の人間なんだよ」
「にんげん……で、でも!もしわたしが、魔法を使えなくなったら?料理が二度とできなくなったら?そしたらわたしは、価値のない人間になるんでしょう!?」
「ならない。ウィル、ならないよ。確かに、俺はお前の能力が好きだよ。ウィルの料理が二度と食べれなくなったら、そりゃ残念だぜ?けど、それでウィルの価値がなくなるわけじゃない。さっきも言ったけど、俺はウィルだから好きなんだ。料理人が欲しいなら、最初からそいつを仲間にすればいい。俺は能力だけで、仲間を選んだわけじゃないんだ。一緒に居たいと思ったから、ウィルを誘ったんだ」
「いっしょに……」
「ああ。だから、俺にとっては、ウィルはかけがえのない存在なんだ」
「……だから、結婚なんですか?」
「け、結婚にこだわってはないんだけど。ウィル、言ってたよな。ほんとの家族がいないって。だったら、俺たちがそれになれないかな」
「あなたたちが……?」
「そう。俺は弟とかでもなんでもいいんだけど。フランとライラは妹だな。エラゼムは父さんか?アルルカは……ペットのコウモリとかでいいだろ」
「……ぷっ」
「へへへ。まぁとにかくさ、家族って、生まれたときしか得られないわけじゃないだろ。大きくなって、自分で家族を選ぶこともできるんだ。あ、もちろん、形だけなろうってわけじゃないぜ?家族ってさ、損得とか、能力がどうとかでなるもんじゃないだろ。一緒にいたいから、家族になるんだ」
俺は結婚したことはおろか、恋人がいたこともないけれど。でも、家族って、そういうもんじゃないのか?もちろん、中には打算や、もっと別の理由で家族になる人もいるんだろうけど……ウィルも、それを考えたらしい。
「……わたしは、親から捨てられました。家族には、そういう人たちもいるんじゃないですか。わたしは親から、一緒に居たくないと思われたんでしょうか?」
「どうだろうなぁ……そうかもしれないし、なにか事情があったのかもしれない。俺には、それはわからない。けどさ、ウィル。お前はどうなんだ?」
「え?わたし、ですか?」
「ああ。ウィルは、俺たちといるのは嫌か?それか、俺よりもっと優秀なネクロマンサーが現れたら、そっちについてくか?俺を捨ててさ」
こう言っておいてなんだが、すごく自信があるわけじゃない。あっさり、ウィルは首を縦に振るかもしれない……そんなことないとは思っていても、内心でドキドキするのはどうしようもないな。不安で悪霊になりかけるウィルの気持ちもわかる気がした。
「そんなこと……」
(……)
「そんなこと、あるわけないじゃないですか……!」
(……ああ、よかった)
ウィルは、俺の手をぎゅうと握って、胸に抱きしめた。その瞬間、頭上にぽつんと浮かんでいた空が、ぶわっと広がった。いつの間にか、夜空の星は薄れて、空は朝焼けのパステルカラーに染まりつつある。そして、幼いウィルにも変化があった。手足が伸び、髪がふわりとなびいて、俺のよく知るウィルの姿が現れた。
気が付くと俺たちは、もと居た王都のはずれの一角、三階建ての空き家の屋根の上へと戻ってきていた。ウィルは、心の中と同じ姿勢で、俺の手を胸に抱いている。涙にぬれた瞳を細めて、にこりとほほ笑んだ。
「私も……桜下さんのことが、大好きです」
空の端が白く染まる。夜が明けたんだ。王都の城壁の向こうから、朝日が差し込んでくる。ウィルの体を透かして届く金色の光。俺は、人生で一番美しい朝だと思った。
「ウィル……悪かったな。全然気づいてやれなくて」
俺たちは、屋根の淵に並んで座って、朝焼けに染まる王都の街並みを眺めていた。俺の右手の上には、ウィルの左手が重ねられている。俺が改めて謝ると、きゅっと力が込められた。
「そんな、こちらこそ。勝手に暴走してしまって……ごめんなさい」
「あはは、あんときのウィルは、ちょっと怖かったな」
「お、桜下さん!もう……ふふふ」
穏やかな風が頬を撫で、ウィルの金髪を揺らす。朝の空気はひんやりと澄んでいた。
「桜下さん……聞いてくれますか?」
俺はちらりとウィルの顔をのぞくと、黙って街並みに視線を戻した。これだけでも、ウィルにはしっかり伝わったようだ。
「私……怖かったんです。みなさんの才能が。もちろん、すごい人たちだってことは知ってましたけど、この王都に来てからは、みんな一層活躍していて。こんなに才能豊かな人たちに囲まれていたんだなって、今更ながらわかっちゃったんです」
俺はあえて、何も言わなかった。たぶんウィルは、こうして話すことで、自分の気持ちを整理しているんだと思ったから。
「自分が劣っていることは分かってました。だから、ライラさんに新しい魔法を教わろうと思いましたし……けど、少しずつしか成長できなくて。内心では、焦っていたんでしょうね。そこにきて、皆さんの活躍を聞いたから……何やってるんだろうなって。袋詰めをしながら、一人で泣いたこともありました。あはは、馬鹿ですよね」
俺は、笑わなかった。
「そんな日が続くと、少しずつ村のことを思い出すことが多くなって……村の人たちは本当の家族ではなかったけれど、家族同然に接してくれていました。みんな、優しかったんです。だから私、村にいる間は、そこまで強い劣等感を感じたことはありませんでした。それもあって、うまく気持ちを整理することができなかったんです。誰かに話すこともできなくて、一人でいる時間が多くなって。そこでとどめに、デュアンさんと親方さんの話を聞いたら、頭がわぁーっとなってしまって」
なるほどな。悪い意味で、ベストタイミングだったわけだ。そうか、あの時ウィルが、酒が飲みたいと言ったのは、飲んでパーッと忘れたいという意味もあったのかもしれないな。
「何度でも言うけどさ」
俺は、街並みを見たまま言う。
「俺は、ウィルだからいいんだ。変わろうと努力することを否定はしないし、いいことだと思うけれど。それは、お前じゃなきゃ意味はないんだよ」
「……さっき、言ってくれたこと」
ウィルの指がすがるように、俺の手の甲を滑る。
「本気に、しちゃいますよ。私、こういうめんどくさい性格ですけど……」
「いいよ。そんなの、いまさらだしな」
「もう。そういう時は、嘘でもそんなことないって言ってください。ほんとに、乙女心がわかってない……ふふ、うふふ」
「あはは」
俺たちは、笑いあった。ウィルの声が湿っぽかったのは、気のせいということにしておこう。
「はぁ……ぐす。けど、そっか……桜下さん。私、自分の未練がわかったかもしれません」
「え?」
驚いて、俺はウィルの方へ振り向いた。まさか、今この場で成仏ってことは……しかし、ウィルは確かにそこにいた。手の感触も、きちんとある。
「私、たぶん……誰かに、必要とされたかったんだと思います。シスターとしてだとか、村の一員としてだとかではなく、一人の、ウィル・O・ウォルポールという人間として。私が、この世界に必要とされているっていう、確かなつながりが欲しかったんです」
「じ、じゃあ……それは、もう満たされたってことか?」
「ふふ、いいえ。私、欲深なんです。こんなんじゃ、まだまだ満足できません。せっかく、私を必要としてくれる人たちに出会えたんですから。もっと堪能させてください」
「あ、そ、そう……」
なんというか、さすがウィル。降参だ。俺ががくりとうなだれると、ウィルは楽しそうにくすくす笑った。
「あぁ!こんなに晴れやかな気分で朝を迎えるのって、いつぶりかしら。とっても爽やかな朝ですね」
「そうだな……って、あ!そっか、もう一晩経っちまったんだな。ウィル、そろそろ戻ろう。みんな心配してるぞ」
「え?あ、そっか、そうですよね」
営舎を出たのがだいたい十二時だから、ざっと五、六時間か?うわぁ、いつの間にって感じだな。
俺が腰を上げようとした、その時だった。ふわりと柔らかいものに、体が包まれる。ウィルに抱きしめられているのだと気づいたのは、視界に揺れる金色の髪を見てからのことだった。
「う、ウィル……?」
「……」
俺が声をかけても、ウィルは返事をしない。代わりに、体に回された腕にぎゅうと力が込められた。俺は微動だにできず、案山子にでもなったかのように、手足をカチコチに硬直させていた。
たぶん、一分も経っていないうちに、ウィルはゆっくりと体を離した。体感では、十分くらいこうしていた気がするけど……まだ心臓がドクドク言っている。
「……ウィ、」
「さて。戻りましょうか、桜下さん」
「あ、おう」
遮るようにそう言われると、もううなずくことしかできなかった。ウィルはふわりと朝焼けの空に浮かび上がり、俺も腰を上げた。
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「……え?」
幼いウィルはきょとんとして、まぶたをしばたかせた。
「それは……お兄さんとわたしが、結婚するっていう意味ですか?」
「う、まぁ、そうだよな……えっとな、ウィル。これだけははっきり伝えておく。俺は……お前が好きだよ」
「ぇ……」
幼いウィルが、瞳を見開く。
「ウィルの料理はうまいし、魔法が使えて頼りになるし、もっと上達しようと努力してるところを尊敬してるし、命にとても優しいし、意外と泣き虫なところが可愛いって思うし、しょっちゅうからかってきてむかつくし、何かとお姉さんぶるし、それに……俺といっしょに、笑ってくれるだろ。そういうところが好きなんだよ」
「それって、ほとんど全部じゃ……」
「そうだよ。俺たちは、ウィルだから好きなんだ。他の誰でもいいわけじゃない。たとえお前より優れた人が現れたとしても、そいつがウィルの代わりになるわけないだろ。俺たちが好きなのは、技術とか能力とかじゃなくて、ウィルっていう一人の人間なんだよ」
「にんげん……で、でも!もしわたしが、魔法を使えなくなったら?料理が二度とできなくなったら?そしたらわたしは、価値のない人間になるんでしょう!?」
「ならない。ウィル、ならないよ。確かに、俺はお前の能力が好きだよ。ウィルの料理が二度と食べれなくなったら、そりゃ残念だぜ?けど、それでウィルの価値がなくなるわけじゃない。さっきも言ったけど、俺はウィルだから好きなんだ。料理人が欲しいなら、最初からそいつを仲間にすればいい。俺は能力だけで、仲間を選んだわけじゃないんだ。一緒に居たいと思ったから、ウィルを誘ったんだ」
「いっしょに……」
「ああ。だから、俺にとっては、ウィルはかけがえのない存在なんだ」
「……だから、結婚なんですか?」
「け、結婚にこだわってはないんだけど。ウィル、言ってたよな。ほんとの家族がいないって。だったら、俺たちがそれになれないかな」
「あなたたちが……?」
「そう。俺は弟とかでもなんでもいいんだけど。フランとライラは妹だな。エラゼムは父さんか?アルルカは……ペットのコウモリとかでいいだろ」
「……ぷっ」
「へへへ。まぁとにかくさ、家族って、生まれたときしか得られないわけじゃないだろ。大きくなって、自分で家族を選ぶこともできるんだ。あ、もちろん、形だけなろうってわけじゃないぜ?家族ってさ、損得とか、能力がどうとかでなるもんじゃないだろ。一緒にいたいから、家族になるんだ」
俺は結婚したことはおろか、恋人がいたこともないけれど。でも、家族って、そういうもんじゃないのか?もちろん、中には打算や、もっと別の理由で家族になる人もいるんだろうけど……ウィルも、それを考えたらしい。
「……わたしは、親から捨てられました。家族には、そういう人たちもいるんじゃないですか。わたしは親から、一緒に居たくないと思われたんでしょうか?」
「どうだろうなぁ……そうかもしれないし、なにか事情があったのかもしれない。俺には、それはわからない。けどさ、ウィル。お前はどうなんだ?」
「え?わたし、ですか?」
「ああ。ウィルは、俺たちといるのは嫌か?それか、俺よりもっと優秀なネクロマンサーが現れたら、そっちについてくか?俺を捨ててさ」
こう言っておいてなんだが、すごく自信があるわけじゃない。あっさり、ウィルは首を縦に振るかもしれない……そんなことないとは思っていても、内心でドキドキするのはどうしようもないな。不安で悪霊になりかけるウィルの気持ちもわかる気がした。
「そんなこと……」
(……)
「そんなこと、あるわけないじゃないですか……!」
(……ああ、よかった)
ウィルは、俺の手をぎゅうと握って、胸に抱きしめた。その瞬間、頭上にぽつんと浮かんでいた空が、ぶわっと広がった。いつの間にか、夜空の星は薄れて、空は朝焼けのパステルカラーに染まりつつある。そして、幼いウィルにも変化があった。手足が伸び、髪がふわりとなびいて、俺のよく知るウィルの姿が現れた。
気が付くと俺たちは、もと居た王都のはずれの一角、三階建ての空き家の屋根の上へと戻ってきていた。ウィルは、心の中と同じ姿勢で、俺の手を胸に抱いている。涙にぬれた瞳を細めて、にこりとほほ笑んだ。
「私も……桜下さんのことが、大好きです」
空の端が白く染まる。夜が明けたんだ。王都の城壁の向こうから、朝日が差し込んでくる。ウィルの体を透かして届く金色の光。俺は、人生で一番美しい朝だと思った。
「ウィル……悪かったな。全然気づいてやれなくて」
俺たちは、屋根の淵に並んで座って、朝焼けに染まる王都の街並みを眺めていた。俺の右手の上には、ウィルの左手が重ねられている。俺が改めて謝ると、きゅっと力が込められた。
「そんな、こちらこそ。勝手に暴走してしまって……ごめんなさい」
「あはは、あんときのウィルは、ちょっと怖かったな」
「お、桜下さん!もう……ふふふ」
穏やかな風が頬を撫で、ウィルの金髪を揺らす。朝の空気はひんやりと澄んでいた。
「桜下さん……聞いてくれますか?」
俺はちらりとウィルの顔をのぞくと、黙って街並みに視線を戻した。これだけでも、ウィルにはしっかり伝わったようだ。
「私……怖かったんです。みなさんの才能が。もちろん、すごい人たちだってことは知ってましたけど、この王都に来てからは、みんな一層活躍していて。こんなに才能豊かな人たちに囲まれていたんだなって、今更ながらわかっちゃったんです」
俺はあえて、何も言わなかった。たぶんウィルは、こうして話すことで、自分の気持ちを整理しているんだと思ったから。
「自分が劣っていることは分かってました。だから、ライラさんに新しい魔法を教わろうと思いましたし……けど、少しずつしか成長できなくて。内心では、焦っていたんでしょうね。そこにきて、皆さんの活躍を聞いたから……何やってるんだろうなって。袋詰めをしながら、一人で泣いたこともありました。あはは、馬鹿ですよね」
俺は、笑わなかった。
「そんな日が続くと、少しずつ村のことを思い出すことが多くなって……村の人たちは本当の家族ではなかったけれど、家族同然に接してくれていました。みんな、優しかったんです。だから私、村にいる間は、そこまで強い劣等感を感じたことはありませんでした。それもあって、うまく気持ちを整理することができなかったんです。誰かに話すこともできなくて、一人でいる時間が多くなって。そこでとどめに、デュアンさんと親方さんの話を聞いたら、頭がわぁーっとなってしまって」
なるほどな。悪い意味で、ベストタイミングだったわけだ。そうか、あの時ウィルが、酒が飲みたいと言ったのは、飲んでパーッと忘れたいという意味もあったのかもしれないな。
「何度でも言うけどさ」
俺は、街並みを見たまま言う。
「俺は、ウィルだからいいんだ。変わろうと努力することを否定はしないし、いいことだと思うけれど。それは、お前じゃなきゃ意味はないんだよ」
「……さっき、言ってくれたこと」
ウィルの指がすがるように、俺の手の甲を滑る。
「本気に、しちゃいますよ。私、こういうめんどくさい性格ですけど……」
「いいよ。そんなの、いまさらだしな」
「もう。そういう時は、嘘でもそんなことないって言ってください。ほんとに、乙女心がわかってない……ふふ、うふふ」
「あはは」
俺たちは、笑いあった。ウィルの声が湿っぽかったのは、気のせいということにしておこう。
「はぁ……ぐす。けど、そっか……桜下さん。私、自分の未練がわかったかもしれません」
「え?」
驚いて、俺はウィルの方へ振り向いた。まさか、今この場で成仏ってことは……しかし、ウィルは確かにそこにいた。手の感触も、きちんとある。
「私、たぶん……誰かに、必要とされたかったんだと思います。シスターとしてだとか、村の一員としてだとかではなく、一人の、ウィル・O・ウォルポールという人間として。私が、この世界に必要とされているっていう、確かなつながりが欲しかったんです」
「じ、じゃあ……それは、もう満たされたってことか?」
「ふふ、いいえ。私、欲深なんです。こんなんじゃ、まだまだ満足できません。せっかく、私を必要としてくれる人たちに出会えたんですから。もっと堪能させてください」
「あ、そ、そう……」
なんというか、さすがウィル。降参だ。俺ががくりとうなだれると、ウィルは楽しそうにくすくす笑った。
「あぁ!こんなに晴れやかな気分で朝を迎えるのって、いつぶりかしら。とっても爽やかな朝ですね」
「そうだな……って、あ!そっか、もう一晩経っちまったんだな。ウィル、そろそろ戻ろう。みんな心配してるぞ」
「え?あ、そっか、そうですよね」
営舎を出たのがだいたい十二時だから、ざっと五、六時間か?うわぁ、いつの間にって感じだな。
俺が腰を上げようとした、その時だった。ふわりと柔らかいものに、体が包まれる。ウィルに抱きしめられているのだと気づいたのは、視界に揺れる金色の髪を見てからのことだった。
「う、ウィル……?」
「……」
俺が声をかけても、ウィルは返事をしない。代わりに、体に回された腕にぎゅうと力が込められた。俺は微動だにできず、案山子にでもなったかのように、手足をカチコチに硬直させていた。
たぶん、一分も経っていないうちに、ウィルはゆっくりと体を離した。体感では、十分くらいこうしていた気がするけど……まだ心臓がドクドク言っている。
「……ウィ、」
「さて。戻りましょうか、桜下さん」
「あ、おう」
遮るようにそう言われると、もううなずくことしかできなかった。ウィルはふわりと朝焼けの空に浮かび上がり、俺も腰を上げた。
つづく
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