じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
374 / 860
10章 死霊術師の覚悟

9-1 車上にて

しおりを挟む
9-1 車上にて

さんざん笑い転げたせいか、ライラはあの後すぐにこっくりこっくり舟をこぎ、俺の肩にもたれて眠ってしまった。ウィルも拗ねて口を利かなくなったので、俺も目をつぶっているうちに、ウトウトと浅い眠りに落ちていた。

「ん……」

体が揺れた気がして、ふと目が覚める。たぶん、列車が揺れたんだろう。座った体勢だから、熟睡できなかったんだな。

「うっ」

腰と、それからケツが、石になったようだ。体がガチガチに固まってしまっている。綿が薄いんだよ、この座席……
ふと目線を下ろすと、ライラのもさもさの頭が、俺の足を枕にしていた。どうりで足が重いわけだ……起こすのも忍びないけど、さすがに一度体を伸ばしたい。俺はそうっとライラの頭をのけると、そろりと立ち上がった。

「どこか行くの?」

わっ。闇の中に、深紅の瞳が浮かんでいる。

「ああ、フランか」

アンデッドが夜眠らないのは百も承知だが、不意打ちだとびっくりするんだよな。

「ちょっと、体を伸ばしにな……いてて」

ぐっと腰を伸ばすと、ボキキと嫌な音がした。こりゃ、ちょっとその辺を歩いたほうがよさそうだ。

「少し、汽車ん中を歩いてくるよ」

「わたしも行く」

フランは間髪入れずに立ち上がった。

「え?けど、その辺を、ほんとに少しの間だぞ?」

「いいよ。行こう」

なんと言おうと、付いてくるつもりらしかった。さすがに汽車の中で、モンスターに襲われることはないと思うんだけどな。

「ま、じゃあ一緒に行くか」

俺たちは他の仲間に一声掛けると、二人並んで客車のはしっこへと向かった。
扉を開けると、ゴウゴウと強い風が吹きつけてきた。次いで、ガタンタタンという車輪の音。連結部は、前いたの世界の電車と違って、外に剥き出しだった。

「うひー、寒いなぁ」

強い風に涙が滲む。フランはそれもどこ吹く風で、軽やかに向かいの客車に飛び移った。

「手。出して」

フランがガントレットのはまった手を差し出してきたので、俺は素直にその手に掴まった。ぐいっと、大人顔負けの力で引っ張られ、俺も反対側へと着地する。フランは俺の手を握ったまま、扉を開けて次の客車へと入っていった。

「あの……フラン?手、もういいけど……」

「……」

フランは、俺の言葉に何も返さなかった。どうしたんだろう?
次の客車には、数人の客の姿が見えた。けど全員、毛布をかぶって眠っているみたいだ。フランはさっさと通路を突っ切り、次の車両へ移った。
次の車両には、乗客の代わりに、山のような荷物が積まれていた。木箱、麻袋、ぐるぐる巻きの小包、たる……

「なんだ、こりゃ」

「人間より、貨物がメインのお客なんじゃないの」

なるほど。これだけ乗客が少なきゃ、完全に赤字路線だもんな。普段からこの汽車は、こんな感じなのだろう。
積み荷の間を縫って、フランはどんどん奥へと進んでいく。それ以降一言も喋らない彼女の背中に、俺はなんだか、深い森の奥へといざなわれているような気がしてきた。ほら、昔話によくあるじゃないか。子どもをいざなって、森の奥で食っちまう魔女みたいな……あほらしい。俺、どうしてこんな事を考えているんだろう。
そしてついに、一番最後の車両までやってきた。フランが最後尾の扉を開けると、もうその先には何もない。わずかばかりのステップの先は、びゅんびゅんと後ろにすっ飛ぶレールと、闇だけだ。

「フラン、どうしたんだよ。歩きたいって言ったのは俺だけど……」

俺はずっと気になっていた事をたずねる。外は相変わらず風が強かったが、会話をするくらいなら問題なかった。彼女は、いったい何を考えているのだろう?

「ちょうどいい機会だと思って」

フランはそう言うと、しゃがみこんで、手すりに背中をもたれた。いい機会?

「訊いときたいことがあったんだ」

「はあ……みんながいるとこじゃ、ダメだったのか?」

「うん。あなたの、昔のことについてだったから」

っと、昔について、か……前にボーテングの町で話して以来かな。あんときは俺がしゃがみこんで、フランが立っていた。ちょうど今と逆の構図だ。

「……なるほどな。それで、何について知りたいんだ?」

「前に、あの勇者と話してたこと。あなたの、一番大事な人について」

「あー……」

クラークと話していたことって言うと……

みことのことか?」

「そんなだっけ?まあ、心当たりがあるなら、そうなんだろうね」

「でも、なんだって尊を?」

「……どうしても。この後することの前に、知っておきたいんだ。それ次第で、するかしないか、決めたいから」

フランの声は、いつにもまして固かった。まるで、出会った当初に戻ってしまったかのようだ……

(うーん?)

聞きたいことは、いくつもある。このあと何をするつもりなんだとか、どうしてそんなに態度が固いのかとか。いくつもあるけど……

「……わかったよ」

俺は手すりに腕を乗せて、夜空を見上げた。あいにくの曇り模様で、星は見えない。
昔の話は、あまりしたくない。いい思い出はほとんどないし、あの頃の俺は、どう取り繕ってもロクな人間じゃなかった。話せば呆れられるかもしれない。軽蔑されるかもしれない。
けど……フランになら、話してもいいかと思えたんだ。彼女がそれを、望むのであれば。

「尊とは……病院で、出会ったんだ」

初めての出会いは、消毒液の香りだった。

「病院?そういえば、あの勇者も病院に居たって……」

「そう。だからあいつも、尊のことを知ってたんだろうな。不思議なもんだ、たまたまあそこに居た二人が、そろって勇者として召喚されるだなんて」

「あなたも、病気だったの?」

「ん、ああ。ここに来る直前くらいだったかな。大した事じゃなかったんだけど、若いやつが掛かる腹の病気でな。しばらく入院することになったんだ」

「それで、その時に?」

「そういうこと。確か、ロビーのすぐ横の、自販機の所だったかな……って、フランはわかんないか。まあとにかく、そこで尊と知り合った。けど、そんなに長い付き合いじゃなかったんだ。たぶん、二カ月もなかったと思う」

「……その人のこと、もっと話して」

フランは相変わらず固い声で続きを促す。感情は読み取れないままだ。

「んー、つってもなぁ……俺も、そこまで詳しくは知らないんだ。ものすごく親しかったわけじゃないし、俺が先に退院してからは、ほんとに月に一、二回会う程度で……たぶん尊は、俺より少し年上のお姉さんだった、と思う。髪が短くて、子どもみたいによく笑って、肌が白くて……あと、優しかったな」

「……」

今でもはっきりと、尊の姿は思い出すことができる。いつも花柄の、薄桃色のパジャマを着ていた。スリッパはふわふわの白いやつだ。尊はそれを、たいそう気にいっていたっけ。
俺は、灰色の夜空を見上げたまま続ける。当然だが、フランの顔は見えない。

「尊は、俺よりも重い病気で入院してたみたいだった。だいぶ長い事病院に居たみたいだけど、詳しくは知らない。あんまり、そういうことは話さなかったんだ。いっつも、くだらない事ばかり話してたっけ……」

ロビーに置いてあるマンガがつまらないだとか、売店のお菓子はどれがおいしいだとか、何階の自販機は古くてジュースがぬるいだとか。当時からガキだった俺はともかく、俺より二つほど年上だった尊にとっては、ずいぶん子どもっぽい話題だったと思う。だけど尊は、そんな話でも楽しそうにしていた。

「尊の病気について、俺は詳しくなかったけど、一つだけわかってることがあったんだ。尊は……脳の病気にかかっていた。それだけは、はっきりわかったよ。尊は、だんだん子どもになっていってたんだ」

「……子どもに?」

「子どもっぽいんじゃないぞ。精神が、幼いころに戻っていってた」

少し話しをしただけでも分かった。俺でも知っている簡単な地名を、尊は知らなかった。小銭の計算をしょっちゅう間違えた。俺とのくだらない会話にも心底楽しそうにしていたのは、たぶんそう理由もあったんだろう……それくらい、尊は幼く、無知で、そして純粋だった。

「俺も、はじめは戸惑ったんだ。急に泣き出したり、暴れたりしたこともあったから。けど尊は……本当の尊は、それ以上に、優しかったんだよ。帽子を外さない俺を、気味悪がったりしなかった。そんな人、生まれて初めてだった……」

「……その人のこと」

フランの声は、さっきよりも一段とこわばっていた。まるで、さび付いた金属から発せられた音みたいだった。

「その人のことが、好きなの?それがあなたの、一番大切な人?」

尊の事を、か。俺は……

「それは……」



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...