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10章 死霊術師の覚悟
9-2
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9-2
それは……
たぶん、当時の俺は、尊のことが好きだった。初恋だった、んだと思う。けれど、今の俺からしてみれば……
「……違うな。たぶん、そうじゃない」
俺は目をつむって、首をゆるゆると横に振った。
「好き“だった”気持ちは、確かにあった。けど、それ以上に、俺は尊に依存していたんだ」
「依存?」
「そう。執着というか、固執というか……尊は唯一、俺を認めてくれた人だった。そんな尊を、俺は好きだったんだ。ようは、自分というアイデンティティーを守るためだけに、尊を欲していたんだよ」
「……難しいことを言うね」
「あはは、そうかもな。まあもしかしたら、もっと時間を掛ければ、俺の気持ちも変わっていたかもしれないな。はっきり好きだと自覚して、そういう風に動いていたかもしれない」
「そう、ならなかったの?」
「ああ……死んじまったんだ。俺の目の前で」
「……っ」
フランが息をのむ音が聞こえた。いや、ひょっとしたら俺自身か?
「前も話したと思うけど。俺の人生では、最高に嫌なことが三つあった。雷に打たれたこと、それが原因で孤立したこと。そしてもう一つが……目の前で、人が死んだこと。尊は、病院の窓から飛び降りたんだ。自殺だよ」
あの日はちょうど、尊の見舞いに行った日だった。駐車場からロビーへと向かう俺の前に、尊は降ってきた……変わり果てた姿になって。ウィルの亡骸を見たときは、本当に吐きそうになった。あまりにも、似ていたから。
「……どうして」
「さあなぁ……結局俺は、尊のことを何一つ理解してやれなかった。どうしてそれほどにまで悩んでいたのか、どうしてそんな決断をしてしまったのか……けどそのあとで、少し話は聞いた。尊は死ぬ直前に、ひどい暴力を受けてたらしい。それが原因だったんじゃないかって」
クラークもたぶん、このことを知っている。だからあれほど、俺をしつこく追ってくるのだろう。俺に、尊を暴行した犯人を重ねているのだ。
「まあ、そんなわけで、俺の尊への想いは宙ぶらりんのままなんだ。何かの形になる前に、ぶち切られちゃったんだよ。だから正直、自分でもよく分からないんだよな」
ふう……長々と喋ったせいで、少しくらくらするな。昔の感情と、今の感情がごっちゃになって、ちょっと混乱しそうだ。
「さて、こんなとこだけど……どうだ?聞きたいことは、これで聞けたか?」
俺はずっと上げていた視線を下ろして、フランの様子をうかがった。フランはうつむいた姿勢のまま、じっと自分のつま先を見つめていた。
「……もう一つだけ、聞かせて。今、あなたにとって、一番大事な人は誰?」
「一番……うーん……どうなんだろう。尊では、ないかな。尊は、もう過去の思い出なんだ。今更すがっても、どうにもならない……」
「……」
「だから……今は、仲間が大事ってことになるのかな?こっちの世界じゃ、昔の知り合いは誰もいないし」
「それが、答え?」
「……たぶん」
すると、フランは立ちあがって、夜の闇を見つめながら手すりを握った。
俺は今更ながら、心臓の鼓動が早まりつつあるのを感じていた。果たして、俺の答えはあれでよかったのだろうか?さっきから、フランの様子もおかしいし。もしも俺の答えが、フランの望んだものではなかったら……いったい俺は、どうなってしまうんだ?
「……ねぇ」
「は、はい」
「あなたの一番は、わたしたちだって言ったよね」
「う、うん……」
メギ、とおかしな音がした。何かと思ったら、フランの握った手すりが、ぐにゃりとひん曲がっている。お、怒っているのか……?フランはこちらを見ないままだから、表情はうかがい知れない。
「……」
沈黙。今だけは、風の唸りも、汽車の音も聞こえなかった。俺の全神経は、フランの口元に注がれている。フランの唇が、動いた……!
「じゃあ……わたしの一番が、あなただって言ったら……?」
「…………」
へ……?
聞き間違いか?
「あの……なんて?」
「……二度も言わせる気?」
風に煽られて、フランの長い髪がはためいた。その隙間に見えた耳と頬は、暗闇でも分かるくらい、赤く染まっていた。ってことは……本気、なのか?
「あの……それはつまり……どういう意図で……どう解釈したらいいのか……」
「言葉通りでいいよ」
えぇー……?
前代未聞、予想だにしない展開に、俺の頭は完全にパンクしていた。てっきり、フランは俺に怒っているのだと思っていたから……
「ええぇっと……俺が、フランの一番ってことは……要約すると……フランって、俺のこと好きなの?」
俺はあえて、直球な訊き方をした。これでフランにケツを蹴飛ばされれば、俺の勘違いだった、で笑う事ができる。わっはっは、馬鹿な勘違いだと……
フランは、ほんのわずかにだが、確かにうなずいた。
俺は、天と地とがひっくり返った気分になった。
「……なんで?」
あまりにもマヌケな質問を、俺はした。こんな場面に、言うセリフが「なんで」だなんて……情けなくって、涙が出そうだ。
「……あなたと同じだよ。あなたが、わたしを認めてくれたから」
「え……?」
「約束。覚えてるでしょ」
フランとの約束といえば……フランが仲間になってくれた夜の、あれのことだろう。
「あ、ああ。フランの成仏を手伝うし、引き止めないってやつだろ?」
「……そうだけど、ちがうよ」
「え?じゃあ、そのあとの八つ裂きの方か……?」
「そうじゃないっ。その前に、あなたが言ってくれたこと。わたしと、一緒に居たいって……忘れちゃったの?」
「あ、あぁ~……」
そういえば、そんなことを言っていた気がする。俺としては、そこまで深い意味もなくした発言だったんだけれど……
「え。てことは、フラン。お前ずっと、それを約束したつもりだったのか?成仏のことじゃなくて?」
「……」
俺はぽかんと口を開けた。うそだろ……まさか、そんなことを、フランはずっと気にし続けていたのか……?
「わ、悪い!?」
「いや、そういうんじゃないけど……」
ギリっと睨みつけられては、わたわたと手を振るしかなかった。フランははぁとため息をつくと、視線を再び外へと戻した。
「あなたは知ってるでしょ。わたしは、誰からものけ者にされてきた。自分と血のつながった家族にさえ、わたしは必要とされなかった。いっそ、生まれてこないほうが良かったのかもね」
「そんなこと……っ!」
声を荒げかけて、俺はぐっと言葉に詰まった。フランが生まれてきた経緯には、たくさんの悲しみと、呪いが渦巻いていると、知っていたから。フランのばあちゃんの、恨み、疲れ果てた瞳は、まだ記憶にこびり付いている。
だけど。
「……そんなこと、言うなよ」
それが、フランと何の関係がある?フランに罪なんて、一つも無いじゃないか。そこらの子どもと同じように、祝福されて、幸せに生きるべきだったんだ……
「……そういうところだよ。わたしが好きなのは」
外を眺めるフランの表情は見えなかったが、その口元は笑っているような気がした。
「一緒なんだよ。わたしは、あなたが必要としてくれたから、この世に存在していい理由が生まれた。あなたを失ったら、わたしは何の価値も持たない存在になる。その辺の石ころと同じ。死ねない体で、永遠にこの世界を呪い続けるんだ」
「フラン……」
「ね?結局わたしも、依存してた。悪く言えば、あなたを利用していた。あなたという存在を通して、自分がここにいていい理由を得ていたんだ」
世界に存在していい理由……俺は、王都での出来事を思い出した。ウィルもまた、同じようなことを言っていた。自分の存在を、誰かに欲されたかったのだと。
「最初は、それでもいいと思ってた。利用するだけしてやればいいって。けど……あなたが、あんまり優しいから」
「俺が?」
「そうだよ。それで、だんだん……この前、あなたが倒れたときに、気付いた。わたしのなかのあなたが、どれだけ大きくなっているのかって」
そういや……あん時は、フランがずいぶん奔走してくれたんだっけ。つまり、それだけフランは俺を……やばい、顔が熱くなってきた。
「正直、わたしも自分の気持ちが、まだきちんとわかってはないの。あなたの存在に依存している部分は、きっとまだある……けど、それでも。この気持ちは、ここにある想いは、本物なんだ」
フランは、一度言葉を区切ると、体ごと向き直り、正面から俺と見つめ合った。銀色の髪が揺れ、赤い瞳が爛々と輝きを放つ。白すぎるほど白い肌、長いまつ毛……
「桜下のことが、好きなの」
俺に、人生二度目の雷が落ちた瞬間だった。
「…………」
俺の思考は、完全にショートしていた。体が熱い。全身から湯気が出ているようだ。
「あ……う……お……」
もはや、まともな言葉が出てこなかった。何を言えばいいのかすら分からない。
「でもね」
はっ。フランが喋ってくれたおかげで、俺はようやくフリーズ状態から解放された。
「返事は、今はいらない。あなたが答えられないことは、なんとなくわかってたから」
「え……?」
「だって、そうでしょ。あなたが女になびくのって、見たことないから。あれだけわたしの裸を見てるし、胸だって触ってるくせに」
「そ……う、だけど」
「それに、さっきの話も聞いたし。無理して意識しなくてもいい。わたし、恋愛がしたいわけじゃないから。あなたに、この気持ちを知っててもらいたかったの」
「そ……そうなの?」
「うん。今は……」
けどそれなら、どうしてフランは、このことを俺に……?俺はかろうじて、そのことを何とか口にした。するとフランは、顔を曇らせて、ぼそりとつぶやいた。
「ああ……それは、わたしが……ずるい女だから」
「え?ずるい?」
「……そうだよ。告白したからって距離を置かれるのは嫌だ、普段通りにしてって言えば、あなたはそうしてくれるでしょ?」
「え。そ、それは、そうだけど……」
「ほら。ずるいでしょ?」
フランはにやにやと、意地の悪い笑みで俺を見ている。くっ、まさか全部冗談で、俺をからかっているんじゃあるまいな……とは、さすがに言わなかった。いくらなんでも、それじゃ失礼すぎるだろ。
「さ、そろそろ戻ろ。これが言いたかっただけ」
フランがガントレットのはまった手を伸ばして、俺の手を優しく握った。くそ、普段は馬鹿力のくせに、こういうときだけ……もう俺は何も言えず、手を引かれるまま、黙って列車の中を戻っていった。
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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それは……
たぶん、当時の俺は、尊のことが好きだった。初恋だった、んだと思う。けれど、今の俺からしてみれば……
「……違うな。たぶん、そうじゃない」
俺は目をつむって、首をゆるゆると横に振った。
「好き“だった”気持ちは、確かにあった。けど、それ以上に、俺は尊に依存していたんだ」
「依存?」
「そう。執着というか、固執というか……尊は唯一、俺を認めてくれた人だった。そんな尊を、俺は好きだったんだ。ようは、自分というアイデンティティーを守るためだけに、尊を欲していたんだよ」
「……難しいことを言うね」
「あはは、そうかもな。まあもしかしたら、もっと時間を掛ければ、俺の気持ちも変わっていたかもしれないな。はっきり好きだと自覚して、そういう風に動いていたかもしれない」
「そう、ならなかったの?」
「ああ……死んじまったんだ。俺の目の前で」
「……っ」
フランが息をのむ音が聞こえた。いや、ひょっとしたら俺自身か?
「前も話したと思うけど。俺の人生では、最高に嫌なことが三つあった。雷に打たれたこと、それが原因で孤立したこと。そしてもう一つが……目の前で、人が死んだこと。尊は、病院の窓から飛び降りたんだ。自殺だよ」
あの日はちょうど、尊の見舞いに行った日だった。駐車場からロビーへと向かう俺の前に、尊は降ってきた……変わり果てた姿になって。ウィルの亡骸を見たときは、本当に吐きそうになった。あまりにも、似ていたから。
「……どうして」
「さあなぁ……結局俺は、尊のことを何一つ理解してやれなかった。どうしてそれほどにまで悩んでいたのか、どうしてそんな決断をしてしまったのか……けどそのあとで、少し話は聞いた。尊は死ぬ直前に、ひどい暴力を受けてたらしい。それが原因だったんじゃないかって」
クラークもたぶん、このことを知っている。だからあれほど、俺をしつこく追ってくるのだろう。俺に、尊を暴行した犯人を重ねているのだ。
「まあ、そんなわけで、俺の尊への想いは宙ぶらりんのままなんだ。何かの形になる前に、ぶち切られちゃったんだよ。だから正直、自分でもよく分からないんだよな」
ふう……長々と喋ったせいで、少しくらくらするな。昔の感情と、今の感情がごっちゃになって、ちょっと混乱しそうだ。
「さて、こんなとこだけど……どうだ?聞きたいことは、これで聞けたか?」
俺はずっと上げていた視線を下ろして、フランの様子をうかがった。フランはうつむいた姿勢のまま、じっと自分のつま先を見つめていた。
「……もう一つだけ、聞かせて。今、あなたにとって、一番大事な人は誰?」
「一番……うーん……どうなんだろう。尊では、ないかな。尊は、もう過去の思い出なんだ。今更すがっても、どうにもならない……」
「……」
「だから……今は、仲間が大事ってことになるのかな?こっちの世界じゃ、昔の知り合いは誰もいないし」
「それが、答え?」
「……たぶん」
すると、フランは立ちあがって、夜の闇を見つめながら手すりを握った。
俺は今更ながら、心臓の鼓動が早まりつつあるのを感じていた。果たして、俺の答えはあれでよかったのだろうか?さっきから、フランの様子もおかしいし。もしも俺の答えが、フランの望んだものではなかったら……いったい俺は、どうなってしまうんだ?
「……ねぇ」
「は、はい」
「あなたの一番は、わたしたちだって言ったよね」
「う、うん……」
メギ、とおかしな音がした。何かと思ったら、フランの握った手すりが、ぐにゃりとひん曲がっている。お、怒っているのか……?フランはこちらを見ないままだから、表情はうかがい知れない。
「……」
沈黙。今だけは、風の唸りも、汽車の音も聞こえなかった。俺の全神経は、フランの口元に注がれている。フランの唇が、動いた……!
「じゃあ……わたしの一番が、あなただって言ったら……?」
「…………」
へ……?
聞き間違いか?
「あの……なんて?」
「……二度も言わせる気?」
風に煽られて、フランの長い髪がはためいた。その隙間に見えた耳と頬は、暗闇でも分かるくらい、赤く染まっていた。ってことは……本気、なのか?
「あの……それはつまり……どういう意図で……どう解釈したらいいのか……」
「言葉通りでいいよ」
えぇー……?
前代未聞、予想だにしない展開に、俺の頭は完全にパンクしていた。てっきり、フランは俺に怒っているのだと思っていたから……
「ええぇっと……俺が、フランの一番ってことは……要約すると……フランって、俺のこと好きなの?」
俺はあえて、直球な訊き方をした。これでフランにケツを蹴飛ばされれば、俺の勘違いだった、で笑う事ができる。わっはっは、馬鹿な勘違いだと……
フランは、ほんのわずかにだが、確かにうなずいた。
俺は、天と地とがひっくり返った気分になった。
「……なんで?」
あまりにもマヌケな質問を、俺はした。こんな場面に、言うセリフが「なんで」だなんて……情けなくって、涙が出そうだ。
「……あなたと同じだよ。あなたが、わたしを認めてくれたから」
「え……?」
「約束。覚えてるでしょ」
フランとの約束といえば……フランが仲間になってくれた夜の、あれのことだろう。
「あ、ああ。フランの成仏を手伝うし、引き止めないってやつだろ?」
「……そうだけど、ちがうよ」
「え?じゃあ、そのあとの八つ裂きの方か……?」
「そうじゃないっ。その前に、あなたが言ってくれたこと。わたしと、一緒に居たいって……忘れちゃったの?」
「あ、あぁ~……」
そういえば、そんなことを言っていた気がする。俺としては、そこまで深い意味もなくした発言だったんだけれど……
「え。てことは、フラン。お前ずっと、それを約束したつもりだったのか?成仏のことじゃなくて?」
「……」
俺はぽかんと口を開けた。うそだろ……まさか、そんなことを、フランはずっと気にし続けていたのか……?
「わ、悪い!?」
「いや、そういうんじゃないけど……」
ギリっと睨みつけられては、わたわたと手を振るしかなかった。フランははぁとため息をつくと、視線を再び外へと戻した。
「あなたは知ってるでしょ。わたしは、誰からものけ者にされてきた。自分と血のつながった家族にさえ、わたしは必要とされなかった。いっそ、生まれてこないほうが良かったのかもね」
「そんなこと……っ!」
声を荒げかけて、俺はぐっと言葉に詰まった。フランが生まれてきた経緯には、たくさんの悲しみと、呪いが渦巻いていると、知っていたから。フランのばあちゃんの、恨み、疲れ果てた瞳は、まだ記憶にこびり付いている。
だけど。
「……そんなこと、言うなよ」
それが、フランと何の関係がある?フランに罪なんて、一つも無いじゃないか。そこらの子どもと同じように、祝福されて、幸せに生きるべきだったんだ……
「……そういうところだよ。わたしが好きなのは」
外を眺めるフランの表情は見えなかったが、その口元は笑っているような気がした。
「一緒なんだよ。わたしは、あなたが必要としてくれたから、この世に存在していい理由が生まれた。あなたを失ったら、わたしは何の価値も持たない存在になる。その辺の石ころと同じ。死ねない体で、永遠にこの世界を呪い続けるんだ」
「フラン……」
「ね?結局わたしも、依存してた。悪く言えば、あなたを利用していた。あなたという存在を通して、自分がここにいていい理由を得ていたんだ」
世界に存在していい理由……俺は、王都での出来事を思い出した。ウィルもまた、同じようなことを言っていた。自分の存在を、誰かに欲されたかったのだと。
「最初は、それでもいいと思ってた。利用するだけしてやればいいって。けど……あなたが、あんまり優しいから」
「俺が?」
「そうだよ。それで、だんだん……この前、あなたが倒れたときに、気付いた。わたしのなかのあなたが、どれだけ大きくなっているのかって」
そういや……あん時は、フランがずいぶん奔走してくれたんだっけ。つまり、それだけフランは俺を……やばい、顔が熱くなってきた。
「正直、わたしも自分の気持ちが、まだきちんとわかってはないの。あなたの存在に依存している部分は、きっとまだある……けど、それでも。この気持ちは、ここにある想いは、本物なんだ」
フランは、一度言葉を区切ると、体ごと向き直り、正面から俺と見つめ合った。銀色の髪が揺れ、赤い瞳が爛々と輝きを放つ。白すぎるほど白い肌、長いまつ毛……
「桜下のことが、好きなの」
俺に、人生二度目の雷が落ちた瞬間だった。
「…………」
俺の思考は、完全にショートしていた。体が熱い。全身から湯気が出ているようだ。
「あ……う……お……」
もはや、まともな言葉が出てこなかった。何を言えばいいのかすら分からない。
「でもね」
はっ。フランが喋ってくれたおかげで、俺はようやくフリーズ状態から解放された。
「返事は、今はいらない。あなたが答えられないことは、なんとなくわかってたから」
「え……?」
「だって、そうでしょ。あなたが女になびくのって、見たことないから。あれだけわたしの裸を見てるし、胸だって触ってるくせに」
「そ……う、だけど」
「それに、さっきの話も聞いたし。無理して意識しなくてもいい。わたし、恋愛がしたいわけじゃないから。あなたに、この気持ちを知っててもらいたかったの」
「そ……そうなの?」
「うん。今は……」
けどそれなら、どうしてフランは、このことを俺に……?俺はかろうじて、そのことを何とか口にした。するとフランは、顔を曇らせて、ぼそりとつぶやいた。
「ああ……それは、わたしが……ずるい女だから」
「え?ずるい?」
「……そうだよ。告白したからって距離を置かれるのは嫌だ、普段通りにしてって言えば、あなたはそうしてくれるでしょ?」
「え。そ、それは、そうだけど……」
「ほら。ずるいでしょ?」
フランはにやにやと、意地の悪い笑みで俺を見ている。くっ、まさか全部冗談で、俺をからかっているんじゃあるまいな……とは、さすがに言わなかった。いくらなんでも、それじゃ失礼すぎるだろ。
「さ、そろそろ戻ろ。これが言いたかっただけ」
フランがガントレットのはまった手を伸ばして、俺の手を優しく握った。くそ、普段は馬鹿力のくせに、こういうときだけ……もう俺は何も言えず、手を引かれるまま、黙って列車の中を戻っていった。
つづく
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