じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
404 / 860
11章 夢の続き

2-3

しおりを挟む
2-3

山の中腹あたりで夜を過ごすと、翌朝は快晴だった。高所の空気は澄んできりりと冷たく、はるか遠くの峰まで見通せる。
行きがけにはイエティに襲われたが、今回はモンスターが現れることもなく、すこぶる順調に坑道の入り口である大穴のふちまでたどり着いた。穴を下りて行こうとすると、その深さに恐れおののいた三つ編みちゃんが暴れるという、小さなハプニングこそあったものの、無事に中ほどのあたりまで穴を下りた。確か前は、この辺でドワーフたちに襲われたはずだ。

「たぶん、今もどこかで見てるんだろうな……おーい!前にここで世話になったモンだけど!」

俺は人気のない断崖に叫んだ。するとやはり、通路のどこかでゴトリと音がした。

「おう。お前さんたち、戻ってきたんか」

「リアアァァ!?」

うわ!ドワーフは、あろうことか俺たちの足下に潜んでいた。三つ編みちゃんが聞きなれない悲鳴を上げて、腰を抜かしている。

「び、びっくりした。あ、あんた、フォルスバーグか?」

「おうよ。たく、こんくれぇで驚かれても困るぜ。地下と名のつく場所なら、どこにでもいるのがドワーフっちゅうもんなのによ」

ひげもじゃのフォルスバーグは、足元の石蓋をゴトリと持ち上げて、穴から這い出てきた。

「ま、無事に戻ってなによりよ。ところで、見慣れねぇのが一人増えてるが?」

フォルスバーグは、未だに尻もちをついている三つ編みちゃんをじろりと見た。三つ編みちゃんがひっと息をのむ。

「ああ、この子は途中で……拾った、ってことになるのかな?とにかく、しばらくは一緒に旅をすることになったんだ」

「そうか。お前さんたちの仲間なら問題ない。ほんなら、町に向かうとしよう」

フォルスバーグの案内の下、俺たちは通路の途中に巧妙に隠された秘密の横穴を抜け、ドワーフの町・カムロ坑道へと入っていった。

「おや。どうやら旅がらすたちが戻って来たみたいじゃの」

町の入り口では、前と同じくメイフィールドが出迎えてくれた。

「メイフィールド、少しぶりだな。一週間とちょっとくらいか?」

「はて?ほんの昨日くらいにお前さんたちを見送った気もするが……そんなに経っておったかの」

メイフィールドは白い髭を撫でて、不思議そうな顔をした。ああそういや、ドワーフの時間感覚は実にアバウトなんだっけ……やれやれ、もう一度ここでの暮らしを思い出さないとな。

「あ、そうだメイフィールド。鍛冶場のドワーフたち、どうだった?何か聞いてるかな?」

「うむ。作業自体は進んでおるようじゃぞ。気になるのなら覗きに行ってみるかの」

「そうだな。そうしよう」

鍛冶場のドワーフたちは、エラゼムの剣の修理に二週間かかると言っていた。俺たちが北の町に行っていたのがだいたい十日かそこいらだから、まだもう少しは掛かりそうだな。けどよかった。そもそも材料が手に入るか分からないって聞いてたけど、作業が進んでいるならその心配は要らなさそうだ。
メイフィールドに連れられて、俺たちはホムラの鍛冶場へとやって来た。三つ編みちゃんは宿に置いてきた方が良かったかもしれないな。何を見ても、どこに行ってもあごが外れそうなくらい驚いている。例にもよって、メイフィールドは鍛冶場の中へは付いてこなかった。俺たちだけで鍛冶場に入ると、すぐに以前会った、若い見た目の(見た目だけだが)ドワーフを見つけることができた。

「おーい」

「んぇ?あ、あんたたちか。戻ってきたんだな」

若いドワーフは手に持っていた重そうな金づちを置くと、首にかけたタオルで顔を拭って、こちらにやって来た。

「あんたたち、あれだろ?剣の修理を依頼してきた人間だ」

「ああ。少しぶりだな。材料、見つかったんだって?どうかな、進捗の方は?」

「おう、ばっちしさ。オヤジがいつになく張り切ってるから、予定より一日二日は早く終わりそうだよ」

「おぉ、ほんとか?そりゃよかった」

俺はあの、ガラクタの山に埋もれたオヤジさんの姿を思い出した。かなり怪しい雰囲気だったけど、やっぱり腕は確かなんだな。

「じゃあ、もうしばらく待てばいい感じか?」

「だな。あーあ、にしても羨ましいよなぁ。オヤジはさぁ」

「うん?オヤジさんが……?あんたもガラクタに埋もれる趣味があるのか?」

「ちっげえよ!そうじゃなくて……だぁってよ、純アダマンタイト製の剣の修理なんて、そうそうできるもんじゃないぜ?ドワーフは剣なんか使わないしさ。俺も一度でいいから、武器の修理とかしてみてぇよ。俺、まだ触らせてももらえないんだ」

「へーえ……」

やっぱりまだ、このドワーフは見習いなんだな。武器の修理か……あいにくと俺たちは、ほとんど得物を持ってないしなぁ……

「って、あ。そうだった。俺の剣だ」

すっかり忘れていた。今まで愛用して……いたわけではないけれど。とにかく、長い事連れ添ってきた剣がつい先日、ぽっきり折れてしまったのだ。

「それならちょうどいいか。なあ、もしあれだったら、俺の剣を直してくれないか?」

「え?お前も剣を持ってたのか」

「ま、いちおうな……」

俺はベルトから鞘を外して、若いドワーフに差し出した。ドワーフが剣を引き抜くと、ばっきり半分に折れた刀身が現れる。ドワーフはあきれ顔をした。

「おいおい。こりゃ、剣じゃなくてガラクタって呼ぶ方がふさわしいんじゃねえか?こんなもん、直したところでどうにもなんねえよ。別の剣にした方が百倍マシだぜ」

「あ、やっぱり?だよなぁ……けど、ちょっとだけ愛着があるんだよ」

「愛着ったって……たぶん、新品を買うより倍くらい掛かっちまうぜ?」

う、倍か……俺たちの財政は、常にひっ迫した状況にある。旅から旅の根無し草では、貯まるものも貯まらないのだ。俺は残高を確認しようと、カバンを漁って、財布代わりの巾着を探した。すると……

「ん?なんだこりゃ」

カバンの底の方に、汚らしい石が入っている。なんでこんなもんが?何かの拍子に転がり込んだのだろうか。それを取り出してみると、所々に錆びたような、赤茶けた汚れが付いていた。

「……それ、あれじゃないの。王都で、インチキ魔術師たちに押し付けられたやつ」

石を見たフランが言う。あれ、なんだっけそれ……ああ、あれか!魔術大会で優勝したのに、結局賞金はもらえなくて、その代わりにこいつを貰ったんだ。高価な鉱石だとかなんとかって……

「あー、あったあった。そうか、まだ持ってたんだ」

「あなた、剣といいそれといい、役に立たないものを持ちすぎなんじゃないの?」

う、全くその通りで……どうにも、こういうのを捨てられないタチなんだよな。しかし、これはどう考えても不用品だ。どうしてとっておこうと思ったんだろう?しゃーない、ここを出たら捨ててしまおうと、石をしまいなおそうとしたその時。俺の手を、がしっとドワーフが掴んだ。

「え?」

「それ……よく、見せてくれ」

若いドワーフは、今までないくらい真剣な声で言った。それって、この石ころのことだよな?なんだかわからないが、とりあえず俺は、石ころをドワーフに渡した。

「………………」

若いドワーフは石を丹念に見つめている。角度を変え、目を細め、指でさすって……たかが石一つに、ずいぶん大げさだな。俺たちみんなが疑問を抱く中、若いドワーフはじっくり時間を掛けて石を調べ、やがてほぅとため息をついた。

「ふぅ……やっぱりだ。間違いない」

「うん?そうだよ、間違いなく石ころだ」

「違う、そうじゃない。これは、マナメタルの鉱石だ。それも、かなり貴重な」

へ?俺たち全員(アルルカと三つ編みちゃんは除くが)の目が点になった。

「血潮が如き赤と、流れる川の如き涼やかな魔力……これは、オリハルコン鉱石の塊だ」



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...