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11章 夢の続き
6-3
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6-3
王都を出発してから、早いもので、もう数日が過ぎた。基本的に、俺たちは馬車に乗っているだけなので、いつもと比べればずいぶん楽な旅ではある。ただ、暇を持て余すという難点もあった。
「ふわ……はぁ。分かっちゃいたけど、一の国は遠いなぁ」
ガタガタ揺れる馬車の中であぐらをかきながら、俺はあくびをした。かといって、まだ午前中だから、昼寝をする気にもならない。揺れもひどくて、眠るどころでもなさそうだしな。いつもはストームスティードでの爽快感のある旅ばかりだったから、馬車の速度がより一層遅く感じられた。
「うーん……あ、そうだ」
退屈しのぎに、俺はあることを思い出して、それについて訊ねてみることにした。
「なあ。ウィルか、ライラに聞きたいんだけどさ。俺に、魔法について教えてくれよ」
「魔法、ですか?」
うつろな表情でフライパンを布切れで拭き続けていたウィルが(数時間ずっと繰り返している……)、はたと顔を上げた。
「ああ。ずいぶん前に、一度そんな話をしたじゃないか。まあ結局、俺には適性がないってことになったんだけど……」
たしか、ウィルと出会って間もないころだったか。うわぁ、ずいぶん昔のことに感じるな。結局俺には、冥属性の魔力しかないので、他の魔法は使えないという結論に至ったんだ。
「けどさ、ずっと気になってたんだよな。俺のいた世界には、魔法ってもんは存在しなかったから。どういう原理なのかとかも、いまいち理解してないんだよ」
「ああ、そういうことですか。桜下さんは勉強熱心ですねぇ。けどそれなら、ライラさんに聞いたほうが良さそうです。ね?」
ウィルが、ライラを振り返る。そのライラは、馬車の窓から見える景色を、ぼーっとした顔で、見るともなく見ている……本当に見ているのか?半開きになった口から、よだれが垂れていることにすら気付いていないんだけど。目を開けたまま寝ていると言われたら、信じちまいそうだ。ウィルがちょんと肩をつつくと、ライラはようやく意識を取り戻して、あわてて口元を手で拭った。
「な、なぁに?ウィルおねーちゃん」
「ライラさん。桜下さんが、魔法について教えてほしいそうですよ?」
「まほーについて?」
「ああ。俺、全然知らなくてさ。大魔法使いの知恵を借りれないか?」
「そーなんだ。ふふん、いいよ。何でも教えてあげましょう」
ライラは得意げに、腰に手を当てて胸を張った。
「で、なにについて知りたいの?」
「そうだな……そもそも、魔法ってなんなんだ?どうして呪文を唱えるだけで、火の玉を作ったり、竜巻を起こしたりできるんだ?」
「んーとね。まほーって言うのは、魔力を一定方式に並べ替えることで発動するんだよ。火属性まほーも風属性まほーも、すべて決まった方程式に従って、魔力が配列されてるの。だから、まほーは数学、計算に例えられることもあるんだよ。マナだけの算出ならそこまで難しくないんだけど、ここにヘカの計算が加わると、多次元空間方程式に従った近似値座標の算出もしなくちゃいけないから大変でさぁ……」
「……」
「ライラさん、ライラさん。専門的過ぎて、桜下さんが付いてこれてません」
ウィルの言う通りだった。とほほ……俺は、幼女の言うことすら理解できないのか。
「アー……軽々しく聞いた、俺がバカだったのかも」
「桜下さん、大丈夫ですって。実は私も、そこまで深くは理解しきれていませんから。ライラさんは、本当に規格外なんです」
うーむ、確かに。身近過ぎて慣れてきていたが、ライラは人類史全体で見ても稀な、四属性持ちの魔術師なんだ。なんか、改めてすごいな。そんな子が俺たちの仲間だなんて……
「ライラさん、もう少し、入門的なことから話しませんか?」
「そっかぁ。うーん、それなら何がいいかな……」
「そうですね……桜下さんは、魔法の発動する仕組みが理解できていない、という認識でよろしいですか?」
「あ、うん。どうして呪文を唱えると、魔法になるのかなって。そもそも、呪文ってなんなんだ?」
「あ、それでいいじゃないですか。ライラさん、呪文の詠唱について、教えてあげましょう?」
「うん、いいよ。えっとね、呪文って言うのは、二つに分かれるの。魔力を配列する魁語と、まほーを発動させる始動語と」
「はぁ……始動語ってのは、あれか?ファイアフライ!とか、フレイムパイン!みたいなやつ?」
「そーそー。魔力を並べただけじゃ、まほーは発動しないの。始動語を唱えることで初めて、並べた魔力に意味が生まれるんだ」
「へーえ。じゃあ、その前の奴は?魁語、だっけ?」
「魁語は、ルーン語で唱える呪文だよ。ルーン語はまほーの言葉だから、普通に聞き取ることはできないんだけど」
ああ、あれか。ライラたちが魔法を使うときにつぶやく、ぶつぶつとした不思議な言葉のことだろう。
「魁語も、まほーごとに内容が決まってるの。それを唱えると、マナとヘカが流れる、“道”、みたいなものができて、そこに始動語を唱えることで、魔力が流れてまほーが発動するんだよ」
「ははぁ……あれ?でもそれだと、おかしくないか。俺の能力も、広義的には魔法に分類されるらしいんだけど。俺、時々詠唱をスキップしてることあるぜ?」
「ああ、無詠唱でまほーを使うことも、できなくはないよ。ただ、すっごく魔力を使うから、できる人は限られるんじゃないかなぁ」
「そうなのか?」
「そうだよ!だって、普通はきちんと流れを整えて、そぅっと流すはずの魔力を、無理やり押し流してるみたいなもんだもん。普通の三倍はヘカを消費しちゃうよ」
なるほど……?要は、かっちり路を作って水を流すはずのところに、上からバケツでぶちまけている、みたいなことだろうか。確かにそれなら、水はいっぱいこぼれるな。
「なるほどな……あ、じゃあアルルカのはどうなんだ?あいつの場合、ほとんど詠唱をしてないよな」
俺たちは、馬車の隅でだらしなく寝っ転がっているアルルカを見た。なんつう恰好だ、股を開けっぴろげて寝やがって……エラゼムが何度も咳払いをしているが、当の本人は気にも留めていない。
「アルルカ、どうなんだ?」
「はあ?」
アルルカはねそべったまま、顔だけこちらに向ける。
「お前の高速魔法は、どういうからくりなのかって」
「あたしの?そりゃぁあんた、あたしが稀代の天才だからに決まって……」
「あー、そういうのはいいから」
「そういうのってなによ!ったくねぇ、冗談でもなんでもないのよ?この高速詠唱は、あたしが何年も魔法の腕を磨いてきた賜物なんだから」
「あれ、そうなのか?ヴァンパイアの能力とかじゃなくて?」
「そーよ。なっがーい時間を掛けて、杖の魔術回路を少しずつ育てたんだから。いわば、杖自体が詠唱呪文みたいなもんね。後はそこに魔力を流し込めば、即座に魔法が発動するってわけよ」
なんと。このすちゃらかヴァンパイアが、そんな殊勝なことをやっていただなんて。意外に堅実な理由だったんだな。
「杖を媒介に、か。ウィルのロッドも、似たようなもんか?」
「私のは、そこまでではないですけれど。でも、魔術回路自体は開いていると思いますよ。私の場合、腕が未熟なので、物に頼らないと呪文が安定しないんです。杖なしでもできなくはないんですが……」
ふーん。自転車の補助輪、みたいなもんか?ちょっと違うかな。
「一口に呪文って言っても、色々あるんだな……ん?そういやさ、ふと思ったんだけど。さっきで言うところの、始動語ってやつ。あれって、誰が決めるんだ?」
ウィルもライラも、魔法を使うときは名前を叫ぶ。必殺技みたいでかっこいいけど、どうして決まった名前があるのだろう。
「さっきの話だとさ。魔力消費を無視すれば、別に魔法は、無詠唱でも発動できるんだろ。だったらテキトーに、炎の魔法!とかでもいいんじゃないか?」
「ああ、それはね」と、ライラが説明してくれる。
「さっきさ、始動語を唱えて初めて、魔力に意味が生まれるって言ったでしょ。始動語、つまりまほーの名前は、ただの名前だけじゃないんだ。んーと、なんて言ったらいいかな……初めてのまほーを作るとしたらね。マナの配列を決めて、ルーン語の魁語を決めて、いよいよまほーが完成ってなった最後に、名前を付けるでしょ。そうすると、この世界に、そのまほーが記憶されるの」
「世界に?」
「そう。星の記憶とか、アカシックレコードとか言われてるんだけどね。ちょっと説明が難しくて……三日くらいかかるかも」
「そ、それはちょっと、遠慮しとこうかな……」
「だよねぇ。でね、世界に記憶されたまほーの名前を呼ぶことで、世界が、そのまほーの再現を手伝ってくれるんだよ。この現象に気付けたから、今のまほー学が成り立ってるんだって」
「それは、また……一番最初の魔法使いは、どうしてそんなことに気付けたんだ?星の記憶だなんて……」
「ね、すごいよね。まほー学では、名前を付けることは、すごく意味があることなんだよ。だから魁語と違って、始動語はとっても大事だし、それを省いちゃうと、元のまほーよりだいぶ威力は落ちちゃうんだ」
そりゃそうだろうな。なんたって、世界の力を借りられないんだから。
「なーるほどなぁ。今まで何となく詠唱を聞いてたけど、そんな意味があったんだ」
「そーそー。どう?桜下、今ので分かった?」
「ああ。勉強になったよ、ライラ先生」
「へへへ。ライラ、先生も向いてるかも」
「お。ライラは、先生になりたいのか?」
「うーん。まだ、分かんないや。先の事なんて」
そりゃそうか。何といっても、ライラは半分アンデッドだし……もしも夢とかを見つけられたら、それが未練の解消につながる気もするんだけどな。
即席の魔法の授業が終わった、ちょうどそのタイミングで、馬車がかくんと揺れて止まった。
「あれ?止まったぞ」
「変ですね、まだ野営には早い時間ですけれど……」
なんだろう、トラブルでもあったんだろうか?気になった俺は、扉を開けて、馬車の外の様子をうかがってみた。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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王都を出発してから、早いもので、もう数日が過ぎた。基本的に、俺たちは馬車に乗っているだけなので、いつもと比べればずいぶん楽な旅ではある。ただ、暇を持て余すという難点もあった。
「ふわ……はぁ。分かっちゃいたけど、一の国は遠いなぁ」
ガタガタ揺れる馬車の中であぐらをかきながら、俺はあくびをした。かといって、まだ午前中だから、昼寝をする気にもならない。揺れもひどくて、眠るどころでもなさそうだしな。いつもはストームスティードでの爽快感のある旅ばかりだったから、馬車の速度がより一層遅く感じられた。
「うーん……あ、そうだ」
退屈しのぎに、俺はあることを思い出して、それについて訊ねてみることにした。
「なあ。ウィルか、ライラに聞きたいんだけどさ。俺に、魔法について教えてくれよ」
「魔法、ですか?」
うつろな表情でフライパンを布切れで拭き続けていたウィルが(数時間ずっと繰り返している……)、はたと顔を上げた。
「ああ。ずいぶん前に、一度そんな話をしたじゃないか。まあ結局、俺には適性がないってことになったんだけど……」
たしか、ウィルと出会って間もないころだったか。うわぁ、ずいぶん昔のことに感じるな。結局俺には、冥属性の魔力しかないので、他の魔法は使えないという結論に至ったんだ。
「けどさ、ずっと気になってたんだよな。俺のいた世界には、魔法ってもんは存在しなかったから。どういう原理なのかとかも、いまいち理解してないんだよ」
「ああ、そういうことですか。桜下さんは勉強熱心ですねぇ。けどそれなら、ライラさんに聞いたほうが良さそうです。ね?」
ウィルが、ライラを振り返る。そのライラは、馬車の窓から見える景色を、ぼーっとした顔で、見るともなく見ている……本当に見ているのか?半開きになった口から、よだれが垂れていることにすら気付いていないんだけど。目を開けたまま寝ていると言われたら、信じちまいそうだ。ウィルがちょんと肩をつつくと、ライラはようやく意識を取り戻して、あわてて口元を手で拭った。
「な、なぁに?ウィルおねーちゃん」
「ライラさん。桜下さんが、魔法について教えてほしいそうですよ?」
「まほーについて?」
「ああ。俺、全然知らなくてさ。大魔法使いの知恵を借りれないか?」
「そーなんだ。ふふん、いいよ。何でも教えてあげましょう」
ライラは得意げに、腰に手を当てて胸を張った。
「で、なにについて知りたいの?」
「そうだな……そもそも、魔法ってなんなんだ?どうして呪文を唱えるだけで、火の玉を作ったり、竜巻を起こしたりできるんだ?」
「んーとね。まほーって言うのは、魔力を一定方式に並べ替えることで発動するんだよ。火属性まほーも風属性まほーも、すべて決まった方程式に従って、魔力が配列されてるの。だから、まほーは数学、計算に例えられることもあるんだよ。マナだけの算出ならそこまで難しくないんだけど、ここにヘカの計算が加わると、多次元空間方程式に従った近似値座標の算出もしなくちゃいけないから大変でさぁ……」
「……」
「ライラさん、ライラさん。専門的過ぎて、桜下さんが付いてこれてません」
ウィルの言う通りだった。とほほ……俺は、幼女の言うことすら理解できないのか。
「アー……軽々しく聞いた、俺がバカだったのかも」
「桜下さん、大丈夫ですって。実は私も、そこまで深くは理解しきれていませんから。ライラさんは、本当に規格外なんです」
うーむ、確かに。身近過ぎて慣れてきていたが、ライラは人類史全体で見ても稀な、四属性持ちの魔術師なんだ。なんか、改めてすごいな。そんな子が俺たちの仲間だなんて……
「ライラさん、もう少し、入門的なことから話しませんか?」
「そっかぁ。うーん、それなら何がいいかな……」
「そうですね……桜下さんは、魔法の発動する仕組みが理解できていない、という認識でよろしいですか?」
「あ、うん。どうして呪文を唱えると、魔法になるのかなって。そもそも、呪文ってなんなんだ?」
「あ、それでいいじゃないですか。ライラさん、呪文の詠唱について、教えてあげましょう?」
「うん、いいよ。えっとね、呪文って言うのは、二つに分かれるの。魔力を配列する魁語と、まほーを発動させる始動語と」
「はぁ……始動語ってのは、あれか?ファイアフライ!とか、フレイムパイン!みたいなやつ?」
「そーそー。魔力を並べただけじゃ、まほーは発動しないの。始動語を唱えることで初めて、並べた魔力に意味が生まれるんだ」
「へーえ。じゃあ、その前の奴は?魁語、だっけ?」
「魁語は、ルーン語で唱える呪文だよ。ルーン語はまほーの言葉だから、普通に聞き取ることはできないんだけど」
ああ、あれか。ライラたちが魔法を使うときにつぶやく、ぶつぶつとした不思議な言葉のことだろう。
「魁語も、まほーごとに内容が決まってるの。それを唱えると、マナとヘカが流れる、“道”、みたいなものができて、そこに始動語を唱えることで、魔力が流れてまほーが発動するんだよ」
「ははぁ……あれ?でもそれだと、おかしくないか。俺の能力も、広義的には魔法に分類されるらしいんだけど。俺、時々詠唱をスキップしてることあるぜ?」
「ああ、無詠唱でまほーを使うことも、できなくはないよ。ただ、すっごく魔力を使うから、できる人は限られるんじゃないかなぁ」
「そうなのか?」
「そうだよ!だって、普通はきちんと流れを整えて、そぅっと流すはずの魔力を、無理やり押し流してるみたいなもんだもん。普通の三倍はヘカを消費しちゃうよ」
なるほど……?要は、かっちり路を作って水を流すはずのところに、上からバケツでぶちまけている、みたいなことだろうか。確かにそれなら、水はいっぱいこぼれるな。
「なるほどな……あ、じゃあアルルカのはどうなんだ?あいつの場合、ほとんど詠唱をしてないよな」
俺たちは、馬車の隅でだらしなく寝っ転がっているアルルカを見た。なんつう恰好だ、股を開けっぴろげて寝やがって……エラゼムが何度も咳払いをしているが、当の本人は気にも留めていない。
「アルルカ、どうなんだ?」
「はあ?」
アルルカはねそべったまま、顔だけこちらに向ける。
「お前の高速魔法は、どういうからくりなのかって」
「あたしの?そりゃぁあんた、あたしが稀代の天才だからに決まって……」
「あー、そういうのはいいから」
「そういうのってなによ!ったくねぇ、冗談でもなんでもないのよ?この高速詠唱は、あたしが何年も魔法の腕を磨いてきた賜物なんだから」
「あれ、そうなのか?ヴァンパイアの能力とかじゃなくて?」
「そーよ。なっがーい時間を掛けて、杖の魔術回路を少しずつ育てたんだから。いわば、杖自体が詠唱呪文みたいなもんね。後はそこに魔力を流し込めば、即座に魔法が発動するってわけよ」
なんと。このすちゃらかヴァンパイアが、そんな殊勝なことをやっていただなんて。意外に堅実な理由だったんだな。
「杖を媒介に、か。ウィルのロッドも、似たようなもんか?」
「私のは、そこまでではないですけれど。でも、魔術回路自体は開いていると思いますよ。私の場合、腕が未熟なので、物に頼らないと呪文が安定しないんです。杖なしでもできなくはないんですが……」
ふーん。自転車の補助輪、みたいなもんか?ちょっと違うかな。
「一口に呪文って言っても、色々あるんだな……ん?そういやさ、ふと思ったんだけど。さっきで言うところの、始動語ってやつ。あれって、誰が決めるんだ?」
ウィルもライラも、魔法を使うときは名前を叫ぶ。必殺技みたいでかっこいいけど、どうして決まった名前があるのだろう。
「さっきの話だとさ。魔力消費を無視すれば、別に魔法は、無詠唱でも発動できるんだろ。だったらテキトーに、炎の魔法!とかでもいいんじゃないか?」
「ああ、それはね」と、ライラが説明してくれる。
「さっきさ、始動語を唱えて初めて、魔力に意味が生まれるって言ったでしょ。始動語、つまりまほーの名前は、ただの名前だけじゃないんだ。んーと、なんて言ったらいいかな……初めてのまほーを作るとしたらね。マナの配列を決めて、ルーン語の魁語を決めて、いよいよまほーが完成ってなった最後に、名前を付けるでしょ。そうすると、この世界に、そのまほーが記憶されるの」
「世界に?」
「そう。星の記憶とか、アカシックレコードとか言われてるんだけどね。ちょっと説明が難しくて……三日くらいかかるかも」
「そ、それはちょっと、遠慮しとこうかな……」
「だよねぇ。でね、世界に記憶されたまほーの名前を呼ぶことで、世界が、そのまほーの再現を手伝ってくれるんだよ。この現象に気付けたから、今のまほー学が成り立ってるんだって」
「それは、また……一番最初の魔法使いは、どうしてそんなことに気付けたんだ?星の記憶だなんて……」
「ね、すごいよね。まほー学では、名前を付けることは、すごく意味があることなんだよ。だから魁語と違って、始動語はとっても大事だし、それを省いちゃうと、元のまほーよりだいぶ威力は落ちちゃうんだ」
そりゃそうだろうな。なんたって、世界の力を借りられないんだから。
「なーるほどなぁ。今まで何となく詠唱を聞いてたけど、そんな意味があったんだ」
「そーそー。どう?桜下、今ので分かった?」
「ああ。勉強になったよ、ライラ先生」
「へへへ。ライラ、先生も向いてるかも」
「お。ライラは、先生になりたいのか?」
「うーん。まだ、分かんないや。先の事なんて」
そりゃそうか。何といっても、ライラは半分アンデッドだし……もしも夢とかを見つけられたら、それが未練の解消につながる気もするんだけどな。
即席の魔法の授業が終わった、ちょうどそのタイミングで、馬車がかくんと揺れて止まった。
「あれ?止まったぞ」
「変ですね、まだ野営には早い時間ですけれど……」
なんだろう、トラブルでもあったんだろうか?気になった俺は、扉を開けて、馬車の外の様子をうかがってみた。
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