じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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11章 夢の続き

9-1 三つの試練 その1

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9-1 三つの試練 その1

俺たちが姫様の待つ逆ピラミッドへ出向く前。ミイラたちは、とある忠告をした。

「皆様。あちらの離宮は、王族の姫君が代々眠る、聖なる陵墓。軽々しく立ち入れる場所では到底なく、ましてや許しも得ずに押し入るなど、本来は言語道断なのです……」

「でも、今はしょうがないだろ。それとも、ほんとは行ってほしくないのか?」

「いえいえいえ、そうではございません。ただ、あなた様はともかく、お仲間様方は招かれざる客人。そうなると陵墓は、あなた様方に牙をむくやもしれません」

「牙?それって、何か罠とか仕掛けがあるってことか?」

「おっしゃる通り。陵墓には、立ち入る者にその資格があるのかどうかを試す、三つの試練が仕掛けられているのです」

「試練だって?それ、一体どんな……?」

「申し訳ありません。我らも、詳細は知らされていないのです。ただ、その者の誠の勇気と知恵、そして愛を問うものだとか……」

ぬぅ。勇気と知恵と、愛ねえ。その三つがありゃ、この世のあらゆる問題を解決できそうなもんだけどな。

「まあ、覚悟だけはしておくよ。いずれにせよ、そこを通らなけりゃ上には出れないんだから」

「はい。皆様方のご健闘を、わたくし共一同、深く願っております……」

深々と礼をしたミイラの一団に見送られて、俺たちは出発した。

「三つの試練……いったい、どんなものなんでしょうか」

ウィルが不安そうな顔で、前方にぼんやり浮かぶピラミッドを眺める。

「さてな……けど王様の墓には、罠とかはつきものだろ」

「そうですね……まるで、子どものころに聞いた吟遊詩人バードの歌みたいです。罠の仕掛けられた、地底のダンジョンに潜るだなんて……現実味が湧きません」

「だな。最後に待ってるのがお宝じゃないってのは、歌とは違うところだけど」

「そうですか?最後には可愛いお姫さまが待っているじゃないですか。十分お宝なんじゃありません?」

「……誘導尋問なら、引っかからないからな」

「ふふふ、すみません。冗談です」

静まり返った死者の都をしばらく歩くと、逆さのピラミッドの頂点部分に近づいてきた。遠くから見ている時は暗くて分からなかったけど、その真下には塔が立っていた。頂点から垂れ下がった糸のようにも見える、細長い塔だ。俺たちはその塔へと向かう。
塔の中は、ぐるぐると続く螺旋階段になっていた。ここを登っていけば、姫様の待つ離宮の中に入れるんだろう。

「ふう。ここを登るだけでも、立派な試練になりそうだ」

「気を付けてよ。もう試練が始まってるかもしれないんだから」

そう言って、フランは俺の前を先行して登り始めた。確かにフランの言う通りだな。いつ何が起こってもいいように、俺は気合を入れて、階段の一段目に足を乗せた。



「ハァーッ……ハァーッ……」

今にも死にそうな呼吸音だな。誰だ?あ、俺以外はみんな生きてないのか。
螺旋階段は、想像以上に長く続いていた。外から見たときは、もう少し楽だと思っていたのに。暗かったから、目測を誤ったみたいだ。
俺がこんなだから、監視と警戒は完全にフランに任せきりだった。その背中に、五十段ほどで参ってしまったライラがへばりついている。俺はウィルとエラゼムに後ろから押してもらう形で、何とか一歩一歩踏みしめるように上り続けていた。

「最後に……寝たの……いつだっけ……」

「はい?遺嶺洞に入ってからのことですか?あ、そう言えば、いつだったかしら……エラゼムさん、覚えてます?」

「ふうむ。確か、野営の準備をしているところを、ラミアの群れに襲われたのではなかったですかな」

「あ、そうでしたそうでした。じゃあきっと、今頃外は真夜中ですね」

うひー。てことは、俺は夜通し、この地下をさ迷い続けているのか。どうりで疲れるわけだ。おまけに、飯も食いそびれているし……ああ、思い出すんじゃなかった。下腹がキュウキュウ鳴り始めたぞ。食料の入った荷袋は馬車に置きっぱなしだから、どうすることもできない。早いとこヘイズたちと合流しないと、飢え死にしかねないな。
俺が精魂尽き果てる寸前、ようやく階段が終わりを迎えた。広いフロアに震える足で出ると、俺はへなへなと崩れ落ちてしまった。

「はーっ、はーっ……ここ、どこだ……?」

「恐らく、あの逆三角錐の底の部分でありましょう。ここからさらに上に上っていけば、始めの洞窟に戻れるのではないでしょうか」

まだ上るのか……ひょっとして、本当にこれが試練なんじゃという気がしてきた。何千段もの階段を上り切れるフィジカルのある者が、お姫様に相応しいという……

「あ。ねえ、あれなんだろ?」

ふと、フランの背に乗ったライラが、何かを見つけたようだ。俺は力なく、首から上だけを動かしてそちらを見る。
俺たちが出た広いフロアは、群青色をしたメタリックな素材でできた、無機質な空間だった。外観と同じように、やはり建材自体が淡く光を放っており、床も壁もぼんやり光っている。家具も窓も装飾も一つも無い空間には、ただ一つだけ、同じく無機質なのっぺりとした扉がそびえ立っていた。

「あそこが、上への入り口か……?」

俺は立ちあがろうとしたが、足が生まれたての小鹿みたいに震えて、上手く立てない……くそ、ずいぶんきてるな。日中はずっと緊張しっぱなしで、その後はラミアとの戦闘、遺跡の探索と続いたから、思っていた以上に体力を消耗していたらしい。
見かねたウィルが、俺を横から支えてくれた。

「桜下さん、少しだけ動かないでくださいね」

そう言うと、ウィルは目をつむって、両手を俺の足にかざした。

「キュアテイル」

パァ。ウィルの手から青い光が放たれ、俺の足を包み込む。

「お……おお!すごいぞウィル、足が軽くなった!」

さっきまでの疲労が嘘みたいに、俺は軽やかに立ち上がった。

「すごいな!さっきの魔法、確か回復呪文だろ?」

「ええ。楽になったならよかったです。ただ、あまり無茶はしないでくださいね?キュアテイルは、体の治癒力を増進するだけなんです。疲労が消えてなくなったわけではないので、あくまで一時しのぎと思ってください」

ふむ。確かに、さっきに比べれば格段に楽だが、それでもまだ足は重い。腹も減ったままだし、早いとこ脱出するに越したことはないだろう。

「ねえー!みんな、来てみてよー!」

おっと。扉を調べていたらしいライラとフランが、何か見つけたようだ。俺たちは殺風景な部屋を横切って、壁に取り付けられた扉のもとへと歩いて行った。

「ほらほら、ここ。なんか書いてあるよ」

扉のわきっちょを、ライラが指さしている。

「ん~……?」

そこには、文字のような、絵のようなものが彫りつけられている。

「読めない……何語だ?象形文字?」

見方によっては、絵とも、文字とも取れそうだが。そのどっちでもいいけど、肝心の意味が分からないんじゃなぁ。すると、ちりんとアニが揺れた。

『真実を、偽りと為せ』

「へ?アニ?どうした、急にポエマーだな」

『違います。ここに彫られている文字ですよ。古代ウィゲル語のようです』

「はー……?」

どうやら、アニにはこの文字が読めるらしい。外国語は知らないのに、大昔の言語には対応しているなんて。ずいぶん知識に偏りがあるな。

「それで、どういう意味だ?真実を偽りにしろって」

『さあ……その一文以外には、何も記述されていません。こちらで解釈するしかないのでは?』

「つってもなぁ……」

それだけでは、何の意味も分からない。何かの暗号なのだろうか?それを解読すれば、この扉が開くとか……ありそうな話だ。

「せめて、ヒントとかないかな。この扉のどっかにさ」

俺は、つるりとした扉のあちこちを眺める。うーん。武骨な金属板のような扉には、おおよそヒントらしきものは見当たらない。おいおい、これじゃ最初からムリゲーじゃないか。俺が眉根を寄せた、その時だ。

「んん?」

「桜下さん、どうしたんですか?」

「いや……あ、これ、やっぱり。この扉、開くぞ」

俺が扉に軽く触れただけで、分厚い鉄扉は油引き立てかというくらい、つぅっと簡単にスライドした。ウィルがあんぐり口を開ける。

「ええぇ……いえ、先に進めてよかったんですけど。これじゃ、あんまりにも……」

「だな。ったく、思わせぶりなこと書きやがって」

意味深なことを書いて、惑わせようとでもしたのだろうか?ここの設計者、かなり性格悪いな。やれやれと首を振りながら、扉の先に進もうとすると、ぐいっと肩をつかまれた。

「待って。何かの罠かもしれないよ」

フランはそう言うと、俺を引き戻して、自分が扉へと進んだ。おいおい、流石に疑い過ぎじゃないか?あっけなさ過ぎるけどさ、いくらなんでも……
ズゴゴゴ……バッチーン!

「ひぇっ!」

フランが扉をくぐろうとした、その瞬間。彼女の鼻先で、鋼鉄の扉は猛烈な勢いでスライドし、ぴしゃりと閉まってしまった。風圧で髪がふわりとなびく。

「……」

「これで分かったでしょ。油断させるための罠だって」

「はぃ……」

俺はすっかり青ざめてしまった。もしも、俺がそこをくぐっていたら……ひき肉、だ。

「あ、あぶ、危なかった……あ、ありがとな、フラン」

「いいよ。もしもまた、あなたが危ない目に遭ったら、わたし今度こそ気が狂っちゃうから。ほんとは心配でたまらないんだよ。あなたには、ずっとそばにいて欲しいんだから」

「へ……?」

俺は目を点にした。今の、ほんとにフランが言ったのか?いつもは無愛想な彼女が、みょうに素直だな?しかし、当のフラン本人も目を丸くして、口元を押さえているぞ?

「えっ。ど、どうして、わたし……桜下の事大切に思ってるのはホントだけど、みんなの前では言わないようにって思ってたのに」

またもフランは、余計なことまで口にした。おかげで俺は、大変気恥ずかしくなって目をそらし、フランは目を白黒させて大混乱している。

「フランさん、どうしちゃったんですか?前々からアピールが増えてきたなとは思ってきましたけど、今日はやけに積極的なんですね。ようやく素直になる気になったんですか?」

うわ、今度はウィルもか。ウィルはすべて言い終わった後で慌てて口を押えたが、後の祭りだ。フランは穴があったら入りたいという顔で、ぎりぎりと歯をこすり合わせている。

「そんな風に思ってたんだ……」

「ちが、違うんですよ?別に、気付かないふりをしていたとかじゃなくて。いえ、ほんとは気付いてましたけど。なかなか距離が縮まらないもんですから、こっちまでソワソワしてましたよ。って、そうじゃなくて!今の、全部ウソです!違います、本当です!うわー!?」

ど、どうなっているんだ……?ウィルは一人芝居でもしているかのように、本音と建て前を高速で行ったり来たりしている。うっかり口を滑らしたにしちゃ、あまりにも変だ。

「どうやら……」

エラゼムが、慎重に口を開く。

「なんやかしらの影響により、心の内と外との区別が無くなっているようですな」

「えぇ?それって、つまり……隠し事ができなくなった、てことか?」

「お二人の様子を見るに、そういうことかと。おかげで、うかつに口を開けなくなりました。失言が恐ろしいので、吾輩はしばらく黙っているつもりです……っ!?」

ああ、エラゼムまでも。隠しごとができないだって?それじゃ、全部開けっぴろげに話しちまうってことかよ。うわ、じみーに嫌だな、それ。

「でも、どうしていきなり。何かの魔法か?」

「それはないわね。魔力の気配は感じなかったわよ」

アルルカの言葉だ。おや、こいつはあまり様子が変わってないな。

「アルルカ、お前はこのヘンテコな現象、影響ないのか?」

「あたし?まぁあたしは、高貴なるヴァンパイアだからね。って言うのは嘘で、ほんとはよく分からないんだけど。ていうかそんなことより、そろそろ満月じゃない?気が付いたらあんたの首筋を目で追ってて、それどころじゃないのよね」

「……」

俺は首元を押さえて、思いっきり後ずさった。こいつは普段から欲望丸出しだから、あんまり変化がないんだな。まあとりあえず、ヴァンパイアにも効果がある事だけはわかった。

「ねー、そう言う桜下は何ともないの?」

俺の袖をついと引いて、ライラが訊ねる。

「あれ、ほんとだな。確かに、俺はみんなみたくは……ならないな、やっぱり。ライラ、お前は?」

「んー、よくわかんない。ライラ、思ったことを言ってるだけだからなぁ」

ふむ。もともとライラは、裏表のない性格だからな。影響が少ないのかもしれない。

「でも、俺はどうしてだろう?」

『主様、こう考えることはできませんか』

アニが提案するように、チリチリと小刻みに揺れる。

『主様は、この離宮に正式に招かれた客人です。客に対して、ややこしい仕掛けや罠で出迎える必要はないでしょう。だから、先ほどの扉も主様にだけは開いたのではないですか』

「あ、なるほど。するとじゃあ、あの扉は罠じゃないってことになるのか……もしかして。このヘンテコ現象が、ここ本来の仕掛けってことか……?」

俺は改めて、扉の横に彫りつけられた文字を見た。確か、“真実を偽りと為せ”……だったか。これが、みんなが突然、本音しか喋れなくなったことと関係があるとしたら……

「……こいつは、ややこしい事になりそうだな」



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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