じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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11章 夢の続き

11―2

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11―2

偽物……その言葉は、俺たちの胸に重くのしかかった。俺はみんなの顔を見渡す。
フランの赤い瞳……ライラの小さな手……ウィルの不安そうな眉……アルルカの気だるげな態度……エラゼムの寡黙な雰囲気……ダメだ、どう見てもみんな、本物にしか見えない。

「……黙っていても、始まらない。たぶん、見た目じゃ判別つかないよ」

誰も口を開かなかったところを、またしてもフランが口火を切る。

「情報を整理しよう。みんな、それぞれ目が覚めた時の様子を話して」

「で、ですが、フランさん。仲間どうして、疑り合うだなんて……」

ウィルが今にも泣きだしそうな声を出す。だがフランは、険しい顔で首を振った。

「わたしだって、好き好んでするわけじゃない。けどそうしないと、ここから出られないんだ。しょうがないでしょ」

「そう、ですけど……」

「それとも、ここで何時間でも過ごすつもり?」

そう言うと、フランはちらりと横目で俺を見た。

「俺のことなら、大丈夫だぞ。けど……フランの案には賛成だな。何もしないんじゃ、いつまでたっても先に進めない」

「うぅ……」

「ウィル、今だけは辛抱してくれ。ここを抜けて、無事に姫様に会えたら、文句の一つでも入れてやろう。性悪な仕掛けしやがって!てな」

俺がにやりと笑うと、ウィルは弱弱しくも、笑顔を返した。俺だって、気分は最悪だ。くそ、この仕掛けを考えた奴、絶対友達いないぞ。断言していい。

「これが最後の試練と考えて、間違いないだろうな。ってことは、前と同じように、必ず謎は解けるようになっているはず。その事を念頭に置いて、話を進めていこう」

俺たちは、むやみやたらに、お互いを疑り合うわけではない。あくまで、ここの仕掛けを解くためだ……そう考えておけば、きっと無駄な傷つけ合いをしなくて済むはずだ。
フランはうなずくと、まずは自分から話し始めた。

「わたしは、気が付くとあの廊下にいた。みんながいないことに気付いて、それで耳を澄ませていたら、話し声が聞こえてきた」

「ああ。たぶん、俺たちのだな」

「うん。で、慎重に近づいて行った。ラミアみたいに、声をマネするモンスターかもって思ったから」

なるほど。だから最後に現れたわけだな。実に本物のフランらしい思考回路だ。決めつけるには、まだ早計だけど。

「それで、あなたたちを見つけた……後は、知っての通り。次は、ライラ。話して」

「う、うん……」

ライラは緊張した面持ちで、ゆっくり口を開く。

「ライラは……床に、寝てた。なんか冷たいなって思って、目が覚めたの。それで、誰もいなくなってて、怖くなって……あ、うそ!今のナシ!怖くなんかなかったけど、みんなが心配だったから、探しに行こうって思って」

「それで、ここに?」

「うん……へんなこととかは、感じなかったけどな」

「わかった。じゃあ次、ウィル」

三人目の証言者だ。俺は彼女と最初に会っているけど、みんなは聞いていないからな。

「私は……自分ひとりだってことに気付いて、すぐに皆さんを探しに行こうと思いました。壁をすり抜けようとしたら、どうしてもできなくて」

「抜けられないの?」

「はい。このガラスもダメです。それでその後、桜下さんとここで出会って。私と桜下さんが、一番初めに合流しました」

「そうなんだ……うん。じゃあ、次。アルルカ」

アルルカは面倒くさそうな顔をしていたが、とりあえず流れには従った。

「あたしは、真っ先にここの壁をぶっ壊そうとしたわ。狭いし陰気臭いし、うっとおしいじゃない」

「……それで。どうなった?」

「ダメね。傷一つ付かなかったわ。んで頭にきて、がむしゃらに進んでたってわけよ」

相変わらず奔放な奴……だが、かえってそれがアルルカらしい。次がエラゼムだ。

「吾輩は……」

エラゼムは、珍しく言葉尻を濁した。何か言いづらそうだな?

「……誤解を受けるやもしれませぬが、恐れずに申し上げます。吾輩は、視界が戻ってからの記憶が、定かではございませぬ」

「混乱してたってこと?」

「と、いうよりは……なにか、記憶が抜け落ちているような。もとあった部分を、白く塗りつぶされているような……」

「記憶が……?」

「奇妙な感覚です。うまく説明できず、申し訳ございません。気が付くとここに来ていた、としか……」

「そっか……」

うーん……?記憶の混乱。それだけで決めつけるわけではないが、かなり怪しく思える言葉だ。もしも何者かが成り代わっているとしたら、恰好の言い訳だからな。「記憶があやふやなんだ」と言えば、大抵のことは切り抜けられる。けど、それを自ら告白したあたりは、やはり真面目なエラゼムらしいとも思えた。

「じゃあ、最後に。あなたは、どうだったの?」

「ん。ああ、俺か」

そうか、みんなから見れば、俺も容疑者の一人なんだよな。自分のことは完全に除外していた。

「えーっと……俺も、みんなとほとんど同じだな。目が覚めたらあの廊下にいて、みんなを探してたらここに来たって感じだ。俺とウィルが最初に合流したってのは、さっき聞いた通りだ」

「そう……」

全員の話を聞き終わると、フランは考え込むようにうつむいた。

「……今の話を聞くに、誰かが、突出して怪しいとは思えない。しいて言えば、記憶の混乱があったって言うエラゼムだけど。それだけで決めつけるには、あまりにも証拠が弱すぎる」

うん、だいたい俺の意見と同じだな。

「今の状況だけでは、判断はできそうにないな」

「と、なると……なにか、質問でもしてみる、とか」

質問か。本人かどうかを確認するには、本人しか知らないことを訊ねるしかない、ってことだな。

「ねえ。そんなまどろっこしいこと、する必要あるわけ?」

え?唐突にそう言いだしたのは、アルルカだ。俺たちがアルルカの方を向くと、やつは偉そうにふんぞり返って腕組みをした。

「あんたたち、本当にわからないの?誰が偽物かなんて、一目瞭然じゃない。あたしなんか、一発で分かっちゃったわよ」

ホントか?アルルカの言うことだ、いまいち信用ならないけど……いちお、聞いてみるか。

「で、誰だと思うんだ?」

「ふふん。ヒントはねぇ、あるモノがない事よ」

「あるもの?なんだ?」

何か、欠けている物でもあったっけか?思い当たる節はないけれど、アルルカはまさに自信満々と言った様子だった。

「ま、あんまり引っ張ってもあれだしね。しょうがないから、教えてあげるわ。そいつは、いつも持っていた物を忘れている人物……ずばり、あんたよ!」

ビシィ!アルルカが、すらりと長い指を突きつけた。それは……

「ええ!?私、ですか?」

ウィル?

「アルルカ、理由はあるんだよな?」

「もちろんよ。だってほら、ないじゃないの。シスターがいっつも持っていた、あの金のロッドが!」

え……あ。本当だ!ウィルは今、ロッドを持っていない。親御さんが唯一ウィルに残した、あのロッド。

「あれを持っていないってことは、偽物の証拠に違いないわ。きっとだから、壁もすり抜けられないのよ。本物のシスターと違って、ゴーストじゃないからね」

おぉ。アルルカにしては、筋の通った推理だ……

「だってさ、ウィル?」

「だっ、ち、違います!私は本物の、ウィル・O・ウォルポールです!信じてください!」

「お、落ち着けって。疑ってるわけじゃないよ。けど、ロッドはどうしたんだ?」

「う、それは……」

ウィルは言葉に詰まると、目を激しく泳がせた。動揺している……?

「……あ!そうでした、思い出しました!桜下さんたちが落っこちた時、無我夢中で穴に飛び込んで、その時に放りだしたんです。ロッドを持っていると、すり抜けるときに邪魔なので……」

「はい、ウッソー!今言いよどんだわね!?言い訳を考えてたに違いないわ!」

「違いますってば!ちょっとド忘れしていただけですっ!それに、そうですよ!あの時、あなたも私の隣に居ましたよね?なら、私がロッドを投げるのも見ていたはずです!それを知らないだなんて、あなたこそ偽物なんじゃないですか!?」

「は、はあ!?言うに事を欠いてぇ……!」

「あぁー、はいはい。アルルカ、少し黙ってろ。ウィルも落ち着いてくれ。これじゃ議論にならないよ」

バチバチと白熱してきた二人をなだめる。まあやっぱり、疑いあっているとこうなってくるよな、どうしても。

「とりあえず、ウィルの言い分はわかった。アルルカ、お前はどうなんだ?ウィルがロッドを投げるとこ、見てたか?」

「……覚えてないわよ。一瞬のことだったんだもの」

「そうか……それじゃあ現状は、どっちが正解かは判断できないな」

ウィルの発言が正しいかどうかは、アルルカにしかわからない。アルルカが白だとはっきりしなければ、真偽は問えないな。

「判断できないことをこねくり回してもしょうがないだろ。今は、それについてはいったん保留だ。な?」

ウィルとアルルカはとりあえず静かになったが、二人とも納得していないのは明らかだった。しかし、ロッドねぇ……

「……あれ?フラン、お前。靴はどうした……?」

「え?」

フランの靴は、彼女がとても大事にしていたものだ。それなのに、今のフランはなぜか、靴を履かずに裸足になっている。大事にしていた云々を抜きにしても、唐突に脱ぐのは変だろ。
フランは慌てた様子で、全身をごそごそとまさぐっている。気づいていなかったのか?

「え、あれ……?」

「まさか、失くしたのか?」

「そんなはずは……いつの間に……」

みんなの目が、フランに向けられる。

「……おかしい。なくなってる」

「覚えてないのか?」

「分からない……霧に飲み込まれたときになくなったのかも」

ウィルに続いて、フランも失くし物か。さらにフランは、失くした理由を覚えていない、ときた。

「あれ……ねえ、桜下……?」

「あん?どうした、ライラ」

ライラはおずおずとした様子で、俺を指さす。

「桜下が、いっつも下げてた鈴……どこいったの?」

「え!?」

俺はバッと、自分の胸元を見下ろした。

「ない!?」

ウソだろ!?アニが、失くなっている!

「ど、どこにやった!?おーい、アニー!」

ない、ない、ない!シャツの下にも、ポケットの中にも、どこにもない!俺は飛んだり跳ねたりしたが、リンという鈴の音はしなかった。

「そんな、ばかな……」

俺はサーっと血の気が引いていくのを感じた。今度は俺に、仲間たちの目が向けられる……うう。みんなに、そんな目で見られる日が来るなんて……

「……む。そういうライラ嬢も、大切なものを失くしてはおりませぬか?」

「え?ライラも?」

エラゼムに指摘され、普段の反発も忘れて、ライラがきょとんとする。

「お母上のショールが見当たりませぬが」

「え……あぁ!なくなってる!」

ライラがバッと腰を押さえる。そこにいつも巻かれていたショールは、忽然と姿を消していた。エラゼムがうなずく。

「やはり、そうでしたか。そして、アルルカ嬢。貴女あなたの杖もまた、失せ物となっているのでは?」

「はぁ?あたしの杖はここに……ない!」

ど、どういうことだ……?みんな、大事なものが、失くなっている……?

「うむ。これではっきりしましたな。吾輩たちは、身に着けていた物を一つ奪われているようです」

「奪われた……?」

「そうとしか考えられません。吾輩の場合、剣を奪われました。あれを失くすなど、ありえませぬ」

うわ、マジだ!エラゼムがいつもしょっていた大剣が、ない!あれだけのでかさのもの、そうそう失くさないよな。それに、彼はあの剣をとても大事にしていた。

「なんで、みんなの大事なものが……?」

「わかりません。しかし、この場においては、なかなか厄介な要素です……偽物の特定が、より難しくなりました」

エラゼムはそう言って、首をゆるゆると振った。俺は苦虫を噛み潰した気分になった。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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