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11章 夢の続き
13-4
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13-4
俺が捻りだした、わずかな勝算。それの為にも、まずはあの大蛇に消えてもらわなければならない。
包帯の大蛇は、ガーゴイルを喰らい尽くす寸前だった。ウィルが出した蜃気楼の方はとっくに消え去り、実体の方も片翼と右前足をもぎ取られて、満身創痍だ。
「グゴォ!」
「ガアァア!」
ガーゴイルがせめて一太刀と繰り出した爪を、大蛇は悠々とかわした。返しの一撃で大木のような尾を打ち付けると、ガーゴイルはとうとう砕け散ってしまった。ガシャアアアン!
「きゃああ!」
ウィルのか細い悲鳴が聞こえてくる。くっ、ダメだったか……!
「ライラ!」
「わかってる!桜下、おねーちゃんに声を届けられない?ちょっとでいいの!」
「声を……?いや、わかった!アニ!」
俺はアニをひっつかむと、心の中でウィルに呼びかける。すぐにアニから、ぼうっと青い光が放たれた。
「おねーちゃんに伝えて!ライラが風を起こすから、それに合わせてって!」
「よし!」
詳しい事は分からなかったけど、俺はとにかく、そのままをウィルに伝えた。向こうでかすかに見えるウィルが、びくりと震えたのがわかった。伝わったみたいだな。
「伝えたぞ!」
「ありがとう!よぉーし……」
ライラは両手を合わせて、ぶつぶつと呪文を唱え始めた。どうやらライラは、ウィルと力を合わせて魔法を使うつもりらしい。ラミア戦の時に見せた、アルルカとのコンビネーションみたいなものだろうか?
「ウィンドローズ!」
ライラが叫ぶと、強い風が、地下空間に吹きわたった。塵が巻き上げられ、俺は顔を腕で覆う。
「トリコデルマ!」
すぐにウィルの声も響いてきた。ウィルが宙に放ったのは、真っ赤な粉状の火だ。前にも見たことがある、確かあれは、ものすごい高温なんだ。
ビュウウー!ライラの風は唸りながら、大蛇の周りで渦を巻き始める。するとそこに、ウィルが放った火の粉が吸い込まれ、次第に風を赤く染めていく。
「あ!あれは……!」
確か、マスカレードと戦った時に!あの時も、ウィルとライラは魔法を組み合わせて攻撃をしていた。あの時は不発に終わったが、今回は……
「やあああ!」
「はあああ!」
ゴオオオー!風が激しさを増すと、大量の酸素を得た火の粉が、より高温となって赤熱する。天井まで届きそうなほどの、巨大な深紅の竜巻だ。離れているここにまで、その熱量が伝わってくる。前に見た時より、火力が上がっている……!
炎の竜巻は、大蛇をすっぽりと飲み込んだ。ゴオオオォォォ!中で大蛇がもがく影が見えるが、竜巻はやつを捕えて離さない。風が渦巻く力で吸い込んでいるんだ。やがて、大蛇がいるあたりの床から、真っ白な液体がこぼれ始めた。ジュージューと煙を放つそれは、熱された金属のようだが……
ぐぐ、ゴゴゴゴ!突然大きな音がして、ずずんと何かが床に落ちた。それが大蛇を構成していた床材の一部だと気づいた時には、大蛇の体はボロボロと崩れ始めていた。
バアァー!炎の竜巻は、はじけるように唐突に消えた。熱風と火の粉があたりにばらまかれる。
竜巻のあった箇所は真っ黒に焦げ付き、もうもうと煙を放っていた。そこには、大蛇だった黒焦げのがれきの山と、白熱してでろりと溶けた金属だけが残されていた。
(でもこの金属、どこから出てきたんだ……?)
ひょっとして、鉄かなにかを噛ませていたから、あの包帯は異様な耐久性を持っていたのだろうか?てことは、ロウランは金属を自在に操れるのか。
「……ぷはあっ」
おっと!ぐらりと揺れたライラの肩を掴む。
「大丈夫か?でもやったぜ、ライラ!すごかったぞ!」
「へへへ、うん……おねーちゃんのおかげ。それに、いつものウィンドローズより、いっぱい魔力をこめたから……」
なるほど、だから前より威力が上がっていたのか。そのぶん、ライラの消耗も激しかったみたいだが。
「だけど、これで残るは、本体だけだ……!」
もうこれで、ロウランを守るものは、あの棺だけになった。
そのロウランは、燃え尽きた大蛇の残骸を前にしても、さほど驚いた様子を見せない。
「ふーん。あのコを倒すなんて、結構やるの」
ロウランは面白くなさそうに足を組みなおすと、手をぱんぱん!と叩いた。
「ま、それなら次は、魔法で捉えられないくらい小さくすればいいの。次はこのコで相手してあげる」
次、だと?すると、でろでろに溶けていた金属が、まるで意思を持つかのようにスルスルと、ロウランの下へと集まっていく。さらに、エラゼムに群がっていた包帯たちも一斉に引いて、彼女の下に戻った。何をする気だ……?
金属が冷えるにつれて、包帯がその表面に巻き付いていく。白から、鉄みたいな黒っぽい色になった金属は、ぐにぐにとアメーバのように形を変え、やがて人の形に……ロウランそっくりの姿になった。
「ほーら。カワイイでしょ?このコなら、もっと早く動かせるの♪」
ちっ、やっぱりまだあるのか……!けど、これはある意味予想通りだ。ライラだって、術者を何とかしないとしょうがないと言っていた。
(一瞬でいい、隙が作れれば……!)
鉄のロウラン人形は、ずしりと重い足音を響かせて、俺たちの方へ向かってくる。ライラはまだ息が荒く、とても迎撃できそうにない。エラゼムがぐっと剣を構えた。その時だ。
「やああぁ!」
飛び出してくる、銀色の影。フランだ!フランは思い切り拳を引くと、渾身のパンチを鉄人形へ打ち出す。だがそれに合わせて、鉄人形は上半身を百八十度捻って、カウンターのパンチを突き出した。両者の拳が、激突する。グワーーン!バキャァ!
「ぐわっ」
信じられない!パンチの衝撃で、床が割れてしまった。そのとてつもない衝撃は、両者の体を襲ったはずだ。痛みを感じないフランと、鉄人形。だが、あくまでもフランの体は、生身の肉体だ。
ブシッ!フランの腕から、真っ黒な血が噴き出した。うっ……対して、鉄人形にはなんのダメージもない。
「メギバレット!」
ドパァーン!鉄人形の脳天に、氷のつぶてがぶち当たった。人形の首がのけ反り、ぐにゃりとひん曲がったが、人形は手で頭を掴むと、ぐぐぐっと元に戻した。うえぇ、気持ち悪……
「チッ……やっぱりこの程度じゃ、びくともしないわね」
つぶてを放ったアルルカは、宙に浮かんだまま舌打ちして、杖をくるりと回した。よかった、やつも無事……とは、言い難いか。ここまでの戦闘で、あちこちボロボロだ。
フランは腕をかばいながら、バックステップで鉄人形と距離を取った。その隣にふわりとアルルカが降り立つ。
「チビ娘、苦戦してるみたいね」
「……そのチビってのが、もしもわたしのことなんだとしたら、今すぐぶっ飛ばしてあげるけど」
「いまぶっ飛ばすべきなのは、アレでしょうが。んで?勝算はあるわけ?」
「……殴り続けてれば、いずれ壊れる」
「ナシってわけね。はぁ、まあ場合によっちゃ、手を貸してあげてもいいわよ」
「……お前が?」
「あたしは高貴なるヴァンパイアよ?肉弾戦もこなせるわ。あたしとあんたでボコれば、二倍速く倒せるでしょ」
「……」
「なによ、その顔!言っとくけどね、あんたたちのためだと思わないことよ。友情ゴッコはごめんだわ。ただね、いい加減こんな陰気なとこおさらばして、あたしはゆっくり血を飲みたいの」
「……はぁ!もう、なんでもいい。わたしだって、お前なんかと友達になんかなりたくない。言っとくけど、邪魔だけはしないでよ」
「はん。その言葉、そっくりそのまま返すわ」
こ、これは……実に奇妙な共闘戦線だ。フランとアルルカの即席コンビだなんて……不安しかないが、今のこの状況は……
(チャンスだ)
俺は、肩で息をするライラに、そっと訊ねる。
「ライラ。あの、さっきの鉄を錆びさせるやつ。またできるか?」
「う……うん。できる……もうちょっと、魔力が戻れば……」
ライラはそう言うが……もうしばらくは掛かりそうだな。ライラだって、ラミア戦からこっち、一睡もせずに動き続けているんだ。体力だってとっくに限界だろう。無理はさせられない。ならやっぱり、俺が動くべきだ。
「……エラゼム、エラゼム」
俺はエラゼムの背中に、こっそりと呼びかける。
「……桜下殿?」
エラゼムも空気を察したのか、振り向かずに小声で返してくる。
「俺を、ロウランのもとまで連れて行ってくれないか。あの、棺の所まで」
「なんと……どのような意図かは測りかねますが、あまりに危険では?」
「承知の上だ。でも、今あいつが動かしているのは、あの鉄人形だけだろ。包帯も弾丸も無くなった、今がチャンスなんだ」
「……承知いたしました。それでも、奴に気付かれぬよう、慎重に進んでゆきましょう」
俺はうなずいた。どのみち、今の俺じゃダッシュは無理だ。
俺たちはまず、ゆっくりと横に移動して、戦いの余波でできたがれきの影に身を潜めた。そこにライラを隠すためだ。
「ライラ。お前はここで隠れて、魔力を回復してくれ」
「うん……桜下は?」
「俺は、ロウランの本体を叩いてみる。ただ、上手くいくかは分からない。もしダメだったら、そん時はお前が頼りだ。頼っても、いいか?」
「桜下……うん!」
ライラは決意の光を宿した瞳で、しっかりとうなずいた。頼もしいもんだ、まだこんなに小さいのに。俺はライラの肩をぽんと叩くと、がれきの影から身を起こして、エラゼムの背中に張り付いた。情けないが、時折ふらつく足を支えるために、こうせざるを得ない。
「それじゃあ、行こう。エラゼム」
「御意に」
俺たちはすり足で、ロウランへと近づき始めた。
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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俺が捻りだした、わずかな勝算。それの為にも、まずはあの大蛇に消えてもらわなければならない。
包帯の大蛇は、ガーゴイルを喰らい尽くす寸前だった。ウィルが出した蜃気楼の方はとっくに消え去り、実体の方も片翼と右前足をもぎ取られて、満身創痍だ。
「グゴォ!」
「ガアァア!」
ガーゴイルがせめて一太刀と繰り出した爪を、大蛇は悠々とかわした。返しの一撃で大木のような尾を打ち付けると、ガーゴイルはとうとう砕け散ってしまった。ガシャアアアン!
「きゃああ!」
ウィルのか細い悲鳴が聞こえてくる。くっ、ダメだったか……!
「ライラ!」
「わかってる!桜下、おねーちゃんに声を届けられない?ちょっとでいいの!」
「声を……?いや、わかった!アニ!」
俺はアニをひっつかむと、心の中でウィルに呼びかける。すぐにアニから、ぼうっと青い光が放たれた。
「おねーちゃんに伝えて!ライラが風を起こすから、それに合わせてって!」
「よし!」
詳しい事は分からなかったけど、俺はとにかく、そのままをウィルに伝えた。向こうでかすかに見えるウィルが、びくりと震えたのがわかった。伝わったみたいだな。
「伝えたぞ!」
「ありがとう!よぉーし……」
ライラは両手を合わせて、ぶつぶつと呪文を唱え始めた。どうやらライラは、ウィルと力を合わせて魔法を使うつもりらしい。ラミア戦の時に見せた、アルルカとのコンビネーションみたいなものだろうか?
「ウィンドローズ!」
ライラが叫ぶと、強い風が、地下空間に吹きわたった。塵が巻き上げられ、俺は顔を腕で覆う。
「トリコデルマ!」
すぐにウィルの声も響いてきた。ウィルが宙に放ったのは、真っ赤な粉状の火だ。前にも見たことがある、確かあれは、ものすごい高温なんだ。
ビュウウー!ライラの風は唸りながら、大蛇の周りで渦を巻き始める。するとそこに、ウィルが放った火の粉が吸い込まれ、次第に風を赤く染めていく。
「あ!あれは……!」
確か、マスカレードと戦った時に!あの時も、ウィルとライラは魔法を組み合わせて攻撃をしていた。あの時は不発に終わったが、今回は……
「やあああ!」
「はあああ!」
ゴオオオー!風が激しさを増すと、大量の酸素を得た火の粉が、より高温となって赤熱する。天井まで届きそうなほどの、巨大な深紅の竜巻だ。離れているここにまで、その熱量が伝わってくる。前に見た時より、火力が上がっている……!
炎の竜巻は、大蛇をすっぽりと飲み込んだ。ゴオオオォォォ!中で大蛇がもがく影が見えるが、竜巻はやつを捕えて離さない。風が渦巻く力で吸い込んでいるんだ。やがて、大蛇がいるあたりの床から、真っ白な液体がこぼれ始めた。ジュージューと煙を放つそれは、熱された金属のようだが……
ぐぐ、ゴゴゴゴ!突然大きな音がして、ずずんと何かが床に落ちた。それが大蛇を構成していた床材の一部だと気づいた時には、大蛇の体はボロボロと崩れ始めていた。
バアァー!炎の竜巻は、はじけるように唐突に消えた。熱風と火の粉があたりにばらまかれる。
竜巻のあった箇所は真っ黒に焦げ付き、もうもうと煙を放っていた。そこには、大蛇だった黒焦げのがれきの山と、白熱してでろりと溶けた金属だけが残されていた。
(でもこの金属、どこから出てきたんだ……?)
ひょっとして、鉄かなにかを噛ませていたから、あの包帯は異様な耐久性を持っていたのだろうか?てことは、ロウランは金属を自在に操れるのか。
「……ぷはあっ」
おっと!ぐらりと揺れたライラの肩を掴む。
「大丈夫か?でもやったぜ、ライラ!すごかったぞ!」
「へへへ、うん……おねーちゃんのおかげ。それに、いつものウィンドローズより、いっぱい魔力をこめたから……」
なるほど、だから前より威力が上がっていたのか。そのぶん、ライラの消耗も激しかったみたいだが。
「だけど、これで残るは、本体だけだ……!」
もうこれで、ロウランを守るものは、あの棺だけになった。
そのロウランは、燃え尽きた大蛇の残骸を前にしても、さほど驚いた様子を見せない。
「ふーん。あのコを倒すなんて、結構やるの」
ロウランは面白くなさそうに足を組みなおすと、手をぱんぱん!と叩いた。
「ま、それなら次は、魔法で捉えられないくらい小さくすればいいの。次はこのコで相手してあげる」
次、だと?すると、でろでろに溶けていた金属が、まるで意思を持つかのようにスルスルと、ロウランの下へと集まっていく。さらに、エラゼムに群がっていた包帯たちも一斉に引いて、彼女の下に戻った。何をする気だ……?
金属が冷えるにつれて、包帯がその表面に巻き付いていく。白から、鉄みたいな黒っぽい色になった金属は、ぐにぐにとアメーバのように形を変え、やがて人の形に……ロウランそっくりの姿になった。
「ほーら。カワイイでしょ?このコなら、もっと早く動かせるの♪」
ちっ、やっぱりまだあるのか……!けど、これはある意味予想通りだ。ライラだって、術者を何とかしないとしょうがないと言っていた。
(一瞬でいい、隙が作れれば……!)
鉄のロウラン人形は、ずしりと重い足音を響かせて、俺たちの方へ向かってくる。ライラはまだ息が荒く、とても迎撃できそうにない。エラゼムがぐっと剣を構えた。その時だ。
「やああぁ!」
飛び出してくる、銀色の影。フランだ!フランは思い切り拳を引くと、渾身のパンチを鉄人形へ打ち出す。だがそれに合わせて、鉄人形は上半身を百八十度捻って、カウンターのパンチを突き出した。両者の拳が、激突する。グワーーン!バキャァ!
「ぐわっ」
信じられない!パンチの衝撃で、床が割れてしまった。そのとてつもない衝撃は、両者の体を襲ったはずだ。痛みを感じないフランと、鉄人形。だが、あくまでもフランの体は、生身の肉体だ。
ブシッ!フランの腕から、真っ黒な血が噴き出した。うっ……対して、鉄人形にはなんのダメージもない。
「メギバレット!」
ドパァーン!鉄人形の脳天に、氷のつぶてがぶち当たった。人形の首がのけ反り、ぐにゃりとひん曲がったが、人形は手で頭を掴むと、ぐぐぐっと元に戻した。うえぇ、気持ち悪……
「チッ……やっぱりこの程度じゃ、びくともしないわね」
つぶてを放ったアルルカは、宙に浮かんだまま舌打ちして、杖をくるりと回した。よかった、やつも無事……とは、言い難いか。ここまでの戦闘で、あちこちボロボロだ。
フランは腕をかばいながら、バックステップで鉄人形と距離を取った。その隣にふわりとアルルカが降り立つ。
「チビ娘、苦戦してるみたいね」
「……そのチビってのが、もしもわたしのことなんだとしたら、今すぐぶっ飛ばしてあげるけど」
「いまぶっ飛ばすべきなのは、アレでしょうが。んで?勝算はあるわけ?」
「……殴り続けてれば、いずれ壊れる」
「ナシってわけね。はぁ、まあ場合によっちゃ、手を貸してあげてもいいわよ」
「……お前が?」
「あたしは高貴なるヴァンパイアよ?肉弾戦もこなせるわ。あたしとあんたでボコれば、二倍速く倒せるでしょ」
「……」
「なによ、その顔!言っとくけどね、あんたたちのためだと思わないことよ。友情ゴッコはごめんだわ。ただね、いい加減こんな陰気なとこおさらばして、あたしはゆっくり血を飲みたいの」
「……はぁ!もう、なんでもいい。わたしだって、お前なんかと友達になんかなりたくない。言っとくけど、邪魔だけはしないでよ」
「はん。その言葉、そっくりそのまま返すわ」
こ、これは……実に奇妙な共闘戦線だ。フランとアルルカの即席コンビだなんて……不安しかないが、今のこの状況は……
(チャンスだ)
俺は、肩で息をするライラに、そっと訊ねる。
「ライラ。あの、さっきの鉄を錆びさせるやつ。またできるか?」
「う……うん。できる……もうちょっと、魔力が戻れば……」
ライラはそう言うが……もうしばらくは掛かりそうだな。ライラだって、ラミア戦からこっち、一睡もせずに動き続けているんだ。体力だってとっくに限界だろう。無理はさせられない。ならやっぱり、俺が動くべきだ。
「……エラゼム、エラゼム」
俺はエラゼムの背中に、こっそりと呼びかける。
「……桜下殿?」
エラゼムも空気を察したのか、振り向かずに小声で返してくる。
「俺を、ロウランのもとまで連れて行ってくれないか。あの、棺の所まで」
「なんと……どのような意図かは測りかねますが、あまりに危険では?」
「承知の上だ。でも、今あいつが動かしているのは、あの鉄人形だけだろ。包帯も弾丸も無くなった、今がチャンスなんだ」
「……承知いたしました。それでも、奴に気付かれぬよう、慎重に進んでゆきましょう」
俺はうなずいた。どのみち、今の俺じゃダッシュは無理だ。
俺たちはまず、ゆっくりと横に移動して、戦いの余波でできたがれきの影に身を潜めた。そこにライラを隠すためだ。
「ライラ。お前はここで隠れて、魔力を回復してくれ」
「うん……桜下は?」
「俺は、ロウランの本体を叩いてみる。ただ、上手くいくかは分からない。もしダメだったら、そん時はお前が頼りだ。頼っても、いいか?」
「桜下……うん!」
ライラは決意の光を宿した瞳で、しっかりとうなずいた。頼もしいもんだ、まだこんなに小さいのに。俺はライラの肩をぽんと叩くと、がれきの影から身を起こして、エラゼムの背中に張り付いた。情けないが、時折ふらつく足を支えるために、こうせざるを得ない。
「それじゃあ、行こう。エラゼム」
「御意に」
俺たちはすり足で、ロウランへと近づき始めた。
つづく
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