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11章 夢の続き
13-5
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13-5
「ああぁぁぁ!」
「はあぁぁぁ!」
ガキィン!重い金属同士がぶつかり合うような音。フランが突き出した鉤爪を、ロウランの姿をした鉄人形が受け止めたのだ。すかさずアルルカが、がら空きの下半身目掛けて足払いを放つ。だが、鉄人形はぐにゃりとあり得ない角度で腕をひねると、フランの爪を外した。そして金属とは思えない身軽さで跳躍すると、アルルカの攻撃もかわした。
「チッ!」
アルルカが舌打ちをする。だが、まだ鉄人形の動作は終わっていない。
鉄人形は跳躍した格好のまま、体に巻き付けた包帯を伸ばして、フランの首に絡みつけた。フランがぐっと身構える。そのまま引っ張るのかと思いきや、鉄人形はあえて包帯を巻き取って、自身をフランの方へと引き付けた。
ガツッ!鉄人形の頭突きが、フランの顔面にクリーンヒットする。フランはたまらずよろめいたが、鉄人形は包帯をさらに引いて、フランを逃がさない。
「このっ!舐めんじゃないわよ!」
足払いをして姿勢を低くしていたアルルカが、足を振り上げようとする。が、鉄人形はこれにも超速度で反応した。足元にいるアルルカを踏み付けるように、踵落としを繰り出す。
「がはっ……!」
みぞおちを踏み付けられたアルルカごと、床がグシャっと砕けてしまった。なんて威力だ!
(くそ、耐えてくれ、二人とも!)
フランとアルルカの二人掛かりだってのに、あの鉄人形は化け物みたいな強さだ。だけどそのおかげで、ロウランを釘付けにできている。今がチャンスなんだ!
あの二人が戦っている間に、俺とエラゼムは、少しずつ、じりじりと、ロウランの背後に忍び寄っていった。
「ぐぅ……っそが!どきなさいよっ!バッカル、コーーーン!」
ザシャシャシャ!アルルカの絶叫と共に、周りの地面から無数の氷柱がせり出した。自らとフランもろとも吹っ飛ばした氷柱には、さしもの鉄人形も押しのけられる。そのすきにフランは包帯による拘束から脱出し、アルルカは宙に舞い上がった。
「スノウウィロウ!」
パキパキパキ!アルルカの持つ杖から、細長い氷の鞭が生成される。アルルカは鞭を大きくしならせ、ビューンと鉄人形目掛けて打ち付けた。すると鉄人形も、カウンター気味に包帯をアルルカ目掛けて放つ。
「くっ!」
すんでのところで、アルルカは包帯をよけた。だがそのせいで体勢を崩し、氷の鞭もまた、鉄人形からそれてしまった。
「やああぁぁ!」
鉄人形の注意が上に逸れたと見るや、氷柱の影から、フランが突撃を仕掛ける。ドゴォン!フランが鉄人形を殴りつけると、鉄骨をぶん殴ったような音がした。鉄人形は吹っ飛ばされ、氷柱に激突する。するとその衝撃で氷柱にひびが走った。フランが後ろに跳び退る。ぴしぴし、ミシミシミシ!
ガシャアアァァ。氷柱は氷の塊となって砕け、鉄人形はその下敷きになった。もうもうと白い霧が立ち込め、あたりが静かになる。
(……やった、のか?)
いいや、こういう時は、大抵……
シュシュシュシュ!突如、氷のがれきの中から、無数の包帯が飛び出してきた。フランはそれをよけようとしたが、怪我をした右腕の動きだけが遅れた。包帯が一斉にそこへ絡みつく。ベキ!メシ、ベキッ!三度にわたって、フランの腕があらぬ方向へ折れた。
「ッ!」
フランは右腕がもう使い物にならないと見るやいなや……ザシュッ!
あぁ!鉤爪で、自ら腕を切断してしまった。真っ黒な血がどろりと噴き出る。だがおかげで、フランは拘束から逃げることができた。
「ふふん。まずは、一本貰ったの♪」
ぽいっとフランの腕を投げ捨てると、ロウランは楽し気に笑う。ゲームで得点した時のように軽いノリだ。
「あなたもなかなか死なないみたいだけど、全部のパーツを取ったら、さすがに邪魔できないでしょ?そしたらようやく、旦那様と愛し合えるのー♪」
「ふざけるな!そんなこと、絶対にさせるもんか!」
フランは吠えると、再び走り出す。片腕を失ってなお、彼女の闘志は折れていない。頑張れ、フラン!もう少しで……
「それで……旦那様は、いったい何をする気なの?」
ぴたり。俺とエラゼムの足が止まった。
俺たちが立っているのは、ロウランのすぐ後ろ。ついに俺たちは、棺のすぐそばまでやって来たのだ。しかし……
「……気付いてたのか」
てっきり、フランたちに集中していると思っていたのに。ロウランは、背中を向けたまま話し続ける。
「まあね。でも、何をしても無駄だよ?この棺は、ちょっとやそっとじゃ壊せないの」
「……なるほどな。だから、無視してたってわけか?」
「あーん、そんなつれないこと言わないでほしいの。旦那様からこっちに来てくれるのに、拒む理由はないでしょう?」
けっ。ぶりっこしたって、騙されるもんか。だけど、油断してくれていた方がいい。その方が動きやすいぜ。
俺はそっと、腰もとへ手を伸ばした。
「確かに、あんたの棺は強固な盾だ」
「まあね。たぶん、何をしても無駄だと思うよ?」
「ああ。だが……その上に座っている、お前ならどうだ?」
「……?」
ロウランは振り向かないまま、首をかしげた。余裕そうに見えるけど、案外、こちらを振り返る余裕がないのかもしれないぞ?今もフランとアルルカは、鉄人形と死闘を繰り広げている。だからこそ……その無防備な背中を、斬ることができる!
シュルリーン!俺は腰のさやから、短剣を引き抜いた。夕焼けのような緋色の刃を持つ、ドワーフ謹製の剣。この剣の刃には、貴重なマナメタル・オリハルコンが使われている。これを打ったドワーフ、レググが言っていた。オリハルコンは、魔力と同調する性質があるのだと……
俺は剣を握った右手に、魔力を集中させた。ブウゥーン!すると刃が震え、そこから薄桃色のオーラがシュッと噴出した。オーラは刀身の倍ほどの長さに伸び、元の緋色と混ざり合って、紅色の剣のようになった。
(すげえ……こんな風になるのか)
初めてだったが、上手くいってよかった。エラゼムが驚いたように、俺の手元を見つめている。魔力を感じ取ったのか、ロウランもほんの少しだけ、首をこちらに傾けた。
「ふぅーん……それで一体、何をする気なの?」
「さてな。そいつは、見てからのお楽しみだ……!」
霊力の剣。こいつは俺の魔力と同じ、冥属性を持っている。冥は、アンデッドへ抜群の威力を発揮する属性だ。そいつを帯びた剣で、霊体とはいえ、体を斬りつけられたら。さしもの姫君でも、無事では済むまい……!
「喰らってみろ!」
俺はえいやと、剣をロウランの無防備な背中へと突き出した。ブスッ!
「っ」
一瞬、ロウランの動きが止まった。効いたのか!?
「……んふふふふ。それで?これで、終わりなの?」
な……ロウランは顔を半分だけこちらに向けると、からかうような視線で俺を見た。
(全く効いていない……!)
やっぱり、ただの分身体には効果がないのか。俺は茫然とした。目の前の姿がロウランの魂なのだとしたら、それを攻撃すれば、多少なりとも影響があると思ったのに……
(……魂?)
待てよ。魂だって?そういえば、変じゃないか。ロウランは、すさまじい強さを持ったアンデッドだ。今まで戦った相手の中でも、間違いなく五本の指には入る。
(なのに、俺はそれを、感じたか?)
フランや、エラゼム、ライラに、アルルカ。強い力を持ったアンデッドに直面した時、俺の魂はビリビリと震え、それを感じ取っていた。だというのに、ここに来てから一度も、それを感じていないじゃないか。目の前の霊体がロウランの魂なら、そんなことは絶対にありえない。と、いうことは……彼女の魂は、まだ本体に宿っている。この、堅牢な棺の中に。それを理解した時、俺の手は、自然と動き出していた。
(どれだけ分厚い壁だとしても、魔力の刃ならば……!)
ふと、ライラから聞いた話を思い出した。魔法には、名前が付けられて初めて、強い力が宿るのだという。ならば、俺も名を叫ぼう。
「喰らいやがれ!ソウル・ソーード!!!」
俺は渾身の力で、棺に剣を突き刺した。魔力の刀身は、見えない何かに阻まれるような抵抗を感じながらも、深く棺の中へと刺さった。
「うぎっ……!?」
びくんと、霊体のロウランが体を震えさせ、背中を丸める。ロウランは胸を押さえながら、こちらを振り返った。
「な、何を……した……」
「今だ!フラーーーン!」
俺はかまわず叫んだ。ロウランが苦しみだしたのと同じタイミングで、鉄人形のロウランもまた、動きを鈍らせたからだ。
「っ!」
俺の叫びを聞いたフランは、とっさに床から、何かを拾い上げた。それは、切り落とした自分の腕だ。フランはその鉤爪を、槍のように鉄人形に投げつけた。
「っ!まだなのっ!」
鉄人形は、ぎこちないながらも腕をクロスさせ、鉤爪をガードした。その一瞬のすきに、フランが懐へ飛び込む。対して鉄人形は、包帯を放って迎え撃とうとした。
「メギバレット!」
ダァーン!氷の弾丸によって、フランに伸びていた包帯は弾かれた。彼女の背後には、竜をかたどった杖を狙撃銃のように構えるアルルカがいた。
「やりなさい!チビ娘!」
「やれ!フラン!」
フランは左腕の鉤爪を、鉄人形へと振り下ろした。鉄人形は、クロスさせた腕でそれを受け止める。爪と腕が擦れ、真っ白な火花が散る。ギリギリギリ!
「まだあぁぁぁぁ!」
フランがさらに力をこめる。ジュウウゥゥゥ!鉄人形の腕から煙が上がり、徐々に溶け始めた。熱……?いや、違う。フランの鉤爪の、強力な腐食毒だ!
「あああああああぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!」
ずず、ずず。フランの紫色の鉤爪が、少しずつ鉄人形の腕に、体に食い込んでいく。そしてあるところを境に、爪は一気に下まで落ちた。ズシャァ!
「そんな……うそ、なの……」
フランの鉤爪が地面を打つ。引き裂かれた鉄人形は、三枚の薄い鉄の板になってしまった。三枚おろし……などという、くだらない事を言う暇もなく、鉄板はぐにゃりとひん曲がり、でろでろと溶け出した。今度はもう、動く気配はない。
「はっ、はっ……」
全力を出し切ったフランは、よろりと立ち上がった。そして、目の前にできた鉄色の水たまりを見て、ふんと小さく鼻を鳴らした。
「だから言ったんだ……殴ってれば、いつかは壊れるって」
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「チッ!」
アルルカが舌打ちをする。だが、まだ鉄人形の動作は終わっていない。
鉄人形は跳躍した格好のまま、体に巻き付けた包帯を伸ばして、フランの首に絡みつけた。フランがぐっと身構える。そのまま引っ張るのかと思いきや、鉄人形はあえて包帯を巻き取って、自身をフランの方へと引き付けた。
ガツッ!鉄人形の頭突きが、フランの顔面にクリーンヒットする。フランはたまらずよろめいたが、鉄人形は包帯をさらに引いて、フランを逃がさない。
「このっ!舐めんじゃないわよ!」
足払いをして姿勢を低くしていたアルルカが、足を振り上げようとする。が、鉄人形はこれにも超速度で反応した。足元にいるアルルカを踏み付けるように、踵落としを繰り出す。
「がはっ……!」
みぞおちを踏み付けられたアルルカごと、床がグシャっと砕けてしまった。なんて威力だ!
(くそ、耐えてくれ、二人とも!)
フランとアルルカの二人掛かりだってのに、あの鉄人形は化け物みたいな強さだ。だけどそのおかげで、ロウランを釘付けにできている。今がチャンスなんだ!
あの二人が戦っている間に、俺とエラゼムは、少しずつ、じりじりと、ロウランの背後に忍び寄っていった。
「ぐぅ……っそが!どきなさいよっ!バッカル、コーーーン!」
ザシャシャシャ!アルルカの絶叫と共に、周りの地面から無数の氷柱がせり出した。自らとフランもろとも吹っ飛ばした氷柱には、さしもの鉄人形も押しのけられる。そのすきにフランは包帯による拘束から脱出し、アルルカは宙に舞い上がった。
「スノウウィロウ!」
パキパキパキ!アルルカの持つ杖から、細長い氷の鞭が生成される。アルルカは鞭を大きくしならせ、ビューンと鉄人形目掛けて打ち付けた。すると鉄人形も、カウンター気味に包帯をアルルカ目掛けて放つ。
「くっ!」
すんでのところで、アルルカは包帯をよけた。だがそのせいで体勢を崩し、氷の鞭もまた、鉄人形からそれてしまった。
「やああぁぁ!」
鉄人形の注意が上に逸れたと見るや、氷柱の影から、フランが突撃を仕掛ける。ドゴォン!フランが鉄人形を殴りつけると、鉄骨をぶん殴ったような音がした。鉄人形は吹っ飛ばされ、氷柱に激突する。するとその衝撃で氷柱にひびが走った。フランが後ろに跳び退る。ぴしぴし、ミシミシミシ!
ガシャアアァァ。氷柱は氷の塊となって砕け、鉄人形はその下敷きになった。もうもうと白い霧が立ち込め、あたりが静かになる。
(……やった、のか?)
いいや、こういう時は、大抵……
シュシュシュシュ!突如、氷のがれきの中から、無数の包帯が飛び出してきた。フランはそれをよけようとしたが、怪我をした右腕の動きだけが遅れた。包帯が一斉にそこへ絡みつく。ベキ!メシ、ベキッ!三度にわたって、フランの腕があらぬ方向へ折れた。
「ッ!」
フランは右腕がもう使い物にならないと見るやいなや……ザシュッ!
あぁ!鉤爪で、自ら腕を切断してしまった。真っ黒な血がどろりと噴き出る。だがおかげで、フランは拘束から逃げることができた。
「ふふん。まずは、一本貰ったの♪」
ぽいっとフランの腕を投げ捨てると、ロウランは楽し気に笑う。ゲームで得点した時のように軽いノリだ。
「あなたもなかなか死なないみたいだけど、全部のパーツを取ったら、さすがに邪魔できないでしょ?そしたらようやく、旦那様と愛し合えるのー♪」
「ふざけるな!そんなこと、絶対にさせるもんか!」
フランは吠えると、再び走り出す。片腕を失ってなお、彼女の闘志は折れていない。頑張れ、フラン!もう少しで……
「それで……旦那様は、いったい何をする気なの?」
ぴたり。俺とエラゼムの足が止まった。
俺たちが立っているのは、ロウランのすぐ後ろ。ついに俺たちは、棺のすぐそばまでやって来たのだ。しかし……
「……気付いてたのか」
てっきり、フランたちに集中していると思っていたのに。ロウランは、背中を向けたまま話し続ける。
「まあね。でも、何をしても無駄だよ?この棺は、ちょっとやそっとじゃ壊せないの」
「……なるほどな。だから、無視してたってわけか?」
「あーん、そんなつれないこと言わないでほしいの。旦那様からこっちに来てくれるのに、拒む理由はないでしょう?」
けっ。ぶりっこしたって、騙されるもんか。だけど、油断してくれていた方がいい。その方が動きやすいぜ。
俺はそっと、腰もとへ手を伸ばした。
「確かに、あんたの棺は強固な盾だ」
「まあね。たぶん、何をしても無駄だと思うよ?」
「ああ。だが……その上に座っている、お前ならどうだ?」
「……?」
ロウランは振り向かないまま、首をかしげた。余裕そうに見えるけど、案外、こちらを振り返る余裕がないのかもしれないぞ?今もフランとアルルカは、鉄人形と死闘を繰り広げている。だからこそ……その無防備な背中を、斬ることができる!
シュルリーン!俺は腰のさやから、短剣を引き抜いた。夕焼けのような緋色の刃を持つ、ドワーフ謹製の剣。この剣の刃には、貴重なマナメタル・オリハルコンが使われている。これを打ったドワーフ、レググが言っていた。オリハルコンは、魔力と同調する性質があるのだと……
俺は剣を握った右手に、魔力を集中させた。ブウゥーン!すると刃が震え、そこから薄桃色のオーラがシュッと噴出した。オーラは刀身の倍ほどの長さに伸び、元の緋色と混ざり合って、紅色の剣のようになった。
(すげえ……こんな風になるのか)
初めてだったが、上手くいってよかった。エラゼムが驚いたように、俺の手元を見つめている。魔力を感じ取ったのか、ロウランもほんの少しだけ、首をこちらに傾けた。
「ふぅーん……それで一体、何をする気なの?」
「さてな。そいつは、見てからのお楽しみだ……!」
霊力の剣。こいつは俺の魔力と同じ、冥属性を持っている。冥は、アンデッドへ抜群の威力を発揮する属性だ。そいつを帯びた剣で、霊体とはいえ、体を斬りつけられたら。さしもの姫君でも、無事では済むまい……!
「喰らってみろ!」
俺はえいやと、剣をロウランの無防備な背中へと突き出した。ブスッ!
「っ」
一瞬、ロウランの動きが止まった。効いたのか!?
「……んふふふふ。それで?これで、終わりなの?」
な……ロウランは顔を半分だけこちらに向けると、からかうような視線で俺を見た。
(全く効いていない……!)
やっぱり、ただの分身体には効果がないのか。俺は茫然とした。目の前の姿がロウランの魂なのだとしたら、それを攻撃すれば、多少なりとも影響があると思ったのに……
(……魂?)
待てよ。魂だって?そういえば、変じゃないか。ロウランは、すさまじい強さを持ったアンデッドだ。今まで戦った相手の中でも、間違いなく五本の指には入る。
(なのに、俺はそれを、感じたか?)
フランや、エラゼム、ライラに、アルルカ。強い力を持ったアンデッドに直面した時、俺の魂はビリビリと震え、それを感じ取っていた。だというのに、ここに来てから一度も、それを感じていないじゃないか。目の前の霊体がロウランの魂なら、そんなことは絶対にありえない。と、いうことは……彼女の魂は、まだ本体に宿っている。この、堅牢な棺の中に。それを理解した時、俺の手は、自然と動き出していた。
(どれだけ分厚い壁だとしても、魔力の刃ならば……!)
ふと、ライラから聞いた話を思い出した。魔法には、名前が付けられて初めて、強い力が宿るのだという。ならば、俺も名を叫ぼう。
「喰らいやがれ!ソウル・ソーード!!!」
俺は渾身の力で、棺に剣を突き刺した。魔力の刀身は、見えない何かに阻まれるような抵抗を感じながらも、深く棺の中へと刺さった。
「うぎっ……!?」
びくんと、霊体のロウランが体を震えさせ、背中を丸める。ロウランは胸を押さえながら、こちらを振り返った。
「な、何を……した……」
「今だ!フラーーーン!」
俺はかまわず叫んだ。ロウランが苦しみだしたのと同じタイミングで、鉄人形のロウランもまた、動きを鈍らせたからだ。
「っ!」
俺の叫びを聞いたフランは、とっさに床から、何かを拾い上げた。それは、切り落とした自分の腕だ。フランはその鉤爪を、槍のように鉄人形に投げつけた。
「っ!まだなのっ!」
鉄人形は、ぎこちないながらも腕をクロスさせ、鉤爪をガードした。その一瞬のすきに、フランが懐へ飛び込む。対して鉄人形は、包帯を放って迎え撃とうとした。
「メギバレット!」
ダァーン!氷の弾丸によって、フランに伸びていた包帯は弾かれた。彼女の背後には、竜をかたどった杖を狙撃銃のように構えるアルルカがいた。
「やりなさい!チビ娘!」
「やれ!フラン!」
フランは左腕の鉤爪を、鉄人形へと振り下ろした。鉄人形は、クロスさせた腕でそれを受け止める。爪と腕が擦れ、真っ白な火花が散る。ギリギリギリ!
「まだあぁぁぁぁ!」
フランがさらに力をこめる。ジュウウゥゥゥ!鉄人形の腕から煙が上がり、徐々に溶け始めた。熱……?いや、違う。フランの鉤爪の、強力な腐食毒だ!
「あああああああぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!」
ずず、ずず。フランの紫色の鉤爪が、少しずつ鉄人形の腕に、体に食い込んでいく。そしてあるところを境に、爪は一気に下まで落ちた。ズシャァ!
「そんな……うそ、なの……」
フランの鉤爪が地面を打つ。引き裂かれた鉄人形は、三枚の薄い鉄の板になってしまった。三枚おろし……などという、くだらない事を言う暇もなく、鉄板はぐにゃりとひん曲がり、でろでろと溶け出した。今度はもう、動く気配はない。
「はっ、はっ……」
全力を出し切ったフランは、よろりと立ち上がった。そして、目の前にできた鉄色の水たまりを見て、ふんと小さく鼻を鳴らした。
「だから言ったんだ……殴ってれば、いつかは壊れるって」
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