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12章 負けられない闘い
4-2
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戸口に立っているターバンの男は、恭しく礼をした。俺が大慌てで仮面をかぶると、フランが眉をひそめて問い返す。
「それ、どういう意味?」
「ライカニール帝は、勇者殿を今夜の夕食の席にご招待したいと申しております。ぜひご出席くださいませ」
ゆ、夕食の席だって……?俺が明らかにうろたえたのを見て、フランが首を振る。
「……この人、夜は自分で用意したものしか食べないの。宗教上の理由で」
もちろん嘘だが、方便だ。
「そうでございましたか。それでは、かわりにデザートをお持ちしましょう。女帝は勇者殿と、もっと深く語らいたいとおっしゃられております。さきほどは兵士の方が大勢いらっしゃいましたから」
男は全くへこたれない。おいおいおい……ヘイズたちが一緒ならともかく、俺だけでだと?冗談じゃないぞ……とは、とても言えなかった。ここで女帝の機嫌を損ねたら、明日のエドガーの治療に障るかもしれない。しぶしぶだが、俺はうなずく。
「ただ、仲間たちはいっしょでいいですよね?」
「かしこまりました。ですが、女帝の前で武器を携えることはご遠慮ください。できましたら、鎧も脱いでいただきたいのですが……」
男がちらりとエラゼムを見る。だが、それは無理だ。彼の鎧の中身は空っぽなのだから。
「えぇーっと、彼はほら、ちょっと事情があるっていうか……このままで行かせてもらえると助かるんですけど」
「そうですか……承知しました。ご判断をされるのは、あくまで女帝ですから」
嫌な言い回しだ。遠回しに、女帝様が怒っても知らないぞ?と言っているようなもんだな。来いと言ったのはそっちのくせに……
「では、後ほどお迎えにあがります。それまで、ごゆるりとお過ごしください」
音は再び恭しく礼をして、部屋を出て行った。
「……こんな気分で、休めるかよ」
こんな時に限って、時間は早く過ぎる。夜はあっという間にやって来てしまった。
コン、コン。
「みなさま、ご準備はよろしいでしょうか」
ああ、ついにこの時がきたか……俺とエラゼムは、それぞれの剣を外した。そして扉を開ける。昼間も見た臣下の男が、そこに立っていた。
「それでは、まいりましょう」
男に連れられて、俺たちは部屋を出る。レストハウスを出るとき、玄関ホールにいた何人かの兵士がこちらを振り返った。勝手に外に行くなと止めて欲しかったが、彼らは物珍しそうに俺たちを眺めているだけだった。ターバン男がいるから、止める必要はないと判断されたんだろう……
男は王宮の中へ入っていく。夜になると、廊下のあちこちの燭台に火がともされている。庭園にはかがり火が置かれ、噴水がきらきらと明かりを受けていた。そんな廊下を何本も渡り、角を何べんも曲がって……一つの広間の扉の前で、男は立ち止まった。扉を静かにノックする。コン、コン。
「ライカニール帝。お客人をお連れ致しました」
「入れ」
男が広間への扉を開いて、中に入るよう促す。ひえー、ライオンの穴倉に飛び込む気分だ……
広間は一面にじゅうたんが敷かれていて、テーブルはなかった。床にじかに皿が置かれ、食べ物や果物、酒の入った瓶が置かれている。それらに囲まれて、ライカニール帝と、四人の男たちがくつろいでいた。女帝に関しては床に寝そべっている。
「おお、来たか、勇者殿。さあ、どこにでも座ってくれ」
どこでもだって?じゃあ、入り口に一番近いその辺にでも……思わず腰を下ろしかけた俺の尻を、フランががしっと掴む。
(さすがにそれはまずいでしょ)
お、おぉ、その通りだ。気を取り直すと、女帝のそばまでにじり寄っていく。
失礼には当たらず、さりとてそれなりの距離感を保ったところで、俺は腰を下ろした。俺たちが座ると、すぐさま給仕係が皿をいくつも運んでくる。みずみずしいブドウ、カラフルなゼリー、驚くことにアイスクリームまである。どうやって作ったんだろう?
「ふむ、そなたたちは確か、宗教上の理由で夕食を食べられんのだな?すまんすまん、そちらの国の事情をすっかり失念していた」
「いえ……マイナーな宗教なんで」
俺の前に並べられたのがデザートばかりなのを見て、女帝はぺしっとひたいを打った。きちんと床に座りなおすと、酒の瓶をずいっとこちらに押しやる。
「勇者殿は、酒は嗜まれるのか?我が国の葡萄酒はうまいぞ」
「えっ。いえ、未成年なんで、酒は……」
「おや?二の国では酒に関しても厳しかったか」
女帝は首をかしげて、瓶を引っ込める。こっちの世界の法律は知らないが、今は遠慮しておきたい。前にみんなで酒を飲んだ時のことは、あまりいい思い出じゃないし。
「ふぅむ、酒も飲めん、飯も食べんとなると、なかなか物悲しいな。我が国の美点の一つが、食の味だというのに……」
おっと、機嫌を損ねたか……?だが女帝は、すぐにぱしっと膝を叩いた。
「まあよい。せめて甘味だけでも味わっていくがよい。どれもうまいぞ」
「ど、どうも。それじゃ……」
俺は遠慮がちに、目の前のブドウを一つまみした。粒は大きいし、香りもいい。だが、緊張で味なんかわかりゃしない。
俺は仮面のすき間から口に含み、もぐもぐ咀嚼しながら、大げさにうなずいて見せた。幸い、女帝は満足してくれたようだ。
「うむ。さてと、今夜そなたを呼んだのは……と、その前に、名を名乗っていなかったな。余は、ノロ・カンダル・ライカニール。ライカニール帝国の十八代目皇帝だ」
そう言って、女帝……ノロは、次はお前だとばかりに俺を見た。流石に名乗らないわけにはいかないから……
「ええっと……俺は、桜下っていいます。こっちは旅の仲間です」
俺は仲間たちを、手で示すだけで紹介した。余計な情報を与えることもないだろう。こういう場面では、基本的に仲間たちは俺に任せっきりで、口を開かない。今更気付いたけど、そうすることで俺を立てていてくれたんだろう。
「うむ。では桜下、改めて歓迎しよう。ようこそ我が国へ」
「あ、はい。どうも……」
それはそうと、ノロの周りにいる四人の男は何なんだろう?男たちは他の臣下とは違って、鮮やかな色付きの服を着ている。ノロと同じ席についていることからも、普通の家臣じゃないことは明らかだが……俺の視線に気づいたのか、ノロは男たちを手で示した。
「ああ、紹介がまだだったな。こやつらは、余の夫たちだ」
「……夫、たち?」
なぜ複数形?普通なら一人だろ?しかし、ノロは当然だとばかりにうなずく。
「そうだ。そちらの国では夫婦というものは、一対一のつがいを指すらしいな?だが、我が国ではそんな縛りはない。富めるものは多くの家族を養うのが普通だ。ましてやこの国の頂点である余ともなれば、四人という数はむしろ最低限であろう」
さ、最低限……俺はノロの夫だという、四人の男たちを順に見た。四人とも、それが当然という顔をしている。嫌悪感だとか、不快感みたいなものは、欠片も感じ取れない……ノロは男たちを一人ずつ紹介していく。
「この筋骨隆々なのがエドワード。余の初めの夫だ。次がショーン、こやつの体もなかなかだろう」
紹介を受けた二人は、にこやかに微笑んだ。なるほど、体も締まっているし、顔もいい。男顔負けの筋肉を持つノロとはいいカップルだ。ただ、残りの二人はそうでもないぞ。一人は小太りで、もう一人は逆にひょろっとしている。俺が言うのもアレだが、どちらもイケメンとは言えないだろう。
ノロが小太りの男を指さす。
「こやつはダング。何といっても、こやつは天才的な音楽の才能の持ち主だ。大陸でも有数の吟遊詩人だと自信を持って言えるぞ」
小太りのダングは照れ臭そうに微笑んだ。はえー、なるほど。じゃあきっと、歌もうまいんだろうな。確かにオペラ歌手とかって、太めの人が多い印象だ。となると、最後の痩せぎすも、何かの才能に秀でるパターンだろうか?
「そして最後が、アンディだ。こやつは芸術に優れるわけでも、眉目秀麗なわけでもない」
え、そうなの?ノロが続きを口にする。
「だが、こやつはとんでもないイチモツの持ち主だ」
ぶほっ。ま、まずい。噴き出しそうになった。聞き間違いじゃないよな?ひょろながのアンディは誇らしげに胸を張っている。
「こいつのソレは、なかなかに女泣かせだぞ。ハッハッハ、アレに貫かれれば、大抵の女はイチコロだろう。しかもこやつは、女の体を熟知していてな。流石の余でも、ものの数刻でぐずぐずにされたものだわ」
「……」
な、何といったらいいものか……俺は答えに困って、仲間たちを見た。フランは眉をひそめているが、ほんのりと頬が色付いている。ウィルは隠しもせずに大口を開けていた。エラゼムはうつむいて、沈黙。ライラはきょとんとしている。アルルカはさぞ面白そうに、男たちを眺めていた。
「……素晴らしい方たちなんですね」
「ああ。四人とも、余を飽きさせない。余はこやつらを愛し、こやつらは余を愛する。帝の愛は公平だ。いい飯を食い、いい芸術に心動かし、いい男たちを抱く。これぞ頂点に立つ者の寵愛というものだ」
な、なんというか……この人は、アレだな。ロアとも、シリス大公とも違うタイプの、だが呆れるほどに王様タイプの人間だ。ノロが金色のコップを掲げると、すかさず夫の一人が瓶をもって、酒を注いだ。それをノロは一息に飲み干す。
「ぷはっ。さて、桜下と言ったな。そなた、皇帝とはどんな人物だと思う?」
「え?」
なんだいきなり?なんて答えるのが正解だ?俺はとっさに思考を巡らせ……
「……あなたのような人の事じゃないですか?」
「ほぅ?ふはっは、なかなかうまい返しだ。その通り、余のようなものが皇帝たり得るものだ。余の愛は深くあまねく、それが光となってこの国を照らしている。帝の懐が知れるようでは、その国の未来などたかが知れておるわ」
「は、はあ」
「それはおぬしたち他国の者にも同じ。助けを求めて頭を下げてきたものに対して、余はたとえ異なる国の人間であろうとも、等しく愛を届けよう」
「それは、どうも……」
さっきから、いったい何が言いたいんだろう?自分はこれだけすごい人物なんだぞと、自慢がしたいのか?ノロは皿から真っ赤なリンゴを取ると、豪快にそれにかぶりついた。果汁があごを伝い、胸元に垂れる。
「んぐ。だがな桜下。いくら照らそうと、陰にこそこそ隠れられては、光は届かぬ。余はそなたたちを助けてやりたいが、どこの誰ともわからぬ相手には、さすがに手の施しようがない」
ギクッ。どこの誰ともわからない、だって?俺たちはさっき、自己紹介を済ませている。つまりそれは、単に名を名乗るということではなくて……
ノロは腕で口元を拭うと、俺を鋭い視線で見つめた。
「そなた、そろそろその不格好な仮面を取ったらどうだ」
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「それ、どういう意味?」
「ライカニール帝は、勇者殿を今夜の夕食の席にご招待したいと申しております。ぜひご出席くださいませ」
ゆ、夕食の席だって……?俺が明らかにうろたえたのを見て、フランが首を振る。
「……この人、夜は自分で用意したものしか食べないの。宗教上の理由で」
もちろん嘘だが、方便だ。
「そうでございましたか。それでは、かわりにデザートをお持ちしましょう。女帝は勇者殿と、もっと深く語らいたいとおっしゃられております。さきほどは兵士の方が大勢いらっしゃいましたから」
男は全くへこたれない。おいおいおい……ヘイズたちが一緒ならともかく、俺だけでだと?冗談じゃないぞ……とは、とても言えなかった。ここで女帝の機嫌を損ねたら、明日のエドガーの治療に障るかもしれない。しぶしぶだが、俺はうなずく。
「ただ、仲間たちはいっしょでいいですよね?」
「かしこまりました。ですが、女帝の前で武器を携えることはご遠慮ください。できましたら、鎧も脱いでいただきたいのですが……」
男がちらりとエラゼムを見る。だが、それは無理だ。彼の鎧の中身は空っぽなのだから。
「えぇーっと、彼はほら、ちょっと事情があるっていうか……このままで行かせてもらえると助かるんですけど」
「そうですか……承知しました。ご判断をされるのは、あくまで女帝ですから」
嫌な言い回しだ。遠回しに、女帝様が怒っても知らないぞ?と言っているようなもんだな。来いと言ったのはそっちのくせに……
「では、後ほどお迎えにあがります。それまで、ごゆるりとお過ごしください」
音は再び恭しく礼をして、部屋を出て行った。
「……こんな気分で、休めるかよ」
こんな時に限って、時間は早く過ぎる。夜はあっという間にやって来てしまった。
コン、コン。
「みなさま、ご準備はよろしいでしょうか」
ああ、ついにこの時がきたか……俺とエラゼムは、それぞれの剣を外した。そして扉を開ける。昼間も見た臣下の男が、そこに立っていた。
「それでは、まいりましょう」
男に連れられて、俺たちは部屋を出る。レストハウスを出るとき、玄関ホールにいた何人かの兵士がこちらを振り返った。勝手に外に行くなと止めて欲しかったが、彼らは物珍しそうに俺たちを眺めているだけだった。ターバン男がいるから、止める必要はないと判断されたんだろう……
男は王宮の中へ入っていく。夜になると、廊下のあちこちの燭台に火がともされている。庭園にはかがり火が置かれ、噴水がきらきらと明かりを受けていた。そんな廊下を何本も渡り、角を何べんも曲がって……一つの広間の扉の前で、男は立ち止まった。扉を静かにノックする。コン、コン。
「ライカニール帝。お客人をお連れ致しました」
「入れ」
男が広間への扉を開いて、中に入るよう促す。ひえー、ライオンの穴倉に飛び込む気分だ……
広間は一面にじゅうたんが敷かれていて、テーブルはなかった。床にじかに皿が置かれ、食べ物や果物、酒の入った瓶が置かれている。それらに囲まれて、ライカニール帝と、四人の男たちがくつろいでいた。女帝に関しては床に寝そべっている。
「おお、来たか、勇者殿。さあ、どこにでも座ってくれ」
どこでもだって?じゃあ、入り口に一番近いその辺にでも……思わず腰を下ろしかけた俺の尻を、フランががしっと掴む。
(さすがにそれはまずいでしょ)
お、おぉ、その通りだ。気を取り直すと、女帝のそばまでにじり寄っていく。
失礼には当たらず、さりとてそれなりの距離感を保ったところで、俺は腰を下ろした。俺たちが座ると、すぐさま給仕係が皿をいくつも運んでくる。みずみずしいブドウ、カラフルなゼリー、驚くことにアイスクリームまである。どうやって作ったんだろう?
「ふむ、そなたたちは確か、宗教上の理由で夕食を食べられんのだな?すまんすまん、そちらの国の事情をすっかり失念していた」
「いえ……マイナーな宗教なんで」
俺の前に並べられたのがデザートばかりなのを見て、女帝はぺしっとひたいを打った。きちんと床に座りなおすと、酒の瓶をずいっとこちらに押しやる。
「勇者殿は、酒は嗜まれるのか?我が国の葡萄酒はうまいぞ」
「えっ。いえ、未成年なんで、酒は……」
「おや?二の国では酒に関しても厳しかったか」
女帝は首をかしげて、瓶を引っ込める。こっちの世界の法律は知らないが、今は遠慮しておきたい。前にみんなで酒を飲んだ時のことは、あまりいい思い出じゃないし。
「ふぅむ、酒も飲めん、飯も食べんとなると、なかなか物悲しいな。我が国の美点の一つが、食の味だというのに……」
おっと、機嫌を損ねたか……?だが女帝は、すぐにぱしっと膝を叩いた。
「まあよい。せめて甘味だけでも味わっていくがよい。どれもうまいぞ」
「ど、どうも。それじゃ……」
俺は遠慮がちに、目の前のブドウを一つまみした。粒は大きいし、香りもいい。だが、緊張で味なんかわかりゃしない。
俺は仮面のすき間から口に含み、もぐもぐ咀嚼しながら、大げさにうなずいて見せた。幸い、女帝は満足してくれたようだ。
「うむ。さてと、今夜そなたを呼んだのは……と、その前に、名を名乗っていなかったな。余は、ノロ・カンダル・ライカニール。ライカニール帝国の十八代目皇帝だ」
そう言って、女帝……ノロは、次はお前だとばかりに俺を見た。流石に名乗らないわけにはいかないから……
「ええっと……俺は、桜下っていいます。こっちは旅の仲間です」
俺は仲間たちを、手で示すだけで紹介した。余計な情報を与えることもないだろう。こういう場面では、基本的に仲間たちは俺に任せっきりで、口を開かない。今更気付いたけど、そうすることで俺を立てていてくれたんだろう。
「うむ。では桜下、改めて歓迎しよう。ようこそ我が国へ」
「あ、はい。どうも……」
それはそうと、ノロの周りにいる四人の男は何なんだろう?男たちは他の臣下とは違って、鮮やかな色付きの服を着ている。ノロと同じ席についていることからも、普通の家臣じゃないことは明らかだが……俺の視線に気づいたのか、ノロは男たちを手で示した。
「ああ、紹介がまだだったな。こやつらは、余の夫たちだ」
「……夫、たち?」
なぜ複数形?普通なら一人だろ?しかし、ノロは当然だとばかりにうなずく。
「そうだ。そちらの国では夫婦というものは、一対一のつがいを指すらしいな?だが、我が国ではそんな縛りはない。富めるものは多くの家族を養うのが普通だ。ましてやこの国の頂点である余ともなれば、四人という数はむしろ最低限であろう」
さ、最低限……俺はノロの夫だという、四人の男たちを順に見た。四人とも、それが当然という顔をしている。嫌悪感だとか、不快感みたいなものは、欠片も感じ取れない……ノロは男たちを一人ずつ紹介していく。
「この筋骨隆々なのがエドワード。余の初めの夫だ。次がショーン、こやつの体もなかなかだろう」
紹介を受けた二人は、にこやかに微笑んだ。なるほど、体も締まっているし、顔もいい。男顔負けの筋肉を持つノロとはいいカップルだ。ただ、残りの二人はそうでもないぞ。一人は小太りで、もう一人は逆にひょろっとしている。俺が言うのもアレだが、どちらもイケメンとは言えないだろう。
ノロが小太りの男を指さす。
「こやつはダング。何といっても、こやつは天才的な音楽の才能の持ち主だ。大陸でも有数の吟遊詩人だと自信を持って言えるぞ」
小太りのダングは照れ臭そうに微笑んだ。はえー、なるほど。じゃあきっと、歌もうまいんだろうな。確かにオペラ歌手とかって、太めの人が多い印象だ。となると、最後の痩せぎすも、何かの才能に秀でるパターンだろうか?
「そして最後が、アンディだ。こやつは芸術に優れるわけでも、眉目秀麗なわけでもない」
え、そうなの?ノロが続きを口にする。
「だが、こやつはとんでもないイチモツの持ち主だ」
ぶほっ。ま、まずい。噴き出しそうになった。聞き間違いじゃないよな?ひょろながのアンディは誇らしげに胸を張っている。
「こいつのソレは、なかなかに女泣かせだぞ。ハッハッハ、アレに貫かれれば、大抵の女はイチコロだろう。しかもこやつは、女の体を熟知していてな。流石の余でも、ものの数刻でぐずぐずにされたものだわ」
「……」
な、何といったらいいものか……俺は答えに困って、仲間たちを見た。フランは眉をひそめているが、ほんのりと頬が色付いている。ウィルは隠しもせずに大口を開けていた。エラゼムはうつむいて、沈黙。ライラはきょとんとしている。アルルカはさぞ面白そうに、男たちを眺めていた。
「……素晴らしい方たちなんですね」
「ああ。四人とも、余を飽きさせない。余はこやつらを愛し、こやつらは余を愛する。帝の愛は公平だ。いい飯を食い、いい芸術に心動かし、いい男たちを抱く。これぞ頂点に立つ者の寵愛というものだ」
な、なんというか……この人は、アレだな。ロアとも、シリス大公とも違うタイプの、だが呆れるほどに王様タイプの人間だ。ノロが金色のコップを掲げると、すかさず夫の一人が瓶をもって、酒を注いだ。それをノロは一息に飲み干す。
「ぷはっ。さて、桜下と言ったな。そなた、皇帝とはどんな人物だと思う?」
「え?」
なんだいきなり?なんて答えるのが正解だ?俺はとっさに思考を巡らせ……
「……あなたのような人の事じゃないですか?」
「ほぅ?ふはっは、なかなかうまい返しだ。その通り、余のようなものが皇帝たり得るものだ。余の愛は深くあまねく、それが光となってこの国を照らしている。帝の懐が知れるようでは、その国の未来などたかが知れておるわ」
「は、はあ」
「それはおぬしたち他国の者にも同じ。助けを求めて頭を下げてきたものに対して、余はたとえ異なる国の人間であろうとも、等しく愛を届けよう」
「それは、どうも……」
さっきから、いったい何が言いたいんだろう?自分はこれだけすごい人物なんだぞと、自慢がしたいのか?ノロは皿から真っ赤なリンゴを取ると、豪快にそれにかぶりついた。果汁があごを伝い、胸元に垂れる。
「んぐ。だがな桜下。いくら照らそうと、陰にこそこそ隠れられては、光は届かぬ。余はそなたたちを助けてやりたいが、どこの誰ともわからぬ相手には、さすがに手の施しようがない」
ギクッ。どこの誰ともわからない、だって?俺たちはさっき、自己紹介を済ませている。つまりそれは、単に名を名乗るということではなくて……
ノロは腕で口元を拭うと、俺を鋭い視線で見つめた。
「そなた、そろそろその不格好な仮面を取ったらどうだ」
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