じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
460 / 860
12章 負けられない闘い

5-2

しおりを挟む
5-2



月の神殿からの帰り道を歩きながら、俺は頭を抱えた。

「なんか、次から次に面倒ごとが増えてくな……なんだってあの聖女様は、俺と話がしたいんだ?」

するとフランが、さも面白くなさそうに言う。

「あんがい、一目ぼれとかなんじゃないの」

「いや、俺仮面付けてるだろが……ん、待てよ。確かあの神殿って、昔に召喚された勇者がいるって話だったよな」

「勇者?」

フランが怪訝そうに首をかしげる。するとエラゼムが俺たちの隣に並んだ。

「確かに。以前ラクーンの町を訪れた際に、アニ殿がおっしゃっていましたな」

「だよな。ひょっとして、さっきの聖女様がその勇者なんじゃないか?」

勇者の能力だとしたら、奇跡の力が使える事にも、多少は納得できる。いろいろと規格外の連中が多いのが、勇者ってものだから。

「てことは……あの人も勇者だから、俺と話したがってたってことか。そう考えれば、同僚みたいなもんだしな」

「同僚……」

フランがつぶやくと、ようやく顔から険が取れた。やれやれ。

「勇者……あの女性も、かつて召喚された人ってことですね」

ウィルが後ろの神殿を振り返りながら言う。

「でも私、まだ信じられないんです。だって、あの人は昨日、確かに年老いていました。それなのに……」

「ああ、うん。俺も驚いたよ。信じられないのも一緒だけど、この目でしかと見ちゃったしな……」

すると、仲間たちも一斉にうなずいた。やっぱりこの世界においても、若返りはそうそうあり得ないことらしい。

「あの人も勇者で、しかも光の魔力ってのを持ってるんだよな。光の魔力は、奇跡に例えられるって言うけれど」

歩いていると、庭園の花壇に差し掛かった。色とりどりの花は、どれも生き生きとしていて美しい。だが、色は匂えど散りぬるを。花もいつかは枯れるものだ。花壇の片隅では、庭師たちが萎れた花を引き抜き、新しい株に植え替えていた。

「……とてつもない力をもってすれば、時の流れすらも、巻き戻すことができるんでしょうか……」

ウィルが花々を見ながらつぶやく。時の流れを……俺は何も言えなかった。もしもそんなことが叶うとして、その時……みんなは何を望むのだろう?
しばらく歩いて、ようやくレストハウスが見えてきた。あれ?玄関先に一人の少女が立っている。濃い茶色の髪の、ショートカットの女の子だ。誰だろう?見知らぬだが……その少女は俺たちをちらりと見ると、先に中へ入っていってしまった。臣下の男がこちらを振り向く。

「皆様。今回治療なされた方には、今しばらくの休養が必要でしょう。ですがご安心ください。ライカニール帝は、病人が完治されるまで、こちらにお泊りになってもよいとおっしゃっておいでです」

「それは……ご配慮いただきありがとうございます。皇帝閣下にもそうお伝えください」

ヘイズが礼を返す。ふぅ、するとしばらくは、ここに泊まることになるのか。だがまあ、あの状態のエドガーに無理はさせられないか。とりあえずやることがなくなったので、俺たちは自分たちの部屋に戻ることにした。

「しばらくはここに缶詰めかぁ。せめて町の宿に泊まれたらな。ここじゃいつでも女帝の目が届きそうで、気が気じゃないよ」

廊下を歩きながら文句を言うと、フランがこくりとうなずく。

「あの人、絶対ロクなこと考えてないよ。調子のいい事ばっかり言ってるけど、そうじゃなかったらわざわざ勇者を呼びつけたりしないはずでしょ」

「そうだよなぁ。でも、何考えてるんだろ。この国にはさっきの聖女様と、あのクラークがいるんだぜ。勇者の手は十分足りてそうなのに、どうしてわざわざ二の国の勇者まで……」

「……二の国の、勇者?」

は?その声は、廊下の反対側から聞こえてきた。振り返ってみれば、廊下の突き当りに一人の少女が立っている。あ、あの娘。さっき玄関にいた娘じゃないか?

「えぇっと……?」

「二の国の、勇者と言ったか?」

「え。はい、そうっすけど……」

すると少女は、フゥーっと長いため息をついた。なんだ、失礼だな。むっとした、その時……ぞわわ!全身に鳥肌が立った。こ、これは……今まで何度か感じたことがある。殺気、ってやつだ。

「下がって!」

フランが俺を押し戻す。彼女も異変を感じたようだ。その瞳は、まっすぐ少女を睨みつけている。すると少女は、両手を腰元へと伸ばした。腰には、二本の剣が見える……え、嘘だろ。抜く気か?

「ッ」

一瞬だった。少女は双剣を抜いたかと思うと、背を低くかがめ、猛スピードでこちらに迫ってきた。あまりの速さに、俺は声を掛けることすらできなかった。少女の双剣が翻る。それをフランが鉤爪で迎え撃った。ガキィン!

「お前、一体何のつもり!?」

フランが叫んでも、少女は一切口を開かない。足を振り上げてフランの腕を跳ね上げると、無防備な胴体を切りつけようとする。だが、それはフランを甘く見過ぎだ。フランはお返しだとばかりに自分も足を上げ、サマーソルトキックを放った。少女はとっさに剣を交差させて防御したが、それでフランの怪力を止められるはずがない。少女はぶっ飛ばされ、廊下の床をゴロゴロ転がった。

「くはっ」

少女は一声呻くと、うずくまったまま体を震わせている。あちゃー、やっちまったか?

「ちょっとやりすぎじゃないか?」

「はぁ?いきなり切りかかってきたのはどっち!」

フランが憤慨して俺を振り返る。

「まあそうなんだけど、ほら。相手は女の子だし……」

「知らないよ、そんなの。わたしも女なんだ、それにやられたんじゃ文句はないでしょ」

フランは吐き捨てるように言うと、うずくまる少女を睨みつける。少女は身もだえしながらも、ようやく体を起こそうとしていた。

「ぐぅ……くそ……」

少女はギリっと歯を噛みしめると、恨みのこもった目でフランを睨みつけた……いや、違うぞ。あの娘が見ているのは……

「……俺?」

少女の瞳には、尋常でない憎しみが見て取れる。親の仇でも見るような……少女は双剣を再び握りしめると、またもこちらに突っ込んでくるそぶりを見せた。フランが身構える。すると……

「アルア様!何をなさっているのですか!」

悲鳴に近い声を上げて、廊下の角から臣下がすっ飛んできた。さっき俺たちを案内した男とは別の人だ。そいつは俺たちのそばまで走ってくると、蒼白な顔で俺たちと少女とを交互に見る。

「な、何があったのですか?どうして剣を抜かれて……」

「最初にしかけてきたのは、そっちだよ」

フランが素早く告げ口すると、その少女……アルア、と呼ばれていたか?アルアはキッとフランを睨みつける。

「アルア様、誠でございますか?」

臣下に訊ねられると、アルアは気まずそうに目をそらした。臣下が目を丸くする。

「どうしてそのようなことを!ああ、とにかく、剣をおしまい下さい。外国からいらっしゃったお客様に切りかかるなど、ライカニール帝がお聞きになったらなんとおっしゃるか」

「客人?こいつらがですか?」

アルアは、初めてまともな言葉を話した。少女らしくかわいらしい声だったが、明らかに棘を感じる……棘なんて、なまっちょろいな。有刺鉄線と言ったほうが良さそうだ。

「そうです。ライカニール帝が直々にお招きになった方々です。さあ、こちらへ。お部屋までご案内しなかったわたくしめが悪うございました。お連れしますので、さあ、さあ!」

臣下に背中を押されるようにして、アルアは行ってしまった。廊下の角に消える際、ぎろっとこちらを睨みつけてから……

「な、なんだったんだ……?」

あまりに一瞬の出来事だった。おまけにこちらは、あの少女の名前しかわかっていない。フランが爪を引っ込める。

「なんだかわからないけど、相当いかれてるのは確かだね。でも、そんなに強くはない」

「そうなのか?」

「うん。あの金髪勇者とか、マスカレードに比べたら、全然ザコ」

ふむ……何度も強敵と戦ってきたフランが言うのなら、そうなんだろう。一般人の俺からしたら相当早く動いていたけれど、確かに一撃でノックアウトされていたしな。

「あの人、桜下が勇者だって分かったから、襲ってきたのかな?」

ライラが不安そうに、俺の腰にすがりながら言う。

「ああ、そんなこと言ってたな。ずっと俺のこと睨んでたし……」

エラゼムもうなずく。

「実力はともかく、相当の殺意を感じました。あれほどの殺意は、そうそう放てるものではありませぬ。そういう意味ではフラン嬢の言う通り、“いかれている”と言えましょうな」

「マジかよ……いかれた殺人鬼ってこと?」

「いえ、どちらかと言えば、特殊な訓練を受けた暗殺者、でしょうか」

あ、暗殺者……どうしてそんなやつが、俺を狙ってくるんだ?やましい事をした覚えはないぞ!……少ししか。

「なんでそんな奴がここに?」

「それは、わかりません。王宮の人間に連れていかれたということは、少なくとも不審人物ではないようです。となると、一の国の軍関係者か、あるいは帝の懐刀か……」

「……皇帝様が気に食わないヤツを、後ろからぶすっと?」

「そういうことも、あるやもしれません」

俺は気分が悪くなってきた。ノロは、あの少女に俺を始末させるために、勇者を呼びつけたのだろうか?いやいや、さすがにそれはないだろう……あり得るかも。あの女帝ならなぁ……

「……うぉーん!どうしてこの国にはおっかない女しかいないんだよぉ!二の国に帰りてーよー!」

自棄やけになった俺は、引っ付いていたライラを巻き込んでくるくる回る。するとライラは楽しそうにきゃっきゃとはしゃいだ。いや、笑い事じゃないんだって。
ちょうどその時、またも廊下の角から、また別の臣下が現れた。

「おや、こちらにいらっしゃいましたか。二の国からいらっしゃった勇者様ですね?」

「へ?」

「皇帝閣下から伝言です。今夜開かれるパーティーにおいて、二の国の勇者様にもぜひご出席いただきたいと」

……笑えねぇ。



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...