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12章 負けられない闘い
6-2
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踊り子はまっすぐこちらに向かってくる。ど、どうしてだ?特になんもしてないよな?俺がおろおろしている間に、踊り子はすぐそばまでやって来ると、にこりと笑いかけた。
「こんばんは。いい夜ね」
「え?あの、はい……?」
「素敵な被り物ね。今夜は仮面舞踏会だったかしら。それとも趣味?」
「あぇーと、後半の方です」
「そうなの。なかなかいい趣味ね、わたし好みだわ。あ、それはそうと、さっきのステージ見てくれたかしら?」
「え、ええ。まぁ……」
煮え切らない俺の返事にも、踊り子は満足そうにうなずいた。激しいダンスの直後だからか、色黒の肌は汗でしっとりと濡れている。胸の谷間がきらきらと光っていて、俺は思わず顔をそむけた。目に毒だ……あと、フランが怖い。
「ありがとう。我ながら、いい演技ができたと思ってるわ。ところで、そちらの小さなお嬢さんは、あなたたちのお友達なのかしら?」
「へ?」
「え?」
俺は目をぱちくりし、それはライラも同じだった。踊り子はほほ笑むと、ライラを見つめる。
「わたし、レベッカっていうの。あなた、ずいぶん熱心に見ていてくれたわよね」
「う、うん。その、きれいだなって……」
「ほんとう?嬉しいわ。でもね、あなたがわたしを見ていたように、わたしもあなたが気になっていたの。あなた、とっても可愛いのに、ずいぶん地味な格好をしていたから」
レベッカにそう言われて、ライラは自分の服を見下ろした。確かにライラは、出会った時から変わらず、古い服を着たままだ。俺たちに金がなかったのもあるが、ライラ自身も特に気にしていなかったので、ずっとそのままだったけど……改めて言われると、ライラもさすがに気にしたらしい。顔を赤らめてうつむいてしまった。レベッカが慌てて首を振る。
「ああ、ごめんね。悪口が言いたいわけじゃないのよ。ただ、もったいないなって。ねえ、あなた、わたしみたいになりたいって思わない?」
「え?」
ライラが顔を上げる。だが、ちょーっと待った!それは聞き捨てならないぞ。
「ちょっと待ってくれ。レベッカ、あんたまさか、ライラを踊り子にスカウトしようとしてるのか?それは困るぜ、この子は俺たちの仲間なんだ」
「え?ああ、違う違う。そうじゃなくて、おしゃれしてみないってことよ」
「あん?おしゃれ?」
「そう。すぐそこに、わたしの楽屋があるの。わたし、自分の衣装は自分で作っててね。任せてくれれば、とっても素敵に仕立ててあげるわよ。ね、どうかしら」
レベッカはかがむと、ライラに視線を合わせた。
「あなたと目が合った時、ピンと来たの。この子を磨かずにいるのはもったいないってね。今夜はパーティーなんだから、素敵に変身しちゃいましょうよ」
ぱちりとウィンク。ライラは戸惑うように、俺の腰元を握った。
「お、桜下……どうしよう」
「んー……」
踊り子の勧誘ならさすがにお断りだが、どうやら違うらしい。純粋に、ライラを着飾ってくれるというのなら……
「そうだな。俺は、どちらでも構わないよ。ライラのしたい方でいいけど、どうだ?」
「ら、ライラ、は……」
ライラは自分の服を見下ろし、俺の顔を見上げ、そしてもう一度目線を落とした。服の裾をぎゅっと握る。
「……わかった。行ってみる」
「やった!そうこなくっちゃ!」
小さくうなずいたライラを見て、レベッカは手を叩いて喜んだ。まあ、この様子じゃ、そんなに悪い人でもなさそうだ。
「それじゃあ、早速行きましょ。案内するわ」
「う、うん……」
ライラはちらりと、不安げにこちらを見た。そしておもむろに、俺の服の端をつまむ。
「……桜下もついてきてよ」
「へ?お、俺?」
ライラがこくりとうなずく。いや、さすがにそれは……
「一緒に行ってやりたいけど、男が女性の着替えに同行するのは、ちょっと……なぁ」
「ライラ、別にいいよ。桜下なら」
「い、いや、そういうわけにも……あ、そうだ。ウィル、ウィル」
俺は小さく手招きすると、小声でウィルを呼んだ。
「ウィル、悪いけど……」
「私が行けばいいんですね。分かりました。ライラさんも、それでいいですか?」
「うん!」
ライラはほっと表情をやわらげる。さすがウィル、話が速いな。二人は手を繋いで、レベッカの後について行った。俺は頬をかく。
「うーん。成り行きとは言え、なんだかすごいことになったな」
どうしよう。踊り子の衣装だとか言って、ライラが布切れ一枚で出てきたら……ウィルがいるから、大丈夫だと思うが。
「……ねぇ」
すると急に、フランがぐいっと腕を引っ張ってきた。
「おっと。何だよフラン?なんだ、お前も一緒に行きたかったのか?だったら素直に言えば」
「違うから。つまんない冗談言ってる場合じゃないんだって」
つ、つまんない……だが俺は、フランの声にピリピリした気配が漂っていることに気付いた。さっきまでと明らかに違う雰囲気に、俺も気を引き締める。
「どうした?」
「あれ。あそこ、見てみて。そっとね」
フランが目線だけを客たちの方へ向ける。見えない視線をたどるように目を向けると……パーティー客の中に、鳶色の髪の少女の姿が。
「げっ。あいつ……」
「だよね。昼間の、あのいかれたヤツだ」
昼間、突然俺に切りかかってきた、アルアとかいうやつだ。アルアは昼間とは違って、パーティー用のドレスを着ている。ただ、他の貴族に比べれば地味で、控えめなデザインだ。
「この場にいるってことは、あいつも招かれた客ってことだよな」
「けど、どう考えても深窓の令嬢って柄じゃないでしょ。今着てる服も地味だし、お嬢様は剣なんか持たない」
「だな。エラゼムの読みでは、あいつは一の国の軍人じゃないかって話だったけど……」
「てことは、女帝の警護?」
「ドレスでか?いや、ひょっとすると、スカートの下に短剣を忍ばせてるのかも……」
俺とフランがあれやこれやと憶測をかわしていると、最悪なことが起きた。気配を感じ取りでもしたのか、アルアがこちらを向いたのだ。ぎゃっ、バッチリ目が合ってしまった。
「う、わっ。しまった、目が……」
慌てて逸らしてももう遅い。この場に仮面姿は二人といないんだ。アルアの目がカッと大きくなり、ずんずんとこちらにやって来るじゃないか。
「うあちゃ、あいつ来る気だぞ……」
さすがにこの席で剣を抜くことはないと思いたいが……何がおかしいのか、アルルカがけたけたと笑う。
「きゃはは。ちょうどいいじゃない。めくって、剣を隠してないか確かめてみれば?」
「そういうつもりで言ったんじゃねーよ!あああ、ほんとに来た……」
もうアルアは目と鼻の先だ。フランが俺の前に立ちふさがり、腕をずいと突き出す。流石に爪は抜いていなかったが、昼間の一件があるからな。威圧されたか、アルアはあと数歩のところでぐっと止まった。
「お前!どうしてここに居る……!」
アルアが憎々しげに唸る。ここがパーティー会場じゃなかったら、遠慮なく大声で叫んでいただろう。たいしてフランは、一歩も引かずに返す。
「それはこっちのセリフ。どうしてこんなところに、真昼間から剣を振り回す異常者がうろついてる?」
「んなっ……!」
アルアはぶるぶると震えて、爆発寸前だ。その手がそろそろとスカートのすそに伸びていくのを見て、俺はギョッとした。まさかこいつ、ほんとに……
「やあやあ。二の国の勇者に、おや。アルアまでいるのか」
え?いきなり陽気な声がして、俺たち全員が面食らった。グラスを片手に、顔を赤らめてやってきたのは、女帝ノロその人だ。
「かっ、閣下!」
アルアがびっくり仰天して、さっと腰をかがめようとする。ノロはめんどくさそうに手を振って、それを制した。
「よせよせ、宴の席で。その恰好でひざまずいたら下着が見えるぞ」
「きゃっ。う、は、はい……」
アルアは顔を真っ赤にしながら姿勢を戻すと、もじもじとスカートのすそを払った。さっきと打って変わって少女らしいリアクションに、俺は頭がこんがらがってきた。いったいどっちがこの娘の正体なんだ?
「どうだ、二の国の勇者よ。楽しんでおるか?」
「えっ。まあ、その、はい。ぼちぼち」
「そうか。この宴はそなたたちの為に開いたのだ。喜んでもらえたのならば、余も嬉しいぞ」
ノロは上機嫌に笑うが、その眼は鋭く俺を捕えて離さなかった。どうにも、俺が心の底から楽しんではいないことを見抜いているようだ。ちっ、でもホントはすごく窮屈です、とは言えないだろ?
「さて。ところでアルア、お前はどうしてここに?二の国の勇者殿と面識があったのか?」
「面識など!こいつ……いえ、失礼しました。この方とは初対面です」
ぎりっとこちらを睨みつけるアルア。初対面、か。まあ剣を交えた事をノーカンとすりゃ、初対面みたいなもんだな。
「……皇帝閣下。大変失礼ですが、よろしければ、この場を失礼させていただいてもよろしいでしょうか」
「うん?なんだ、つれないやつだな。一杯も付き合ってくれぬのか?」
「いえ、その……」
「はっはっは、冗談だ。よいぞ、下がれ」
ノロが手をひらひらと振ると、アルアはかくっとしたお辞儀をして、足早に去っていった。去り際に、こちらをひと睨みすることを忘れずに。ホントになんなんだ、俺が何をしたってんだ?
「くくく。あやつも変わらんな。勇者殿、ずいぶんアルアに好かれているじゃないか?」
「えぇ……どこがですか。彼女、いったい何者なんですか?」
「あやつはな、あれでなかなか腕が立つ娘なのだ。魔王軍との戦役で立てた功はその辺の男にも負けておらん」
「ということは……軍人ですか?」
「いや、傭兵だ。正式には我が国の軍の所属ではない。やつと我らとでは、敵が共通なのでな」
敵が共通……さっきノロは、魔王軍との戦いと言った。てことは、ともに魔王と戦っているということなんだろう。でも、それだとどうして勇者を憎むんだ?勇者だって、魔王との戦いの為に召喚されたんだ。いわば仲間みたいなもんだろうに。
「彼女は、何か理由があって戦っているんですか。魔王が憎いとか……」
「いや。奴は、この戦争が憎いのだ」
「戦争……?」
どういう意味だろう。ノロはそれ以上語らず、手に持ったグラスをぐいと傾けるばかりだ。一息で中身を飲み干すと、酒臭い息を吐いて、それからふいに目線を上げた。
「む。どうやら間に合ったようだな。二人目の主役のお出ましだ」
え?二人目の主役?ノロは大声でそいつを呼びつけた。
「おおい!クラーク!」
なっ、なんだって!?俺とフランは、同時にびくりと身を固くした。名前を呼ばれた人物は、客の間を縫ってこちらに進んでくる。けどそうか、ここは一の国。ホームグラウンドのここでなら、いつ出くわしてもおかしくなかったんだ……!
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「こんばんは。いい夜ね」
「え?あの、はい……?」
「素敵な被り物ね。今夜は仮面舞踏会だったかしら。それとも趣味?」
「あぇーと、後半の方です」
「そうなの。なかなかいい趣味ね、わたし好みだわ。あ、それはそうと、さっきのステージ見てくれたかしら?」
「え、ええ。まぁ……」
煮え切らない俺の返事にも、踊り子は満足そうにうなずいた。激しいダンスの直後だからか、色黒の肌は汗でしっとりと濡れている。胸の谷間がきらきらと光っていて、俺は思わず顔をそむけた。目に毒だ……あと、フランが怖い。
「ありがとう。我ながら、いい演技ができたと思ってるわ。ところで、そちらの小さなお嬢さんは、あなたたちのお友達なのかしら?」
「へ?」
「え?」
俺は目をぱちくりし、それはライラも同じだった。踊り子はほほ笑むと、ライラを見つめる。
「わたし、レベッカっていうの。あなた、ずいぶん熱心に見ていてくれたわよね」
「う、うん。その、きれいだなって……」
「ほんとう?嬉しいわ。でもね、あなたがわたしを見ていたように、わたしもあなたが気になっていたの。あなた、とっても可愛いのに、ずいぶん地味な格好をしていたから」
レベッカにそう言われて、ライラは自分の服を見下ろした。確かにライラは、出会った時から変わらず、古い服を着たままだ。俺たちに金がなかったのもあるが、ライラ自身も特に気にしていなかったので、ずっとそのままだったけど……改めて言われると、ライラもさすがに気にしたらしい。顔を赤らめてうつむいてしまった。レベッカが慌てて首を振る。
「ああ、ごめんね。悪口が言いたいわけじゃないのよ。ただ、もったいないなって。ねえ、あなた、わたしみたいになりたいって思わない?」
「え?」
ライラが顔を上げる。だが、ちょーっと待った!それは聞き捨てならないぞ。
「ちょっと待ってくれ。レベッカ、あんたまさか、ライラを踊り子にスカウトしようとしてるのか?それは困るぜ、この子は俺たちの仲間なんだ」
「え?ああ、違う違う。そうじゃなくて、おしゃれしてみないってことよ」
「あん?おしゃれ?」
「そう。すぐそこに、わたしの楽屋があるの。わたし、自分の衣装は自分で作っててね。任せてくれれば、とっても素敵に仕立ててあげるわよ。ね、どうかしら」
レベッカはかがむと、ライラに視線を合わせた。
「あなたと目が合った時、ピンと来たの。この子を磨かずにいるのはもったいないってね。今夜はパーティーなんだから、素敵に変身しちゃいましょうよ」
ぱちりとウィンク。ライラは戸惑うように、俺の腰元を握った。
「お、桜下……どうしよう」
「んー……」
踊り子の勧誘ならさすがにお断りだが、どうやら違うらしい。純粋に、ライラを着飾ってくれるというのなら……
「そうだな。俺は、どちらでも構わないよ。ライラのしたい方でいいけど、どうだ?」
「ら、ライラ、は……」
ライラは自分の服を見下ろし、俺の顔を見上げ、そしてもう一度目線を落とした。服の裾をぎゅっと握る。
「……わかった。行ってみる」
「やった!そうこなくっちゃ!」
小さくうなずいたライラを見て、レベッカは手を叩いて喜んだ。まあ、この様子じゃ、そんなに悪い人でもなさそうだ。
「それじゃあ、早速行きましょ。案内するわ」
「う、うん……」
ライラはちらりと、不安げにこちらを見た。そしておもむろに、俺の服の端をつまむ。
「……桜下もついてきてよ」
「へ?お、俺?」
ライラがこくりとうなずく。いや、さすがにそれは……
「一緒に行ってやりたいけど、男が女性の着替えに同行するのは、ちょっと……なぁ」
「ライラ、別にいいよ。桜下なら」
「い、いや、そういうわけにも……あ、そうだ。ウィル、ウィル」
俺は小さく手招きすると、小声でウィルを呼んだ。
「ウィル、悪いけど……」
「私が行けばいいんですね。分かりました。ライラさんも、それでいいですか?」
「うん!」
ライラはほっと表情をやわらげる。さすがウィル、話が速いな。二人は手を繋いで、レベッカの後について行った。俺は頬をかく。
「うーん。成り行きとは言え、なんだかすごいことになったな」
どうしよう。踊り子の衣装だとか言って、ライラが布切れ一枚で出てきたら……ウィルがいるから、大丈夫だと思うが。
「……ねぇ」
すると急に、フランがぐいっと腕を引っ張ってきた。
「おっと。何だよフラン?なんだ、お前も一緒に行きたかったのか?だったら素直に言えば」
「違うから。つまんない冗談言ってる場合じゃないんだって」
つ、つまんない……だが俺は、フランの声にピリピリした気配が漂っていることに気付いた。さっきまでと明らかに違う雰囲気に、俺も気を引き締める。
「どうした?」
「あれ。あそこ、見てみて。そっとね」
フランが目線だけを客たちの方へ向ける。見えない視線をたどるように目を向けると……パーティー客の中に、鳶色の髪の少女の姿が。
「げっ。あいつ……」
「だよね。昼間の、あのいかれたヤツだ」
昼間、突然俺に切りかかってきた、アルアとかいうやつだ。アルアは昼間とは違って、パーティー用のドレスを着ている。ただ、他の貴族に比べれば地味で、控えめなデザインだ。
「この場にいるってことは、あいつも招かれた客ってことだよな」
「けど、どう考えても深窓の令嬢って柄じゃないでしょ。今着てる服も地味だし、お嬢様は剣なんか持たない」
「だな。エラゼムの読みでは、あいつは一の国の軍人じゃないかって話だったけど……」
「てことは、女帝の警護?」
「ドレスでか?いや、ひょっとすると、スカートの下に短剣を忍ばせてるのかも……」
俺とフランがあれやこれやと憶測をかわしていると、最悪なことが起きた。気配を感じ取りでもしたのか、アルアがこちらを向いたのだ。ぎゃっ、バッチリ目が合ってしまった。
「う、わっ。しまった、目が……」
慌てて逸らしてももう遅い。この場に仮面姿は二人といないんだ。アルアの目がカッと大きくなり、ずんずんとこちらにやって来るじゃないか。
「うあちゃ、あいつ来る気だぞ……」
さすがにこの席で剣を抜くことはないと思いたいが……何がおかしいのか、アルルカがけたけたと笑う。
「きゃはは。ちょうどいいじゃない。めくって、剣を隠してないか確かめてみれば?」
「そういうつもりで言ったんじゃねーよ!あああ、ほんとに来た……」
もうアルアは目と鼻の先だ。フランが俺の前に立ちふさがり、腕をずいと突き出す。流石に爪は抜いていなかったが、昼間の一件があるからな。威圧されたか、アルアはあと数歩のところでぐっと止まった。
「お前!どうしてここに居る……!」
アルアが憎々しげに唸る。ここがパーティー会場じゃなかったら、遠慮なく大声で叫んでいただろう。たいしてフランは、一歩も引かずに返す。
「それはこっちのセリフ。どうしてこんなところに、真昼間から剣を振り回す異常者がうろついてる?」
「んなっ……!」
アルアはぶるぶると震えて、爆発寸前だ。その手がそろそろとスカートのすそに伸びていくのを見て、俺はギョッとした。まさかこいつ、ほんとに……
「やあやあ。二の国の勇者に、おや。アルアまでいるのか」
え?いきなり陽気な声がして、俺たち全員が面食らった。グラスを片手に、顔を赤らめてやってきたのは、女帝ノロその人だ。
「かっ、閣下!」
アルアがびっくり仰天して、さっと腰をかがめようとする。ノロはめんどくさそうに手を振って、それを制した。
「よせよせ、宴の席で。その恰好でひざまずいたら下着が見えるぞ」
「きゃっ。う、は、はい……」
アルアは顔を真っ赤にしながら姿勢を戻すと、もじもじとスカートのすそを払った。さっきと打って変わって少女らしいリアクションに、俺は頭がこんがらがってきた。いったいどっちがこの娘の正体なんだ?
「どうだ、二の国の勇者よ。楽しんでおるか?」
「えっ。まあ、その、はい。ぼちぼち」
「そうか。この宴はそなたたちの為に開いたのだ。喜んでもらえたのならば、余も嬉しいぞ」
ノロは上機嫌に笑うが、その眼は鋭く俺を捕えて離さなかった。どうにも、俺が心の底から楽しんではいないことを見抜いているようだ。ちっ、でもホントはすごく窮屈です、とは言えないだろ?
「さて。ところでアルア、お前はどうしてここに?二の国の勇者殿と面識があったのか?」
「面識など!こいつ……いえ、失礼しました。この方とは初対面です」
ぎりっとこちらを睨みつけるアルア。初対面、か。まあ剣を交えた事をノーカンとすりゃ、初対面みたいなもんだな。
「……皇帝閣下。大変失礼ですが、よろしければ、この場を失礼させていただいてもよろしいでしょうか」
「うん?なんだ、つれないやつだな。一杯も付き合ってくれぬのか?」
「いえ、その……」
「はっはっは、冗談だ。よいぞ、下がれ」
ノロが手をひらひらと振ると、アルアはかくっとしたお辞儀をして、足早に去っていった。去り際に、こちらをひと睨みすることを忘れずに。ホントになんなんだ、俺が何をしたってんだ?
「くくく。あやつも変わらんな。勇者殿、ずいぶんアルアに好かれているじゃないか?」
「えぇ……どこがですか。彼女、いったい何者なんですか?」
「あやつはな、あれでなかなか腕が立つ娘なのだ。魔王軍との戦役で立てた功はその辺の男にも負けておらん」
「ということは……軍人ですか?」
「いや、傭兵だ。正式には我が国の軍の所属ではない。やつと我らとでは、敵が共通なのでな」
敵が共通……さっきノロは、魔王軍との戦いと言った。てことは、ともに魔王と戦っているということなんだろう。でも、それだとどうして勇者を憎むんだ?勇者だって、魔王との戦いの為に召喚されたんだ。いわば仲間みたいなもんだろうに。
「彼女は、何か理由があって戦っているんですか。魔王が憎いとか……」
「いや。奴は、この戦争が憎いのだ」
「戦争……?」
どういう意味だろう。ノロはそれ以上語らず、手に持ったグラスをぐいと傾けるばかりだ。一息で中身を飲み干すと、酒臭い息を吐いて、それからふいに目線を上げた。
「む。どうやら間に合ったようだな。二人目の主役のお出ましだ」
え?二人目の主役?ノロは大声でそいつを呼びつけた。
「おおい!クラーク!」
なっ、なんだって!?俺とフランは、同時にびくりと身を固くした。名前を呼ばれた人物は、客の間を縫ってこちらに進んでくる。けどそうか、ここは一の国。ホームグラウンドのここでなら、いつ出くわしてもおかしくなかったんだ……!
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