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12章 負けられない闘い
9-1 勇演武闘
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9-1 勇演武闘
「勇、演、武闘……?」
聞きなれない言葉だ。ブトウ、という響きから、なんやかしらの戦いなんだろうとは推測できるが……
「なっ……勇演武闘だって……!」
クラークは目を見開き、あごを震わせている。奴は、これが何なのか知っているようだが……俺が訊ねようとした瞬間、パーティー客たちの方から、爆発したような歓声が上がった。ワアァァァァ!
「勇演武闘だって!?いつ以来の開催だろうか!」
「またあの戦いが見られるのね!」
な、なんなんだ、この盛り上がりようは?そんなにいいものなのか?歓声がひと段落すると、再びノロが口を開く。
「結構、けっこう。諸君らも待ちわびていたようだな。前回が確か、五年ほど前になるか?あの時も素晴らしい試合が繰り広げられたが、今回はきっと、それを上回ってくれることだろう。さて、日時など細かいところは、彼らから伝えよう」
ノロが手を叩くと、いつものターバンを巻いた臣下が前に出てきて、日時や会場などのこまこまとした説明を始めた。だってのに、くそ!肝心の内容にちっとも触れやしない!結局何をするのか分からずじまいじゃないか。俺は今度こそ、唖然とするクラークに詰め寄る。
「おい、クラーク!なんなんだ、その勇演武闘って!」
「……」
「おいったら!」
「……勇演、武闘は……一対一形式で行われる、親善試合だ……」
「親善試合だと……?おい、まさか。その試合で戦うのって……」
「そうさ……勇者と、その仲間たち。勇演武闘は、勇者同士の戦いのことだ」
「なんだって……!」
馬鹿な!どうして勇者たちが戦うことになるんだ!?
「そんなふざけたことがあるか!勇者の能力は、下手したら町一つぶっとばしちまうんだぞ!そんなんがぶつかり合ったら……」
「ああ……だが、何も本気で戦うわけじゃないんだ。言っただろう、親善試合だと。いわば、模擬戦闘だ。命を落とすような事にはまずならない」
な、なんだ。少しほっとしたが、それですべてが解決したわけじゃない。フランが俺たちの間に割って入る。
「ふざけないで!そんな馬鹿げたことに、どうして参加しなくちゃならないの!」
「い、いや、僕だって何が何だか……」
フランに詰め寄られて、うろたえるクラーク。そこにコルルが助太刀する。
「やめなさいよ!あたしたちだって、何が何だか、意味わかんないんだから!」
「どうだか。お前たちがこうなるように仕組んだんじゃないの?仕返しの為に」
「ちがっ、違うわよ!本当に今知ったの!あたしたちだって、寝耳に水だわ……まさか、あたしたちが勇演武闘に参加することになるなんて……」
コルルは本気でうろたえているようだ。クラークの様子と言い、こいつらもマジで知らなかったってことか。けどそれだと、出場者が何も知らされてないことになるぞ?
アドリアが眉間にしわを寄せる。
「どうやら、私たちで言い合いをしても無駄なようだ。当事者である私たちが完全に蚊帳の外とは、まったく」
エラゼムも深刻そうにうなずいた。
「なかなか笑える状況ですが、とても呵々と笑う気にはなれませぬな。とりあえずは、きちんとした情報を集めたいところです。そちらに当ては?」
「ああ、一の国の王宮勤めの知り合いがいる。そこに話を聞いてこよう」
言うが早いか、アドリアはくるりと踵を返して走っていった。エラゼムが俺の方を向く。
「桜下殿。吾輩たちは、ヘイズ殿にお話を伺ってみてはいかがか?」
「そ、そうだな。よし、行ってみよう……っと、その前に」
俺は駆け出す前に、困惑顔のままのクラークに声を掛ける。
「おい、おたくらはどこに泊まってるんだ?こうなった以上、今は一時休戦だ。後で情報を共有しようぜ」
「あ、ああ。王宮の部屋を借りている。行き方は……いや、僕がそっちに行ったほうが早いな。君たちは、あのレストハウスにいるんだろう?後でそっちに行くよ」
「わかった。それじゃ、あとで」
手短に言葉を交わすと、俺は足早に歩きだした。客の中から、ヘイズを探さないと。
「勇演武闘……なんだか、嫌な予感がします」
ウィルが困ったような、怯えたような顔でつぶやく。
「ああ、まったくだ。くそ!」
勇者同士の戦いだと?それにクラークは、勇者の仲間たちもと言っていた。てことは、フランたちまで戦いに参加するってことか?ふざけんな!
怒れるままにずんずん進むと、ヘイズが数人の兵士たちと一緒に固まっているのを見つけた。
「ヘイズ!」
俺が怒鳴るように呼ぶと、ヘイズはこちらを向いた。その顔は強張り、それが事態の深刻さを物語っているようだ。
「ああ、来たか。ちょうどいい、探しに行こうと思ってたところだ」
「くそ、どうなってんだよ。知ってるか?勇演武闘ってのは……」
「勇者同士の闘いの事。お前も知ってたか。なら、どうしてオレがこんな顔してるのかもわかるな?」
「……ちっ。なんにも知らされてなかったのか?」
「ああ……クソが。何かしてくるとは思ってはいたが、まさかこう出て来るとは……完全にしてやられた」
ヘイズは苦々し気に舌打ちをした。
「なあ、冗談じゃないぜ。今まではエドガーの事と、ロアの頼みでもあったから、パーティーだなんだと付き合ってきたけどな。さすがにこれはやり過ぎだろ!どうにかできないのかよ?」
「わかってる!その方法を今探ってるところだ。さすがにロア様だって、こうなるとは思ってなかったはずだ」
ヘイズは相当に焦っているようだ。イライラとせわしなく足を揺すっている。これじゃ話を聞くのは無理そうだな……焦る気持ちとは裏腹に、俺たちは何もできないまま、時間だけが過ぎていく。くそったれ、勇者同士の闘いなのに、どうして元勇者の俺が、一番なんにも知らないんだ!
結局そのまま、パーティーはお開きとなった。客たちは、それぞれに興奮し、期待に満ちた顔で王宮を離れて行く。人の気も知らないでってのは、こういう時にピッタリの言葉だ。ちくしょう。
何もできない俺たちは、やきもきしながらも、とりあえず先にレストハウスに戻ることにした。ヘイズら数人の兵士たちはまだ会場に残っているみたいだったが、俺がいて何かできることがあるわけでもない。玄関ホールのソファに腰かけ、じりじりとヘイズたちの帰りを待つしかない。
ガチャリと、扉が開いた。
「っ!ヘイズか!?」
「えっ?」
俺はソファから飛び上がり、扉の方へくわっと振り向いた。しかしそこに立っていたのは……
「あ?なんだ、お前かよ……」
「な、なんだとはなんだよ!後で行くと言ったじゃないか!」
扉から顔をのぞかせていたのは、金髪の少年。クラークだった。後ろには奴の仲間もいる。
「悪い、わるい。ちょうど他の人を待ってたんだ。でもちょうどいいや、そっちはどうだった?」
今は情報に飢えていたところだ。俺はクラークたちを手招きして、ソファに座らせた。腰かけるやいなや、クラークは苦り切った表情で口を開く。
「単刀直入に言えば……今回の勇演武闘、なかったことにするのは無理そうだ」
「な!おいおい。冗談じゃねーぞ!」
「ああ、僕らだってそうさ!だが、こればっかりは無理なんだ。今回の発起人は、ノロ様その人なんだから」
ぐあぁ、やっぱりそうか。あの女帝め、何考えてやがるんだ?
「おい。女帝が発起人だと困るって言うのは、お前んとこのトップだからってことか?」
「ああ……僕らも一の国に所属している以上、ノロ様の意向に面と向かって歯向かうことは難しい。それに、前も話したろう。ノロ様は、気まぐれで大勢を巻き込むことがあるって。気まぐれにも波があるんだけど、今回はまさに、それの特大のやつなんだよ」
「特大だと……?おいまさか、昨日今日の思い付きじゃないってことか?つまり、俺を呼んだのも……」
「どうやら、そのようだ。ノロ様は方々に手回しして、勇演武闘の準備を水面下で進めていたらしい」
「なんてこった……」
じゃあ、俺がこの国に来た時点で、すでに女帝の策略にはまってたっいてことかよ?ああ、クソッ、そういうことか。ノロの真の狙いは、これだったんだ!エドガーの治療にかこつけた、勇演武闘の開催!最初から、このために……!
「一の国の王宮は、完全に勇演武闘ムード一色だ。いまさら僕がごねたところで、聞き入れてはもらえないと思う」
「……ちっくしょうが。お前らとはこれまで何度もやりあって来たけどな、見世物になるために戦ってきたわけじゃねーぞ!ごめんだ、そんな大会!」
「わかってるよ!僕らだって、乗り気なわけじゃない!正義の為ならともかく、こんな暴力的な、単なる力比べの為に戦うなんて……」
「ふん、どうだか。おたくの雷魔法があれば、俺なんかイチコロだ。ほんとはいい機会だとでも思ってるんじゃないか?」
ガタン!ソファをぶっ飛ばす勢いで、クラークが立ち上がった。
「ふざけるな!勇演武闘は、僕だけが戦えば済む話じゃない!こっちには、戦いが苦手な仲間もいるんだぞ!」
俺ははっとして、クラークの仲間の一人、小柄なシスター・ミカエルを見た。ミカエルはキュッと口元を引き結んで、体をこわばらせている。顔は真っ白だ。
「そっちの人数の方が多い以上、ミカエルは必ず参加しなければいけないんだ。この事態が不服なのは、そっちだけじゃないんだぞ……!」
「……ちっ。悪かったよ」
俺は素直に謝った。今のは、俺が悪い。だけど、分からないところもある。
「さっき、こっちの数が多いから、おたくらは必ず参加することになる、とか言ったよな。それってどういう意味だ?そもそも、勇演武闘ってのはどういうルールになってる?」
クラークは俺を睨むと、再びソファに座りなおした。そしてぶすっとした顔で口を開く。
「勇演武闘は、一対一形式で行われる。勇者とその仲間たち、全員が必ず一度は戦うようにカードが組まれるんだ」
ぜ、全員だと?俺は思わず、ライラの方を見た。こんな小さな子にまで戦えって言うのか!しかしそれを見たクラークは、ゆるゆると首を振った。
「大丈夫だよ。勇演武闘では、一度戦った人はそれ以降、戦いに参加してはならないんだ。つまり、戦うのは一度だけ。僕らが四人、そっちが五人だから、一人は参加しなくてもいいことになる」
な、なんだ……じゃあ、ライラは不参加でオッケーだな。いや、そもそも誰一人参加させたくはないが……ライラは自分も戦えるぞとばかりにむっとしたが、いくら何でもそれは許可できない。たった一人で、クラークみたいな奴と戦わせられるか。
「しかし、そうか。だからそっちは、フルメンバーじゃなきゃいけなくなってるんだな」
「そういうことだよ……それ以外の理由で、参加を拒否することはできない。たとえシスターであっても、舞台にあがらなきゃいけないんだ」
「ふざけたルールだ……それ、棄権とかできないのか?」
「まだ分からない。ただ、もしそれが可能なら、全試合棄権で不戦勝、なんてことができるんだけれど」
「そんな腑抜けた試合、あの女帝が認めるはずない、か……」
「ああ……」
くそが。聞けば聞くほど、逃げ場がなくなっていく気がするぞ。
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「なっ……勇演武闘だって……!」
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「勇演武闘だって!?いつ以来の開催だろうか!」
「またあの戦いが見られるのね!」
な、なんなんだ、この盛り上がりようは?そんなにいいものなのか?歓声がひと段落すると、再びノロが口を開く。
「結構、けっこう。諸君らも待ちわびていたようだな。前回が確か、五年ほど前になるか?あの時も素晴らしい試合が繰り広げられたが、今回はきっと、それを上回ってくれることだろう。さて、日時など細かいところは、彼らから伝えよう」
ノロが手を叩くと、いつものターバンを巻いた臣下が前に出てきて、日時や会場などのこまこまとした説明を始めた。だってのに、くそ!肝心の内容にちっとも触れやしない!結局何をするのか分からずじまいじゃないか。俺は今度こそ、唖然とするクラークに詰め寄る。
「おい、クラーク!なんなんだ、その勇演武闘って!」
「……」
「おいったら!」
「……勇演、武闘は……一対一形式で行われる、親善試合だ……」
「親善試合だと……?おい、まさか。その試合で戦うのって……」
「そうさ……勇者と、その仲間たち。勇演武闘は、勇者同士の戦いのことだ」
「なんだって……!」
馬鹿な!どうして勇者たちが戦うことになるんだ!?
「そんなふざけたことがあるか!勇者の能力は、下手したら町一つぶっとばしちまうんだぞ!そんなんがぶつかり合ったら……」
「ああ……だが、何も本気で戦うわけじゃないんだ。言っただろう、親善試合だと。いわば、模擬戦闘だ。命を落とすような事にはまずならない」
な、なんだ。少しほっとしたが、それですべてが解決したわけじゃない。フランが俺たちの間に割って入る。
「ふざけないで!そんな馬鹿げたことに、どうして参加しなくちゃならないの!」
「い、いや、僕だって何が何だか……」
フランに詰め寄られて、うろたえるクラーク。そこにコルルが助太刀する。
「やめなさいよ!あたしたちだって、何が何だか、意味わかんないんだから!」
「どうだか。お前たちがこうなるように仕組んだんじゃないの?仕返しの為に」
「ちがっ、違うわよ!本当に今知ったの!あたしたちだって、寝耳に水だわ……まさか、あたしたちが勇演武闘に参加することになるなんて……」
コルルは本気でうろたえているようだ。クラークの様子と言い、こいつらもマジで知らなかったってことか。けどそれだと、出場者が何も知らされてないことになるぞ?
アドリアが眉間にしわを寄せる。
「どうやら、私たちで言い合いをしても無駄なようだ。当事者である私たちが完全に蚊帳の外とは、まったく」
エラゼムも深刻そうにうなずいた。
「なかなか笑える状況ですが、とても呵々と笑う気にはなれませぬな。とりあえずは、きちんとした情報を集めたいところです。そちらに当ては?」
「ああ、一の国の王宮勤めの知り合いがいる。そこに話を聞いてこよう」
言うが早いか、アドリアはくるりと踵を返して走っていった。エラゼムが俺の方を向く。
「桜下殿。吾輩たちは、ヘイズ殿にお話を伺ってみてはいかがか?」
「そ、そうだな。よし、行ってみよう……っと、その前に」
俺は駆け出す前に、困惑顔のままのクラークに声を掛ける。
「おい、おたくらはどこに泊まってるんだ?こうなった以上、今は一時休戦だ。後で情報を共有しようぜ」
「あ、ああ。王宮の部屋を借りている。行き方は……いや、僕がそっちに行ったほうが早いな。君たちは、あのレストハウスにいるんだろう?後でそっちに行くよ」
「わかった。それじゃ、あとで」
手短に言葉を交わすと、俺は足早に歩きだした。客の中から、ヘイズを探さないと。
「勇演武闘……なんだか、嫌な予感がします」
ウィルが困ったような、怯えたような顔でつぶやく。
「ああ、まったくだ。くそ!」
勇者同士の戦いだと?それにクラークは、勇者の仲間たちもと言っていた。てことは、フランたちまで戦いに参加するってことか?ふざけんな!
怒れるままにずんずん進むと、ヘイズが数人の兵士たちと一緒に固まっているのを見つけた。
「ヘイズ!」
俺が怒鳴るように呼ぶと、ヘイズはこちらを向いた。その顔は強張り、それが事態の深刻さを物語っているようだ。
「ああ、来たか。ちょうどいい、探しに行こうと思ってたところだ」
「くそ、どうなってんだよ。知ってるか?勇演武闘ってのは……」
「勇者同士の闘いの事。お前も知ってたか。なら、どうしてオレがこんな顔してるのかもわかるな?」
「……ちっ。なんにも知らされてなかったのか?」
「ああ……クソが。何かしてくるとは思ってはいたが、まさかこう出て来るとは……完全にしてやられた」
ヘイズは苦々し気に舌打ちをした。
「なあ、冗談じゃないぜ。今まではエドガーの事と、ロアの頼みでもあったから、パーティーだなんだと付き合ってきたけどな。さすがにこれはやり過ぎだろ!どうにかできないのかよ?」
「わかってる!その方法を今探ってるところだ。さすがにロア様だって、こうなるとは思ってなかったはずだ」
ヘイズは相当に焦っているようだ。イライラとせわしなく足を揺すっている。これじゃ話を聞くのは無理そうだな……焦る気持ちとは裏腹に、俺たちは何もできないまま、時間だけが過ぎていく。くそったれ、勇者同士の闘いなのに、どうして元勇者の俺が、一番なんにも知らないんだ!
結局そのまま、パーティーはお開きとなった。客たちは、それぞれに興奮し、期待に満ちた顔で王宮を離れて行く。人の気も知らないでってのは、こういう時にピッタリの言葉だ。ちくしょう。
何もできない俺たちは、やきもきしながらも、とりあえず先にレストハウスに戻ることにした。ヘイズら数人の兵士たちはまだ会場に残っているみたいだったが、俺がいて何かできることがあるわけでもない。玄関ホールのソファに腰かけ、じりじりとヘイズたちの帰りを待つしかない。
ガチャリと、扉が開いた。
「っ!ヘイズか!?」
「えっ?」
俺はソファから飛び上がり、扉の方へくわっと振り向いた。しかしそこに立っていたのは……
「あ?なんだ、お前かよ……」
「な、なんだとはなんだよ!後で行くと言ったじゃないか!」
扉から顔をのぞかせていたのは、金髪の少年。クラークだった。後ろには奴の仲間もいる。
「悪い、わるい。ちょうど他の人を待ってたんだ。でもちょうどいいや、そっちはどうだった?」
今は情報に飢えていたところだ。俺はクラークたちを手招きして、ソファに座らせた。腰かけるやいなや、クラークは苦り切った表情で口を開く。
「単刀直入に言えば……今回の勇演武闘、なかったことにするのは無理そうだ」
「な!おいおい。冗談じゃねーぞ!」
「ああ、僕らだってそうさ!だが、こればっかりは無理なんだ。今回の発起人は、ノロ様その人なんだから」
ぐあぁ、やっぱりそうか。あの女帝め、何考えてやがるんだ?
「おい。女帝が発起人だと困るって言うのは、お前んとこのトップだからってことか?」
「ああ……僕らも一の国に所属している以上、ノロ様の意向に面と向かって歯向かうことは難しい。それに、前も話したろう。ノロ様は、気まぐれで大勢を巻き込むことがあるって。気まぐれにも波があるんだけど、今回はまさに、それの特大のやつなんだよ」
「特大だと……?おいまさか、昨日今日の思い付きじゃないってことか?つまり、俺を呼んだのも……」
「どうやら、そのようだ。ノロ様は方々に手回しして、勇演武闘の準備を水面下で進めていたらしい」
「なんてこった……」
じゃあ、俺がこの国に来た時点で、すでに女帝の策略にはまってたっいてことかよ?ああ、クソッ、そういうことか。ノロの真の狙いは、これだったんだ!エドガーの治療にかこつけた、勇演武闘の開催!最初から、このために……!
「一の国の王宮は、完全に勇演武闘ムード一色だ。いまさら僕がごねたところで、聞き入れてはもらえないと思う」
「……ちっくしょうが。お前らとはこれまで何度もやりあって来たけどな、見世物になるために戦ってきたわけじゃねーぞ!ごめんだ、そんな大会!」
「わかってるよ!僕らだって、乗り気なわけじゃない!正義の為ならともかく、こんな暴力的な、単なる力比べの為に戦うなんて……」
「ふん、どうだか。おたくの雷魔法があれば、俺なんかイチコロだ。ほんとはいい機会だとでも思ってるんじゃないか?」
ガタン!ソファをぶっ飛ばす勢いで、クラークが立ち上がった。
「ふざけるな!勇演武闘は、僕だけが戦えば済む話じゃない!こっちには、戦いが苦手な仲間もいるんだぞ!」
俺ははっとして、クラークの仲間の一人、小柄なシスター・ミカエルを見た。ミカエルはキュッと口元を引き結んで、体をこわばらせている。顔は真っ白だ。
「そっちの人数の方が多い以上、ミカエルは必ず参加しなければいけないんだ。この事態が不服なのは、そっちだけじゃないんだぞ……!」
「……ちっ。悪かったよ」
俺は素直に謝った。今のは、俺が悪い。だけど、分からないところもある。
「さっき、こっちの数が多いから、おたくらは必ず参加することになる、とか言ったよな。それってどういう意味だ?そもそも、勇演武闘ってのはどういうルールになってる?」
クラークは俺を睨むと、再びソファに座りなおした。そしてぶすっとした顔で口を開く。
「勇演武闘は、一対一形式で行われる。勇者とその仲間たち、全員が必ず一度は戦うようにカードが組まれるんだ」
ぜ、全員だと?俺は思わず、ライラの方を見た。こんな小さな子にまで戦えって言うのか!しかしそれを見たクラークは、ゆるゆると首を振った。
「大丈夫だよ。勇演武闘では、一度戦った人はそれ以降、戦いに参加してはならないんだ。つまり、戦うのは一度だけ。僕らが四人、そっちが五人だから、一人は参加しなくてもいいことになる」
な、なんだ……じゃあ、ライラは不参加でオッケーだな。いや、そもそも誰一人参加させたくはないが……ライラは自分も戦えるぞとばかりにむっとしたが、いくら何でもそれは許可できない。たった一人で、クラークみたいな奴と戦わせられるか。
「しかし、そうか。だからそっちは、フルメンバーじゃなきゃいけなくなってるんだな」
「そういうことだよ……それ以外の理由で、参加を拒否することはできない。たとえシスターであっても、舞台にあがらなきゃいけないんだ」
「ふざけたルールだ……それ、棄権とかできないのか?」
「まだ分からない。ただ、もしそれが可能なら、全試合棄権で不戦勝、なんてことができるんだけれど」
「そんな腑抜けた試合、あの女帝が認めるはずない、か……」
「ああ……」
くそが。聞けば聞くほど、逃げ場がなくなっていく気がするぞ。
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