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12章 負けられない闘い
9-2
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9-2
俺たちが行き詰って沈み込んでいると、再び扉が開く音がした。
「ん、なんだ。一の国の勇者さんまでいんのか?」
現れたのは、ヘイズだ。あんの野郎、やっと戻ってきやがったな!
「ヘイズ!今、むこうの勇者さんと一緒に、あのふざけた大会について議論してたところだ」
「そうか。んんっ……一の国の勇者、クラーク殿ですね。オレは二の国の軍人、ヘイズと申します」
「どうも、ヘイズさん。それに、そんなに固くならないでください。それよりも今は、この事態をどうするかを優先しましょう」
「へへ、そう言ってもらえると助かりますよ」
ヘイズもソファにぼすっと腰かけると、俺たちの顔を見渡した。
「さて、お前さんたちはどこまで話してたんだ?」
「今は、勇演武闘のルールについて聞いてたところだよ」
「そうか。一対一形式、最大四試合。こんなところだな?」
俺はこくりとうなずく。クラークはどうしてわかったんだ?と驚いているようだ。ヘイズはこういうところでは、抜群に切れるからな。そのヘイズが口を開く。
「さてと、でだ。オレたちの方では、色々と女帝殿に対して抗議を試みてみた。だが正直、効果らしい効果はまるでないと言っていい」
「なんでだよ!ノロが全部無視したってか?」
「いや、そうじゃねえ。こっちがまともな意見を言えないんだ。考えてもみろ。俺たちはノロ女帝のご好意によって、隊長を治療してもらったばっかりだ。昨日今日と連日、盛大に歓迎もしてもらっている。とても文句が言える立場じゃねえ」
「なっ!歓迎って、あれはあっちが勝手にやった事だろ!それに、エドガーの件だって、もう済んだことだ!こういう言い方はあんまりしたくないけど、治してもらったら、あとはこっちのもんだろ?」
「いいや。治してもらったからこそ、断れねぇんだ」
「え?」
ヘイズは苦り切った顔で首を振る。
「その前だったら、こっちは声高に抗議できる。ふざけんな、人の命を天秤に掛けんのかってな。大っぴらにはしてないが、こっちはそれなりの“土産物”も持参してるんだ。その上で横柄な態度をとったら、悪役は完全にノロ女帝だ」
「な、なら、治療をしてもらった今は?」
「今を図式にするなら、寛大な心で快く頼みを聞き入れた女帝と、その恩恵にあやかったオレたちっつう形になるな。つまり、上下関係が逆転してるんだよ。施しを受けた後で、その主に文句を付けたりなんかしたら、二の国はなんて非常識な連中なんだと非難されるだろう」
「だっ……だって、こんな後出しの形で……!」
「ああ。けど、そこがあの女帝の食えないところだ。もしも法外な条件を吹っ掛けてきたのなら、こっちもそれなりの覚悟がある。だが、今回の勇演武闘は、ぎりぎり飲み込めちまうラインなんだよ。勇演武闘は、何も治外法権な殺し合いってわけじゃねぇ。三国間で取り決められた、正式な親善試合だ。開催権はどの国にも平等にある」
んなこと言われたって……クラークが前のめりになる。
「でも、僕たちからしたらいい迷惑だ!」
「そこだ。迷惑なのは、お前ら勇者だけだろ?お互いの国は一兵も出す必要がない。金もそこまで掛からねえ。かかるコストが少ないってことは、それだけ駄々をこねづらいってことでもあるんだよ」
くそ!じゃあ、あれか?それくらい大目に見ろよってノリで、ノロは押し切ろうとしているってわけかよ。断れば、空気の読めない奴ってことになるのか?ふざけんな!
ヘイズは両手を合わせると、指先で眉間をこんこんと叩く。
「だが、こちらもそう気軽に飲める条件でもねぇ。勇演武闘は、いわば戦争のミニチュアだ。国を代表する勇者同士がぶつかり、雌雄を決する。国の威信に大きくかかわる問題だ。断れるなら断りたいと思って、色々掛け合ってみたが……」
「……そこで、振りだしに戻るってわけかよ?」
「そういう事だ。こっちには切れるカードがない。おまけに女帝殿は、俺たちが一番下りにくいタイミングで勝負を仕掛けてきやがった」
「あ。あのパーティーって、もしかして……」
「そうだ。あれだけ大盛り上がりになっちゃ、引くのは難しいって寸法だ。たぶん明日の朝には、帝都中にこの話が伝わっているだろうな。帝都の全住人が、開催を待ち望んでいる。そういうプレッシャーで、こっちを逃げさせなくしてきてるんだよ」
そうだった……あん時のパーティー客の食いつきようは、ちょっと異常にすら見えるほどだった。もしもあの場で、俺たちは参加しないぞと言おうものなら……その場面を想像したのか、ウィルと、向こうのミカエルは、そろって真っ青になっていた。
俺は頭がかっかしすぎて、くらくらしてきた。ぼすっとソファにもたれる。
「ノロのやつ……考えれば考えるほど、恐ろしく周到だな。この時の為だけに、あいつはずーっと仕込みをしてたんだ……」
いつからこの計画を練っていたのだろう。そもそも、ノロの真意はなんだ?こんな強引に試合をして、一体何になる?クラークに俺をぶっ潰させて、一の国の強さを知らしめたいのだろうか。軍国主義のここでなら、ありえなくもない話だが……そんな茶番、くそくらえだ。
ヘイズは疲れたように首を振る。
「とにかく、オレたちはダメもとで抗議を続けてみる。ロア様にも報告するが、正直あまり期待はできないだろうな。ロア様と言えど、同じ理由で強くは出れないはずだ……一の国の勇者殿。あなたも戦いを望まないのであれば、力を貸してほしい。他にも誰か、力になってくれそうな人はいないか?」
クラークもまた、難しい顔をしていた。
「……何とも言えないな。知り合いはいるにはいるけれど、みんな王宮の人たちだから。けれど、できる限りはやってみます」
「よし。こうなった以上、少しでもあがいてみるしかないだろう。だが……覚悟だけは、しといたほうがいいかもしれねぇな」
俺たちの会議は、そうやって幕を閉じた。ちくしょう……
「……と、言うわけなんだけど。なんとかならないかな?」
翌日。俺たちは必死に頼み込んで、なんとかキサカにもう一度会わせてもらった。月の神殿の人たちは渋り切った顔をしていたが、こっちも藁にもすがる思いなのだ。だが、すがったはずのキサカ本人もまた、困ったような顔をしていた。
「勇演武闘ですって。まさか、こんなタイミングで……それは、困ったことになったわね」
「そうなんだよ。とんだ災難だ。こんなふざけた大会、参加したくないんだけど……」
「ええ、桜下くんの意見ももっとだわ。どうにかしてあげたいとは思うけれど……」
キサカはすまなそうに瞳を伏せる。
「あんたでも無理なのか?光の聖女様の意見なら、女帝さんも考えちゃくれないかな?」
「あの人は、一度こうと決めたら、誰の意見だって聞かないわ。それくらい意志の強い人なの。だからこそ、皇帝の座に就いているのでしょうけれど……私にあの人の気を変えさせるだけの発言力があるのなら、もっと多くの勇者の子を、救えていたでしょうね」
「そっかぁ……」
がっくりと肩を落とす。キサカは深々と頭を下げた。
「本当にごめんなさい。何の力にもなれなくて……私が無力なばっかりに……」
「やめてくれよ。急に押し掛けたのはこっちだぜ。それに、こういう相談ができる相手がいただけでも、正直助かったよ。今王宮は、どこへいっても勇演武闘一色なんだ」
「そうなの……あ、そうだわ。参考になるかは分からないけど、以前の勇演武闘では、一回しか試合が行われなかった時があったの」
「え!?それ、詳しく!」
「ええ、確か……勇者同士の一騎打ちになって、その一試合だけで大会が終わったのよ。その時の勇者のパーティーの数があまりにも多くて、それで……」
「数が多くて、か」
なるほど、なん十試合もするとなると時間が掛かり過ぎるから、そういう特例措置が取られたんだな。俺たちはそんなに大所帯じゃないが……だが、そういう例があったというだけでも収穫だ。
「サンキュー、キサカ。いいことが聞けたよ」
「ほんとう?大したことじゃないけれど……」
「いいや、過去にそういう例があったなら、今回もルールを変えられるかもしれない」
俺とやつの闘いなんて、火を見るよりも明らかってやつだ。俺の能力は、仲間が居なけりゃ役に立たない。一対一が絶対の勇演武闘との相性は最悪だ。だけど。
「俺だけで済ませられるなら、何十倍もマシだ」
俺はキサカに礼を言うと、月の神殿を後にした。
神殿からの帰り道、フランが聞き捨てならないとばかりに、俺に噛みついてくる。
「ちょっと。まさか、あなただけ戦って済ませるなんて言わないよね」
「なんでだよ?そうできるなら、それが一番手っ取り早いだろ」
「冗談言わないで!だったらわたしがあの勇者と戦う。あなた一人だけだなんて……」
「まあ、瞬殺だろうな。けど、それでいいじゃないか。たぶん一の国の連中は、俺がボコボコにされるところを見たがってんだ。なら、そこだけ見せて満足してもらえばいいだろ?」
「そんなの……」「ぜったい!」「イヤです!」
うわ。フランだけじゃなく、横からウィルが、正面からライラが詰め寄ってきた。
「な、なんだよみんな。別に死ぬわけじゃないんだし、それくらいなら……」
「どうしてですか!そんな目にあって、桜下さんは嬉しいんですか?」
「嬉しいか嬉しくないかで言ったら、そりゃいい気はしないけど」
「だったらです!桜下さんが辛い目にあうのに、賛成できるわけないでしょう!」
「いや、しかしだな……」
するとライラが、長い髪をぶんぶん振り乱して首を振る。
「そんなの、ライラはいや!桜下のかっこ悪いところを見て、みんなで笑うなんて、考えただけでいや!桜下はもっとかっこいいもん!ぜーったいいや!」
「あ、ありがとう。けど、イヤって言われてもな……まあほら、まだこうなると決まったわけじゃないから。あくまで策の一つさ。な?みんなの意見は分かったから」
なだめすかすと、ライラはとりあえず落ち着いてくれた。でもまさか、こんなに反発にあうだなんて……けど内心では、俺は実にいい案だと思っていた。開催自体が止められないのだとしたら、いかに被害を抑えるかが重要になる。もちろん最初から参加しないに越したことはないが、仲間が傷つくよりはなん百倍もマシだ。
(そう。俺一人でいい。笑い者になるのは)
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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俺たちが行き詰って沈み込んでいると、再び扉が開く音がした。
「ん、なんだ。一の国の勇者さんまでいんのか?」
現れたのは、ヘイズだ。あんの野郎、やっと戻ってきやがったな!
「ヘイズ!今、むこうの勇者さんと一緒に、あのふざけた大会について議論してたところだ」
「そうか。んんっ……一の国の勇者、クラーク殿ですね。オレは二の国の軍人、ヘイズと申します」
「どうも、ヘイズさん。それに、そんなに固くならないでください。それよりも今は、この事態をどうするかを優先しましょう」
「へへ、そう言ってもらえると助かりますよ」
ヘイズもソファにぼすっと腰かけると、俺たちの顔を見渡した。
「さて、お前さんたちはどこまで話してたんだ?」
「今は、勇演武闘のルールについて聞いてたところだよ」
「そうか。一対一形式、最大四試合。こんなところだな?」
俺はこくりとうなずく。クラークはどうしてわかったんだ?と驚いているようだ。ヘイズはこういうところでは、抜群に切れるからな。そのヘイズが口を開く。
「さてと、でだ。オレたちの方では、色々と女帝殿に対して抗議を試みてみた。だが正直、効果らしい効果はまるでないと言っていい」
「なんでだよ!ノロが全部無視したってか?」
「いや、そうじゃねえ。こっちがまともな意見を言えないんだ。考えてもみろ。俺たちはノロ女帝のご好意によって、隊長を治療してもらったばっかりだ。昨日今日と連日、盛大に歓迎もしてもらっている。とても文句が言える立場じゃねえ」
「なっ!歓迎って、あれはあっちが勝手にやった事だろ!それに、エドガーの件だって、もう済んだことだ!こういう言い方はあんまりしたくないけど、治してもらったら、あとはこっちのもんだろ?」
「いいや。治してもらったからこそ、断れねぇんだ」
「え?」
ヘイズは苦り切った顔で首を振る。
「その前だったら、こっちは声高に抗議できる。ふざけんな、人の命を天秤に掛けんのかってな。大っぴらにはしてないが、こっちはそれなりの“土産物”も持参してるんだ。その上で横柄な態度をとったら、悪役は完全にノロ女帝だ」
「な、なら、治療をしてもらった今は?」
「今を図式にするなら、寛大な心で快く頼みを聞き入れた女帝と、その恩恵にあやかったオレたちっつう形になるな。つまり、上下関係が逆転してるんだよ。施しを受けた後で、その主に文句を付けたりなんかしたら、二の国はなんて非常識な連中なんだと非難されるだろう」
「だっ……だって、こんな後出しの形で……!」
「ああ。けど、そこがあの女帝の食えないところだ。もしも法外な条件を吹っ掛けてきたのなら、こっちもそれなりの覚悟がある。だが、今回の勇演武闘は、ぎりぎり飲み込めちまうラインなんだよ。勇演武闘は、何も治外法権な殺し合いってわけじゃねぇ。三国間で取り決められた、正式な親善試合だ。開催権はどの国にも平等にある」
んなこと言われたって……クラークが前のめりになる。
「でも、僕たちからしたらいい迷惑だ!」
「そこだ。迷惑なのは、お前ら勇者だけだろ?お互いの国は一兵も出す必要がない。金もそこまで掛からねえ。かかるコストが少ないってことは、それだけ駄々をこねづらいってことでもあるんだよ」
くそ!じゃあ、あれか?それくらい大目に見ろよってノリで、ノロは押し切ろうとしているってわけかよ。断れば、空気の読めない奴ってことになるのか?ふざけんな!
ヘイズは両手を合わせると、指先で眉間をこんこんと叩く。
「だが、こちらもそう気軽に飲める条件でもねぇ。勇演武闘は、いわば戦争のミニチュアだ。国を代表する勇者同士がぶつかり、雌雄を決する。国の威信に大きくかかわる問題だ。断れるなら断りたいと思って、色々掛け合ってみたが……」
「……そこで、振りだしに戻るってわけかよ?」
「そういう事だ。こっちには切れるカードがない。おまけに女帝殿は、俺たちが一番下りにくいタイミングで勝負を仕掛けてきやがった」
「あ。あのパーティーって、もしかして……」
「そうだ。あれだけ大盛り上がりになっちゃ、引くのは難しいって寸法だ。たぶん明日の朝には、帝都中にこの話が伝わっているだろうな。帝都の全住人が、開催を待ち望んでいる。そういうプレッシャーで、こっちを逃げさせなくしてきてるんだよ」
そうだった……あん時のパーティー客の食いつきようは、ちょっと異常にすら見えるほどだった。もしもあの場で、俺たちは参加しないぞと言おうものなら……その場面を想像したのか、ウィルと、向こうのミカエルは、そろって真っ青になっていた。
俺は頭がかっかしすぎて、くらくらしてきた。ぼすっとソファにもたれる。
「ノロのやつ……考えれば考えるほど、恐ろしく周到だな。この時の為だけに、あいつはずーっと仕込みをしてたんだ……」
いつからこの計画を練っていたのだろう。そもそも、ノロの真意はなんだ?こんな強引に試合をして、一体何になる?クラークに俺をぶっ潰させて、一の国の強さを知らしめたいのだろうか。軍国主義のここでなら、ありえなくもない話だが……そんな茶番、くそくらえだ。
ヘイズは疲れたように首を振る。
「とにかく、オレたちはダメもとで抗議を続けてみる。ロア様にも報告するが、正直あまり期待はできないだろうな。ロア様と言えど、同じ理由で強くは出れないはずだ……一の国の勇者殿。あなたも戦いを望まないのであれば、力を貸してほしい。他にも誰か、力になってくれそうな人はいないか?」
クラークもまた、難しい顔をしていた。
「……何とも言えないな。知り合いはいるにはいるけれど、みんな王宮の人たちだから。けれど、できる限りはやってみます」
「よし。こうなった以上、少しでもあがいてみるしかないだろう。だが……覚悟だけは、しといたほうがいいかもしれねぇな」
俺たちの会議は、そうやって幕を閉じた。ちくしょう……
「……と、言うわけなんだけど。なんとかならないかな?」
翌日。俺たちは必死に頼み込んで、なんとかキサカにもう一度会わせてもらった。月の神殿の人たちは渋り切った顔をしていたが、こっちも藁にもすがる思いなのだ。だが、すがったはずのキサカ本人もまた、困ったような顔をしていた。
「勇演武闘ですって。まさか、こんなタイミングで……それは、困ったことになったわね」
「そうなんだよ。とんだ災難だ。こんなふざけた大会、参加したくないんだけど……」
「ええ、桜下くんの意見ももっとだわ。どうにかしてあげたいとは思うけれど……」
キサカはすまなそうに瞳を伏せる。
「あんたでも無理なのか?光の聖女様の意見なら、女帝さんも考えちゃくれないかな?」
「あの人は、一度こうと決めたら、誰の意見だって聞かないわ。それくらい意志の強い人なの。だからこそ、皇帝の座に就いているのでしょうけれど……私にあの人の気を変えさせるだけの発言力があるのなら、もっと多くの勇者の子を、救えていたでしょうね」
「そっかぁ……」
がっくりと肩を落とす。キサカは深々と頭を下げた。
「本当にごめんなさい。何の力にもなれなくて……私が無力なばっかりに……」
「やめてくれよ。急に押し掛けたのはこっちだぜ。それに、こういう相談ができる相手がいただけでも、正直助かったよ。今王宮は、どこへいっても勇演武闘一色なんだ」
「そうなの……あ、そうだわ。参考になるかは分からないけど、以前の勇演武闘では、一回しか試合が行われなかった時があったの」
「え!?それ、詳しく!」
「ええ、確か……勇者同士の一騎打ちになって、その一試合だけで大会が終わったのよ。その時の勇者のパーティーの数があまりにも多くて、それで……」
「数が多くて、か」
なるほど、なん十試合もするとなると時間が掛かり過ぎるから、そういう特例措置が取られたんだな。俺たちはそんなに大所帯じゃないが……だが、そういう例があったというだけでも収穫だ。
「サンキュー、キサカ。いいことが聞けたよ」
「ほんとう?大したことじゃないけれど……」
「いいや、過去にそういう例があったなら、今回もルールを変えられるかもしれない」
俺とやつの闘いなんて、火を見るよりも明らかってやつだ。俺の能力は、仲間が居なけりゃ役に立たない。一対一が絶対の勇演武闘との相性は最悪だ。だけど。
「俺だけで済ませられるなら、何十倍もマシだ」
俺はキサカに礼を言うと、月の神殿を後にした。
神殿からの帰り道、フランが聞き捨てならないとばかりに、俺に噛みついてくる。
「ちょっと。まさか、あなただけ戦って済ませるなんて言わないよね」
「なんでだよ?そうできるなら、それが一番手っ取り早いだろ」
「冗談言わないで!だったらわたしがあの勇者と戦う。あなた一人だけだなんて……」
「まあ、瞬殺だろうな。けど、それでいいじゃないか。たぶん一の国の連中は、俺がボコボコにされるところを見たがってんだ。なら、そこだけ見せて満足してもらえばいいだろ?」
「そんなの……」「ぜったい!」「イヤです!」
うわ。フランだけじゃなく、横からウィルが、正面からライラが詰め寄ってきた。
「な、なんだよみんな。別に死ぬわけじゃないんだし、それくらいなら……」
「どうしてですか!そんな目にあって、桜下さんは嬉しいんですか?」
「嬉しいか嬉しくないかで言ったら、そりゃいい気はしないけど」
「だったらです!桜下さんが辛い目にあうのに、賛成できるわけないでしょう!」
「いや、しかしだな……」
するとライラが、長い髪をぶんぶん振り乱して首を振る。
「そんなの、ライラはいや!桜下のかっこ悪いところを見て、みんなで笑うなんて、考えただけでいや!桜下はもっとかっこいいもん!ぜーったいいや!」
「あ、ありがとう。けど、イヤって言われてもな……まあほら、まだこうなると決まったわけじゃないから。あくまで策の一つさ。な?みんなの意見は分かったから」
なだめすかすと、ライラはとりあえず落ち着いてくれた。でもまさか、こんなに反発にあうだなんて……けど内心では、俺は実にいい案だと思っていた。開催自体が止められないのだとしたら、いかに被害を抑えるかが重要になる。もちろん最初から参加しないに越したことはないが、仲間が傷つくよりはなん百倍もマシだ。
(そう。俺一人でいい。笑い者になるのは)
つづく
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