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12章 負けられない闘い
15-3
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15-3
クラークは再生したオレの腕を穴が開くほど見つめると、苦々し気に舌打ちした。
「くそ……!もともとでたらめだったくせに、さらに常識外れになったな!」
「的確な指摘だァ、クラーク!オレの肉を切りてェなら、テメーの骨をまるごといただくことになるぜェ!」
「なら、切らなければいいだけだ!」
やつの剣が輝きを増す。おおっと、そう出てくるか!
「ボルテック・ターミガン!」
ジジジジッ!無数の電撃が、羽根吹雪のように飛んでくる。一撃でダメなら、手数で攻めようって魂胆だな?
「上等だァ!付いてこれるなら付いてきな!」
全速力で走りだす!やつが雷なら、オレたちは風だ!どちらが速いか、勝負と行こう!
「はああああ!」
クラークが叫ぶと、電撃の量が増す。その電撃の嵐のすぐ先を、オレは疾風の如く走っていく。一歩でも速度を緩めたら、オレは一瞬でハチの巣にされるだろう。ゾクゾクするじゃねェか!
「ちょこまかとおおお!止まれぇ!」
「そいつは、できねェ相談だなァ!」
今だ!オレは整備の際に見落とされていた、クルミほどの小さな石ころを、思い切り蹴っ飛ばした。ただの石ころは、それこそ弾丸のようなスピードで飛んでいき、クラークはそれをすんでのところでかわした。やつの背後の壁で、騒々しい音が立つ。メギャア!ガラガラガラ……
「っ!」
それに気を取られてか、ほんの一瞬、クラークにスキが生じた。今がチャンスだ!
「おらああぁぁ!」
オレは踵でギュルンと回転すると、クラークに向かって飛び込んでいく。クラークは一瞬慌てた表情を見せたが、冷静に剣先をオレに向ける。電撃の雨が飛んでくる!
「だけどなァ!んなもん、当たらなきゃいいんだよォ!」
ハッハァ!雷の暴風雨の中を突き進んでいけ!気分は嵐に挑む航海士だ!バチ、バチィ!
『相当数が当たってるけど?』
「かすり傷ならノーカンだァ!」
多少の傷なら即座に回復する!オレはそうやって強引に、電撃の嵐を突破した。捉えたぞ、クラーク!
「でりゃあああ!」
「くっ!」
オレたちの拳を喰らいやがれ!だがやつは、当たる直前でネズミのように体をひるがえした。オレのパンチは地面に吸い込まれる。
ドゴォ!ビシィ!オレの渾身の一撃は、今までさんざん痛めつけられてきたリングに、とうとう致命傷を与えてしまった。オレの拳を始点にして、左右にカミナリのようなヒビが走る。
ズズズ……バキバキバキ!ぐらぐらと地面が揺れ、リング全体が左右にぱっくりと割れた。あーりゃりゃ、底にあった基礎の部分をぶっ壊しちまったみてえだ。ノロがどんなにわがままを言っても、もう次の試合は無理そうだな。ガハハ!
「なっ……なんて馬鹿力だ……」
クラークが顔を青ざめさせている。クカカ、気ィ付けてくれよ?今のオレは、力の加減がデタラメだ!
「くそぉ……!」
クラークは歯噛みすると、何もないところで剣をびゅーんとスイングする。空振り?
「ピーコックウェイブ!」
ブワー!太刀筋から、電撃波がカーテンのように放出された!広いな、これはよけきれねぇ!
「ぬうぅ!」
腕を交差させて、電撃をガードする。電撃が当たると、まるで高波に押しのけられたような衝撃だ。しかも熱い!生身で喰らっていたら、ひとたまりもなかっただろうな。だが!
「ぬるいぜ、クラーク!もう息切れかァ!?」
この程度、屁でもねぇぜ!さっきまでに比べて、明らかに電撃の威力が落ちている。確かアニいわく、やつの魔法は詠唱を必要としないが、その分大量の魔力を消費するんだってな。ほら、やつは悔しそうに顔を歪めるが、上下する肩までは誤魔化しきれていねえ。いくら勇者といえど、魔力は無限じゃないってこった。
『チャンスだよ!ここから畳みかければ、あいつもいずれ限界が来る!』
フランが珍しく興奮した声で俺を急かす。チッチッチ。
「確かになァ。けどよ、フラン。それじゃロマンがねーじゃねェか?」
『はあ?ろ、ロマン?』
「おうよ。どうせなら、派手に幕切れといこうぜェ!だろ、クラーク!」
オレが呼びかけると、クラークは荒い息をしながらも、怪訝そうな顔でこちらを見る。
「てめーだってよ、少年の心ってもんは分かるだろ?このままどちらかがへばって終わりだなんて、つまんねーだろうが?」
「はぁ、はぁ……何が言いたいんだ?」
「ダラダラ続けたってしょうがねェ!ここいらで一発、ドカンとフィニッシュと行こう!お互いのありったけの技をぶつけてなァ!」
「なんだって……?」
『ど、どういうこと?』
おおっと、女の子のフランにはわからないか?いや、フランみたいなクールな娘からしたら、きっとオレはバカにしか見えないんだろうさ!カカカ!
「お互いの必殺技をぶつけ合おうぜ!闘いの最後は切り札同士の激突!熱いバトルのエンドってのは、そう決まってるだろうが!」
クラークはぽかんと口を開けている。ありゃ驚いているんじゃなくて、心底呆れた顔だな。だがクラークは、すぐににやりと笑った。
「……ふっ。そうだね。それに、確かに面白い!」
「ハッハァ!そうこなくっちゃなァ!」
『……』
やっぱり乗ってきた!フランの無言のため息が聞こえた気もするが、関係ねぇ!
オレたちは示し合わせたように、ばっと距離を取った。互いに一直線に、リングの端と端まで走っていく。ちょうど、真っ二つに割れたリングの亀裂を対角線にして、オレたちは再び向き合った。
「はあぁぁぁぁ……」
遠く離れたクラークの気合が、ここまで聞こえてくるようだ。やつは魔法剣を前に突き出し、目を閉じて意識を集中している。おそらく、体中の全神経、全魔力があの剣に集約しているはずだ。ビリビリするような力が、やつの手元に集まっているのを感じる。
『ね、ねえ。本当に大丈夫なの?必殺技って言ったって、あなたにもわたしにも、そんなものなかったんじゃ』
さすがに不安になったのか、フランの焦った声。ハハッ、今日はいろんなフランが見られる日だな。
「心配いらねェぜ、フラン。確かに、オレにもお前にも、必殺技っつうのはなかった。だがな、“オレたち”にはあるんだよ」
『わたし、たち?』
「おうとも!さァ、最後の仕上げだ!いっちょ力借りるぜ、フランセス!」
ピカ!ゴゴーン!上空の黒雲で雷が轟いた。雨は次第に激しさを増し、空は夜になったのかと勘違いしそうなほど暗い。そんな中で、燦然と輝く光が一つ。クラークの魔法剣だ。やつの剣は、今まで見たことがないほどの光を放っている。それは闇夜に輝く灯台のように、人々の目と心を引き付ける。
「はああぁぁぁぁ……!」
ジジジ……バチバチバチ!ついにクラークの全身からも、電気が放たれ始めた。雨粒が彼に当たると、一瞬で蒸発してしまう。
やつの背後には、円形の電撃の陣が形成されつつあった。その陣の内側には、途方もない雷のエネルギーが渦を巻いている。それのまぶしいのなんの、恒星を一つ、地上に落っことしたみたいだ。しかも、どんどん大きくなっていく。
「いいねェ……そうこなくっちゃなァ!」
楽しくなってきやがったぜ!オレは両腕をビュンと振ると、腕に巻き付いた鎖を地面に放った。鎖は土を穿って突き刺さり、しっかりと固定される。
「行くぜェ……魂のありったけを、この一撃に込める……!」
オレは両腕をまっすぐに突き出した。その両腕の間に、薄紅色の魔力を集中させる。膨大な魔力が、オレの目の前に集まっていく……!
『これって……ソウルカノン?』
「チッチッチ……こいつはそれとは、一味違うぜ……!」
圧縮された魔力は、今にも弾け飛びそうだ。だがそれを無理やり押し込め、オレはさらに力を溜める。まだだ、もう少し……波が最高潮になるまで、歯を食いしばって耐える……!
そしてクラークもまた、臨界点に到達しようとしていた。やつの背後の雷はとんでもなく膨れ上がり、すぐ後ろに満月が浮かんでいるように見える。激しく渦を巻く雷のエネルギーは、空気を震わせて奇妙な音を発していた。フィーン、フィィィィン!
オレたちの力は、ともに最大ボルテージを迎えていた。お互いから放たれる見えないオーラが、リングの中心地点で押し合いへし合いしているようだ。オーラは熱気となって、会場全体を包み込む。コロシアム丸ごとを闘気の渦に放り込んだように。そしてその熱が、上空の雷雲へと立ち上り……
カッ!一瞬の閃光。数刻遅れて、空気を震わせる轟音。それはまさしく、開戦を告げるラッパだっ!
「スクアーロ・コライダァァァァァァ!!!」
クラークが叫ぶ!迎え撃て!
「ブチ抜けェ!ソウル“フル”・カノンッ!!!」
ズドドド!オレの両腕の間に限界まで圧縮されていた魔力が、一気に解き放たれる。それは紅色の濁流となって、クラークへとまっすぐ進んでいく!
対してクラークの剣先からは、膨れ上がった膨大なエネルギーが一点に集中、超密度のビームとなって放たれた。ズビィィィィ!
文字通り、相手を必ず倒す必殺技!それがリングの中心でぶつかり合う!
ズガガガガガガガガ!
とんでもない衝撃波に、思わず吹っ飛びそうになった。オレの技を押し返そうとするクラークのビームの威力が、両腕にはっきりと伝わってくる。だが地面に放った鎖が、オレを支えてくれている!
「うおおぉぉぉぉ!」
もっとだ!もっと魔力を!オレの気合に応じて、カノンはさらに太く、勢いを増した。
「はああああああ!」
クラークが叫ぶ。それに応じて、ビームはさらに鋭く、輝きを増した。
二人の必殺技がぶつかる交点は白く輝き、同時に凄まじいエネルギーをほとばしらせている。どちらかが押せば押し返し、どちらかが引けば差し戻す。二人の力は、完全に互角だった。
「おおおおおおおおお!!!」
「あああああああああ!!!」
するとその中心点に、真っ白な光の球体が生じ始めた。ぶつかり合い、行き場を失った膨大なエネルギーが渦を巻いているのか……オレは、新たな星の誕生を見ている気分だった。
その光の球は、どんどん大きさを増していく。強烈な光があたりを埋め尽くす。ひび割れたリングも、観客たちも、そしてオレたちをも飲み込んだ。光の洪水だ。
影は消え去り、全ての輪郭がぼやけていった。空も、大地も、何もかもが同じ色になる。時間も、空間も、ついには体の感覚さえもなくなり……
そして、全てが白くなった。
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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やつの剣が輝きを増す。おおっと、そう出てくるか!
「ボルテック・ターミガン!」
ジジジジッ!無数の電撃が、羽根吹雪のように飛んでくる。一撃でダメなら、手数で攻めようって魂胆だな?
「上等だァ!付いてこれるなら付いてきな!」
全速力で走りだす!やつが雷なら、オレたちは風だ!どちらが速いか、勝負と行こう!
「はああああ!」
クラークが叫ぶと、電撃の量が増す。その電撃の嵐のすぐ先を、オレは疾風の如く走っていく。一歩でも速度を緩めたら、オレは一瞬でハチの巣にされるだろう。ゾクゾクするじゃねェか!
「ちょこまかとおおお!止まれぇ!」
「そいつは、できねェ相談だなァ!」
今だ!オレは整備の際に見落とされていた、クルミほどの小さな石ころを、思い切り蹴っ飛ばした。ただの石ころは、それこそ弾丸のようなスピードで飛んでいき、クラークはそれをすんでのところでかわした。やつの背後の壁で、騒々しい音が立つ。メギャア!ガラガラガラ……
「っ!」
それに気を取られてか、ほんの一瞬、クラークにスキが生じた。今がチャンスだ!
「おらああぁぁ!」
オレは踵でギュルンと回転すると、クラークに向かって飛び込んでいく。クラークは一瞬慌てた表情を見せたが、冷静に剣先をオレに向ける。電撃の雨が飛んでくる!
「だけどなァ!んなもん、当たらなきゃいいんだよォ!」
ハッハァ!雷の暴風雨の中を突き進んでいけ!気分は嵐に挑む航海士だ!バチ、バチィ!
『相当数が当たってるけど?』
「かすり傷ならノーカンだァ!」
多少の傷なら即座に回復する!オレはそうやって強引に、電撃の嵐を突破した。捉えたぞ、クラーク!
「でりゃあああ!」
「くっ!」
オレたちの拳を喰らいやがれ!だがやつは、当たる直前でネズミのように体をひるがえした。オレのパンチは地面に吸い込まれる。
ドゴォ!ビシィ!オレの渾身の一撃は、今までさんざん痛めつけられてきたリングに、とうとう致命傷を与えてしまった。オレの拳を始点にして、左右にカミナリのようなヒビが走る。
ズズズ……バキバキバキ!ぐらぐらと地面が揺れ、リング全体が左右にぱっくりと割れた。あーりゃりゃ、底にあった基礎の部分をぶっ壊しちまったみてえだ。ノロがどんなにわがままを言っても、もう次の試合は無理そうだな。ガハハ!
「なっ……なんて馬鹿力だ……」
クラークが顔を青ざめさせている。クカカ、気ィ付けてくれよ?今のオレは、力の加減がデタラメだ!
「くそぉ……!」
クラークは歯噛みすると、何もないところで剣をびゅーんとスイングする。空振り?
「ピーコックウェイブ!」
ブワー!太刀筋から、電撃波がカーテンのように放出された!広いな、これはよけきれねぇ!
「ぬうぅ!」
腕を交差させて、電撃をガードする。電撃が当たると、まるで高波に押しのけられたような衝撃だ。しかも熱い!生身で喰らっていたら、ひとたまりもなかっただろうな。だが!
「ぬるいぜ、クラーク!もう息切れかァ!?」
この程度、屁でもねぇぜ!さっきまでに比べて、明らかに電撃の威力が落ちている。確かアニいわく、やつの魔法は詠唱を必要としないが、その分大量の魔力を消費するんだってな。ほら、やつは悔しそうに顔を歪めるが、上下する肩までは誤魔化しきれていねえ。いくら勇者といえど、魔力は無限じゃないってこった。
『チャンスだよ!ここから畳みかければ、あいつもいずれ限界が来る!』
フランが珍しく興奮した声で俺を急かす。チッチッチ。
「確かになァ。けどよ、フラン。それじゃロマンがねーじゃねェか?」
『はあ?ろ、ロマン?』
「おうよ。どうせなら、派手に幕切れといこうぜェ!だろ、クラーク!」
オレが呼びかけると、クラークは荒い息をしながらも、怪訝そうな顔でこちらを見る。
「てめーだってよ、少年の心ってもんは分かるだろ?このままどちらかがへばって終わりだなんて、つまんねーだろうが?」
「はぁ、はぁ……何が言いたいんだ?」
「ダラダラ続けたってしょうがねェ!ここいらで一発、ドカンとフィニッシュと行こう!お互いのありったけの技をぶつけてなァ!」
「なんだって……?」
『ど、どういうこと?』
おおっと、女の子のフランにはわからないか?いや、フランみたいなクールな娘からしたら、きっとオレはバカにしか見えないんだろうさ!カカカ!
「お互いの必殺技をぶつけ合おうぜ!闘いの最後は切り札同士の激突!熱いバトルのエンドってのは、そう決まってるだろうが!」
クラークはぽかんと口を開けている。ありゃ驚いているんじゃなくて、心底呆れた顔だな。だがクラークは、すぐににやりと笑った。
「……ふっ。そうだね。それに、確かに面白い!」
「ハッハァ!そうこなくっちゃなァ!」
『……』
やっぱり乗ってきた!フランの無言のため息が聞こえた気もするが、関係ねぇ!
オレたちは示し合わせたように、ばっと距離を取った。互いに一直線に、リングの端と端まで走っていく。ちょうど、真っ二つに割れたリングの亀裂を対角線にして、オレたちは再び向き合った。
「はあぁぁぁぁ……」
遠く離れたクラークの気合が、ここまで聞こえてくるようだ。やつは魔法剣を前に突き出し、目を閉じて意識を集中している。おそらく、体中の全神経、全魔力があの剣に集約しているはずだ。ビリビリするような力が、やつの手元に集まっているのを感じる。
『ね、ねえ。本当に大丈夫なの?必殺技って言ったって、あなたにもわたしにも、そんなものなかったんじゃ』
さすがに不安になったのか、フランの焦った声。ハハッ、今日はいろんなフランが見られる日だな。
「心配いらねェぜ、フラン。確かに、オレにもお前にも、必殺技っつうのはなかった。だがな、“オレたち”にはあるんだよ」
『わたし、たち?』
「おうとも!さァ、最後の仕上げだ!いっちょ力借りるぜ、フランセス!」
ピカ!ゴゴーン!上空の黒雲で雷が轟いた。雨は次第に激しさを増し、空は夜になったのかと勘違いしそうなほど暗い。そんな中で、燦然と輝く光が一つ。クラークの魔法剣だ。やつの剣は、今まで見たことがないほどの光を放っている。それは闇夜に輝く灯台のように、人々の目と心を引き付ける。
「はああぁぁぁぁ……!」
ジジジ……バチバチバチ!ついにクラークの全身からも、電気が放たれ始めた。雨粒が彼に当たると、一瞬で蒸発してしまう。
やつの背後には、円形の電撃の陣が形成されつつあった。その陣の内側には、途方もない雷のエネルギーが渦を巻いている。それのまぶしいのなんの、恒星を一つ、地上に落っことしたみたいだ。しかも、どんどん大きくなっていく。
「いいねェ……そうこなくっちゃなァ!」
楽しくなってきやがったぜ!オレは両腕をビュンと振ると、腕に巻き付いた鎖を地面に放った。鎖は土を穿って突き刺さり、しっかりと固定される。
「行くぜェ……魂のありったけを、この一撃に込める……!」
オレは両腕をまっすぐに突き出した。その両腕の間に、薄紅色の魔力を集中させる。膨大な魔力が、オレの目の前に集まっていく……!
『これって……ソウルカノン?』
「チッチッチ……こいつはそれとは、一味違うぜ……!」
圧縮された魔力は、今にも弾け飛びそうだ。だがそれを無理やり押し込め、オレはさらに力を溜める。まだだ、もう少し……波が最高潮になるまで、歯を食いしばって耐える……!
そしてクラークもまた、臨界点に到達しようとしていた。やつの背後の雷はとんでもなく膨れ上がり、すぐ後ろに満月が浮かんでいるように見える。激しく渦を巻く雷のエネルギーは、空気を震わせて奇妙な音を発していた。フィーン、フィィィィン!
オレたちの力は、ともに最大ボルテージを迎えていた。お互いから放たれる見えないオーラが、リングの中心地点で押し合いへし合いしているようだ。オーラは熱気となって、会場全体を包み込む。コロシアム丸ごとを闘気の渦に放り込んだように。そしてその熱が、上空の雷雲へと立ち上り……
カッ!一瞬の閃光。数刻遅れて、空気を震わせる轟音。それはまさしく、開戦を告げるラッパだっ!
「スクアーロ・コライダァァァァァァ!!!」
クラークが叫ぶ!迎え撃て!
「ブチ抜けェ!ソウル“フル”・カノンッ!!!」
ズドドド!オレの両腕の間に限界まで圧縮されていた魔力が、一気に解き放たれる。それは紅色の濁流となって、クラークへとまっすぐ進んでいく!
対してクラークの剣先からは、膨れ上がった膨大なエネルギーが一点に集中、超密度のビームとなって放たれた。ズビィィィィ!
文字通り、相手を必ず倒す必殺技!それがリングの中心でぶつかり合う!
ズガガガガガガガガ!
とんでもない衝撃波に、思わず吹っ飛びそうになった。オレの技を押し返そうとするクラークのビームの威力が、両腕にはっきりと伝わってくる。だが地面に放った鎖が、オレを支えてくれている!
「うおおぉぉぉぉ!」
もっとだ!もっと魔力を!オレの気合に応じて、カノンはさらに太く、勢いを増した。
「はああああああ!」
クラークが叫ぶ。それに応じて、ビームはさらに鋭く、輝きを増した。
二人の必殺技がぶつかる交点は白く輝き、同時に凄まじいエネルギーをほとばしらせている。どちらかが押せば押し返し、どちらかが引けば差し戻す。二人の力は、完全に互角だった。
「おおおおおおおおお!!!」
「あああああああああ!!!」
するとその中心点に、真っ白な光の球体が生じ始めた。ぶつかり合い、行き場を失った膨大なエネルギーが渦を巻いているのか……オレは、新たな星の誕生を見ている気分だった。
その光の球は、どんどん大きさを増していく。強烈な光があたりを埋め尽くす。ひび割れたリングも、観客たちも、そしてオレたちをも飲み込んだ。光の洪水だ。
影は消え去り、全ての輪郭がぼやけていった。空も、大地も、何もかもが同じ色になる。時間も、空間も、ついには体の感覚さえもなくなり……
そして、全てが白くなった。
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