じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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13章 歪な三角星

3-1 帰郷

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3-1 帰郷

「ぬうううう……」

「そうやって唸ったところで、俺の気が変わると思ったら大間違いだからな」

「ふんっ!できることならな、お前の首根っこに鎖を付けて引きずって行ってやりたいわ……!」

エドガーは噛み砕くように言った。隣でヘイズが苦笑している。

「正直、オレも隊長殿と同意見だな。一度トライしてみようか」

「どうぞご自由に。慰謝料はでないけどな」

「だろうな。そうでなくても、誇りある王城兵は受けた恩義には報いるもんだ。お前たちが協力してくれた事実は変わりない。無理強いはできねーよ」

ほう。ヘイズの方は、まだわきまえているな。
俺たちは朝日に照らされる城門の跳ね橋で、困ったように笑うヘイズと、イライラを微塵も隠そうとしないエドガーに見送られている。これが見送りか?と言われたら反論できないけど、見送り以外に適切な言葉が見つからないから、やはり見送りなんだろう。

「お前ら全員、腹でも壊してしまえ!」

……やっぱり、程遠いかも。旅立つ客人に呪いの言葉を吐くのが、この城の流儀か?

「エドガー、あんたそれを言うためだけに、また病室を抜け出してきたのか?」

「ふん。一日中寝ているだけなど、退屈でしょうがないわ。それならばお前に文句をいう方が、まだ建設的よ」

「そうかそうか、元気そうでなによりだ。なん時間でも続けていいぞ。俺たちはもう行くけど」

「ぐっ、この……!」

エドガーは今にも俺に飛びかかってきそうだが、その肩にヘイズがぽんと手を置いた。

「隊長、無駄ですって。そうやって歯を剥けばビビってくれる相手なら、こんなに苦労してないじゃないすか。それよりも、おい。お前に渡しときたいモンがある」

「あん?」

ヘイズが差し出してきたのは、一枚の折りたたまれた紙きれ……なんだこれ?

「ま、パンフレットみたいなもんだ。シェオル島までの行き方と、三冠の宴の概要が書いてある。オレが一晩で纏めたもんだから、ちょいと品には欠くけどな」

「は?こんなもん渡されたって、俺が」

「行く行かないはこの場で言わなくていい。けど、それを持っておくくらいならかまわんだろ?」

ぐ……ヘイズが俺の手にぐいと押し付けてきたので、俺は思わずそれを受け取ってしまった。それを見たヘイズは満足そうにうなずく。

「よし。お前も宴について詳しくはないんだろ?知識くらいなら持っててもいいはずだ。何よりかさばらないしな。あ、あとそれと」

「……なんだよ、まだあんのか?」

「これで最後だ。今回の件は、ロア様じゃなくて、オレとエドガー隊長からの依頼だと思ってくれないか」

へ?俺とエドガーが、二人そろってヘイズをぽかんと見つめる。

「実はな、ロア様も迷いはしてたんだが、最終的にお前に直訴するのはよそうって話になったんだ。でかい頼みを引き受けてもらったばっかなのに、さすがに虫が良すぎるってな」

「へー、ロアが……」

「ああ。お前がいなくったって、今回は誰も死にゃしない。だから、ロア様は依頼しねーが、オレたちとしては王女に恥をかかせたくない。それについては、隊長が昨日熱弁してくれただろ?」

するとライラがくすくす笑いを溢したので、エドガーはギリギリと歯をこすり合わせた。

「それにな、オレが思うに、お前さんは国からの依頼、ロア様からの依頼だから、こんなにもいやだいやだと突っぱねるんじゃないか?」

む。それは……単純にパーティーなんかこりごりだというのもあるけど、確かに俺は、あまりロアから……というより、王様からの仕事を受けたくない。俺はもう勇者じゃないし、第一かたっ苦しいじゃないか。国の威信がどうとか、まつりごとがどうとか……

「オレたちからの依頼ってことは、あくまでお願いベースだ。正式なもんじゃない。そんならお前も、気軽に人助けができるんじゃないか?」

「……うまいこと言っても、そうホイホイとは乗らないぞ。結局あんたらの上にいるのは、ロアじゃないか」

「あちゃ、そこまでマヌケじゃないか」

けーっ!俺がべーっと舌を突き出すと、ヘイズはさして気にした様子もなく、ケラケラ笑った。

「まあ、ゆっくり考えてみてくれ。三冠の宴は規模が大きい分、準備にも時間が掛かる。そうだな、たぶんひと月は先だろう。それまでに気が変わったら、な」

一か月はあるのか。それなら確かに、じっくり熟考はできるが……変わらないと思うけどなぁ。

「……あんまり期待しないでくれよ」

とだけ言っておく。エドガーは不満そうだったが、ヘイズはそれだけでも満足した様子だった。



「どうするの?」

城から城下町までの道を歩きながら、フランが訊ねてくる。木漏れ日の差す森の中は、朝の空気がひんやり爽やかだ。枝葉の合間から落ちてくる陽の光に照らされて、フランのさらりと長い髪にはまだら模様の影が落ちている。

「どうするの、って……どうもこうも、昨日決めただろ。俺は行かない」

「そっか」

フランはそれだけで、理由なんかは訊いてこなかった。昨日さんざん話し合ったことだしな。俺もいまさら、考えを改めるつもりはない。ないんだけど……

「うわー、見てください。この噴水!こんなに流れがあって、ひい、ふぅ、みぃ……数え切れません。まるで滝みたい」

「おねーちゃん、ここ、ここ。これ、まほーで水を操ってるんだって!きゃはー、すごい!このまほー、永久化されてるんだ!」

「えっ、わぁ、ほんとですね。三の国の魔法かしら……けど、あの国にはこんな芸術センスはないですよね。だとしたら、設計は一の国あたりで……」

「……お前ら、歩きながら読むなよ。行儀悪いぞ」

俺みたいなのがお行儀を注意したところで、いかほどの効果があるものか。実際、ウィルとライラはちっとも気に留めず、手元の紙に二人して見入っていた。くぅー!
二人が一緒になって熱心に読んでいるのは、ヘイズから渡された三冠の宴のパンフレットだ。ヘイズのやつ、意外と絵がうまいのか、それともそういう資料を引っ張ってきたのか、パンフレットは色彩鮮やかで、前の世界のものと比較しても遜色ない仕上がりだった。文字はやつの手書きなのでちとマイナスだが、二人はさっぱり気にならないらしい。

「すごいですね。島にある建物自体も、各国から選りすぐりの建築家を集めて、選りすぐりの建材を使って建てられているんですって。総工費は、ひゃあ。百億セーファを超えるですって!」

「うわあ~……百億あったら、おうちがひゃっこ建てられそうだね」

「それでも一軒一億の高級住宅ですけど……」

二人は実に楽しそうに、あれやこれやとパンフレットの中身についておしゃべりしている。楽しそうなのは結構だが……

「あのな、俺ほんとに行かないからな?」

「わかってますって。でも、見るだけならいいでしょう?」

「そーだよ。ただ見てるだけだもーん」

ぐ。まあ、そうなんだけど……俺は帽子ごしに頭をがしがしかいてから、ため息をついた。ヘイズからの依頼、少し真面目に検討したほうがいいのかもしれない。



城下町では、いくつか食料を補充しただけで済んだ。ずっと兵士団と一緒に旅をしていたから、長旅のわりに俺たちの消費は少ない。お財布が重いまま旅ができるのはうれしい反面、注意もしないといけない。金のにおいに敏感なのは、商人だけとは限らないからだ……なんて。俺もこっちの世界に馴染んだ考え方をするようになったな。

「……?」

「……ん?どうした、フラン?」

「なんだか、誰かに見られてる気が……でも、気のせいだったみたい」

「えっ」

おいおい、嘘だろ。もう妙な輩に嗅ぎつけられたのか?冗談じゃないぜ。なら、さっさとここを離れよう。そうすると、問題は。

「どこに向かおうか?」

俺たちは大通りに面した広場で、行き先を決めかねていた。この広場からは、王都に四つある門へと続く道が伸びている。門はざっくり四方に向かっているので、どの通りに進むかで、今後の旅の行き先も決まる。
ま、もともと当てのない旅だ。どこに行ったっていいし、行かなくったっていい。けど王都は宿代が高すぎるので、ステイは論外だな。となると、せめて東西南北くらいは決めておきたい。

「北には行ったばっかりだし……」

エドガーの件で呼びつけられるまでは、俺たちは北の果てにいた。もう一度行く必要はないだろう。

「シェオル島は、確か南にあるって……」

ウィルがわざとらしくこちらをチラ見しながらつぶやく。大方あのパンフに書いてあったんだろうが、ふん。誰がその手に乗る……

「南、か」

あれ?案外まんざらでもなさそうな顔をしているのは、フランだ。うそだろ、お前もか?

「フラン、ひょっとしてお前も行きたいのか?」

「うん。実は、前から少し考えてて」

まじかよ……フランまでそっちに行くと、三対一になっちゃうぞ。意地を張るには分が悪い数字だな……

「一度、“魔境”に行ってみない?」

「は?魔境?」

俺が一人でうんうん悩んでいた矢先、フランの言葉は俺の頭上でつるりと滑って、それからすとんと落ちてきた。

「魔境ってまさか、俺とフランが出会った、あの森か?」

こくりとうなずくフラン。ずいぶん唐突だな。けど懐かしい場所だ……あそこはフランの故郷の村も近い。懐かしいという理由は、再訪の理由としてはもっともな気もするけど。俺はそれ以外にも、もう一つの理由に思い至った。

「ひょっとして、ペトラのことか?」

やはり、こくり。

「前に、あの切れ目の兵士が言ってたでしょ。あの森で、マスカレードとペトラらしき旅人が目撃されたって。ペトラ自身もあそこに行ってみるって言ってたんだから、十中八九間違いない。そしてペトラと言ったら、最近……」

そこまで聞くと、ウィルもはっと口を覆う。

「ロウランさんの話ですね……」

ロウランとの会話を知らない仲間もいるので、俺がかいつまんで説明する。

「実は、ロウランの過去の記憶の中に、ペトラそっくりの女が出てきたんだ。そいつの正体はわからずじまいだったんだけど、いろいろと妙な点が多くてな……」

俺は魔王関連のことは伏せた。あいまいなことだし、余計なことは言わないほうがいいよな。

「ペトラ嬢、ですか。確かに、普通の御仁ではありませんでしたな」

エラゼムはあごのあたりに手を添えた。フランがうなずく。

「気にならない?あいつがあの森で、いったい何をしようとしてたのか」

「うむ、確かに妙ですな。彼女は以前、森を遠巻きに眺めるだけだと言っていました。だが実際に戦闘が行われたのは、森の中……観光名所があるわけでもなしに、なぜ足を踏み入れたのか」

マスカレードの目的はわかる。竜の骨だ。なら、ペトラは?

「……おもしろそうだな。行ってみようか。あの森に」

軽はずみな理由だが、目的のない旅の目的なんて、軽かろうが重かろうがどっちでも構わない。それに……俺は、あの村のことも気になっていた。モンロービル村。フランのばあちゃんは、今も元気にしているだろうか?

「こっからだと、どう行くのが近いかな」

『あの森に行くのならば、巡礼街道が最も近道でしょう』

すかさずチリンと、ガラスの鈴が揺れる。

「巡礼街道かぁ。またまた懐かしいな」

あの街道沿いで、俺はフランと、ウィルと、エラゼムと出会った。三人もの仲間と出会った、思い出深い街道だ。

「それじゃ、その魔境とやらに寄りつつ、巡礼街道を南下してみて……あー、そっから先は、その後で考えよう。とりあえずみんなも、それでいいか?」

俺が訊ねると、フランとエラゼムは当然うなずいた。ライラとアルルカは、特になにも言うことはないらしい。ただ、ウィルだけは、煮え切らない顔をしていた。

「ウィル?」

「えっと……ええ、かまわないんですが……」

ウィルは胸の下で指を組んで、瞳を横に流している。あ。ひょっとして。

「ひょっとして、まだしんどいか?コマース村によるのは」

コマース村は、モンロービルのすぐ近く……ウィルの故郷だ。そしてウィルは、コマース村から失踪したことになっている……ウィルは困った顔で笑う。

「……あはは。やっぱりばれますよね」

「まあ、な。別に、村に寄んなくてもいいとは思うぜ。迂回してもいいし、なんならモンロービルから引き返しても……」

するとウィルは、意外そうな目で俺を見つめてから、ぷっと笑った。

「桜下さんったら。私がさんざん意地悪言ったのに、やり返そうってならないんですか?」

「へ?なんのことだ?」

「いいえ、なんでも。そうですね、正直言うと、まだコマース村に入るのはためらわれますね……もしできるなら、村には寄らないでもらえると助かります。わがまま言って、いいですか?」

「おう。なに、補給はばっちしだ。村を一つ二つすっ飛ばしたって、何とかなるだろ」

よし、決まりだ。王都からモンロービルへ。今度は流されてではなくて、ちゃんと道を歩いていくことになりそうだ。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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