じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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13章 歪な三角星

3-2

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3-2

巡礼街道は、緑豊かな道だった。もっと直球で言えば、田舎道だった。
この世界じゃ、アスファルトで舗装された道路なんてどこにも存在していないけど、それでも大きな町に面した街道は、それなりに整備がされている。これはたぶん、単純に利用者が多いからなんだろうけど、道幅が広くて凸凹がなかったり、柵が設けられていたりするんだ。
一方で今いる巡礼街道は、ほとんど獣道と大差ない。草はぼーぼー、石ころやら木の根やらで道はガタガタ。ストームスティードが本物の馬だったら、蹄鉄がぼこぼこになっちゃってたろうな。

「なんでこんなとこが街道なんだ?村も少ないし、人もいないし……」

俺がぶつくさ言うと、肩に掴まったウィルがたしなめるように言う。

「ダメですよ、桜下さん。ここがどうして“巡礼”街道なのか知らないんですか?」

「あー、そういや前に聞いたような気も……なんか、ナントカっていう偉い人が歩いた道なんだっけ?」

ずーっと前に、確か……ジェスから聞いた話だったか。モンロービルにある礼拝堂……その焼け跡について訪ねた時だ。

「ナントカじゃなくて、聖者ロメロ様です。我らがゲデン教の開祖ですよ」

「ふーん。でもその人、そんなにすごい人なのか?それだけで街道になるなんて」

「すごいなんてもんじゃないですよ!なんといっても、人類で初めて神との対話に成功した方ですからね」

おお、そう言われると、すごい偉人に思えてくるな。

「それに、ロメロ様はゲデン教のみならず、様々な宗派に影響を与えているんです。神との対話の仕方、各教団の基礎形態、偶像ではなくシンボルを崇拝する基本理念……彼の時代から、人類史における宗教は急速に普及・発展していくことになるんですよ」

「……珍しいな。ウィルがシスターみたいなこと言ってる」

「ひっどーい!これでも現役のシスターですぅ!というかこれくらい、神学を少しでもかじった人ならだれでも言えますよ。桜下さんが不勉強なだけです!」

「へーへー、おっしゃる通りで」

最初は平野が多かった街道も、やがて山道へと入っていく。そういやモンロービルからコマースまでも、一山越えた覚えがあるな。起伏の多い土地なんだろう。
山の緑は濃く深く、長い下草が馬に乗る俺のすぐ足元でざわざわ揺れている。空を行くアルルカは枝葉のせいで飛びづらそうだし、地面を蹴るフランは悪路のせいで走りにくそうだ。それでも、以前の徒歩よりは格段に速い。
そんな何日かの山踏みの末、ついに目的地が見えてきた。

「来たな……あの森だ」

大地にぱっくりと開いた渓谷。鬱蒼と茂る木々からは、薄紫色のもやが立ち昇っている……間違いない。俺とフランが出会った、呪いの森だ。

「ここが、お二人が出会われた森ですか」

ストームスティードを崖際で止めて、エラゼムが谷を見渡す。

「なるほど……何と言うか、その出会いは必然であったように感じますな」

「え?どういう意味で?」

「吾輩ですら、この森には尋常ならざる怨念が渦巻いていると感じられます。そのような森に入って無事なのは、それこそ桜下殿のように特殊な力をもつお方でなければ……」

「ああ、なるほど」

そんな場所だからこそ、魔境だなどと呼ばれるのだろうし。そしてそこに入っても平気な連中とは、少なからず特異であるという事でもある……

「行くか。ペトラとマスカレード、あいつらの痕跡を探そう」

俺たちはストームスティードから下りて、崖の淵にずらりと並ぶ。この谷の土は乾燥していて滑りやすい。こんなところを馬で行くのは自殺行為だ。俺はまずライラと手を繋いで、もう片方の手でフランと手を繋いだ。そしてライラを下にして崖を下りていく。こうすりゃ俺たち二人のどちらかが足を滑らせても、フランの怪力が支えてくれる。

「ライラ、気を付けろよおぉ!?」

「わあ!ちょっと、桜下こそ気を付けてぇ!?」

「……二人とも、気を付けて」

前は無様に転がり落ちたが、今回は仲間の協力もあって無事に谷底までついた。あいかわらずすごい瘴気ともやで、一寸先すらぼんやり霞んでいる。

「これじゃ、探そうにも探せないな……アニ!ちょっと頼めるか?」

『なんでしょう』

「遠視魔法ってやつ。ホークボヤンスか?あれで、竜の骨の場所を見たいんだ。あそこなら、一度行ったことあるだろ?」

『かしこまりました。それでは……』

アニがぶつぶつとつぶやくと、まばゆい青い光が放たれる。呪文を唱えた瞬間、俺の視界だけがふわりと浮かび上がって、縦横無尽に動けるようになった。
このホークボヤンスの魔法の欠点は、一度行ったことがある場所以外は真っ暗闇で見えないことだ。だが逆に言えば、見えている場所は必ず一度は通っていることになる。そこを辿れば、おのずと目的の場所に行きつくはずだ。俺は視界不良もものともせず、もやの中をびゅんびゅん進んでいった。

「……あった!」

見つけた、巨大な白い柱!先の方が鋭くとがった形は、まさしく牙そのものだ。俺は場所をしっかり確認すると、ぎゅっと目を閉じて魔法を終了させた。

「ここからそんなに遠くないぞ。案内するよ、こっちだ」

俺はさっき記憶した場所に向かって歩き始めた。陰気な森だが、二回目というのもあってか、それほど怖いという気持ちはない。けど、今回が初めてのやつはそうでもないらしい。

「うぅ……」

「ウィル、大丈夫か?」

「ええ……ただ、気味が悪いだけです。桜下さんにも見えますよね?あちこちに霊魂が……」

「ああ……前来た時も、こんな感じだったよ」

「そうですか……どうしてこの谷には、こんなにもたくさんの魂がさ迷っているのでしょう……」

あれ?そう言われれば、そうだな。ここがこんなになったのは、竜がこの谷で死んだからだ。その後は、この森を訪れるもの好きはそう多くはなかったんじゃないか。ならそれ以前の死者か、もしくは竜との戦闘の犠牲者か……前に来た時には、ただただ不気味な森としか思わなかったけど。こうして色んなことを知った後に来ると、同じ森でも見え方が変わってくるな。
無数の魂の気配に気圧けおされてか、ウィルはそれ以上口を開かなかった。ライラは俺の腰にぴったりと張り付き、アルルカでさえ翼をたたんで、もやの中を飛ばないようにしている。俺たちはもくもくと森の中を歩き、そしてあるところで、木々がふつっと開けた。

「お。あったぞ……竜の骸だ」

改めて見てもでかい。天を突くように伸びる白い牙……一本一本が大木の幹のようだ。こんなのが生きて動いていただなんて、想像もつかないな。

「っ。ねえ、ちょっと来て!」

ん?フランに呼ばれて行ってみると……

「うわ……なんじゃこりゃ」

森の一角が、切り拓かれている……木がなぎ倒され、地面は抉れてしまっている。戦闘の跡だ。それも、そうとう激しい。ゴーレムが相撲を取ったらこんな風になりそうだ。

「こんな跡、前にもあった?」

フランに訊ねられて、俺は首を横に振る。

「いや。よく見て回ったわけじゃないけど、さすがにこんだけ荒れてりゃ気付くはずだ……」

「なら、ここが現場と見てよさそうだね」

ここで、ペトラとマスカレードが戦った。二人とも只者じゃないとは思っていたが、ここまでとは……

「どうして二人は、ここで戦ったんだろ」

ライラが俺の横でつぶやく。それもいまだに謎のままだ。ペトラもまた、竜の骨を狙っていた?それとも、マスカレードの悪事を咎めようとした?少なくとも味方同士ではないことは確かになったが……
カサッ。

「……ん?」

今、足元で何かが……目を落とすと、何か白っぽいものを踏んづけているようだ。紙切れ、か……?でも、ゴミにしては真新しいし、何よりこんな場所にポイ捨てする人はいないはず。

「桜下?それ、なに?」

紙切れを拾い上げた俺を、ライラが不思議そうな目で見る。四つ折りにされたそれを広げた俺は、目を見開いた。

「これって……!」

「なに?ライラにも見せてよ」

「あ、ああ」

ライラに裾を引っ張られて、俺は手を下げて、紙を広げて見せた。他の仲間たちも俺のそばにやって来る。紙の中身を見たライラが、小首をかしげた。

「これ、地図?」

ライラの言う通り、そこに描かれていたのは地図だった。誰かの手書きによるものだろう、筆で描いたような細い線で、国名や町名なんかは一切表記されてない。その代わりに、各地に点々とバツ印が刻まれていたんだ。

「これは……この大陸の地図のようですが」

エラゼムの言葉で、この地図が人間の世界の地図なんだとわかった。俺はこの世界の地図を見たことがないから、どこの地図だかパッと見じゃわかんないんだ。そしてそのことは、俺にもう一つの確信を与えた。

「この地図に書かれている、バツ印って……」

ウィルはただのバッテンマークを、恐ろしい呪いの印かのようにこわごわ見ている。その数、合計七つ。おそらくそのうちの一つは、この森に打たれているはずだ。そしてこれを残していったであろうやつのことを考えると……

「間違いなさそうだな。七つの魔境の地図だ」

俺ははっきりと言い切った。

「地図に書かれた七つのしるし。そして多分、これを残したのはペトラだ。あいつの残したものなら、魔境を示したものだと見て間違いないと思う」

「どうして、ペトラさんが……?」

「たぶん、こうして誰かが……魔境に入っても平気なようなやつが、ここに来たときのためじゃないかな。そいつのために、メッセージを残したんだ。次の魔境のありかが分かるように。マスカレードがんなことするわけないから、ペトラがやったんだと思う」

「なら、ペトラさんは何のために?」

「それは……わからないけど」

何かを伝えたいことは読み取れるが……

「場所を知らせてなんになるかな?」

「そうですね……私はここを巡っているから、これを見たあなたも同じ場所を巡ってくれ。とかどうですか?」

待ち合わせか……あり得そうだな。

「後は、ここに注意しろってこととか」

フランがつま先で、地面をトントンした。

「魔境を狙ってるのは、マスカレードもだ。あいつの現れそうな場所を、誰かに伝えたかったのかも」

ふむ……それも一理あるな。その場合、ペトラはマスカレードを明確に敵とみなしていることになる。

「あんがい、あんた宛の置き手紙だったりするかもよ?」

アルルカはさして興味がないのか、面倒くさそうに竜の牙に寄りかかっている。

「あんたならきっとここに来るだろうと思ってた。だからこれを残すわ、あたしの後をどうぞ追ってきて……なんてね。何にせよ、ここで額をこすり合わせてもわかりゃしないわよ」

俺宛てのメッセージか。あんがい的外れではないな。現に俺は、こうしてここに来たわけだし。それに、アルルカの指摘ももっともだ。

「そうだな。ここでこれ以上得られそうな情報もないか……長居をする場所でもない。戻ろうか」

少なくとも、一つ収穫はあった。七つの魔境が記された地図……俺はそれを、大切に折りたたんでカバンにしまった。
森を去る道すがら、俺たちは各々黙り込んで、考えていた。俺は主に、ペトラのことについて。たぶんみんなも似たようなもんだろう。

(ペトラ……あんたいったい、何もんなんだ?)

答えはこの森と同じように、霧のかなただ。ただ、なぜだろう……俺は、近いうちにその答えが分かる、予感がしていた。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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