じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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13章 歪な三角星

7-2

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夢を、見ているのか?
俺の目の前にいるのは、もう何年も前に死んでしまったはずの女性だ。短めの髪、幼く見える丸っこい目。俺の目の前で飛び降りて、俺の目の前で血まみれの肉の塊になってしまったはずの女性。その女性が、生きて、俺たちの前に立っている。

「久しぶりだね、吉田くらくん」

俺の隣で、クラークが体に電流が走ったかのように震えた。よしだ、くら?それはもしや、クラークの前の世界での名前か……?

「そして、君は……」

みことが、俺の方を向く。その瞳に見つめられて、俺の手は勝手に仮面へと伸びた。外すことに抵抗はなかった。この一瞬だけ、俺は正体を隠しているという事実を完全に忘れていた。

「やっぱり。そうだと思ってた……君も久しぶり。西寺、桜下くん」

尊は、俺の記憶の中と寸分たがわぬ顔で微笑んだ。ああ……幸福な夢と悪夢を、同時に見ている気分だ。

「尊……本当に、尊なのか?」

「うん。私は、慈心末いつくしま尊。驚いたなぁ。まさか、この世界でも君たちに出会えるなんて」

そりゃあ、そうだろう……同じ時代の、同じ場所にいた三人が、そろって勇者として召喚されるだなんて……偶然にしてはできすぎている。けど、俺たちが驚いているのは、それだけじゃない。クラークが震える声で訊ねる。

「あの……あの、尊さん」

「なぁに?蔵くん」

「っ……あの、尊さんは、あの後……無事、だったんですか?」

「無事?う~んと……?」

尊はあごに人差し指を当てると、考え込む仕草をした。ああ、それすら懐かしい仕草だ……けどまさか、覚えてないわけじゃないだろう。あんなこと、忘れようとしても忘れられない。でも、しかし……強く訊くことも、ためらわれることだった。

「……うーん、ごめんね。よく分からないや。私、前の世界のこと、あんまり覚えてないの。えへへ、もともと忘れんぼではあったんだけどね」

「え、あ、ああ。そうですか……」

クラークもさすがに、「あなたは死んだはずですよね?」とは言えないらしい。俺たちが黙り込んでしまうと、尊はパッと目を輝かせた。

「ねえねえ!それより、聞いたよ二人とも!蔵くんも桜下くんも、とっても強い勇者なんだってね。すごいなぁ。桜下くんは国のピンチを救ったし、蔵くんは正義の雷!なーんて呼ばれてるんでしょ?」

「え、あ、はい。いちおう……」

「わぁ、かっこいいなぁ。私はあんまり強くないから、憧れちゃうよ」

「あの、尊さんは、三の国の勇者なんですよね?」

「そうだよ。いちおう、ね。でもみんなみたいに強くないから、表立つことは少ないんだ」

ああ、だから今まで、三の国の勇者についてさっぱり聞かなかったのか?でもまさか、その正体が尊だったなんて……俺は指をぎゅっと硬くしながら、訊ねる。

「本当に、驚いたよ……尊は、いつこの世界に召喚されたんだ?」

「うーんと、確か蔵くんよりちょっとくらい前だったかな?この中じゃ一番先輩だね。あはは、実力は一番下だけど」

「そんなこと……俺だって大したことないさ。尊も能力を?」

「うん。土と水の魔法が使えるんだ。……ねえ、ところで二人とも。この人って、どうしてこんなところで寝ているの?」

へ?あ。俺もクラークも、完全にデュアンのことを忘れていた。衝撃がでかすぎて、それどころじゃなくなったから。

「こいつは……なんか、ここで気ぃ失っちゃったんだ。ずいぶん疲れてたみたいで」

「わあ、そうなんだ。かわいそう……私、お水を貰ってきてあげるね!」

言うが早いか、尊はくるりと体を反転させて、ホールへと走っていってしまった。水の魔法が使えるのなら、この場で出せばよいのでは……とも思ったけど、まあいろいろあるんだろう。

「びっ……くりした。まさか、もう一度尊さんに会えるだなんて……」

クラークは片手で顔の半分を覆っている。今見たものが信じられないといった様子だ。

「ああ……噂をすれば影、なんて言うけれど。今の尊は影じゃなくて、どう見ても本人だった……よな」

「あるいは、二人とも夢でも見ているのか……ちょっと、僕をつねってみてくれないか」

「よしきた。任せろ」

「いたたたた!そんなに強くすることないだろう!」

てことはやっぱり、これは夢じゃないんだ。クラークの尊い献身によって、それは証明された。

「でも正直、まだ信じられないな……尊が生きてるなんて」

「ああ、それは僕もさ。あの状況で、尊さんが死んでいなかったなんてね」

「え?」

「え?だって、そうじゃないか。今ここに尊さんがいるということは、あの時尊さんは死んでいなかったことになるだろう?」

クラークは当然のようにそう言った。いや、確かにやつの言っていることは正しいんだ。人は死んだら生き返らないのだから。さっきの尊がアンデッドなら話は別だが、ネクロマンサーである俺が何も感じなかったんだから、それはあり得ない。つまり尊は、あの自殺の後でも、死んでいなかったことになる……?

「……いや、ちょっと待ってくれ。なんか、それっておかしくないか」

「なにがだい?」

「だって、俺もお前も、尊は死んだと思っていた。俺は、目の前で尊の飛び降りを見たんだ!それが勘違いだったってことか……?」

「でも、そうとしか考えられないじゃないか。僕は、尊さんが飛び降りたという事しか聞かされていない。お葬式に出席したわけでも、彼女の遺骨を目にしたわけでもないんだ。君は?」

「いや、そう言われれば俺も、尊が確実に死んだ証拠は見てないけど……」

「だろう?信じられないような奇跡だけど、尊さんは死んではなかったんだ。そしてそのまま、この世界に召喚された。後を追って僕たちも呼ばれたんだから、それを知らなくても無理はないよ」

それは……確かにそうなんだけど……だけど、猛烈な違和感があるのは、なんでなんだ?
その時だ。

「きゃああぁ」

「っ!?今の声!」

「尊さんの悲鳴だ!」

尊の悲鳴!クラークはすでに走り出していた。俺もやつの後を追う。悲鳴はホールのある方ではなく、そのわきにある小さな林の中から聞こえてきたようだ。シェオル島は各地に魔法の照明が灯されているが、林の中にはそれはなく、闇に包まれている。クラークは魔法剣を抜き、その明かりを頼りに林を進んでいった。

「止まれ!」

っ!俺たちは足を止めた。鋭い声は、前方の木立の間から聞こえてきたようだ。敵の正体が分からない以上、警告は素直に聞いたほうがいいだろう。

「何者だ!」

クラークが声のした方に叫び返した。しばらくののち、かさかさという小さな物音が、こちらに近づいてきた。

「……おや。これはこれは、勇者くんが二人も。僕に会いに来てくれたのかな?」

なっ、この声……!クラークの剣光に照らされ、木々の間に、銀色の仮面が浮かび上がった。俺は憎々し気に、その名をつぶやく。

「お前、マスカレード……!」



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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