じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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13章 歪な三角星

8-1 ウィルの愛

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8-1 ウィルの愛

三冠の宴は、即刻中止となった。と言っても、もうほとんど終盤で、早い幕引きに文句を言う人は少なかった。それよりも多かったのは、不安の声だ。

「魔王軍が活動を再開しただって……」
「じゃあまた、戦争が始まるの?怖いわ……」
「いや、今までだって規模は小さいけれど、戦争自体は続いていたんだ。それに今は勇者もいる。活動を再開したとはいえ、今すぐに戦況が変わることはないはずさ……」

くそったれ。マスカレードのサプライズプレゼントの効果は、てきめんだった。奴が運んできた情報とは、十中八九これだろう。
そんなざわめく声を聞きながら、俺たちとクラークのパーティーは、ホールの片隅に佇んでいた。クラークはホールの淵にある段差にうつむいて腰掛け、反対に俺は背中を預けて天井を見上げている。そんな俺たち二人を、それぞれの仲間が囲んで、不思議そうに首をかしげている。

「クラークったら、どうしちゃったのよ」

「コルル、ずっとこの調子なのか?」

「ええ。迎えに行った時から、ずーっと様子が変で……」

クラークの仲間たちが話しているのが聞こえてくるが、クラークは何も返事をしてないみたいだ。一方俺の仲間たちも、さすがに困惑気味だ。

「ねー、桜下はどうしちゃったの?」

「わかりません……戦争の再開が、それほどショックだったんでしょうか……」

「……そうじゃねーよ」

天井を見上げたまま、ぼそりとつぶやく。みんなの目が、俺に向いたのを感じた。

「なにか、あったの?」

フランの声だ。俺を心配してくれているのが伝わってくる。ああ、やっとこのの気持ちに向き合えそうだったのに……今は、とても無理だ。
カツ、カツ、カツ。足早な足音。

「お前たち。少し、来てくれるか」

俺は顔を下ろした。やってきたのは、固い顔をしたヘイズだった。ヘイズは俺だけでなく、クラークたちにも声を掛けたようだ。

「各国の王、皇帝、大公が、勇者諸君と話をしたいそうだ」

各国の王……俺を、この世界に呼んだ奴ら。クラークがうつむいた顔を上げた。その時のやつの顔には、はっきりと敵意と、強い憎しみが現れていて、やつの仲間とヘイズを思わず後ずさりさせた。けどそれも一瞬で、すぐに沈んだ顔に戻る。

「……分かりました。行きましょう」



ヘイズに案内されたのは、会議室のような一室だった。ロア、ノロ、シリスと、エドガーなどの数人の兵士が詰めている。俺たちとクラークは、それぞれ自国の王のそばの席に座った。尊の姿はない。

「三の国の勇者はどうしたのだ?」

ノロ女帝が俺とクラークを見た後で、シリス大公に問いかける。

「何者かの襲撃を受け、今は治療を受けている。大事には及ばないが、無理はさせたくない」

「なんと。襲撃者?このシェオル島に?」

「どうやらそのようだ。まったく、おかしなことになったものだ」

シリス大公は疲れた様子で目をつぶり、ノロ女帝は不機嫌そうに腕を組んだ。尊は、マスカレードが去った茂みの中から見つかった。気を失っていたが、命に別状はないとのことだ。俺とクラークは、心底ほっとした。尊の無事にもだが、気を失っていたなら、マスカレードのあの話を聞かずに済んだということだから。

「さて。一名欠員はいるが、今は話を進めさせてもらおうか」

ノロ女帝は腕を組んだまま、指で自分の腕をとんとんと叩いている。

「諸君らも耳にしただろうが、先刻、我が国西部の戦線……通称、フィドラーズグリーンより、緊急の文が届いた。沈黙を続けていた魔王軍の動きが再び活性化し、戦闘再開の予兆が見られる、とのことだ」

アドリアがうなずく。

「承知しています。今までまったく戦闘に意欲を出してこなかった魔王軍が、なぜ突然活動を再開したのか……その理由は、分かっておられるのですか?」

「いいや。まだ詳細は不明だ。だが確実に、奴らは動き出している。じき本格化するだろう」

するとすかさず、シリス大公が付け加える。

「まだそれは断定できないのでは?魔王軍は数年前にも、やはり唐突に戦闘を休止し、戦線から撤退している。今回も同じようになる可能性も十分にある」

「何を手ぬるい事を!それで止まらなかったらどうするのだ!むしろ、これは好機だ。歳月を経て、我が軍の戦力もある程度は回復した。もう十年前のような遅れは取らぬ。連中が浮足立っているところを、今度こそ完膚なきまでに叩きのめしてやろうぞ!」

するとロアが、うんざりしたように首を振った。

「ノロ皇帝……だからそれは早計過ぎると、さんざん話し合ったではないか。敵がどう動いてくるか分からない以上、こちらからは手出しをせずに、慎重に様子を見る。今はそれが最良の策だと」

「なにい?余はそれに賛同した覚えはないぞ!勇者が三人そろっている今だからこそ……」

ガターン!椅子を蹴飛ばすようにして、クラークが勢いよく立ち上がった。熱していた室内が、シーンと静まり返る。コルルが唖然として、クラークを見上げていた。

「……そろそろ、本題に入っていただけませんか。僕たちは、なぜ呼ばれたんです」

クラークの声は小さかったが、明らかな苛立ちの色が見て取れた。ノロ女帝が顔をしかめる。

「クラーク、何をささくれ立っておるのだ?余は、そなたこそ賛同してくれるものだと思っていたぞ。常からそなたは、魔王軍の暴虐さを憎んでいたではないか」

「……僕が憎むのは、悪です。僕たちに、戦場に行けとおっしゃるのですか」

「……そうは言わぬ。癪だが、二の国の王女の言う通りだ。まだ戦局がどう動くか分からん。切り札を切るには、いささか早計だ」

ミカエルとウィルが、同時にホッと胸を押さえた。

「しかしだ、クラーク。そなたまさか、臆したのではあるまいな?」

ギラリ。今度はノロ女帝が目を光らせる番だった。

「余は無謀な勇猛を好まぬ。だがそれでも、臆病風に吹かれた軟弱者よりは、百倍マシだ。余は匹夫を厚遇はせん。が、虐げもせん。だが剣を捨てて逃げ去る者には、容赦はせぬぞ」

「……僕は、臆病者じゃない。この剣を捨てる気は、毛頭ありません」

クラークは勇者の証である、自我を持つ剣……自我魔法剣エゴソードの柄を握り締めた。ノロ女帝が満足げに微笑む。だがその後に続いたクラークの言葉が、ノロの顔をくしゃりと歪ませた。

「……だが!あなたたちが僕らにしたことを隠している以上!僕はあなたがたを、正義だと認めることはできない!」

っ!クラーク……今、それを問いただすのか。各国のリーダーたちは、それぞれの面容をしている。ノロ女帝は眉間にぐっとしわを寄せ、ロアははっと目を見開いている。シリス大公は無表情だ。そして勇者の仲間たちは、それぞれ困惑した表情をしていた。

「ノロ様!全部教えてください!あなたは僕に、いったい何をしたんですか!」

「……問われている意味が分からんが。クラーク、余はそなたには、特に何もした覚えがない。そなたは、何か余にされた記憶があるのか?」

「いいえ、ありません。でも、それは当然だ!なぜなら僕らは、記憶を消されているのだから!」

クラークの放った言葉は、波紋のように部屋中に広がった。

「く、クラーク……?どうしちゃったの?記憶を消されたって、どういうこと?」

わけが分からないという顔で、コルルがクラークの腕に触れる。その手を、クラークはばっと払いのけた。

「きゃっ。く、クラーク……?」

「……」

クラークは歯を食いしばるばかりで、コルルには答えない。代わりに、ノロ女帝をまっすぐに睨みつけている。すべて、分かっているんだぞ。そう訴えかけてでもいるかのように。

「……確かに君たち勇者は、一部の記憶を封印されている」

全員の目が、一点に向く。口を開いたのは、シリス大公だった。

「君たちにとって、その記憶は耐えがたいほどの苦痛を与えるものだった。それこそ、生を諦めるほどには。だから封じた。君は、その事をなぜかと訊ねたのか?ならば、いまさら説明が必要かね」

「……本当に、それだけですか。それ以外にも、あなたちの都合のいいように……」

「記憶を操作している?とんでもない、記憶操作は極めて複雑だ。いまだかつて、そんな都合のいい魔法の開発に成功したという話は聞かない。せいぜいできて、記憶の一ページを隠してしまうくらいだ。まあ、私の話を信じるかどうかは、君の自由だが」

クラークはうなずくと、今度は目をノロ女帝へと向けた。ノロ女帝は、渋々と言った様子で、うなずく。

「大公の言った通りだ。そなたたちがこの世界で健やかに過ごせるように、少しばかり便宜を図ったのだ。だがそれよりも、そなたはそんな話をどこで聞いた?」

「……いずれ説明します。ただ……」

クラークはうつむくと、前髪をかき上げて額を押さえた。

「少し、一人にさせてくれませんか。頭の中を整理しないと、とても話し合いどころでは……」

「……俺も、賛成だ」

俺はうつむきがちにつぶやく。ロアがこちらを見た気がしたが、今はあいつの顔は見たくない……
ノロ女帝はぶすっとした顔で腕を組むと、少しの思案ののち、不満げにだがうなずいた。

「ふぅむ……よかろう。諸君らに今すぐに動いてもらう必要があるわけでもない。時間が解決してくれるというのならば、そうしたほうがよいであろうな」

「……ありがとう、ございます」

クラークはそれだけ言い残すと、他の連中に一瞥もくれず、足早に会議室を出て行ってしまった。慌てて彼の仲間たちも立ち上がると、ぺこりと会釈をして部屋を出ていった。俺も立ち上がると、クラークのあとに続く。

「あ……」

ロアが立ち上がりかけて、何か言いたそうにしていたが、俺はそれを無視した。部屋を出て、無言のまま歩いていく。とりあえず、俺たちのコテージへ戻るつもりだった。人目のない所へ行きたい。仲間たちは何も言わずに、俺の後をついてきてくれた。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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