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13章 歪な三角星
9-2
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「ウィ、ル……?」
ウィルと唇を重ねていた時間は、数秒にも満たなかっただろう。だけど俺には、その瞬間だけ、時が流れることを放棄したように思えた。そんな一瞬の永遠の後で、俺は小さな声で、目の前の彼女の名前を呼んだ。
なにが起こったのか……ウィルが、俺にキスをした。言葉にすればそれだけなんだけど、俺にはそれが到底理解できない。ウィルのことは、好きだ。ウィルもたぶん、俺を好いてくれている。けどそれは、家族としての愛だったはず……ならさっきのキスは、親が子にするようなもの、なんだろうか?母さんが俺にしてくれたように、ウィルもまた……?
「……っ」
ウィルは俺から数センチだけ顔を離すと、まるで夢でも見ているかのように、熱を帯びた瞳で俺を見つめた。だがその時、海風が吹き付け、ウィルの金色の髪とスカートをはたはたと揺らした。その瞬間、ウィルは夢から醒めたように、はっと目を見開いた。
「ぁ……わ、私……」
辛うじてそれだけ口にすると、ウィルはものすごい勢いで俺から離れた。俺が思わず手を伸ばすと、彼女はびくりと震えるものだから、伸びた手をだらりと垂らすしかない。
「わ、たし……なんて、ことを……」
ウィルは自分の唇に、恐る恐る触れた。次の瞬間、倒れ込むような勢いで頭を下げる。
「ご、ごめんなさい!私、そんなつもりじゃ……」
「えっと……」
「こんな、傷に付け入るようなこと……本当にごめんなさい!私、最低だわ……!」
「うんと……とりあえず、頭、上げてくれよ。別に俺、嫌じゃないから」
「ですが……」
「頼むよ」
俺が重ねると、ウィルはようやく顔を上げた。申し訳なさに、眉がきれいにハの字になっている。
「……。私……」
「……ちょっと、驚いた。俺、こういうこと、したことないし……」
「……本当に、ごめんなさい」
「いいって。でも……どうして、なのかなって」
「それは……」
ウィルは目を閉じると、ぎゅうとスカートを握り締めた。
「……ごめんなさい。でも、こんな形で伝えるのは、卑怯です。フランさんに、なんて言ったら……」
「フランに……?」
「……桜下さん。自分でも虫のいいことを言っているって、分かってます。けど、お願いします。どうかさっきのことは、忘れてもらえませんか」
「え」
「お願いです。私、桜下さんに迷ってほしくありません。私のしたことには何の意味もなくて、だからなんにも起きなかった。そう言う風に、思ってくれませんか」
「……ウィルが言うなら、そうするけど」
「ごめんなさい。今後こんなことは、絶対にないようにしますから。ごめんなさい……」
そう言ってまた下げられるウィルの頭を見ると、俺はもう何も言えなくなってしまった。彼女の真意は分からないけど、とにかく先ほどの出来事は、彼女の意にそわないことだったらしい。
(……それはそれで、なんだか悲しいのは、どうしてだろ)
本当はきちんと説明してほしかったけど、今のウィルは本当に辛そうだ。恩に仇で返すようなことはしたくない。俺はうつむくウィルに一声かけると、いっしょにコテージまで歩き始めた。気付けば、夜風はずいぶん冷たいものになっていた。
コテージに戻ると、心配そうな顔をしたライラと、ほっとした顔のフランに出迎えられた。ウィルは部屋に入るや否や、急いで壁際へと離れて行ってしまった。一抹の寂しさを感じながらも、今はみんなに話をする方が先だ。
「みんな、アニから話は聞いたんだったよな」
「うん……」
「じゃあ、改めて俺からも、説明させてくれるか」
俺はさっきと同じように、ベッドに腰かけた。すると隣にフランが、反対側にライラが座ってきた。ライラは俺の腕にきゅっと抱き着き、フランは俺の手に自分の手を重ねる。
「……二人とも、ありがとな」
きっと今の俺は、目を真っ赤に泣きはらしているんだろう。それで二人とも、こんなにも心配してくれているんだ。俺は心の中に、申し訳なさと、二人への愛情があふれるのを感じた。
俺は、すべて話した。俺の恐れを。自分が、かけがえのないものを捨てて来てしまったことを。そしてそれは、もう取り返しがつかないことも……
すべてが終わった後でも、二人はそばにいてくれた。二人だけじゃない、エラゼムも、アルルカも、今は見えないロウランだって、誰一人俺を糾弾する仲間はいなかった。
「……桜下、かわいそう」
ライラは抱いた俺の腕に、頬をこすり付けている。
「桜下も、おかーさんに会えないんだね。ライラ、全然気が付かなかった……桜下、寂しくない?」
「ああ。ライラが、みんながいてくれるから」
俺が言うと、ライラは俺の目をじっと見つめて、それからにこりとほほ笑んだ。
「うん!ライラも!」
きゅっと、反対側の手が握られる。
「……」
「フラン」
「……ごめん。わたし、こういう時、なんて言ってあげたらいいのか、よく分からない。こんな性格だから……できることがあるなら言って。もしあなたが辛くなくなるんなら、わたし、何でもする」
「何でもはいらないよ。ただ……そばにいてくれ」
フランは何も言わずに、体を寄せて、俺の肩に頭を乗せた。十分だ……これだけで、この世のどんな贈り物よりも嬉しい。
「みんな……ありがとう。みんながいてくれるから、俺、これからも前を向ける」
みんながいなかったら……以前のままの俺だったら。自分が自殺していたことを知り、この世界でも独りなのだと知ったら……
(繰り返していた。二度目を)
そうならなかったのは、仲間がいたからだ。
“人という字は、支え合ってできている”。俺はそれを、単なる説教臭い教訓だと思っていた。今俺は、隣に誰かがいてくれる幸せを、噛みしめるように実感していた。
「……フラン、ライラ。ありがとな、もう大丈夫だ。それで悪いけど、一度離れてくれるかな。あと一つ、やらなきゃならないことがあるんだ」
俺が言うと、二人はそっと体を離した。俺は、みんなが見つめる中で……一番最初の仲間に、改めて向き直る。
「アニ」
『……』
ベッドの上に置かれた、自我を持つガラスの鈴。俺がこの世界に来て、初めてできた仲間だ。なぜか穴の開いたシーツの上に転がるアニは、すっかり輝きが失せ、ただのガラクタのように見えた。あるいは、俺の心がそう見せているのか……
「アニ。俺の話を、聞いてくれないか」
『……なんでしょうか。私には、もう……』
するとそこで、フランがくいと、俺の手を引いてきた。
「ごめん。少し待って」
「ん?なんだ、フラン」
「さっき、あなたが外に行ってる時。わたし、そいつに訊いてみたの。お前の主人は、桜下か王国か、どっちなんだって」
なんと、そんなことを。
「そうか。アニは、なんて?」
「……あなただって」
おお、そうか。俺はほっとしたが、フランはなぜか苦虫を噛み潰したような顔になっている。
「どうした?なんでそんな顔するんだよ」
「……そいつは、最初からずっと、あなたに仕えていたんだよ。つまり、記憶の封印とやらも、善意でやってたって言うんだ」
善意……か。俺は何とも言えない気持ちで、アニを見つめる。
「それだけ、先に伝えたかった。ごめん、遮っちゃって」
「いや、ありがとな。先に聞けてよかったよ。これで、ずっと話しやすくなった……」
俺は改めて、アニに声を掛ける。
「アニ。さっきの話、お前は善意でやってくれてたんだってな」
『……善意というのは、いささか高慢ですが。義務、のようなものです』
「義務?」
『はい。主様が、またしても死んでしまわないように。私の役割は、勇者がこの世界で生き続けていけるよう、サポートをすることです。たとえその中に、主様が望まない手段があったとしても、必要ならば実行します。私は、そういう道具なのです』
「……道具、か」
アニは、魔法の道具。自我を持っているが、人間ではない。そして自我を持つから、自分で考えて行動する。持ち主である俺が指示しないことでも。
「……アニ。俺はな、今回の一件で、仲間がどれだけありがたいか、身に染みてわかった。俺はこれからもずっと、“仲間”を大切にしていこうと思うよ。けどな、それは“道具”じゃ駄目なんだよ」
『……そうですか。それならば、今すぐ私を叩き壊してください』
「え?」
『今の私は、主様にとって害悪でしかありません。でしたら、私を廃棄してください。主様が不要なのであれば、私に存在価値はありませんので。ただ、私がいないと能力に不具合が発生する可能性があるので、少しずつ慣らしてから……』
「ち、ちょっと待ってくれ。どうしてそうなるんだよ」
『はい?道具は必要ないのではないのですか』
「違うちがう。そうじゃなくて、“道具”じゃなくて“仲間”になってくれって言いたかったんだ」
『……仲間に?』
俺はうなずいた。
「俺はお前を、ただの道具だとは思っちゃいない。じゃなきゃ、名前なんか付けるかよ。けど、お前が自分を道具だと思ってるんだったら、俺たちはいつまでもすれ違ったままだ」
『……どういう、ことですか?意味が……』
「だからさ、お前も俺のことを、持ち主じゃなくて仲間だって思ってくれよ」
『……道具と、仲間では、何が違うのですか?』
「全然違うだろ。道具は、誰かのことを思いやったりしない。使われるか、使うだけだ。けど、仲間は互いのことを思いやって行動するんだ。そうだろ?」
アニは機械的に、俺の記憶を封印した。その判断は、今だから言えるが、正直間違っていなかったと思う。もし記憶がそのままだったら、俺は今ほど、能天気にいられなかっただろう。
だけど。今後、すごく辛いことがあったとして。そのたびにアニが、機械的に記憶を封印していったのでは。俺はきっとそのうち、他人の痛みを理解できない人間になってしまう。
「アニ。お前のしたこと、ショックだったけど、意味がなかったとは言えないよ。それだけ俺が、不安定に見えたってことだもんな。けどさ、今の俺には、みんながいるから」
『……仲間がいるから、辛い記憶にも耐えられると?』
「ああ。前の俺とは違う。だから……お前にも、俺を支えて欲しい。俺も、お前を支えるからさ。まあ、できることなんて限られてるけど……」
『……私の望みは、主様が健やかに生きているという事実だけです』
「あはは、ずいぶん安上がりだな。わかった、健康には気を付けるよ。……だからアニ、俺と仲間になってくれ。そして、それを受け入れてくれるのなら……」
俺は一呼吸置くと、続きを口にした。
「封印した俺の記憶を、元に戻してくれ」
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「ウィ、ル……?」
ウィルと唇を重ねていた時間は、数秒にも満たなかっただろう。だけど俺には、その瞬間だけ、時が流れることを放棄したように思えた。そんな一瞬の永遠の後で、俺は小さな声で、目の前の彼女の名前を呼んだ。
なにが起こったのか……ウィルが、俺にキスをした。言葉にすればそれだけなんだけど、俺にはそれが到底理解できない。ウィルのことは、好きだ。ウィルもたぶん、俺を好いてくれている。けどそれは、家族としての愛だったはず……ならさっきのキスは、親が子にするようなもの、なんだろうか?母さんが俺にしてくれたように、ウィルもまた……?
「……っ」
ウィルは俺から数センチだけ顔を離すと、まるで夢でも見ているかのように、熱を帯びた瞳で俺を見つめた。だがその時、海風が吹き付け、ウィルの金色の髪とスカートをはたはたと揺らした。その瞬間、ウィルは夢から醒めたように、はっと目を見開いた。
「ぁ……わ、私……」
辛うじてそれだけ口にすると、ウィルはものすごい勢いで俺から離れた。俺が思わず手を伸ばすと、彼女はびくりと震えるものだから、伸びた手をだらりと垂らすしかない。
「わ、たし……なんて、ことを……」
ウィルは自分の唇に、恐る恐る触れた。次の瞬間、倒れ込むような勢いで頭を下げる。
「ご、ごめんなさい!私、そんなつもりじゃ……」
「えっと……」
「こんな、傷に付け入るようなこと……本当にごめんなさい!私、最低だわ……!」
「うんと……とりあえず、頭、上げてくれよ。別に俺、嫌じゃないから」
「ですが……」
「頼むよ」
俺が重ねると、ウィルはようやく顔を上げた。申し訳なさに、眉がきれいにハの字になっている。
「……。私……」
「……ちょっと、驚いた。俺、こういうこと、したことないし……」
「……本当に、ごめんなさい」
「いいって。でも……どうして、なのかなって」
「それは……」
ウィルは目を閉じると、ぎゅうとスカートを握り締めた。
「……ごめんなさい。でも、こんな形で伝えるのは、卑怯です。フランさんに、なんて言ったら……」
「フランに……?」
「……桜下さん。自分でも虫のいいことを言っているって、分かってます。けど、お願いします。どうかさっきのことは、忘れてもらえませんか」
「え」
「お願いです。私、桜下さんに迷ってほしくありません。私のしたことには何の意味もなくて、だからなんにも起きなかった。そう言う風に、思ってくれませんか」
「……ウィルが言うなら、そうするけど」
「ごめんなさい。今後こんなことは、絶対にないようにしますから。ごめんなさい……」
そう言ってまた下げられるウィルの頭を見ると、俺はもう何も言えなくなってしまった。彼女の真意は分からないけど、とにかく先ほどの出来事は、彼女の意にそわないことだったらしい。
(……それはそれで、なんだか悲しいのは、どうしてだろ)
本当はきちんと説明してほしかったけど、今のウィルは本当に辛そうだ。恩に仇で返すようなことはしたくない。俺はうつむくウィルに一声かけると、いっしょにコテージまで歩き始めた。気付けば、夜風はずいぶん冷たいものになっていた。
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「みんな、アニから話は聞いたんだったよな」
「うん……」
「じゃあ、改めて俺からも、説明させてくれるか」
俺はさっきと同じように、ベッドに腰かけた。すると隣にフランが、反対側にライラが座ってきた。ライラは俺の腕にきゅっと抱き着き、フランは俺の手に自分の手を重ねる。
「……二人とも、ありがとな」
きっと今の俺は、目を真っ赤に泣きはらしているんだろう。それで二人とも、こんなにも心配してくれているんだ。俺は心の中に、申し訳なさと、二人への愛情があふれるのを感じた。
俺は、すべて話した。俺の恐れを。自分が、かけがえのないものを捨てて来てしまったことを。そしてそれは、もう取り返しがつかないことも……
すべてが終わった後でも、二人はそばにいてくれた。二人だけじゃない、エラゼムも、アルルカも、今は見えないロウランだって、誰一人俺を糾弾する仲間はいなかった。
「……桜下、かわいそう」
ライラは抱いた俺の腕に、頬をこすり付けている。
「桜下も、おかーさんに会えないんだね。ライラ、全然気が付かなかった……桜下、寂しくない?」
「ああ。ライラが、みんながいてくれるから」
俺が言うと、ライラは俺の目をじっと見つめて、それからにこりとほほ笑んだ。
「うん!ライラも!」
きゅっと、反対側の手が握られる。
「……」
「フラン」
「……ごめん。わたし、こういう時、なんて言ってあげたらいいのか、よく分からない。こんな性格だから……できることがあるなら言って。もしあなたが辛くなくなるんなら、わたし、何でもする」
「何でもはいらないよ。ただ……そばにいてくれ」
フランは何も言わずに、体を寄せて、俺の肩に頭を乗せた。十分だ……これだけで、この世のどんな贈り物よりも嬉しい。
「みんな……ありがとう。みんながいてくれるから、俺、これからも前を向ける」
みんながいなかったら……以前のままの俺だったら。自分が自殺していたことを知り、この世界でも独りなのだと知ったら……
(繰り返していた。二度目を)
そうならなかったのは、仲間がいたからだ。
“人という字は、支え合ってできている”。俺はそれを、単なる説教臭い教訓だと思っていた。今俺は、隣に誰かがいてくれる幸せを、噛みしめるように実感していた。
「……フラン、ライラ。ありがとな、もう大丈夫だ。それで悪いけど、一度離れてくれるかな。あと一つ、やらなきゃならないことがあるんだ」
俺が言うと、二人はそっと体を離した。俺は、みんなが見つめる中で……一番最初の仲間に、改めて向き直る。
「アニ」
『……』
ベッドの上に置かれた、自我を持つガラスの鈴。俺がこの世界に来て、初めてできた仲間だ。なぜか穴の開いたシーツの上に転がるアニは、すっかり輝きが失せ、ただのガラクタのように見えた。あるいは、俺の心がそう見せているのか……
「アニ。俺の話を、聞いてくれないか」
『……なんでしょうか。私には、もう……』
するとそこで、フランがくいと、俺の手を引いてきた。
「ごめん。少し待って」
「ん?なんだ、フラン」
「さっき、あなたが外に行ってる時。わたし、そいつに訊いてみたの。お前の主人は、桜下か王国か、どっちなんだって」
なんと、そんなことを。
「そうか。アニは、なんて?」
「……あなただって」
おお、そうか。俺はほっとしたが、フランはなぜか苦虫を噛み潰したような顔になっている。
「どうした?なんでそんな顔するんだよ」
「……そいつは、最初からずっと、あなたに仕えていたんだよ。つまり、記憶の封印とやらも、善意でやってたって言うんだ」
善意……か。俺は何とも言えない気持ちで、アニを見つめる。
「それだけ、先に伝えたかった。ごめん、遮っちゃって」
「いや、ありがとな。先に聞けてよかったよ。これで、ずっと話しやすくなった……」
俺は改めて、アニに声を掛ける。
「アニ。さっきの話、お前は善意でやってくれてたんだってな」
『……善意というのは、いささか高慢ですが。義務、のようなものです』
「義務?」
『はい。主様が、またしても死んでしまわないように。私の役割は、勇者がこの世界で生き続けていけるよう、サポートをすることです。たとえその中に、主様が望まない手段があったとしても、必要ならば実行します。私は、そういう道具なのです』
「……道具、か」
アニは、魔法の道具。自我を持っているが、人間ではない。そして自我を持つから、自分で考えて行動する。持ち主である俺が指示しないことでも。
「……アニ。俺はな、今回の一件で、仲間がどれだけありがたいか、身に染みてわかった。俺はこれからもずっと、“仲間”を大切にしていこうと思うよ。けどな、それは“道具”じゃ駄目なんだよ」
『……そうですか。それならば、今すぐ私を叩き壊してください』
「え?」
『今の私は、主様にとって害悪でしかありません。でしたら、私を廃棄してください。主様が不要なのであれば、私に存在価値はありませんので。ただ、私がいないと能力に不具合が発生する可能性があるので、少しずつ慣らしてから……』
「ち、ちょっと待ってくれ。どうしてそうなるんだよ」
『はい?道具は必要ないのではないのですか』
「違うちがう。そうじゃなくて、“道具”じゃなくて“仲間”になってくれって言いたかったんだ」
『……仲間に?』
俺はうなずいた。
「俺はお前を、ただの道具だとは思っちゃいない。じゃなきゃ、名前なんか付けるかよ。けど、お前が自分を道具だと思ってるんだったら、俺たちはいつまでもすれ違ったままだ」
『……どういう、ことですか?意味が……』
「だからさ、お前も俺のことを、持ち主じゃなくて仲間だって思ってくれよ」
『……道具と、仲間では、何が違うのですか?』
「全然違うだろ。道具は、誰かのことを思いやったりしない。使われるか、使うだけだ。けど、仲間は互いのことを思いやって行動するんだ。そうだろ?」
アニは機械的に、俺の記憶を封印した。その判断は、今だから言えるが、正直間違っていなかったと思う。もし記憶がそのままだったら、俺は今ほど、能天気にいられなかっただろう。
だけど。今後、すごく辛いことがあったとして。そのたびにアニが、機械的に記憶を封印していったのでは。俺はきっとそのうち、他人の痛みを理解できない人間になってしまう。
「アニ。お前のしたこと、ショックだったけど、意味がなかったとは言えないよ。それだけ俺が、不安定に見えたってことだもんな。けどさ、今の俺には、みんながいるから」
『……仲間がいるから、辛い記憶にも耐えられると?』
「ああ。前の俺とは違う。だから……お前にも、俺を支えて欲しい。俺も、お前を支えるからさ。まあ、できることなんて限られてるけど……」
『……私の望みは、主様が健やかに生きているという事実だけです』
「あはは、ずいぶん安上がりだな。わかった、健康には気を付けるよ。……だからアニ、俺と仲間になってくれ。そして、それを受け入れてくれるのなら……」
俺は一呼吸置くと、続きを口にした。
「封印した俺の記憶を、元に戻してくれ」
つづく
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