じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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13章 歪な三角星

10-3

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10-3

「……さっきのあれ、どういう意味」

ロアの部屋を後にしながら、フランは俺にピタリと体を寄せて、ささやくように怖いことを言った。

「へ?ど、どういうことだ?別に、大した意味は……」

「……わたしは、一度もあなたに好きって言ってもらえてないのに」

ぐうっ。フランの恨みがましい視線。……ん?

「……俺べつに、ロアに好きだとは言ってないぞ。それにフラン、お前には一度、王都で言ったことなかったか?」

「……」

フランは無言ですすすっと離れていった。こ、このやろう!担いでやがったな!

「まったくもう……」

困ったやつだ。でも、そんなところも愛おしく感じる。昨日一日で、俺の中の何かがガラリと変わってしまったようだ。俺が笑いながら首を振ると、ふと隣に浮かんでいたウィルと目が合った。俺は笑いかけようとしたが、その瞬間、彼女はさっと顔ごと目を逸らすと、すっと俺から離れてしまった。

(……変わったのは、俺だけじゃないみたいだな)

昨晩、ウィルが俺にキスをしてから……ウィルは明らかに、俺を避けている。昨日の今日だから気まずいのは分かる。けど、いつまでこうなんだろうか。

(ウィル……)

俺だって底抜けの大バカじゃない。一日経って、うすうすは、ウィルの気持ちも分かってきた……けど、そこからどうすりゃいいのか分からない。大バカじゃないけど、中バカくらいではあるのかもしれないな……はぁ。

「ん……あれ」

「おや……君たち」

俺ははたと足を止めた。向こうから、クラークたち一行が歩いてくる。

「確か君たちも、王に呼ばれていたんだよね。もう終わったのかい?」

「ああ。おたくらも、今?」

「そうだよ。あ、それで……よかったら、少し歩かないか?僕と君の、二人だけで」

うん?クラークにしちゃ珍しい提案だ。それぞれの仲間たちも意外そうにしている。

「……俺は、お前とデートする気はないんだけどな」

「ちがぁう!僕だってお断りだっ!」

「あっはっは、冗談だ。いいぜ、行こうか」

俺は仲間たちに「ちょっと行ってくるな」と手を振ると、クラークと連れ立って、庭園へと出た。俺は何となく、クラークの考えていることが分かる気がした。きっとやつも、俺と親交を深めたくて誘ったわけじゃないはずだ。

「……昨日の、事だけども」

黄色の可愛らしい蝶が目の前をひらひら飛んでいったところで、クラークが口を開いた。

「ああ。そういやお前、吉田って名前だったんだな?くらさんって呼んだ方がいいか?」

「なぁ!?や、やめてくれ!」

クラークは顔を真っ赤にして、バタバタと手を振った。はは、何もそんなに恥ずかしがることもないだろうに。

「嫌か?だって本名だろ」

「嫌に決まってる!僕は過去の名前も、顔も捨てた。生まれ変わったんだ!まさか、本当に転生していたとは思わなかったけど……とにかく、僕はクラーク。クラークなんだ」

「ふむ。ま、それならいいけど。俺も今さら、呼び名を変えるのは面倒だ」

「……そういえば君は、何も変えなかったと言ってたな。どうしてなんだい?」

「あぁ……?お前それは、俺の顔は変えたほうがよかっただろうって言いたいわけか?」

「あっ。ち、違う。そうではないけれど……」

「ちっ。俺はこっちに来てすぐ、処刑されそうになってんだ。そんなオプションの話は来なかったんだよ。まあ正直、変えられるんだったら、俺もお前みたいなイケメンにしてたかもしれないけどな」

俺がそう言うと、クラークは恥じらうように首の後ろをかいた。俺だって、綺麗な顔に憧れはあるさ。特に俺の頭は、アレなわけだし……けど今だから言えるが、顔を変えなくて本当に良かった。もしも別人レベルに変えていたとして、果たして俺は、フランの告白を受け入れられただろうか?偽りの姿で彼女に愛されて、素直に喜べただろうか?フランは今の俺を好きだと言ってくれた。彼女が好いてくれたのは、ありのままの俺なんだ。そう考えると、胸の奥があたたかくなる思いだった。
でもそれなら、クラークはどうなんだろう?

「お前は、顔を変えるときに躊躇しなかったのか?」

「僕?ああ、まったく」

あ、そうですか……

「僕は、以前の僕のことは、あまり好きじゃないんだ。だからこそ、何もかも変えて、新しく人生をやり直すことにしたんだよ。悪をくじき、正義を成す生き方をね」

「ふーん。だから、あんなに固執するってわけか……」

「うん。けど僕は、自分がそこまで正義にこだわる理由を、つい昨日まで忘れていたんだけれどね……」

「え。てことは、お前も?」

「あれ?やっぱり、同じことを考えてたのか。そうだよ、僕も記憶を取り戻したんだ」

なんと。俺とクラークの二人は、揃って記憶の封印を解くことを望んだのか。

「僕は……僕の死因は、階段から落ちたことだった」

「え?自殺じゃないのか?」

「いいや、自分から飛び込んだんだ。その時、一人の男を道連れにしてね」

「お、おいおいおい……マジ、なんだよな?」

さすがにこのタイミングでの冗談は、グーが出てもおかしくない。クラークは首を縦に振ったから、俺はパンチを出さずに済んだ。

「僕は、尊さんに乱暴した男を突き止めたんだ。それで口論になった。けど僕は弱くて、まるで歯が立たなかった。僕を殴り飛ばしてその場を去ろうとする男の背に、僕は思い切り飛びついた。二人で階段を転がり落ちて、僕はそのまま。相手がどうなったのかは知らないけど……報いを受けてしかるべきだと、僕は思う」

クラークは最後の部分を吐き捨てるように付け加えた。尊を乱暴した男、か……

「俺たち……二人とも、尊に関したことで死んでるんだな」

「ということは、君も?」

「ああ。ったく、なんだかなぁ。その尊が、今この世界に生きて、俺たちのそばにいるんだぜ?信じられねーよ……」

「ああ……僕も、昨日のことは本当に驚いたよ」

あまりに色々なことがありすぎて、昨日の再開の衝撃はやや薄れていた。が、それでも大きいことに変わりはない。尊は、今朝の食堂には姿を現さなかった。重体ではないらしいが、まだ本調子じゃないのだろうか。

「そういや……クラーク。お前、尊に惚れてるんじゃなかったっけ?」

「う、な、なにを……」

「昨日そんな話をしただろ。どうすんだ?尊は生きてるし、話そうと思えば話せるわけだけど」

クラークは尊に惚れていて、そして未だに忘れられていないという。けどこれは、くくく。自分で言っといてあれだけど、ちょいと意地悪な質問だな。昨日クラークは、コルルに気があるっぽいこと言っていたし。てっきり「今はコルルの方が気になってる」くらいの答えが返ってくるかと思ってたら、その上を越えたものが返ってきた。

「実は……僕とコルルは、付き合うことになったんだ」

「え……えぇー!?だ、だって昨日は、なかなか先に進まないって……」

「ああ。けど、昨日……ショックを受けて落ち込む僕を、コルルが慰めてくれたんだ。そしたら、その……」

なんだと?ああやっぱり、そんなところだったのか。今朝クラークとコルルの目が腫れていたから、俺とウィルみたいなことがあったんだろうとは思ったけれど。

「じゃあ、その勢いで告白?」

「いや……その前に、コルルがキスしてきて」

え、え?そんなとこまで一緒なの?

「じゃあ、それがきっかけで?」

「いや……」

「まだあるのかよ!」

俺は奇妙な熱にうかされていた。修学旅行の夜、友達の恋バナで盛り上がっている時のような……俺には友達も修学旅行の思い出もないのでわからないけど。クラークもそんな感じなのか、顔を赤くして照れている割に、俺の質問にはコンスタントに答えた。

「その……昨日も言ったけど、僕、あんまりそういう経験はなくって……」

「ああ、言ってたな。それで?キスされて、興奮して気絶しちまったのか?」

「ちっ、違うよ!馬鹿にするな!僕は、むしろ……!」

「むしろ?」

「……むしろ、コルルがひどく愛おしくなって。星明りに照らされるコルルが、すごく魅力的に見えたんだ。もともとそうではあったけど、昨夜は特に……それで、思わず彼女に手を伸ばしてて」

「え……」

俺の声は、蝶の羽ばたきくらい小さなものだった。

「まさか……」

「か、勘違いしないでくれ!けっして、倒錯したわけじゃないんだ。ただ昨日は、どうしようもなく人肌が恋しくて……」

「おま……だって、他の仲間は……?」

「気を利かせて、二人きりにしてくれていたんだ。だから……」

うつむくクラークの横顔を、俺はぽかんと口を開けて見つめるしかなかった。隣の少年が、ひどく遠くに感じる。俺とウィルと同じ?とんでもない。こいつら、二本も三本もラインをすっ飛ばしていきやがった。

「……そんじゃ、全てはその後か」

「うん……そこまでやっておいて、逃げ続けるわけにはいかないだろう?僕から頭を下げて、彼女に頼んだんだ。彼女になってくれって……」

「……いっそのこと、結婚も一緒に申し込んだらどうだ。できてたらどうする?」

「ああ……コルルは、大丈夫だろうって。けどもちろん、その時は、きちんと責任を取るつもりさ。正義を成そうとする僕が、不誠実なことをできるはずない」

俺はそれを聞いて、少しだけほっとした。もしこいつがコルルをやり捨てするなどと言い出したら、こいつは勇者セカンドと同罪だ。もしそうなら俺は、フランとばあちゃんの為に、こいつをぶっ倒さなきゃならなかった。

「……驚いたな。一夜の間に、ずいぶん色々進展したもんだ」

「そうだね。本当に、色々なことがあったよ。不愉快なことも多かったけれど、今はなんだか、満ち足りた気分なんだ。そう悪いことばかりじゃなかったって、そう思える。尊さんにまた会えたのも、そういう意味では大きかったかな」

「あ、また私のはなししてるの?」

うわあ!?なんか、デジャヴを感じるな?



つづく
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