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13章 歪な三角星
11-1 デュアンとウィル
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11-1 デュアンとウィル
俺はブツブツと文句を垂れ続けるクラークの隣で、ゲンナリしながら戻ってきた。クラークはすっかりデュアンに怒り心頭だ。だが尊がデュアンに優しくするもんだから、やり場のなくなった怒りを俺にぶつけてきてるんだ。
「なんなんだ、あの男は!あんなスケベな男が聖職者のわけないだろ!」
「だーから、それは神様に訊いてくれって。俺に言われても知らねーよ」
「ぐううぅぅぅ……」
ったく、デュアンめ。面倒ごとばかりを持ってくる……それに、この後はどうしよう?デュアンの追求をうまくかわす手立ても考えないと……はぁ、憂鬱だ。
「おーい。クラークー!」
ん?おや、向こうにいるのはコルルとフランだ。コルルがこちらに手を振っている。
「あっ、コルルだ。待っててくれたのかな……コルルー!」
しかめっ面だったクラークはとたんに締まりのない顔になり、手を振り返した。かぁ~、勘弁してくれよ……俺はさらに憂鬱になった。
「おかえりなさい、クラーク。もう話はすんだの?」
「うん。少し、昨日の話をね。ほら、いろいろバタバタしてて、あんまり彼と話せなかったから」
「そうだったの?奇遇ね、あたしたちも昨日のことを話してたのよ」
「へ?コルルたちも?それって、どんな?」
へえ、俺も意外だな。コルルの話し相手って、フランだろ。まさかフランが、おしゃべりに興じるなんて。だがコルルはフランとちらっと目配せすると、意地悪く笑った。
「ナイショ。女の子同士のお話してたのよ」
「え、ええ?」
なんじゃそりゃ?コルルはそれ以上教えてはくれなかった。フランが俺に近寄ってくる。
「もういいの?」
「あ、ああ。そういやみんなは?」
「自由行動中。呼んでこようか?」
「いいのか?悪いな」
フランはうなずくと、他の仲間たちを呼びに行った。ライラはミカエルにバイバイと手を振り、エラゼムはレーキを顔の前に構えて、アドリアに一礼した。模擬試合でもしていたのかな?一人でいたウィルは、軽くうなずくとすすすっとやって来る。うーむ、ウィルは相変わらずか……
そして最後にフランは、なぜか木に近づいて行って、幹を強く蹴り飛ばした。ガッ!ドシーン!
「いったぁー!なになに、地震!?」
木の枝を突き破って、アルルカが落っこちてきた。カブトムシみたいなやつ……
「これで全員か。じゃ、一度部屋に戻ろうか」
コテージに戻ってきた。三冠の宴が終わった以上、じきにここも引き払うことになるだろう。少し名残惜しい気もするが、俺たちに贅沢は似合わないな。
「さて……ところでみんな。実は、一つ言いそびれてたことがあったんだ」
定位置になりつつあるベッドに腰かけて、俺は仲間たちに、デュアンと出会ったことを話した。
「またあいつ?」
デュアンの名を聞いて、フランが露骨に顔をしかめる。少し離れたところにいるウィルも、驚いているようだ。
「やつは王都からここまで、はるばる俺たちを追っかけてきたらしい。今度こそ、話を聞き出そうって息巻いてたよ。あいつ、俺が勇者だってことまで突き止めたんだぜ?」
「うっそ。とんでもない執念じゃない。こわぁーい」
言葉とは裏腹に、アルルカはどこか面白そうだ。チッ、他人事みたいに……
「で、どうしたもんかなぁってさ。みんなにも、聞いてみようと思って」
みんなとは言っても、実際は一人に向けて言っているみたいなもんだ。俺はちらりとウィルの方を伺ってみたが、うつむいていて目は合わなかった。もしくは、目を逸らされたか……
「でもさぁ、どうしようもなくない?」
ライラが細い腕を組んで、むむむと唸る。
「だってさ、前もなんにもできなくって、それで逃げ出したんだもんね。なら今も同じ事じゃん」
「まあ、そうなんだけど。けどあいつ、逃げても追っかけてくるぜ?」
「なぁんだ、そんなこと心配してたの?だったら解決したようなものだよ!」
お?みんなの目がライラに集中する。ライラは薄い胸を張って、堂々と言い放った。
「ライラのまほーがあるじゃん!ストームスティードで走れば、あんなやつ追いつけっこないよ!」
へ?な、なんだ……俺はかくんと肩を落とした。フランがため息をつく。
「ふう。あのね、逃げる方法に困ってるわけじゃないの。たかが人間一人、わたしたちならどうとでもできるでしょ」
「え?そう……なの?」
「それこそ、あなたの魔法とかね。そうじゃなくて、追っかけてくること自体が面倒なんだよ」
ライラは頭の上に「?」を浮かべている。俺は彼女の頭をぽふっと撫でた。
「確かにな、ライラの魔法を使えば、デュアンを捲くことは簡単だ。でもそれだと、あいつは諦めないだろ。どうにかして俺たちの後をついて来ようとする……それこそ、危険な目に遭ってもだ」
「あ……じゃあ、あいつが心配だってこと?」
「ま、そういう事だな。俺たちのせいで死なれたんじゃ、寝覚めが悪いだろ。フランもそう言いたかったんだ。な?」
すると今度はフランが、「?」を浮かべた。
「え?わたしは、あいつがなにか余計なことをしないか心配だったんだけど。わたしたちのことを言いふらすとか。あいつ自体は割とどうでも……」
「あ、あー!やっぱり、フランも心配なんだって!つまり俺たちは、デュアンに追跡を諦めてもらわなきゃならないんだ!」
強引に軌道修正して、なんとか平和な方向に戻ってきた。あのまま行くと、邪魔者は排除するって結論に至りそうだった。
「でも、諦めてもらうって言ったって……」
そう、そこが難しい。デュアンはウィルの消息を掴むまで諦める気が無い。だがウィルは、自分の行方を秘密にしたい。俺はウィルを全面的に支援するから、デュアンの期待にはどう頑張っても応えられない。このジレンマを何とかしないと、議論はいつまでの堂々巡りだ。
「なにか、適当な嘘を言う?ウィルはどこそこに移住した、とか言って」
「けどそれだと、バレたらまた追っかけてくるぜ。結局そこまでは移動することになるわけだし」
「じゃあ、おねーちゃんが探さないでって言ってたって、言うとか」
「それはもうやってんだ。村を出てくるとき、そういう内容の置き手紙を残してるんだよ」
「そっか……」
うーん、むつかしいな。大体、当事者を抜きに話が進んでいるせいで、いかんせん空回っている感がある。いい加減、話しかけなきゃならないだろう。俺は息を吸うと、意を決して、ウィルにも声を掛けた。
「なあ、ウィルはどうだ?何か意見とか……」
「い、いえ!すみません、お手間をかけて。私は、皆さんの出した答えに、従いますから……」
ウィルはさっと顔を背けると、そう早口で言った。ろ、露骨に避けられてしまった……ウィルの様子がおかしいことには、みんなも気が付いているらしい。何とも言えない目で、俺とウィルとを交互に見ている……そ、そんな目で見られても。
「ねえ、着眼点を変えたらどうなの?」
あん?沈黙を破り、アルルカが杖で、床をコツコツと突いた。それをそのままぐるりと手の中で回転させる。
「シスターの行方なんて、どうでもいいじゃない。んなこと、あの男も本気で求めちゃいないわよ。そうじゃなくて、あいつが欲しいのは、一つでしょ?」
ジャキ。アルルカが杖を構えて、俺の鼻先に付きつける。フランは牙をむいて威嚇したが、アルルカは歯牙にもかけていない。俺は杖先を見つめて、考えてみたが……
「……何のことだ?」
「かぁ~、これよ!だーかーらー、告白の返事が欲しいのよ、あ・れ・は!」
アルルカが、杖先で俺の鼻をぶにぶにと潰す。ただでさえ高くないのに、もっと低くなっちゃうだろ……じゃなくて。告白の返事?
「このシスターが恋人だなんて、少し知ってればすぐにバレることじゃない。でもあいつは、それを承知で、ホラを吹きまくってるんでしょ」
「あ、ああ。その方が、記憶に残りやすいから……」
「ちーがうわよ!嘘でもいいから、恋人だって事にしたかったの。言ったでしょ、シスターの行方はどうでもいいって。よーするに、片思いの相手が突然いなくなっちゃったもんだから、自分の失恋を認めたくないだけなのよ。わかる?」
俺はぽかんと口を開けた。けど、すごく納得した。あの色好き男の決意の源が、使命感や義務感なわけないじゃないか。ウィルに振られたことが信じられなくて、それを問いただそうとしているだけだったんだ……フランがぼそっと呟く。
「やっぱりあいつ、ヤバイやつ」
俺たちは深くうなずかざるを得なかった。デュアンよ……お前の株はどんどん下がっていくな。だけど一方で、少しだけ気持ちも分かる気がした。今なら、誰かに恋する気持ち、俺にもちょっとは分かるから。
「確かに……アルルカ、お前の言う通りかもしれないな」
「キャハハハ!ほんっとに、あんたたちったら揃いも揃っておっ子ちゃまねぇ」
アルルカは上機嫌でふんぞり返り、高笑いしている。
「確かにぃ?あたしみたいなアダルトじゃないと、ちょーっと難しかったかもぉッ!?」
アルルカの背中を、フランが無言で蹴飛ばした。ちょうどその先には、海へと通ずるハッチが開いていて……ドボーン。
「ぶはっ!にゃに、何すんのよ!ぶへー、ぺっぺ。水飲んじゃったじゃない!」
フランは無言でハッチを閉じ、ギャーギャー言う声を黙殺した。恐ろしい手際だ……
「先ほどのアルルカ嬢の意見は、一理あるようにも思えますな」
何事もなかったかのようにエラゼムが続ける。こいつもだんだん染まってきたな?
「確かにデュアン殿は、ウィル嬢の行方を掴むというよりは、ウィル嬢に直接会うことを望んでいるようにも見えました。ウィル嬢、いかがかな?」
「え?え、ええ……そう、かもしれませんね」
「ふむ。しかし、それは不可能です。霊体であるウィル嬢を、彼が目にすることはできませぬ」
だ、よなぁ。また振り出しかと思ったその時、エラゼムから妙案が出た。
「で、あるならば、文での交信ならどうでしょうか」
「ん?文?……あ、ああー!そうか、手紙か!」
その手があった!ウィルはデュアンと直には話せないが、手紙を書いて渡す事ならできる。それなら、ウィル本人の言葉に限りなく近い!
「エラゼム、妙案だぜ!ウィル、さっそく手紙を……」
「あ、あの!でしたら、紙とペンだけくれませんか。手紙の内容は、一人で考えたいんです……」
「え。ま、まあそう言うなら……」
先手を打たれてしまった。俺は高揚していた気持ちがしぼむのが分かったが、どうしようもない。部屋に備え付けてあった筆記具を手に取ると、ウィルは一度も俺の目を見ないまま、屋根の上へと浮かんでいってしまった。確かにそこなら、誰にも邪魔されないな……
「ウィル……」
弱ったなぁ。あいつ、まさかとは思ってたけど、本当にずっとこのままのつもりか?冗談じゃないぜ、そんなの……
「……」
フランが何やら決意したような顔で、屋根を見上げていたが、頭を抱えた俺はそれに気が付かなかった。
つづく
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「だーから、それは神様に訊いてくれって。俺に言われても知らねーよ」
「ぐううぅぅぅ……」
ったく、デュアンめ。面倒ごとばかりを持ってくる……それに、この後はどうしよう?デュアンの追求をうまくかわす手立ても考えないと……はぁ、憂鬱だ。
「おーい。クラークー!」
ん?おや、向こうにいるのはコルルとフランだ。コルルがこちらに手を振っている。
「あっ、コルルだ。待っててくれたのかな……コルルー!」
しかめっ面だったクラークはとたんに締まりのない顔になり、手を振り返した。かぁ~、勘弁してくれよ……俺はさらに憂鬱になった。
「おかえりなさい、クラーク。もう話はすんだの?」
「うん。少し、昨日の話をね。ほら、いろいろバタバタしてて、あんまり彼と話せなかったから」
「そうだったの?奇遇ね、あたしたちも昨日のことを話してたのよ」
「へ?コルルたちも?それって、どんな?」
へえ、俺も意外だな。コルルの話し相手って、フランだろ。まさかフランが、おしゃべりに興じるなんて。だがコルルはフランとちらっと目配せすると、意地悪く笑った。
「ナイショ。女の子同士のお話してたのよ」
「え、ええ?」
なんじゃそりゃ?コルルはそれ以上教えてはくれなかった。フランが俺に近寄ってくる。
「もういいの?」
「あ、ああ。そういやみんなは?」
「自由行動中。呼んでこようか?」
「いいのか?悪いな」
フランはうなずくと、他の仲間たちを呼びに行った。ライラはミカエルにバイバイと手を振り、エラゼムはレーキを顔の前に構えて、アドリアに一礼した。模擬試合でもしていたのかな?一人でいたウィルは、軽くうなずくとすすすっとやって来る。うーむ、ウィルは相変わらずか……
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「いったぁー!なになに、地震!?」
木の枝を突き破って、アルルカが落っこちてきた。カブトムシみたいなやつ……
「これで全員か。じゃ、一度部屋に戻ろうか」
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「さて……ところでみんな。実は、一つ言いそびれてたことがあったんだ」
定位置になりつつあるベッドに腰かけて、俺は仲間たちに、デュアンと出会ったことを話した。
「またあいつ?」
デュアンの名を聞いて、フランが露骨に顔をしかめる。少し離れたところにいるウィルも、驚いているようだ。
「やつは王都からここまで、はるばる俺たちを追っかけてきたらしい。今度こそ、話を聞き出そうって息巻いてたよ。あいつ、俺が勇者だってことまで突き止めたんだぜ?」
「うっそ。とんでもない執念じゃない。こわぁーい」
言葉とは裏腹に、アルルカはどこか面白そうだ。チッ、他人事みたいに……
「で、どうしたもんかなぁってさ。みんなにも、聞いてみようと思って」
みんなとは言っても、実際は一人に向けて言っているみたいなもんだ。俺はちらりとウィルの方を伺ってみたが、うつむいていて目は合わなかった。もしくは、目を逸らされたか……
「でもさぁ、どうしようもなくない?」
ライラが細い腕を組んで、むむむと唸る。
「だってさ、前もなんにもできなくって、それで逃げ出したんだもんね。なら今も同じ事じゃん」
「まあ、そうなんだけど。けどあいつ、逃げても追っかけてくるぜ?」
「なぁんだ、そんなこと心配してたの?だったら解決したようなものだよ!」
お?みんなの目がライラに集中する。ライラは薄い胸を張って、堂々と言い放った。
「ライラのまほーがあるじゃん!ストームスティードで走れば、あんなやつ追いつけっこないよ!」
へ?な、なんだ……俺はかくんと肩を落とした。フランがため息をつく。
「ふう。あのね、逃げる方法に困ってるわけじゃないの。たかが人間一人、わたしたちならどうとでもできるでしょ」
「え?そう……なの?」
「それこそ、あなたの魔法とかね。そうじゃなくて、追っかけてくること自体が面倒なんだよ」
ライラは頭の上に「?」を浮かべている。俺は彼女の頭をぽふっと撫でた。
「確かにな、ライラの魔法を使えば、デュアンを捲くことは簡単だ。でもそれだと、あいつは諦めないだろ。どうにかして俺たちの後をついて来ようとする……それこそ、危険な目に遭ってもだ」
「あ……じゃあ、あいつが心配だってこと?」
「ま、そういう事だな。俺たちのせいで死なれたんじゃ、寝覚めが悪いだろ。フランもそう言いたかったんだ。な?」
すると今度はフランが、「?」を浮かべた。
「え?わたしは、あいつがなにか余計なことをしないか心配だったんだけど。わたしたちのことを言いふらすとか。あいつ自体は割とどうでも……」
「あ、あー!やっぱり、フランも心配なんだって!つまり俺たちは、デュアンに追跡を諦めてもらわなきゃならないんだ!」
強引に軌道修正して、なんとか平和な方向に戻ってきた。あのまま行くと、邪魔者は排除するって結論に至りそうだった。
「でも、諦めてもらうって言ったって……」
そう、そこが難しい。デュアンはウィルの消息を掴むまで諦める気が無い。だがウィルは、自分の行方を秘密にしたい。俺はウィルを全面的に支援するから、デュアンの期待にはどう頑張っても応えられない。このジレンマを何とかしないと、議論はいつまでの堂々巡りだ。
「なにか、適当な嘘を言う?ウィルはどこそこに移住した、とか言って」
「けどそれだと、バレたらまた追っかけてくるぜ。結局そこまでは移動することになるわけだし」
「じゃあ、おねーちゃんが探さないでって言ってたって、言うとか」
「それはもうやってんだ。村を出てくるとき、そういう内容の置き手紙を残してるんだよ」
「そっか……」
うーん、むつかしいな。大体、当事者を抜きに話が進んでいるせいで、いかんせん空回っている感がある。いい加減、話しかけなきゃならないだろう。俺は息を吸うと、意を決して、ウィルにも声を掛けた。
「なあ、ウィルはどうだ?何か意見とか……」
「い、いえ!すみません、お手間をかけて。私は、皆さんの出した答えに、従いますから……」
ウィルはさっと顔を背けると、そう早口で言った。ろ、露骨に避けられてしまった……ウィルの様子がおかしいことには、みんなも気が付いているらしい。何とも言えない目で、俺とウィルとを交互に見ている……そ、そんな目で見られても。
「ねえ、着眼点を変えたらどうなの?」
あん?沈黙を破り、アルルカが杖で、床をコツコツと突いた。それをそのままぐるりと手の中で回転させる。
「シスターの行方なんて、どうでもいいじゃない。んなこと、あの男も本気で求めちゃいないわよ。そうじゃなくて、あいつが欲しいのは、一つでしょ?」
ジャキ。アルルカが杖を構えて、俺の鼻先に付きつける。フランは牙をむいて威嚇したが、アルルカは歯牙にもかけていない。俺は杖先を見つめて、考えてみたが……
「……何のことだ?」
「かぁ~、これよ!だーかーらー、告白の返事が欲しいのよ、あ・れ・は!」
アルルカが、杖先で俺の鼻をぶにぶにと潰す。ただでさえ高くないのに、もっと低くなっちゃうだろ……じゃなくて。告白の返事?
「このシスターが恋人だなんて、少し知ってればすぐにバレることじゃない。でもあいつは、それを承知で、ホラを吹きまくってるんでしょ」
「あ、ああ。その方が、記憶に残りやすいから……」
「ちーがうわよ!嘘でもいいから、恋人だって事にしたかったの。言ったでしょ、シスターの行方はどうでもいいって。よーするに、片思いの相手が突然いなくなっちゃったもんだから、自分の失恋を認めたくないだけなのよ。わかる?」
俺はぽかんと口を開けた。けど、すごく納得した。あの色好き男の決意の源が、使命感や義務感なわけないじゃないか。ウィルに振られたことが信じられなくて、それを問いただそうとしているだけだったんだ……フランがぼそっと呟く。
「やっぱりあいつ、ヤバイやつ」
俺たちは深くうなずかざるを得なかった。デュアンよ……お前の株はどんどん下がっていくな。だけど一方で、少しだけ気持ちも分かる気がした。今なら、誰かに恋する気持ち、俺にもちょっとは分かるから。
「確かに……アルルカ、お前の言う通りかもしれないな」
「キャハハハ!ほんっとに、あんたたちったら揃いも揃っておっ子ちゃまねぇ」
アルルカは上機嫌でふんぞり返り、高笑いしている。
「確かにぃ?あたしみたいなアダルトじゃないと、ちょーっと難しかったかもぉッ!?」
アルルカの背中を、フランが無言で蹴飛ばした。ちょうどその先には、海へと通ずるハッチが開いていて……ドボーン。
「ぶはっ!にゃに、何すんのよ!ぶへー、ぺっぺ。水飲んじゃったじゃない!」
フランは無言でハッチを閉じ、ギャーギャー言う声を黙殺した。恐ろしい手際だ……
「先ほどのアルルカ嬢の意見は、一理あるようにも思えますな」
何事もなかったかのようにエラゼムが続ける。こいつもだんだん染まってきたな?
「確かにデュアン殿は、ウィル嬢の行方を掴むというよりは、ウィル嬢に直接会うことを望んでいるようにも見えました。ウィル嬢、いかがかな?」
「え?え、ええ……そう、かもしれませんね」
「ふむ。しかし、それは不可能です。霊体であるウィル嬢を、彼が目にすることはできませぬ」
だ、よなぁ。また振り出しかと思ったその時、エラゼムから妙案が出た。
「で、あるならば、文での交信ならどうでしょうか」
「ん?文?……あ、ああー!そうか、手紙か!」
その手があった!ウィルはデュアンと直には話せないが、手紙を書いて渡す事ならできる。それなら、ウィル本人の言葉に限りなく近い!
「エラゼム、妙案だぜ!ウィル、さっそく手紙を……」
「あ、あの!でしたら、紙とペンだけくれませんか。手紙の内容は、一人で考えたいんです……」
「え。ま、まあそう言うなら……」
先手を打たれてしまった。俺は高揚していた気持ちがしぼむのが分かったが、どうしようもない。部屋に備え付けてあった筆記具を手に取ると、ウィルは一度も俺の目を見ないまま、屋根の上へと浮かんでいってしまった。確かにそこなら、誰にも邪魔されないな……
「ウィル……」
弱ったなぁ。あいつ、まさかとは思ってたけど、本当にずっとこのままのつもりか?冗談じゃないぜ、そんなの……
「……」
フランが何やら決意したような顔で、屋根を見上げていたが、頭を抱えた俺はそれに気が付かなかった。
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