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13章 歪な三角星
11-2
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「ウィル。ちょっと来てくれない」
「へ?」
フランが唐突にそう切り出したのは、その日の夕刻の事だった。空は夕焼けに染まり、サンセットラグーンは燃えるような茜色だ。砂浜で流木の心を理解しようとしていた俺は(つまり、寝そべっていたということだ)、思わずむくりと体を起こした。
なんで寝そべっていたかと言えば、午前中にデュアン対策会議を開き、ウィル直筆の手紙で彼の追跡を断念させるという、一見すると画期的に思われた計画が、先ほど無残にも打ち砕かれたところだったからだ。
「……こんな手紙は、デタラメです!これはウィルさんの書いたものじゃない!」
正真正銘ウィルがしたためた手紙を破り捨てて、デュアンはきっぱりと断言した。
「いやデュアン。よく見てくれよ、間違いなくウィルの字だろ?」
「いいえ!ウィルさんの字は、もっと流暢で、柳のようにしなやかで美しいものでした!こんなへにゃへにゃな縮れ毛みたいな字、彼女のはずありません!」
ウィルは顔を赤くしてワナワナ震え、危うくロッドを彼の脳天にお見舞いするところだった。
「だいたい、あなたたちが都合よくウィルさんの手紙を持っていることの方が不自然です!こんな見え透いたペテンで僕をだませると思ったら、大間違いですよ!」
これには、ぐうの音もでなかった。確かに、急にウィルの手紙が湧いて出てくるのは出来過ぎている。結果を急くあまり、ディティールへのこだわりが不足したのは良くなかった。ただ俺たちとしては、細かな粗で勘付かれたというよりは、書かれていた内容を認めたくない気持ちが強いのだろう、というのが総意だった。ウィルが何を書いたのかは見せてもらえなかったが、読んでいるデュアンの顔色がどんどんおかしな色になっていったから、中身の想像は簡単だったし。
「結局あいつ、ウィルに直接フラれるまで諦めない気なんじゃ……」
という事実が、今日いっぱい使って得られた、唯一の成果だった。あんにゃろー、丸太に縛り付けて、海に流してしまおうか?残忍な欲求が強くなってきて、頭の中をリフレッシュするために、夕日の照らす砂浜で休憩をしていた。その矢先のことだった。
「フランさん?あの、何の用かはわかりませんが、今は私……」
「お願い。ていうかごめん、嫌って言わせるつもりない」
「え?ちょ、ちょっと」
フランはウィルのロッドを掴むと、ぐいぐいと引っ張り始めた。ウィルはロッドを取り返そうとして、踏ん張った姿勢のまま宙を引き摺られていく。
「おい、フラン。どうしたんだよ」
思わず声を掛けたが、フランにものすごい目で睨み返されたので、俺は舌が丸まってしまった。
「口を出さないで。大事な、とても大事なことなんだ」
フランはそれだけ言うと、ウィルと一緒に砂浜を行ってしまった。
「ど、どうしちゃったんだろ、フラン。おねーちゃんとケンカでもするみたいだったよ?」
「あ、ああ。すげー気迫だったな……」
ライラが不安そうに俺の腕に触れてくるので、その手を握り返す。
「けど……さっきのフランの目。あれは怒ってるっていうより、決意してるって目だった」
「決意?」
「ああ。なんだか分からないけど、大事なことっていうのは、たぶん本当だ。だからたぶん、大丈夫だろ……たぶん」
「桜下ぁ、たぶんって三回言ったよ?」
だって、俺だって不安なんだよ。フランの事を、百パーセント理解できているとはとても思えないし……
けどフランは、ウィルの様子がおかしいことに気付いていたはずだ。それなら、悩みを聞きに連れ出したんだとか?だったら二人きりになるのもうなずける。少し希望的観測も入っているかもしれないが……
「うーん……わあ!考えてもわかんねーや。それに今は、別の問題もあるわけだし」
俺は再び砂浜に倒れ込んだ。
「まいったよなぁ。デュアンのやつ、どうすりゃいいんだか」
「申し訳ありませぬ……吾輩の案が甘かったばっかりに」
エラゼムは自分の策が大失敗だったので、目に見えて凹んでいた。
「いやあ、エラゼムだけのせいじゃないよ。あいつの執念を見誤ってた。あんなにすごいなんて」
「ええ……ただ、少しだけ彼の気持ちも分かるような気がしてしまうのです。吾輩もまた、頼まれてもいない捜索を続ける身ですから」
おっと、そうだった。エラゼムもまた、行方知れずとなった女城主を探しているんだ。
「エラゼムだったら、やっぱり本人の口から聞きたいって思うか?文字とかじゃなくて」
「そうですな。吾輩の場合、メアリー様はとうにご存命ではないでしょうが。もしもお声が聞けるのであれば、やはり嬉しいと感じてしまいます」
「だよなぁ……」
デュアンは正直ちゃらんぽらんで、その上しつこくて面倒くさいやつだが、気持ちは分からないでもないんだ。そりゃ、好きな人が突然いなくなったらショックだし、後を追いかけたいって思うよな。けどやっぱり、どうしようもないんだよ。そもそもウィルは、デュアンに気がないんだから。後はその事を、どう彼に伝えるかなんだが……
「声……」
すると、ぽつりとライラがつぶやいた。ライラは何か考え事をしているのか、砂浜に転がった貝殻をじっと見つめている。
「……ライラ?」
「……ねえ、もしかしたらだけど。おねーちゃんの声、あいつに聞かせられるかもしれない」
「えっ」
ライラは手を筒状にして、俺の耳にこしょこしょと話して聞かせてくれた。俺は耳がこそばゆくてしょうがなかったが、全てを聞き終わった時、飛び上がって喜んだ。
「それだ!ライラ、お前はやっぱり天才だぜ!」
「えへへ、ほんと?へへへぇ」
「ああ!きっとそれならいける!あん時のあれは、この時の為にあったに違いない!」
ライラは照れ臭そうに、鼻の下をこしこし擦っている。彼女の発想は、まさに革新的だった。俺がエラゼムとアルルカにも聞かせると、二人ともなるほどと唸る。うん、これならいける!俺は早く計画を伝えたくて、連れ立って行った二人が戻ってくるのを、今か今かと待ち望んだ。
「お……おい。いったい、何があったんだ……?」
陽が沈んであたりが暗くなってきたころ、フランとウィルは帰ってきた、んだけど……
ウィルの顔には、涙の痕がくっきり残っている。髪の毛が数本、濡れた頬に張り付いていた。そしてフランはと言うと、ほっぺに見事なもみじが咲いている。女性の手で張り手打ちをされたら、ちょうどピッタリいきそうなサイズ感だ……
「まあ、ちょこっとあったけど……とりあえず、丸く収まった」
「そ、そうなのか……?」
フランはそう言うけど……だけど、明らかに変わった事もあった。ウィルはもう、俺の前から逃げ出そうとはしなかった。瞳はまだ潤んでいるが、それでもどこか憑き物が落ちたような、スッキリした目をしている。
「あの……」
「ほんとにもう大丈夫。だよね?」
フランが目配せすると、ウィルはしっかりとうなずいた。ううん、本当だろうか?けど、疑っても仕方ないか。
「……とりあえず、そう言うことにしとくか。それより聞いてくれよ!ライラが、すげー方法を考えついたんだ!」
「すげー方法?」
俺は二人に、ライラの妙案を話して聞かせた。予想通り、二人とも目を丸くした。
「でも、確かにそれなら、いけるかもしれません……!」
「だろ?物は試しだ。さっそく実験してみようぜ!」
「はい!」
ウィルはキラキラした瞳でうなずいた。なんだか、ずいぶん久々にウィルの目を見た気がする……とにかく俺たちは、大急ぎで自分たちのコテージへと戻った。そして荷物の中から、お目当てのブツを引っ張り出した……
「……なんなんですか。こんなところに呼び出して」
夜。俺の呼び出しで庭園のテラスにやってきたデュアンは、露骨に警戒した目で俺を睨んだ。この場所は、昨夜ボロボロのデュアンが這い出してきた場所でもある。俺は空気を和ませようと、腕を広げて笑いかけた。
「いや、ほら。ここって素敵な場所だろ?なんだかロマンを感じてこないか?」
デュアンは何言ってんだこいつという顔をし、さらに警戒を深めた。しまった、逆効果だったか……ごほん。
「あー、つまりだな。昼間の続きをしようってわけだ」
「昼間の続き……?」
「そう。お前は、ウィルから直接話を聞かないと済まないって感じだったよな」
「……!まさか、ウィルさんがいるんですか?ここに!」
「いいや。残念ながら、お前と会うことはできない(デュアンはがっくりと肩を落とした)。だけど、話す事ならできる」
「はい?……また筆談でとか言うんでしたら、お断りしますよ」
「そうじゃない。ちゃんと声で、だ。ほら」
俺はそう言って、手に握っていたそれ……透明なガラスの筒を、デュアンに差し出した。これは、ここに来る途中、クレアの店で買ったものだ。何とかって言うモンスターの素材で、少し離れた相手との会話を可能にする効果を持つ。そして俺は事前に、この筒に魔力をありったけ込めていた。
「なんですか、これ?底の抜けたコップ?」
デュアンはガラス筒を受け取ると、怪訝そうに眺めまわした。俺はジェスチャーで、それを耳に当てるように指示する。
「騙されたと思って、そいつを耳に当ててみな」
「はあ……?」
半信半疑のまま、デュアンはそれを耳に押し当てた。よし、今だウィル!
「……デュアンさん。聞こえますか?」
「!!!」
デュアンは比喩なしに、その場で垂直に三十センチくらい飛び上がった。ガラス筒がその拍子にすっぽ抜けそうになり、俺とデュアンはてんやわんやしながらそれをキャッチした。
「ちょ、ちょっと、このドジ!もっと大事に扱ってください!貴重なものなんですよ!」
「ふ、ふう。ええ、すみません……」
まったく、冷や冷やさせられるな。ようやくデュアンは、心を落ち着けたらしい。深呼吸して、聞こえてくる声に全神経を傾けている。俺は一歩引いて、二人が落ち着いて会話できるようにした。
「改めて、デュアンさん。お久しぶりです。意外と小心者なところも変わってませんね」
「……そう言うウィルさんこそ、相変わらず口が悪い。神殿にいたころから、僕にはやたらときつかったですよね」
「あら、そうですか?私はあなたにだけのつもりでしたけど」
「ええ、わかっていますよ。僕はそれを、愛情表現の一種だと認識していました」
「……一度、頭を診てもらったほうがいいんじゃないですか?」
俺は感心した。これほど久々に話したというのに、二人の口ぶりには一切の躊躇いがない。実に自然だ。流石、幼少期からずっと一緒に育ってきた幼馴染と言うべきか。
「あははは……懐かしいなぁ。少し前まで、ほとんど毎日、こうしてウィルさんと話していたのに。今ではもう、あの日々が遠い昔の出来事のように感じます」
「……間違っては、いませんね」
「ええ……だからこそ、僕は理解できない」
っと……デュアンの雰囲気が変わった。
「ウィルさん……どうして、村を出て行ったんですか」
つづく
====================
明日からは通常の更新ペースに戻ります。
お楽しみいただけましたでしょうか。
明日は0時更新予定です。
====================
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「ウィル。ちょっと来てくれない」
「へ?」
フランが唐突にそう切り出したのは、その日の夕刻の事だった。空は夕焼けに染まり、サンセットラグーンは燃えるような茜色だ。砂浜で流木の心を理解しようとしていた俺は(つまり、寝そべっていたということだ)、思わずむくりと体を起こした。
なんで寝そべっていたかと言えば、午前中にデュアン対策会議を開き、ウィル直筆の手紙で彼の追跡を断念させるという、一見すると画期的に思われた計画が、先ほど無残にも打ち砕かれたところだったからだ。
「……こんな手紙は、デタラメです!これはウィルさんの書いたものじゃない!」
正真正銘ウィルがしたためた手紙を破り捨てて、デュアンはきっぱりと断言した。
「いやデュアン。よく見てくれよ、間違いなくウィルの字だろ?」
「いいえ!ウィルさんの字は、もっと流暢で、柳のようにしなやかで美しいものでした!こんなへにゃへにゃな縮れ毛みたいな字、彼女のはずありません!」
ウィルは顔を赤くしてワナワナ震え、危うくロッドを彼の脳天にお見舞いするところだった。
「だいたい、あなたたちが都合よくウィルさんの手紙を持っていることの方が不自然です!こんな見え透いたペテンで僕をだませると思ったら、大間違いですよ!」
これには、ぐうの音もでなかった。確かに、急にウィルの手紙が湧いて出てくるのは出来過ぎている。結果を急くあまり、ディティールへのこだわりが不足したのは良くなかった。ただ俺たちとしては、細かな粗で勘付かれたというよりは、書かれていた内容を認めたくない気持ちが強いのだろう、というのが総意だった。ウィルが何を書いたのかは見せてもらえなかったが、読んでいるデュアンの顔色がどんどんおかしな色になっていったから、中身の想像は簡単だったし。
「結局あいつ、ウィルに直接フラれるまで諦めない気なんじゃ……」
という事実が、今日いっぱい使って得られた、唯一の成果だった。あんにゃろー、丸太に縛り付けて、海に流してしまおうか?残忍な欲求が強くなってきて、頭の中をリフレッシュするために、夕日の照らす砂浜で休憩をしていた。その矢先のことだった。
「フランさん?あの、何の用かはわかりませんが、今は私……」
「お願い。ていうかごめん、嫌って言わせるつもりない」
「え?ちょ、ちょっと」
フランはウィルのロッドを掴むと、ぐいぐいと引っ張り始めた。ウィルはロッドを取り返そうとして、踏ん張った姿勢のまま宙を引き摺られていく。
「おい、フラン。どうしたんだよ」
思わず声を掛けたが、フランにものすごい目で睨み返されたので、俺は舌が丸まってしまった。
「口を出さないで。大事な、とても大事なことなんだ」
フランはそれだけ言うと、ウィルと一緒に砂浜を行ってしまった。
「ど、どうしちゃったんだろ、フラン。おねーちゃんとケンカでもするみたいだったよ?」
「あ、ああ。すげー気迫だったな……」
ライラが不安そうに俺の腕に触れてくるので、その手を握り返す。
「けど……さっきのフランの目。あれは怒ってるっていうより、決意してるって目だった」
「決意?」
「ああ。なんだか分からないけど、大事なことっていうのは、たぶん本当だ。だからたぶん、大丈夫だろ……たぶん」
「桜下ぁ、たぶんって三回言ったよ?」
だって、俺だって不安なんだよ。フランの事を、百パーセント理解できているとはとても思えないし……
けどフランは、ウィルの様子がおかしいことに気付いていたはずだ。それなら、悩みを聞きに連れ出したんだとか?だったら二人きりになるのもうなずける。少し希望的観測も入っているかもしれないが……
「うーん……わあ!考えてもわかんねーや。それに今は、別の問題もあるわけだし」
俺は再び砂浜に倒れ込んだ。
「まいったよなぁ。デュアンのやつ、どうすりゃいいんだか」
「申し訳ありませぬ……吾輩の案が甘かったばっかりに」
エラゼムは自分の策が大失敗だったので、目に見えて凹んでいた。
「いやあ、エラゼムだけのせいじゃないよ。あいつの執念を見誤ってた。あんなにすごいなんて」
「ええ……ただ、少しだけ彼の気持ちも分かるような気がしてしまうのです。吾輩もまた、頼まれてもいない捜索を続ける身ですから」
おっと、そうだった。エラゼムもまた、行方知れずとなった女城主を探しているんだ。
「エラゼムだったら、やっぱり本人の口から聞きたいって思うか?文字とかじゃなくて」
「そうですな。吾輩の場合、メアリー様はとうにご存命ではないでしょうが。もしもお声が聞けるのであれば、やはり嬉しいと感じてしまいます」
「だよなぁ……」
デュアンは正直ちゃらんぽらんで、その上しつこくて面倒くさいやつだが、気持ちは分からないでもないんだ。そりゃ、好きな人が突然いなくなったらショックだし、後を追いかけたいって思うよな。けどやっぱり、どうしようもないんだよ。そもそもウィルは、デュアンに気がないんだから。後はその事を、どう彼に伝えるかなんだが……
「声……」
すると、ぽつりとライラがつぶやいた。ライラは何か考え事をしているのか、砂浜に転がった貝殻をじっと見つめている。
「……ライラ?」
「……ねえ、もしかしたらだけど。おねーちゃんの声、あいつに聞かせられるかもしれない」
「えっ」
ライラは手を筒状にして、俺の耳にこしょこしょと話して聞かせてくれた。俺は耳がこそばゆくてしょうがなかったが、全てを聞き終わった時、飛び上がって喜んだ。
「それだ!ライラ、お前はやっぱり天才だぜ!」
「えへへ、ほんと?へへへぇ」
「ああ!きっとそれならいける!あん時のあれは、この時の為にあったに違いない!」
ライラは照れ臭そうに、鼻の下をこしこし擦っている。彼女の発想は、まさに革新的だった。俺がエラゼムとアルルカにも聞かせると、二人ともなるほどと唸る。うん、これならいける!俺は早く計画を伝えたくて、連れ立って行った二人が戻ってくるのを、今か今かと待ち望んだ。
「お……おい。いったい、何があったんだ……?」
陽が沈んであたりが暗くなってきたころ、フランとウィルは帰ってきた、んだけど……
ウィルの顔には、涙の痕がくっきり残っている。髪の毛が数本、濡れた頬に張り付いていた。そしてフランはと言うと、ほっぺに見事なもみじが咲いている。女性の手で張り手打ちをされたら、ちょうどピッタリいきそうなサイズ感だ……
「まあ、ちょこっとあったけど……とりあえず、丸く収まった」
「そ、そうなのか……?」
フランはそう言うけど……だけど、明らかに変わった事もあった。ウィルはもう、俺の前から逃げ出そうとはしなかった。瞳はまだ潤んでいるが、それでもどこか憑き物が落ちたような、スッキリした目をしている。
「あの……」
「ほんとにもう大丈夫。だよね?」
フランが目配せすると、ウィルはしっかりとうなずいた。ううん、本当だろうか?けど、疑っても仕方ないか。
「……とりあえず、そう言うことにしとくか。それより聞いてくれよ!ライラが、すげー方法を考えついたんだ!」
「すげー方法?」
俺は二人に、ライラの妙案を話して聞かせた。予想通り、二人とも目を丸くした。
「でも、確かにそれなら、いけるかもしれません……!」
「だろ?物は試しだ。さっそく実験してみようぜ!」
「はい!」
ウィルはキラキラした瞳でうなずいた。なんだか、ずいぶん久々にウィルの目を見た気がする……とにかく俺たちは、大急ぎで自分たちのコテージへと戻った。そして荷物の中から、お目当てのブツを引っ張り出した……
「……なんなんですか。こんなところに呼び出して」
夜。俺の呼び出しで庭園のテラスにやってきたデュアンは、露骨に警戒した目で俺を睨んだ。この場所は、昨夜ボロボロのデュアンが這い出してきた場所でもある。俺は空気を和ませようと、腕を広げて笑いかけた。
「いや、ほら。ここって素敵な場所だろ?なんだかロマンを感じてこないか?」
デュアンは何言ってんだこいつという顔をし、さらに警戒を深めた。しまった、逆効果だったか……ごほん。
「あー、つまりだな。昼間の続きをしようってわけだ」
「昼間の続き……?」
「そう。お前は、ウィルから直接話を聞かないと済まないって感じだったよな」
「……!まさか、ウィルさんがいるんですか?ここに!」
「いいや。残念ながら、お前と会うことはできない(デュアンはがっくりと肩を落とした)。だけど、話す事ならできる」
「はい?……また筆談でとか言うんでしたら、お断りしますよ」
「そうじゃない。ちゃんと声で、だ。ほら」
俺はそう言って、手に握っていたそれ……透明なガラスの筒を、デュアンに差し出した。これは、ここに来る途中、クレアの店で買ったものだ。何とかって言うモンスターの素材で、少し離れた相手との会話を可能にする効果を持つ。そして俺は事前に、この筒に魔力をありったけ込めていた。
「なんですか、これ?底の抜けたコップ?」
デュアンはガラス筒を受け取ると、怪訝そうに眺めまわした。俺はジェスチャーで、それを耳に当てるように指示する。
「騙されたと思って、そいつを耳に当ててみな」
「はあ……?」
半信半疑のまま、デュアンはそれを耳に押し当てた。よし、今だウィル!
「……デュアンさん。聞こえますか?」
「!!!」
デュアンは比喩なしに、その場で垂直に三十センチくらい飛び上がった。ガラス筒がその拍子にすっぽ抜けそうになり、俺とデュアンはてんやわんやしながらそれをキャッチした。
「ちょ、ちょっと、このドジ!もっと大事に扱ってください!貴重なものなんですよ!」
「ふ、ふう。ええ、すみません……」
まったく、冷や冷やさせられるな。ようやくデュアンは、心を落ち着けたらしい。深呼吸して、聞こえてくる声に全神経を傾けている。俺は一歩引いて、二人が落ち着いて会話できるようにした。
「改めて、デュアンさん。お久しぶりです。意外と小心者なところも変わってませんね」
「……そう言うウィルさんこそ、相変わらず口が悪い。神殿にいたころから、僕にはやたらときつかったですよね」
「あら、そうですか?私はあなたにだけのつもりでしたけど」
「ええ、わかっていますよ。僕はそれを、愛情表現の一種だと認識していました」
「……一度、頭を診てもらったほうがいいんじゃないですか?」
俺は感心した。これほど久々に話したというのに、二人の口ぶりには一切の躊躇いがない。実に自然だ。流石、幼少期からずっと一緒に育ってきた幼馴染と言うべきか。
「あははは……懐かしいなぁ。少し前まで、ほとんど毎日、こうしてウィルさんと話していたのに。今ではもう、あの日々が遠い昔の出来事のように感じます」
「……間違っては、いませんね」
「ええ……だからこそ、僕は理解できない」
っと……デュアンの雰囲気が変わった。
「ウィルさん……どうして、村を出て行ったんですか」
つづく
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