じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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13章 歪な三角星

12-3

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フランも振り向いて、ウィルの目を見つめた。怪しく光る赤い瞳に、ウィルはぞくり震えた。

「わたしはあの人を手に入れる為なら、手段は選ばない。今回のも、その一環」

「え……?で、ですが」

「じゃあ仮に、わたしがウィルを排除しようとする。ウィルに意地悪ばかりして、あなたを追い出そうとする。どうなると思う?」

ウィルは想像してみた。あまり愉快な想像ではなかったが、答えはすぐに出た。

「桜下さんは、悲しむでしょうね。何やってるんだよって、フランさんを止めようとすると思います」

「せいかい」

フランは勇演武闘の次の日の朝を思い出した。

「わたしと、あの変態ヴァンパイアが戦った時だって、あの人はカンカンになってた。あんなのにもああなんだよ?ウィルをいじめてるなんて知ったら、あの人、胸が潰れるほど悲しむよ」

それを聞いたウィルはこそばゆかったが、たぶん本当にそうなるだろうなと内心で思った。

「……そういえば、結局あのケンカは、なんだったんですか?」

「あれは……」

フランは不愉快そうに顔をしかめると、ぼやくように言った。

「……実は、あいつにもおんなじことを言われたんだ」

「え?アルルカさんが?うそ……」

「もっと乱暴な言い回しだったけどね。あいつには、あの人はわたし一人じゃ満足しないって、そう言われた。悔しいけど、その通りだって思った」

「え、そんなことは」

そう言いかけてウィルは、はたと口を継ぐんだ。フランの言わんとすることが、分かった気がしたのだ。

「あの人は、仲間を見捨てない。わたしと恋人同士になってても、きっと今夜、ウィルに同じことをしたと思う。わたしがどれだけ醜い独占欲を剥き出しにしても、それは変わらない……あの人を、苦しめるだけ。そう分かったんだ」

「でも、それなら……フランさんは、桜下さんを諦めてしまうんですか?そんなのっ」

「違うよ。諦めるなんて、できないよ……」

フランは弱弱しくつぶやいた。ウィルはなんだか初めて、目の前の大人びた少女が、本当は年端も行かない女の子なんだと認識した気がした。

「だから……わたしは、独り占めを諦めることにした」

「え?独り占めを……?」

「うん。どうせあの人は、わたしだけのものにはならない。だからいっそ、ありのままを好きになることに決めたの」

「フランさん、それって……」

「うん。それに、これなら……誰かが不幸になる必要も、なくなると思ったから」

ウィルは潤んだまなざしでフランを見つめ、フランは照れ臭そうにぷいっとそっぽを向いた。

「フランさん……あなたは、そこまで……」

「……勘違いしないで。みんながいないと、あの人は幸せになれない。わたしはあの人に好きになってもらうために、みんなを利用することにしただけだから」

フランの憎まれ口に、ウィルは目尻を指で拭ってから、くすりと笑った。

「ふふ、そうですか。桜下さんは、幸せ者ですね。こんなに想ってもらえて……」

「……ウィル、あなたはどうなの?」

「え?私、ですか?」

「わたしは、こういう風に行くって決めたけど。正直、かなりまともじゃないこと言ってるよ、わたし。ウィルは、それでもいいの……?」

フランは横目で、ウィルを流し見る。ウィルは膝を抱えて、うつむきがちに答えた。

「わたしは……正直、そうですね……フランさんの言っていることは、とてもよく分かるんです。ただ、すぐには受け入れられないかも……」

「その受け入れられないっていうのは、わたしと一緒が嫌ってこと?」

「え?そうじゃありません!そうじゃなくて、むしろフランさんの方が、私なんかと一緒じゃ嫌だろうって……」

フランはこくりとうなずいた。

「そう言うと思った。ウィル、それ今後禁止だから」

「え」

「わたしたちは、常に平等じゃないといけない。抜け駆けも、遠慮もナシ。三人でっていうのは、とっても難しいんだ。だからウィルが下手に遠慮しちゃうと、わたしたちは全員ダメになっちゃうんだよ」

ウィルはぽかんと口を開けた。

「フランさんって……実は、八十歳のお婆さんだったりします?」

「がうぅ!」

「ひゃあぁ、噛まないで!すみません、冗談、冗談です!」

「っとにもう……ふざけてるんじゃないんだよ。詳しい人に聞いたんだ」

「そうだったんですね。あまりにも人生経験豊富に見えたもので……」

二人は座り直し、ウィルは改めてフランの提案を思案した。

「……まだ、戸惑う気持ちも多いですが。ただ……素直になります。やっぱり私、この恋を諦めたくありません」

「うん。それでいいと思う」

「ふふ、ありがとうございます……けれど、ちょびっと怖くもあります。私たち、とても難しいことに挑戦しようとしているんですね……」

「そうだね……」

二人はまた、しばし無言で、夜の海を見つめていた。

「……わたしたちは、不格好な三角形なんだ」



ふいにそう溢したフランに、ウィルは首をかしげた。

「どういう、意味ですか?」

「あれ」

フランがガントレットのはまった手で指をさす。ウィルもつられてそっちを見るが、そこには海と、夜空しか見えなかった。

「……?」

「ほら。あそこに、赤い星が見える」

ウィルはようやく合点がいった。確かに、無数の星が輝く夜空の中で、ひときわ目立つ赤色の星がある。

「あれはわたし。それで、その横の方に。黄色い星がある」

「ああ、あれは私ですね」

フランはうなずく。

「それで……それらの、ずっと上の方。一個だけ浮かんでる、白い星」

ウィルは見えない線を辿るように、視線を上げた。見つけた……ぽつんと、小さな星が浮かんでいる。なぜかその周りにはほとんど星がなく、まるで群れから離れて自由に飛ぶ、風変わりな雁のようだ。

「あれが、桜下」

ウィルはすとんと納得できた。その星は、赤や黄色の星と比べると、大きさも輝きも小さい。それなのに、目を引き付けて放さない、不思議な力がある。

「あの三つを結ぶと、ね。一つの角だけ飛び出た、へんてこな三角ができるでしょ。あれが、わたしたちの今を表してる」

「ああ……その通りですね。あの白い星は、赤と黄色の星を振り回しているように見えます」

「うん。二つの星は白に一生懸命近づこうとしてるけど、ぜんぜん距離は縮まらない。それに赤と黄色も、足並みがそろってないし。いつ紐がちぎれて、三つともバラバラになってもおかしくない。そんな歪んだ関係だ」

ウィルは憂鬱な気分で星空を見上げる。あの星たちは、自分たちの未来を暗喩しているのだろうか。フランは、それを自分に伝えたいのだろうか……

「っ!」

ウィルは、はっとした。そうじゃない。フランが伝えたいのは、そんなことじゃない。

「……でもそれなら、三つの星が近づいて、きれいな三角になればいいんです」

フランが星空から目を下げて、ウィルを見た。ウィルもまた、フランを見つめ返す。

「完璧な三角形になったなら、バラバラになるようなことはありませんよね。そして今夜、私は……少なくとも、黄色と赤の星の距離は、縮まったと思っています」

二人の少女の瞳に、お互いの瞳の光が映りこんでいる。赤い瞳に、黄金こがねが。黄色の瞳に、深紅が。

「残るは、白い星ですけど……まあそこは、赤と黄色の努力次第じゃないでしょうか。近づくもよし、引き寄せるもよし」

「……ふ、ふふふ」

「う。な、何か変でしたか?」

「ううん。その通りだなって。ふふふ。じゃああの人には、覚悟して貰わないとね。わたし、めいっぱいアピールして、メロメロにしてやるつもりだよ」

「わ、私だって!負けませんからねっ」

二人は顔を寄せあって、くすくす笑いあった。それからウィルは思い出したように、胸元に挟みこんでいた小さな赤い石を取り出した。聞かせるのは、ここまでで十分だろう。そう判断した彼女は、石をかれた小枝の下にしまい込んだのだった。



「と、とんでもない事を聞いてしまった……」

俺はベッドの上で、カチンコチンに固まってしまっていた。ガラスの筒から聞こえてきた会話は、俺の予想の斜め上どころか、百八十度ほどぶっ飛んだ内容だった……

「俺……明日から、どうなっちゃうんだ……?」

フランとウィルは、俺をメロメロにすると言っていたけど……か、勘弁してくれ。二人が何をしでかすかと考えると、気が遠くなりそうだ……恋愛事情に疎すぎる俺に、この状況を楽しむ余裕はない。俺の身が持つかどうかだけが、ただただ不安だ……

(だけど……)

俺はガラス筒を放り投げると、ベッドにぼすっと倒れ込んで、ぎゅっと目を閉じた。その不安以上に、胸がどきどきとうるさい。ちっくしょうが……

白い星が、赤と黄色の重力に負けて吸い込まれるのは、そう遠くない。そんな気がした。



十四章へつづく
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