じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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14章 痛みの意味

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えっ!それって……

「三つ編みちゃんのこと!?」

ライラが突然くわっと食いついたので、エリスは少し面食らったようだ。

「え、ええっと。すみません、詳しい容姿までは……ただ、遠い大陸の出身で、我が国ではその子を故郷に帰すためのお手伝いをさせていただいている、と聞いていますわ」

間違いない……三つ編みちゃんのことだ。

「その子が、どうかしたのか?」

「はい……先ほど、大公陛下が話されているのを、偶然に聞いてしまったのです。それで、居ても立ってもいられなくて……」

「ん……?ち、ちょっと待てよ。それって、俺たちが聞いてもいい話か?」

シリス大公が話していた事となると、国の機密に関わる事柄かもしれない。んなことを聞いてしまったら、俺たちはあらぬ疑いを掛けられかねないぞ。俺はそれを心配して言ったのだが、エリスはきょとんとすると、違う解釈をしたらしい。

「ええ、問題ありませんわ。ふふふ、お優しいのですね、二の国の勇者様。私が後で叱られないか、心配なさってくれたのでしょう?」

「へ?ああ、ええ、まあ……」

とりあえず、合わせておこうかな……アルルカが「本当?」という目で見てくるが、無視だ無視。

「その点でしたら、問題ございません。陛下がお話しになっていたお相手は、二の国の王女様ですわ。いずれはあなた様方のお耳にも入っていたことかと」

「ああ、そうだったのか。でもそれなら、わざわざ先に報せに来てくれたのか?」

「はい。ちょうど皆様が、船着き場にいるのが見えたものですから。大公様と王女様のお話はしばらくかかりそうでしたし、なるべく早めにお伝えしたほうがよいかと思ったのです」

「なるほど。悪かったな、話の腰を折っちゃって。続き、聞かせてくれるか?」

エリスはうなずくと、続きを話し始めた。

「先ほども申し上げました通り、我が国は依頼を受け、その女の子を故郷へ返すお手伝いをさせていただいております。具体的には、その子を言語魔法に優れた魔術師の下へお送りし、そこで大陸語を話せるようにすることによって、その子の出身地を教えてもらう……ということで、間違いないでしょうか」

「ああ、俺たちもそう聞いてる。ロアからは、その魔術師さんの目途がついて、ちょうど一か月前くらいに出発したってとこまで聞いてるよ」

「でしたら、ほぼ一致しますね。先ごろ、その子が魔術師の住む町へ到着したとの報せがありましたから」

「ああ、そうなのか。三つ編みちゃんは無事についたんだな」

とりあえずは、ほっと胸を撫で下ろす。途中でモンスターに襲われた、とかじゃなくって良かった。ライラもひとまず安心したようだ。

「でも、それなら何が問題なんだ?」

「はい……問題なのは、そこから先でして。いざ魔術師の下へと言うところで、なにがしかのトラブルがあったようなのです」

「トラブル?」

「はい。申し訳ありません、詳しい内容はまだ分かっていないのです。ただ、そのトラブルのせいで、魔術師は魔法を使うことができなくなった、と」

「え!それじゃあ、その言語魔法ってのも……」

「ええ……つつがなく、とはいかなかったようです。何やら事情があって、魔術の行使ができなくなってしまったとの報が、陛下の下に届いた最新の連絡です」

なんてこった……せっかく、あと一歩のところまで行ったのに!ライラもがっくりと肩を落としてしまった。それを見てエリスは、深々と頭を下げる。

「本当に、申し訳ございません。我が国の不手際のせいで、皆様にご迷惑を……」

「いや、とんでもないよ。こんなことが起こるなんて、だれにも分からなかっただろうし」

けどそれなら、その魔術師にいったい何があったんだろう?

「その、トラブルの原因っていうのは、まだ何にも分からないのか?」

「はい……報せの文もずいぶん慌てて書かれたもののようで、要領を得ない内容だったとか」

「そうか……」

それじゃ、どうしようもないな。問題が明らかになって、詳しい内容が送られてくるのを待つしか……ライラもやるせない顔で、エリスに問いかける。

「ほんとーに、それしか分かんないの?そんなんじゃ、何にもできないよ……どうしてそれを、教えてくれよーと思ったの?」

おっと、その通りだ。こんな話聞かされても、落ち込みこそすれ、それ以外に俺たちにできることはない。それは、まだ小さいが賢そうなエリスだって、分かっているはずじゃないのか。

「それは……」

エリスは降ろした手をぎゅっと握り合わせた。

「実は、一つだけ。分かっていることがあるんです」

「え?」

「ただ、その意味が分からなくて……大公陛下は、そのことを二の国の女王様にお訊ねになられていました。それで私、もしかしたら、二の国の勇者様なら何かわかるんじゃないかって……そう思ったら、居ても立ってもいられなくなってしまって……」

「……それって、一体?」

俺はごくりと喉を鳴らした。

「はい。文には、その女の子が何かを繰り返し喋っているということが書かれていました。ただ、当然その意味は私たちにはわかりません。文の書き手も困っていたようです。なんとか意味を汲み取ろうと悪戦苦闘しているうちに、“ある一つの単語”が頻出することに気付いたそうです」

「単語?」

「はい。……“ライラ”、と」

なんだと……!俺は全身が総毛だつ思いだったし、ライラは実際に、赤毛がふわりと浮かび上がった。

「ライラ……三つ編みちゃんが、ライラのこと呼んでるんだ!」

「まあ!やっぱり意味がお分かりになるのですね!」

エリスは興奮気味に訊ねてくるが、ライラは耳に入っていないようだ。俺の腕をがしっと取ると、ぐいぐいと引っ張ってくる。

「桜下っ!三つ編みちゃんのところに行かないと!」

「ら、ライラっ。ちょっと待ってくれ」

「待ってなんかいられないよ!早く、早く行くんだ!」

「ライラ!落ち着いてくれ!」

俺がライラの肩を押さえると、ライラはぐっと口をつぐんだ。

「気持ちは分かる。俺だってそう思うさ。けど、慌てて飛び込んで、失敗しちゃダメだ。三つ編みちゃんが今いるのは三の国だし、それを教えてくれたエリスに礼も言わずに行く気か?」

「う……」

ライラは唇を噛んで、おとなしくなった。よし。俺はエリスに向き直る。

「悪いエリス。ちょっと驚いたもんだから」

「い、いえ……ライラ、というのは、そちらのお仲間様のお名前なんですか?」

「ああ。その子とライラは、大の仲良しだったんだ。だから三つ編みちゃんも、ライラのことを呼んだんだろうな……」

何が起こっているのかは、まだ分からないけれど。三つ編みちゃんが、そんなにしきりにライラのことを呼んでいるのなら。

「それでな、エリス。こんなこと頼むのは申し訳ないんだけど、できれば伝言役を引き受けてくれないか」

エリスはきょとんと首をかしげた。

「伝言、ですか?」

「ああ。シリス大公に、俺たちはその魔術師のいる町へ向かうって」

ライラがはっとして、俺の手を握った。エリスは瞳を見開いて、キラキラさせている。

「まあ!では、向かわれるのですね!その子のもとに!」

「そのつもりだ。行って、何かできないか探してみる。本当はちゃんと大公さまに了承を取るべきなんだろうけど、今は一秒でも早く出発したいんだ」

シリス大公とロアの話は、まあそれなりに掛かるだろう。王様同士の会話なんだ、その辺でする世間話とはわけが違う。それが終わるのまで待っていたら、ライラが爆発してしまうだろうから。だってほら、本人もそれがいいとばかりに何度もうなずいているし。

「悪いな、頼めるか?」

「はい!もちろんですわ!」

エリスはキラキラした瞳で、二つ返事で了承してくれた。うぅ、ちょっと申し訳なくなってくる。この子に頼んだのは、時短の意味もあるけれど、俺がシリス大公に苦手意識を持っているって理由もあったから。そうとは知らず、エリスは一人で盛り上がっている。

「素敵です!少女のピンチに颯爽と現れて、あっという間に問題を解決してしまう勇者様だなんて!きっと陛下も、そうなさるのが一番だと言うはずですわ!」

そ、それはどうかなぁ……そううまくいくとも限らないし、シリス大公がそんな物わかりの良いやつだとも思えないが。ただまあ、水を差す必要はないだろう。

「じゃあ、よろしく頼むな」

「はい!あ、いけない。肝心の町の名前がまだでしたね。その子がいる町は、ストーンビレッジ。我が国南西に位置する、小さな町ですわ」

「ストーンビレッジ……南西だな。わかった、覚えたよ。何から何まで、サンキューな」

「いえ。勇者様方の華々しいご活躍を、微力ながら応援させていただきますわ」

「は、はは。ありがとう」

俺に続いて、ライラももじもじしながら礼を言った。

「あ、ありがと。三つ編みちゃんのこと、教えてくれて……」

「ふふふ、どういたしまして。お力になれたのなら嬉しいです。それではお引止めしてもいけませんので、もう行きますわね。ごきげんよう」

エリスは膝を曲げ、スカートをふわっと持ち上げてお辞儀をした。そしてくるりと向き直ると、ホテルへと戻っていった。

「いい子だったな。シリス大公の姪っ子とは思えない」

「そーだね。ライラ、あの大公ってやつは好きじゃないけど、あの子となら友達になれそうだよ」

俺は胸の中で、心優しい少女に改めて礼を言った。それからくるりと踵を返す。

「よし。それなら、風の如く行くとしようか」

俺は仲間たちの顔を見渡す。

「三の国に行って、三つ編みちゃんのところに行こう。あの子が呼んでるんなら、きっと俺たちが力になってやれるはずだ」

みんなはしっかりとうなずいた。ライラは一番大きく首を振り、アルルカはその逆でほとんどあごが動いていなかったが。

「よっしゃ!それじゃあ船の行き先を変えてもらわないとな」

シェオル島は、三つの国の国境が交わる地点に浮いている。てことはつまり、どの国へ行くにも便がいいということだ。とっくに準備が終わっていた船は、待たせたことへの不満を言うこともなく、行き先変更の希望を快く受け入れてくれた。さっすが、サービス満点のリゾート地だ。最後の最後まで、粋なことをしてくれるぜ!

「行こう!三の国へ、もう一度!」



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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