じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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14章 痛みの意味

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店内は広々としていて、丸いテーブルがいくつも置かれていた。食事をしている人もいれば、酒を飲んでいる人もいる。その奥には、受付とおぼしきカウンターがあった。ただ気になるのが、その横。何やら人だかりができている。掲示板のようなところに、人が群がっているようだ。なんだろ?町のお知らせとかがでているのかな。
ひとまずカウンターへ向かう。

「あの」

「はあ?」

カウンターにいた若い女性が、こちらを振り返る。おおぉ、第一声がはあ?ときたか……受付嬢は濃い目の化粧をしているが、目つきが悪いせいで印象は暗い。俺はおっかなびっくり注文をする。

「ええっと、食事がしたいんだけど……」

「金」

「あ、はい。いくらで……」

「そこに書いてあんでしょ?五セーファだよ、ったく」

ああ、はいはいはい。確かにカウンターには、メニュー表が置かれていた。料理は日替わりで、一皿五セーファ。俺は財布から銅貨五枚を取り出し、カウンターに置いた。

「……ちょっと。これじゃ一皿しか出さないけど?」

「あ、それでいいんだ。一人分で頼む」

「……ふん。まあいいよ」

受付嬢はさっとコインをさらうと、大声で「一皿!」と叫んだ。どうやら、奥に厨房があるようだ。

「あ、それと」

「なに?まだあんの?」

「あいや、大したことじゃないんだけど。あそこの掲示板って、何かなって」

「掲示板?寝ぼけてんの?クエストボードだよ」

クエストボード?うわあ、懐かしいな!前にサイレン村で見たやつだ。いろいろな依頼書が掲示してあって、達成すると報酬がもらえるという……この町にもあったのか。
ん、待てよ?こいつは、上手くいけば美味いぞ……

「それって、誰でも受けられるやつかな?」

「……まあ、特に決まりはないけど」

「そっか。どうも!」

俺は礼を言うと、カウンターを離れた。すぐさまフランが顔をしかめる。

「嫌な女。それに、クエストって。この町で仕事する気?」

「とりあえず、見るだけ見てみないか?見るだけならタダだろ」

「こんなとこでの仕事なんて、あんまり気乗りしないけど……」

そりゃ、俺だってそうだけど。背に腹は代えられない、とも言うからな。
料理が出てくるまでの間、俺たちは人だかりの中に分け入って、クエストボードとやらを物色してみた。

「うっ。こりゃあ……」

「やっぱり。言わんこっちゃないじゃん」

むむむ……クエスト内容は、なかなかだった。

“仕事場所:ディオの港”
“内容:品物の受け取り、および運搬”
“報酬:五百セーファ”
“備考:運搬中に憲兵に取り押さえられた場合は自己責任とする”

“仕事場所:アケローン川流域”
“内容:アーヴァンクの狩猟/捕獲”
“報酬:生け捕りなら十セーファ、死骸なら五セーファ/一匹”
“備考:作業中の怪我、及び摘発された場合にも、当方は責任を負わないものとする”

“仕事場所:アイエダブル北東の廃鉱山”
“内容:マナメタルの採掘”
“報酬:時価にて買取”
“備考:坑道は閉鎖中。現在は国の預かりとなっている”

「密輸、密猟、最後のは盗掘でしょうか。サイレン村が可愛く見えてきますね……」

ウィルは張り付けられた依頼書を見て、ほぇ~と口を開けている。

「しかもなんだか、どれも報酬が高額で……うえぇ」

「ウィル?どうした?」

「いえ、これ……臓器を買い取るって。まさか、人間のじゃないですよね?」

え、臓器?うわ、マジだ……この世界にも、臓器売買ってあるんだ……三の国の連中なら、魔法の材料にでもするんだろうか。

「どれもこれも違法な依頼ばっかり。なんでこんなに堂々としてられるんだろ」

フランはクエストボードの依頼を、まるでお尋ね者の手配書のように睨んでいる。エラゼムがガシャリと腕を組んだ。

「この町では……これが、当たり前なのでしょう。取り締まる者もおらず、止める者もいない……荒野に浮かぶような町です。稼ごうとなると、おのずとこのようなものになってくるのでしょうな」

「……やっぱり、こんなところの依頼を受けるの、反対」

うーん、フランの言うとおりな気がしてきた。旅費を稼ごうとして牢屋にぶち込まれたんじゃ、本末転倒もいいとこだ。しょうがない。稼ぐのは次の町についてからにしよう。俺は諦めて、おとなしくテーブルについた。アルルカが正面に座って頬杖を突く。

「ふふん。あんた、この国を舐め過ぎよ。ここの連中は、食うためだったら、ちょこっと手が汚れても気にしないんだから」

「ふん。汚い手でメシを食いたいとも思わねえけどな。で?それもまた、何かの実体験なのか?」

「まあね。この国では、魔術師じゃない人間はクズみたいなもんよ。この町は、そんなクズの吹き溜まり。だからクズはクズらしく、地べたを這いずり回って生きてくしかないの」

アルルカは相変わらず口が悪い。けどたぶん、言っていることはそんなに間違っちゃない。おっと、俺がそんな風に思っているってわけじゃないぞ?ただ、魔導大国であるこの国では、魔術師は国の宝として扱われる。そしてそれ以外の人は、魔術師を支え、助けるべきだという考えが根付いている。魔法が使えない人は、自動的に魔術師の下に敷かれる運命なのだ。

(どうしてこの国は、こんなに魔法に拘るんだろ)

三の国は資源に乏しいからだと、前にエラゼムから聞いた。荒れ果てた大地をこの目で見てきたしな。けれど、だからって魔法しか道はなかったのか?もっと言えば、魔法使いじゃないとまともに生きてはいけないほどに、国が率先して魔法に傾倒するのはどうしてだろう?

(魔法じゃなきゃいけない理由が、何かあったのか……?)

「はい、注文の品」

おっと。思案にふけっていたところで、テーブルに料理の乗った皿がゴン!と乱暴に置かれた。持ってきたのは、さっきカウンターにいた受付嬢だ。料理は、パスタかな?湯がいた太めの麺に、なにかのソースが掛かっている。

「ところで、あんたたち。仕事を探してんの?」

「え?」

受付嬢の方から話しかけてきたぞ。意外だな、さっきまであんなに不愛想だったのに。

「んーと、まあ、そうだったんだけど。どれもできそうにないから諦めたんだ。あんまり長居するつもりもないし」

「へぇ。あんたら、旅人でしょ?だったら、魔術師もいるの?」

「え。まあ、いることにはいるけど」

俺はちらりとライラを見た。受付嬢はふんふんとうなずくと、ポケットをまさぐり、そこから折りたたまれた紙片を取り出した。

「これ。実は、耳寄りな情報なんだけど」

受付嬢は人差し指と中指で紙片をつまむと、ピッと顔の横に立てた。耳寄りな情報?

「ちょうど今、魔術師が必要な仕事クエストがあるの。報酬もいいし、腕に覚えのある魔術師なら、そんなに時間も掛からないよ」

「へ、へえ。でも、なんでそれを俺たちに?」

「は?そんなの、この町に魔術師がいないからに決まってんでしょ。だからあんたらが旅人か聞いたの。旅人のパーティーには、よく魔術師がいるから」

「な、なるほど」

「とにかく!」

バン!受付嬢は紙片をテーブルに叩きつけた。

「詳しいことはここに書いてある。ある特殊な鉱石があるから、それを採ってくる仕事。受ける気が無いなら、今日中に知らせること。以上」

受付嬢は一方的に言うだけ言うと、つかつかとカウンターへ戻って行った。

「な、なんだったんだ?いきなり。クエストだって?」

俺はテーブルの上の紙片を見つめる。

「怪しすぎるよ。絶対ロクな内容じゃない」

フランは紙片をむんずと掴むと、それを握りつぶそうとした。

「わぁ、まてまて!とりあえず、見てからにしろよ!」

「ちょっと、あんな女信じるの?」

「信じる信じないを判断するために、中身を見るんだ。な?」

「う……絶対よくない仕事だよ……」

フランはしぶしぶ、俺に紙片を渡した。折りたたまれたそれを広げてみる。そこにはこう書かれていた。

“仕事場所:緑柱の洞窟”
“内容:緑柱石の採掘”
“報酬:千セーファ(鉱石の量による)”
“備考:採掘には魔法を用いる必要がある。別途記載参照”

「一、十、百……せ、千セーファ!?それって、ええと、金貨が……」

「十枚分ですね」とウィル。じゅ、十枚。破格の大金だ。

「これ、めちゃくちゃおいしいな……」

「だーかーらー、怪しすぎるんだって!」

フランは今にも紙を取り上げて、ビリビリに破いてしまいそうだ。確かに話がうますぎるが、それにしても魅力的な条件だ……ど、どうしよう!?



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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