じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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14章 痛みの意味

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ハザールという魔術師の屋敷は、まるで子どもが乱雑に積み木を積み上げたような形をしていた。俺たちの正面には、ひょろりと背の高い、黒色のとんがり屋根の建物が見える。赤で統一された町の家々とは、建材から建築様式までまるで違うな。あれはどちらかと言うと、三の国の首都に多く見られた風体だろう。そしてその周囲に、大小さまざまな塔がごちゃごちゃと乱立している。うーん、こうして遠くから眺めるに、見た目にはこだわらずに、ただ利便性のみを追求したようだ。だって、本当に酷い。背の低い小屋が隣にあるせいで、その隣の塔は小屋をまたぐような構造になってしまっている。別の塔は、隙間に無理やり建てた弊害か、途中でねじれてしまっていた。
これは俺の想像だが、恐らく最初は真ん中の家一軒だけだったんだと思う。そこから増築に増築を重ねまくった結果、あんなとっ散らかった構造になったんだ。

「まさしく、魔法使いの家って感じか……」

丘の下から邸宅を眺めながら、俺は感想を溢した。

「あの家に、三つ編みちゃんがいるんだよね」

ライラは不安げに俺に寄り添うと、ぎゅっと手を掴んでくる。

「ああ……ただ、魔術師の良い噂をほとんど聞かないってのが厄介だな」

町で聞いた限りでは、ハザールは確かに高名な魔術師らしい。ただしその裏では、大量の奴隷ノーマを所有していることが分かっている。奴隷制が生きるこの国では、ノーマの所持は違法ではない。ないけど、さすがにあれほど大勢となると……ちょっと怪しく見えてくるよな。

「……」

こうして下から屋敷を見上げていると、屋敷全体がこちらに覆いかぶさってくるような錯覚に襲われる。プレッシャーを感じているんだ……あの中で、待ち受けているものに。けど、引き下がることはできない。あそこには、俺たちの助けを待つ女の子がいるんだ。

「……よし。行こう」

俺はライラの手をぎゅっと握り返すと、丘を登り始めた。



屋敷の玄関は、重厚そうな漆黒の扉と、その両脇に佇む石像が守っていた。ガーゴイル像ってやつか。一匹は羽の生えたイノシシ、もう一匹はグリフォンだ。しかし、すごいリアルだな。今にも動いて襲い掛かってきそうなくらいだぜ。

「グルルル……」

「えっ」

目の錯覚か?いや、違う。こいつら、動くぞ!俺たちが近づくと、二対のガーゴイルは牙をむいて唸った。

「な、なんだコイツ!」

「こいつら、魔術で動くモンスターだよ!」

ライラがつないだ手に力をこめる。アルルカの城で見たのと同じやつか。くそっ、いきなり手荒い歓迎だぜ!だがしかし、ガーゴイルはいきなり襲い掛かってくることはしなかった。あくまで威嚇するように、俺たちを睨んでいる。これは、交渉の余地があるか……?

「る、るーるるる。いい子たちだねぇ~。俺たちは、お前たちの敵じゃないんだ。ただ、そこを通してくれればいいんだよ~……」

「グルオォ!」

うわあ、交渉決裂!
荒ぶる牡牛のように走ってくるガーゴイルに対し、エラゼムが飛び出して、大剣を盾のように構える。奴らの鉤爪が剣にぶつかる……!寸前、扉がガチャリと開き、それと同時にガーゴイルの動きがピタッと止まった。

「これ、お前たち。御客人に粗相をしてはならん」

老人の静かな声が響くと、ガーゴイルたちはしゅんとうなだれて、すごすごと扉のわきへと戻った。ふ、ふう。一触即発だ。しょっぱなから戦闘スタートになるところだったぜ。でも、一体何者だ?

「門番が失礼を。なにぶん、わし以外には見境なく襲い掛かるのでな」

戸口に現れた老人は、足が悪いのか、車いすに乗っていた。伸ばしっぱなしの灰色の髭と、くたびれた黒色のローブ。首には趣味の悪い、大きな魚の鱗?みたいな首飾りをかけている。風体からして、彼がくだんの魔術師だろうか?
その背後には、背丈の高い男が付き添い、車椅子を押していた。口を真一文字に引き結んだ、寡黙そうな男だ。赤毛を後ろで結ぶ髪型をしていて、耳には金のタグが付いている。彼は、この魔術師のノーマのようだ。

「ええっと、俺たち……」

「ふむ……見たところ、この町の住人ではないようだ。旅のお方か?我が屋敷に何用かな」

老人は意外と物腰やわらかく、丁寧な物言いをした。おや、噂じゃだいぶ恐ろし気な感じだったけど。さっきもガーゴイルを止めてくれたし、意外と話せば通じるかもしれないな。俺はゆっくりと口を開く。

「実は俺たち、ある話を聞いて、二の国からここまでやってきたんです」

「ほう?はるばるギネンベルナ王国から」

「ええ。最近、ここに小さな女の子が来なかったかな?あなたに言葉を教えてもらうために。俺たち、その子の知り合いなんだ」

「なんと……では諸君らが、あの……」

老魔導士は驚いたように眉毛をむくりと動かすと、順々に俺たちの顔を見つめた。その時に気づいたけど、このじいさん、オッドアイだ。左右で瞳の色が違う。片方は焦茶色、もう片方は濁った灰色をしている。

「失礼じゃが、諸君らの中にライラという魔術師がおるかね?」

お、ライラの事を知っているのか?ひょっとして、三つ編みちゃん一行から聞いたのかな。俺は隣にいるライラを見下ろした。ライラも俺の目を見上げ、うなずくと、一歩前に進み出る。

「ライラが、魔術師だよ。三つ編みちゃんに会いに来たんだ」

「君が……」

老魔導士は、信じられないものを見るような目で、ライラの顔をじろじろと見つめる。しかし、さすが歳の功か。幼さを理由に、ライラを疑うようなことはしなかった。

「そうか、そうか……いや、失礼。まさか本当にやってくるとは思わなかったものでな。君たちのことは、彼女たちから聞いておる。しかし、随分と早く着いたものじゃな」

「すんません、いきなり押しかけて……」

「構わんよ。そうじゃ、こんなところで立ち話もなんだな。入ってくれたまえ。詳しい話はそこでするとしよう」

老魔導士が合図を出すと、背後にいた寡黙な男が車いすを反転させた。屋敷に入れだと?

「……」

俺は仲間たちと目を合わせる。

「……どうする?」

「……正直、気は進まないですけど……」

だよなあ。意外と優しそうではあったけど、町の人たちからは恐れられている魔術師だ。その屋敷に飛び込むってのは、それこそ虎穴に入るようなもんだ。

「でも、この中に三つ編みちゃんがいるんだよ!ここまで来て、帰るなんてできないよ!」

ライラが強く俺の手を引く。彼女は一秒でも惜しいという様子で、ぐずぐずする俺たちに苛立っているようだ。でも確かに、何のためにここまで来たって話だよな。三つ編みちゃんがここにいるのは、恐らく間違いないのだから。

「……虎児を得ず、か。よし、分かった。行こう」

俺がうなずくと、ライラは待ってましたとばかりに、俺の手を放して駆け出してしまった。

「おい、ライラ!あんまり離れるなよ、ったく」

ライラの後を追って、俺たちは順々に屋敷へと入った。俺たち全員が中へ入ると、背後でガーゴイルたちが、ゆっくりと扉を閉めた……
ギギギギギィ……バタン!



玄関ホールは、ロアの王城とまではいかないものの、なかなかの広さだった。ただし、かなり古ぼけているようだ。シャンデリアには年代物の蜘蛛の巣とホコリが積もっているし、両わきに並べられた甲冑は煤けていた。掃除はあまり行き届いてないみたいだ。使用人はいないのか?町にはあれだけノーマがいるのに……
車いすに乗った老魔導士と、寡黙な男ノーマは、ホールにある無数の廊下のうちの一つに向かう。たぶん他の廊下たちはそれぞれ、あの無計画に増築した建物たちに繋がっているんだろう。けれど、老魔導士が入った廊下は、なぜかすぐに行き止まりになっていた。というか、小部屋か?廊下にしちゃあまりに短く、あまりに狭い。

「さあ、君たちも入ってくれたまえ」

「えっ」

そう言われちゃ、行くしかないよな?けど俺たちみんなが入ったら、ぎゅうぎゅうになると思うけど……俺たちが若干窮屈しながらも、その小部屋に何とか収まると、老魔導士が手をひと振りして言った。

「上がれ」

ガクン!

「う、うわ!」

「わわっ!?地震!?」

突然足元が揺れて、部屋全体が持ち上がったような気がした。転びそうになったライラをなんとか支える。び、びっくりした。けど落ち着いてくると、すぐに見当がついた。

「驚いたな。エレベーターか」

この、内臓が引っ張られるような感覚には覚えがある。久しぶり過ぎて忘れてしまっていた。ライラがおっかなびっくり、俺を見上げる。

「え、エベレ・・ーター?」

「入れ替わってるな……ようは、上り下りするための道具だよ。この小部屋自体が、上昇したり下降したりするんだ」

すると老魔導士が、満足そうに微笑んだ。

「博識な少年じゃな。その通り。儂はこれを、マルチステッパーと呼んでおるが」

「これは、魔法で動いてるんです?」

「そうだ。儂が開発した魔道具の一つだ。この屋敷で暮らすには、こうした道具は欠かせんのだよ」

ああ、車いすだものな。長い階段は老人には酷だろう。やがてエレベーター……もといマルチステッパーは、とある階で静かに止まった。俺たちが先に出ると、魔導士とノーマも降りる。

「さて、すぐそこが儂の書斎じゃ。散らかっておるが、他の部屋よりはましなはず」

そう言って、一つの部屋に入っていく。俺たちも続くと、そこは一面の本棚だった。テーブルにも本がうず高く積まれ、それ以外には羊皮紙と羽ペン、インク壺などが散乱している。ノーマの男がつかつかと歩いていき、ソファやテーブルに置かれていた本を黙々と片付けると、いちおうの応接スペースが現れた。

「座ってくれたまえ。大したもてなしはできんがね」

ふむ。まあ俺たちも、もてなされるためにここに来たわけじゃない。ソファには俺たちだけが腰かけた。魔術師は車椅子だし、ノーマの男は自分の仕事が済むと、石像のように動かなくなってしまった。まったく、さっきのガーゴイルの方がまだ生気があったぞ?
俺たちが座った瞬間、ホコリがもわっと舞い上がった。うひぃ、ここもかよ。ったく、これじゃあ周囲の本棚にも、分厚くホコリが積もっていることだろうな……

(……ん?)

その時俺はふと、ここに前にも来たことがあるような気がした。デジャヴってやつか?たくさんの本に囲まれた、薄暗い部屋……はて、どこだったかな?だが老魔導士が話し始めたので、俺は意識を切り替えざるを得なかった。

「さて……さっそくだが、早く本題に入った方がよいだろうの。諸君らは、なぜ儂の下へ来た?つまり、どのようにあの少女が儂の下にいるのかを知ったのか、という意味じゃが」

「え?っと、それは、連絡が来たから、っすかね」

「連絡?」

「ええ。知りません?三つ編みちゃん……俺たちはあの子のことをそう呼んでるんだけど、その子が何かのトラブルに遭ったこと。そして、何度もライラの事を呼んでいること。そういった手紙が届いたんすけど」

「ふぅむ……あの子の件は、大公殿直々のご依頼だったはずじゃが。君たちは大公殿下のお知り合いかね?」

「あ、そういうわけじゃないんすけど。たまたま、人づてで聞いたんです。三つ編みちゃんを最初に保護したのが俺たちだったんで、それで」

まあ、ほんとは大公の姪から聞いたんだけど。余計なことは言わないほうがいい。

「そうだったのか。あの少女を君たちが……」

「ええ、まあ。あの、それでトラブルって、いったい何があったんすか?」

「む。ああ、そのことか……」

すると老魔導士は、気まずそうに言い淀んだ。まさか……なにか、よくない事でも?

「実はだな……」

ごくり……



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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