じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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14章 痛みの意味

13-1 生かすか、殺すか

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13-1 生かすか、殺すか

「……ふぅぅ」

「おっと。ライラ、大丈夫か?」

くらりとよろけたライラの肩を支える。ずいぶん疲れているようだ。無理もない、あれだけの大魔法戦を繰り広げたんだ。

「ぅん……けど、ちょっと、フラフラするかも……」

「無理すんなよ。なぁに、後は任せな」

俺はさっきまでと同じように、ライラをひょいと抱き上げた。節々が痛むけれど、このくらいの軽さなら何とか平気だ。ライラは特に抵抗することなく、素直に俺の首に腕を回した。

「フラン、悪いけど、あのジジイを探してきてくれないか?こうなったら、きちんとケリをつけよう」

「わかった」

フランはすぐにうなずくと、崩れかけた屋敷の中へと入っていった。ライラの火竜が老魔導士を飲み込んだ時、奴はバリアを纏っていた。あれが相当に強固なものだったら、老魔導士は黒焦げにならずに済んでいるはずだ。また何かしでかす前に、身柄を押さえておいた方がいいだろう。

「そんで、ウィルにも頼みたいんだけど」

「なんですか?」

「今のうちに、エラゼムのパーツを探しておきたいんだ。いつでも撤収できるようにさ。ほんとは俺も手伝いたいんだけど……」

「いいですよ、無理しないでください。それに、桜下さんはライラさんのそばにいてあげてくださいね」

ウィルはふわりと俺たちのそばに近寄ると、ライラの頭を優しく撫でてから、空へと飛んで行った。上から探すつもりなんだろう。

「……ライラ、おねーちゃんが大好き」

腕の中のライラが、ぽつりとつぶやいた。

「桜下も、みんなもだいすき。みんなを守れて、ほんとによかった……」

ライラは、噛みしめるように言った。俺はライラを抱きしめる。

「……ああ。ありがとな、ライラ。俺たちだって、ライラが大好きさ」

「うん……」

俺はしばらくそうしてから、仲間たちの下へと歩いて行った。

「やりましたな、桜下殿。何のお役にも立てず、申し訳ない」

損傷の激しいエラゼムは地面に横たわったままなのに、律儀に頭を下げようとした(結果として、モゾモゾ動くだけだったが)。ただ、口ではそう言っているけど、声はずいぶんと明るい。

「へへへ。何言ってんだよ、エラゼム。名誉の負傷って言うじゃないか。今、ウィルが鎧のパーツを探してくれてるからな」

「かたじけない。ご迷惑をおかけします」

エラゼムはまたしても、首をかくんと曲げた。
そしてもう一人、ぐったりとへたり込んでいる女にも声を掛ける。

「ようアルルカ。調子はどうだ?」

「……最高よ。泥水をしこたま被ったし、派手な花火のせいで、焦げ臭いったらありゃしないわ」

……思ったよりも、元気そうだな。

「あー、なんかしてほしいことはあるか?大したことはできないけど」

「別に……でもあんた、ちょっと血が出てるわね。ねえ、ちょっと舐めてもいい?」

「それはお断りします」

アルルカはむくれた。
さてと、仲間たちはおおむね大丈夫そうだ。いろいろごちゃごちゃしたけど、これでようやく、三つ編みちゃんから詳しい話を聞けるな。俺は口をぽかんと開けている、三つ編みちゃんのそばに屈みこんだ。

「君も、怪我はなさそうだな。驚いただろ?」

「え、ええ……」

俺が話しかけると、三つ編みちゃんも我に返ったらしい。

「でも、ライラがあの魔道士をやっつけたのよね?」

「ああ。もう大丈夫だ」

「すごい光景だったわ……ドラゴンの決闘を見ていた気分よ。恐ろしいけど、爽快だった」

ふむ。こうして言葉がかわせるようになると、ずいぶんしっかりした喋り方をする子だったんだと分かるな。歳はライラと変わらなさそうなのに。

「えっと、三つ編みちゃん……じゃ、ないよな。君の名前を訊いてもいいかな?」

「え?……あ、そうよね。わたしの名前、あなたたちは知らないんだもんね。わたしからしたら、もう何度か名乗っているのだけれど」

「え、そうだったの?」

あちゃあ。彼女が俺たちの言葉を理解できなかったように、俺たちも彼女の言葉が分からなかったってことだ。

「わたしは、マリカ。ヤーダラ族の娘よ」

ヤーダラ族?聞いたこともない部族だ。きっと、海の向こうの民族だからだろう。

「えっと、俺は……」

「知ってる。あなたの仲間やライラが、何度も呼んでいたもの。オウカ、よね?」

「あ、お、おう。俺たちが何て言ってるか、分かってたのか?」

「はっきりとじゃないわよ。けど、何となくね。特にライラは、何度もあなたの話をしていたし」

へえー。大した洞察力だな。それはそうと、どうしてライラは、顔を少し赤らめているのだろう?

「それで、みつあ……じゃなかった、マリカ。いまさら訊くのもあれだけど、こんだけ喋れるってことは、魔法は上手くいったんだな?」

「ええ……少し、複雑な気分だけれどね」

ま、そうだろうな。あのジジイのおかげと考えれば、複雑にもなろう。

「あのじいさん、最初は普通だったのか?つまり、あんな感じじゃなくて?」

俺は、半壊した屋敷を指さす。マリカは顔をしかめつつも、うなずいた。

「初めから、あまり歓迎はされてないって思ってた。けど、まさかこんなことになるなんて……」

「そういや、そっちのことはなんも知らないや。お前たちは、どんな風に旅をしてきたんだ?」

「そうね、ここまでの旅は、とても普通の旅だったわ。風でできた馬に乗ることも、大きな白い怪物に襲われることもなかった」

「は、はは……いちおう言っとくけど、俺たちだって毎日ああなわけじゃないぜ?」

「そう?まあそれで、なんとかこの町までついたの。けどわたし、この町についた時から、ものすごく嫌な感じはしてたのよ」

「え?それは、なんでだ?」

「だって、わたしと同じヤーダラ族の人が、何人もいたんですもの。へんてこな耳飾りを全員付けているし」

あ……そうか。ここは、あの老魔導士が囲っている奴隷ノーマだらけの町だから。

「どう見てもヤーダラ族なのに、話している言葉はちっとも分からないし、わたしに気付きもしない。絶対ろくな町じゃないって、そう思ってた」

「……そうだろうな」

「そんな嫌な予感のまま、この屋敷に来たの。あの魔導士は、わたしたちを邪魔者としか見ていないようだった。わたし、ここで何をするのか、どうして来たのか、さっぱりだったわ。怖かったけれど、ここまでいっしょに来た人が必死になだめるから、おとなしくすることにしたの」

俺は少し離れたところに固まっている侍女たちを見た。よかった、彼女らはよくしてくれたようだ。

「それで、気がついたら、こっちの言葉が分かるようになってた……そういう魔法を、掛けられたのね」

「ああ。俺が頼んだんだ。言葉が分かれば、君を故郷に返せるかもしれないって」

「ええ、聞いたわ。おかげで話ができるようになったけど、最初はずいぶん戸惑ったのよ。昨日まで知らなかった言葉が、急に話せるようになったんだもの。まるで頭の中に、知らない小部屋が増えたみたいだった」

うわぁ、そんな風になるのか。頼んだのは俺だから、少し申し訳ない気持ちになってくる。

「それで、わたしが戸惑っているって分かったのね。魔導士の助手だっていう人が、わたしの言葉の訓練をしてくれることになったの」

「あ!それって……」と、ライラが反応する。

「もしかして、ライラも会った?あの、むっすりした男の人よ」

「うん。あいつも、みつあ……じゃなかった、マリカちゃんと同じって」

「ええ。あの人も、ヤーダラ族だそうね」

え、そうなのか。ああでも、あの赤い髪は確かに、ライラとマリカとおんなじだ。

「同じ出身だって分かって、わたし、あの人のこと信用しちゃったの。あの人自身も、昔辛い目に遭ったって言うし。だから、わたし自身のことも色々と話して……そこで、ライラたちのことも話してしまったの」

やっぱり、そうだったんだな。そこで初めて、老魔導士はライラを狙う計画を練り始めたんだ。

「そしたら次の日、いきなり檻の中に閉じ込められて……あの男の人に理由を訊いたら、ライラたちをおびき出すんだって……本当にごめんなさい」

マリカは申し訳なさそうに瞳を伏せると、背中を丸めてうなだれてしまった。ライラが首を振る。

「ううん、マリカちゃん。ライラも、あの男には騙されたんだ。マリカちゃんだけが悪いんじゃないよ」

「え?ライラも?」

「うん……あいつは、魂まであの魔導士の手先なんだ。ライラもはじめは、信用してた」

ライラの声は苦々し気だったが、一方でどこか、悲しげでもあった。一度は信用した相手だからかな……俺からしたら、あの男はひたすら寡黙な印象しかないけど。あいつ、ライラやマリカと、一体どんな話をしたんだ?

「それでわたしたちは、今日この時まで、ずっと閉じ込められていたのよ。わたし、自分がライラを危険に晒したんだって分かってたけど、でもどこかで、あなたたちが来てくれるのを願ってた……都合がいいって、思うわよね」

「そんなことないよ。マリカちゃんのためじゃなかったら、ライラ、こんなとこまで来なかったもん」

「ライラ……ありがとう」

マリカは膝立ちになると、ライラの頭を優しく胸に抱いた。二人は少しの間、そうやって友情を確かめ合っていた。

「桜下さん、それにエラゼムさんも。パーツ、見つかりましたよ」

ウィルが両手いっぱいに鎧のパーツを抱えて、ふわふわと戻って来た。それとほとんど同タイミングで、フランが何かを引き摺りながら、屋敷から出てきた。
フランはずるずる引いてきたそれを、ぺいっと目の前に投げ捨てる。煤にまみれたそれは、大きな古雑巾に見えたけど、老魔道士に間違いなかった。

「ふんっ。ずいぶんとみちがえたな」

ぐったりした老魔導士は、投げ出されてもピクリとも動かない。見れば、薄く開いたまぶたの奥で、死んだように白目をむいている。

「こいつ、まさか……?」

「ほんっとうに、悪運の強いやつだよ。がれきとがれきの隙間に落っこちてた。気を失ってるだけで、生きてるよ」

なんと。あれだけの大爆発でも、無事だったか。呆れたな、敵ながらあっぱれとしか言いようがない。

(でも、ちょっとホッとした)

この腐れジジイがどうなろうが知ったこっちゃないが、ライラを人殺しにはさせたくはない。ライラも少しだけ安心したようだ。だがすぐに、険しい顔になる。

「ねえ、じゃあどうする?こいつのこと」

「そうだな……これだけのことをしでかしたんだ。きちんと出るとこ出て、裁かれてほしいもんだけど」

「王様に言って、おしまいってこと?」

俺はライラをまじまじと見つめる。

「ライラ……報復をしたいってことか?」

「ううん。それよりも……もう二度と、こいつの顔を見たくないよ」

ライラは、老魔道士の方を見ずに言った。同感だ。金輪際、俺たちには関わらないでほしい。

「王様は、こいつをきちんと捕まえてくれるかな?もしもまた、後を追っかけてきたら……」

「それは御免こうむるな。最低でも、永遠に豚箱行きくらいはして貰わねえと」

しかし……ライラが不安になるといけないので、口には出さないが。この三の国は、どこまでも魔術師中心の国だ。優秀な魔術師であるならば、罪を見逃すくらいのことはするんじゃないだろうか?

「……フラン、いちおう見張っといてくれるか。ゴキブリみたいにしぶとい奴だ」

「言われなくても。ちょっとでも動いたら、踏みつぶしてやる」

はは、本気でやりかねないな……

「魔導士のことは、いったん置いておこう。今はそれより……ライラ、悪い。少し下りててくれるか?」

「うん、わかった……」

寂しそうな顔をするライラに罪悪感を覚えつつも、俺は一旦ライラを下ろすと、ウィルと一緒にエラゼムの下へ向かった。

「ディストーションハンド・ファズ!」

俺がエラゼムの胸に手を付き、呪文を唱えると、ウィルが抱えていた鎧の破片が、一斉に宙を舞った。破片は磁石に吸い寄せられるように、本来の位置へと収まっていく。鎧はみるみると再生されていった。
ようやく立てるようになったエラゼムが、しゃんと体を起こす。

「かたじけない、桜下殿。感謝いたします」

「直ってよかった。ちゃんと動くか?」

「問題ございません、五体満足です。なぁに、桜下殿に吹き飛ばされた時に比べれば、あんなものはかすり傷ですな」

うぐっ……エラゼムめ、冗談も言えるんじゃないか。俺は笑いながら、エラゼムの鎧を小突いた。

「さぁてと!マリカも見つけたし、これでようやく、ここにいる必要はなくなったな」

大変な目に遭ったが、マリカは言葉を話せるようになった。代償は大きかったが、何とか目標達成だ。あとは、さっさと二の国へ帰って……と思った、その時だった。
ガタタッ。がれきが崩れて、何者かの人影が、屋敷の中から現れた。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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