じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
623 / 860
15章 燃え尽きた松明

6-5

しおりを挟む
6-5

夕方になると、谷あいにあるミツキの町は一気に暗くなる。
湯あたりから何とか回復した俺は、ウィルとフランの二人と一緒に、町はずれの竹林の中を歩いていた。ほの暗い竹林には夕方の涼しい風が吹き込み、さわさわと葉の鳴る音がする。のぼせて火照った体には気持ちよかった。

「桜下さん、ほんとうにもう大丈夫なんですか?」

隣をふわふわ飛ぶウィルが、心配そうにこちらを伺う。

「おう。ようやくまともになってきたよ。ここは涼しいし、飛んだり跳ねたりするわけじゃないしな」

この夕方の散歩に二人を誘ったのは、俺だった。調子が戻ったからっていうのもあるけど、二人にだけ話したいこともあったんだ。

「あのさ」

俺が足を止めると、二人も立ち止まった。空気を読んだのか、風すら止んで、辺りが静かになる。

「あーっと……フラン。さっきのこと、ウィルにも話すけど、いいよな?」

俺がそう伺うと、フランは少し頬を赤らめてうなずいた。そのやりとりだけで、ウィルは何となく、話を察したようだった。

「ああ、そういうことですか」

「ウィル、わかんのか?」

「男の子と女の子、二人が一緒にお風呂に行って、男の子がのぼせて帰ってきた。読解問題としては、だいぶ易しいと思います」

うっ、それもそうか……ウィルはふぅっと息をつくと、腰に手を当ててこっちを見る。

「それで?フランさんには、ちゃんと言ってあげたんですか?好きだよって」

「え……そんなことまで、わかるのか?」

「当たり前です!ていうか、好きとも言わずにフランさんにあれやこれやしたのなら、ちょっと怒りますよ?」

「え?ご、誤解だ!そういうやましいことは、一切してないぞ!」

「あれ?なんだ、てっきりキス以上のことに進んじゃったのかと」

ぐぅ、ウィルのやつ、何て鋭い……この前ウィルとあんな話をしたばっかりなのに、危うく越えかけたことは、黙っておこうっと……

「それじゃあ、ちゃんと返事はしたんですね?」

「ああ……だいぶ時間がかかっちゃったけどな」

「そうですねえ。でも、よかったじゃないですか。フランさん、おめでとうございます」

ウィルが素直に祝うと、フランは照れたように顔を逸らした。

「それじゃあ、その報告をしに、わざわざここまで?」

「それもあるけど……ウィル。お前にも、話がある」

すると、そこまで普段通りに見えていたウィルの顔が、固く強張った。

「……それって、いい話ですか?悪い話ですか?」

「そうだな……あんまり、いい話じゃないかも」

「ですか……」

ウィルの顔は、話すうちにどんどん沈んでいった。

「……やっぱり、そうですよね。桜下さん、ずっとフランさんが好きだったから。私なんかが入り込める余地なんて……」

「え?」

「いいんです。気にしないでください。でも……だったら、デートも断ってくれればよかったのに。あはは、桜下さんって、結構ザンコクなんですね?」

うわ、わ。ウィルの顔は笑っていたけど、声は完全に泣いていた。その奇妙なちぐはぐ感に、脳がバグって動かなくなる。

「待って、ウィル!この人が言いたいのは、そんなんじゃないから!」

フリーズしてしまった俺の代わりに、フランが急いで言う。お、おお。そうだった。

「ウィル、一度最後まで、俺の話を聞いてくれないか。そっから先の判断は、ウィルに任せるから」

「……はい」

鼻声がちに、ウィルがうなずいた。

「ええっと……うぅんと……わあ!何をどういう順で話そうとしてたのか、全部忘れちまった。最初から言うぞ。俺は、フランに惚れてる。シェオル島でそれをはっきり自覚した。だから何もなければ、フランの告白にそのまま応じてたと思うんだ。でも……」

「……私、ですね」

「そう。こっからするのは、すぅごく情けない話なんだけど……はっきり言って俺、それで完全にこんがらがっちまったんだ」

「こんがらがる……?」

「取り繕わずに言えば……ウィルのことも、気になるようになった、というか……」

言っていて情けなくなるが、これが俺の本音だった。
あの夜、俺は精神的にかなりグラついていた。だけどその後になっても、俺はウィルの告白を断る気にはなれなかった。それに、まさか二人が、お互いを認め合うとも思っていなかったし……とまあ、ここまでは全部、俺の言い訳だ。
だけど、それももう、終わりにしないと。こういう時、けじめをとるのは俺の役目だろう。

「ごめん!」

ばっと、頭を下げる。

「俺、どっちか一人を選べなかった。どちらかを選ぶと、どちらかとは疎遠になるだなんて、どうしても嫌だったんだ」

何度倫理というふるいにかけても、残ったのはそれだった。だから、これが俺の本心なんだろう。

「サイテーなこと言ってるのは分かってる……だから、それでもよければ、なんだけど……」

俺は恐る恐る、顔を上げた。すると、ウィルが胸を押さえて、大きなため息をついているところだった。

「はぁぁ~……なぁんだ、そうだったんですね。私てっきり、振られるものかと……」

「え、俺が?まさか、逆こそあれど、んなことしないよ」

「だって、悪い話だって言ったじゃないですか!」

「い、いい話じゃないって言ったんだ!嘘は言ってないだろ?」

「ああ、桜下さんからしたらそうですよね……でも正直、十分いい話ですよ。よかった……」

いい話、なんだろうか?まあ俺は、ウィルとフランが、三人でもいいと思っていることを知っている。だから、ちょっとズルをしているんだよな。けど、心変わりは誰にだってあるから。きちんと確かめておきたかったんだ。

「ウィルは、それでもいいのか……?」

「もちろんです。そう決めましたから」

「フランも?」

「うん。やっぱり、そう決めたから」

二人とも、決意は固いようだ……大したもんだな。俺がなんにも考えていない裏で、二人はあれやこれやと話し合っていたんだろう。

「えっと、じゃあ……これから、よろしくお願いします……」

妙に改まった口調になってしまった。改めて、二人とそういう関係になったと自覚すると、なんだか照れるな……
と、俺がもじもじしていた時だ。フランの一言を聞いて、俺は凍り付いた。

「まあそもそも、こうなるように仕向けてたんだしね。わざとあなたに聞こえるようにしたし」

へ?俺がマヌケに口を開けると、フランはこくりとうなずく。

「あの夜の、わたしとウィルの会話。あれ、わざとだよ。面と向かって言うより、偶然聞こえたほうが、あなたが受け入れやすいだろうって」

「あっ、ちょ、フランさん!それは秘密にって……」

な……なんだと?じゃあ、フランもウィルも、俺が二人の決めごとを知っていると、知っていて……?じゃあ俺が悩むことも、全部承知の上だったってことじゃないか……!

「ずっと手のひらの上だった、てことか……」

がくっと肩を落とすと、俺はその場にしゃがみこんだ。

「お、桜下さん?」

うつむいたままの俺の頭に、ウィルのハラハラした声が降ってくる。

「あの、そんなに気にしました……?」

「ご、ごめん。だって、そうでもしないとダメだと思ったから……」

フランまで焦っているみたいだ。
……ふ、ふふふ……

「ふふふふふ……」

「お、桜下さん……?」

「だ、大丈夫……?」

「……お前らぁー!いっぺん死んでみろやぁー!」

「きゃあー!と、止まって、止まって!」

「それに、もう死んでるんだけど」

「うるせぇー!!」

ここに、人間対ゾンビ&幽霊の、仁義なき戦いの火ぶたが切られた。懐かしいな、前にもこんなことがあった気がする。あの時の結果は、人間の惨敗だったけれど……まあ、歴史は繰り返すって言うしな。



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...