じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
627 / 860
15章 燃え尽きた松明

7-4

しおりを挟む
7-4

「……」

「……」

仲間たちの下へ戻る間、俺とウィルは終始無言だった。結構きついものを見たせいで、口を開く気になれないんだ……

「あによあんたたち。せっかく面白いもん見せてあげたっていうのに、あたしにはなんもないわけ?」

俺を抱えて飛ぶアルルカが、不満そうな声を上げる。こいつはいつも通りだな。俺はため息をついた。

「はぁ。確かに、有力な情報ではあった。けど、さっき見たことはアルアには秘密だぞ」

「どうしてよ?あれをネタにゆすってやればいいじゃない」

「お前な……こんな覗き見で秘密を知ったなんて言ったら、それこそアルアはぶちぎれるぞ。見ちまったから俺も同罪だけど、やっぱりこんな方法はよくなかったんだ」

こんな方法、反則みたいなもんだ。知りたけりゃ、きちんと彼女の口から聞くべきだった。もっとも、訊いたところで教えてくれたとは思えないけど……アルルカもそう思ったらしい。

「バカねぇ。秘密ってのは、隠してるから秘密なんじゃない。知るには、暴くしかないのよ」

「だとしても!これ以上あいつと険悪になったんじゃ、たまんないよ」

すると、俺の腕に掴まっていたウィルが、眉をㇵの字にしてこっちを見てくる。

「このこと、皆さんにも秘密にしておきますか……?」

「あー……ほんとはその方がいいんだろうけど、みんなだって気にするだろうしなぁ」

俺とウィルが口をそろえて、何も見なかったなんて言ったら、かえって余計な詮索を招きそうだ。だったらいっそ、教えてしまったほうが面倒もないか。

「みなまでは言わないにしても、分かったことだけは伝えておこうか。アルアが、暴力を受けてるってこと……」

「そうですね……じゃないと、誤解したままになってしまいそうですし……」

うん。アルアは嫌なやつだと思っていたけど、彼女にもいろいろと事情があったんだ。そのことは、知っておいた方がいいだろう。

仲間たちの下に戻ってくると、俺はさっき見たことを簡潔に伝えた。

「……やはり、彼女の母親には」

エラゼムが腕を組み、うつむきながら話し出す。

「並々ならぬ執念を感じますな。単に、名家の生まれだからというだけではない。それこそ、本当に勇者ファーストの名を継ごうとでも言うかのような……」

「でも、だったらさ。人にやらせんじゃなくて、あいつが勝手にやればいいじゃんね」

ライラはぶすっとした顔で、小枝を焚き木に放り込んだ。薪が崩れて、火の粉がパチッと散る。

「ライラ嬢。あの方は、足を悪くしていたではありませんか。あれでは、武術で名を馳せるのは難しいでしょう」

「あ……そっか。だから子どもにやらせよーとしてるんだ」

ああ、なるほど。プリメラはずっと足を引いていた。自分が務めを果たせないからこそ、余計に娘に熱が入るんだろう。それこそ、やりすぎなくらいに。

「ふ~ん。アタシ、よく分かんないんだけど。そのファーストって人、そんなにすごい人だったの?」

勇者の歴史に詳しくないロウランは、小首をかしげていた。

「ええ。吾輩も詳しくはありませんが、かなりの武人だった様子。それこそ、人類の救世主のような扱いを受けていたとか」

「キューセーシュかぁ。でもさ、その人ってもう死んじゃってるんでしょ?死んだ人になり変わることはできないの。もちろん、生きてる人にもね」

「おっしゃる通りです。ただ、あの母親がそれを理解しているのかどうかは……」

まあ、そこだよな……プリメラはファースト、つまり自分の父の死を、受け入れられていないのかもしれない。無理もない、英雄が味方に背中を刺されたんだ。
亡き父の跡を継ぐ。俺だって、それ自体が悪いこととは言わない。言わないけど、でも娘まで巻き込むのは……
俺が悶々と考えていると、アルアが戻ってきた。

「ただいま戻りました……?」

アルアが戻ってきた途端、俺たち全員が挙動不審になったものだから、怪訝そうな顔をされてしまった。俺は固まり、ウィルは目を逸らし、ライラはわざとらしくあくびをし、エラゼムはうつむき、アルルカはニヤニヤ、ロウランは開きなおってしげしげ。ポーカーフェイスを貫いたのはフランだけだ。

「……なにか、ありました?」

「い、いや?別に、なにも?」

……俺が将来なるとしたら、役者だけはやめておいたほうがいいだろうな。棒読み過ぎる。

「ああーっと、アルア?」

「はい」

「その、昼間は悪かったな」

「昼間?」

「出発する前……門の前でさ」

アルアへの愚痴を聞かれてしまった件だ。あれは流石に俺が悪い。ずっと謝らなくちゃと思っていたから、いま言ってしまおう。

「ああ……」

アルアも思い出したのか、少し顔を曇らせる。だがすぐに首を横に振った。

「いいえ。謝罪は結構です。そもそも、先に失礼を働いたのは私ですから。むしろ、当然だと思っています」

「う、ん……」

俺は曖昧にうなずく。変に取り繕っても、本音を聞かれた後じゃ、何言っても白々しく聞こえるだろうしなぁ。

「だから、謝罪は不要です。私のことは、どう思っていただこうと構いません」

アルアは淡々と言う。どう思われようが、知ったことじゃないっていう口ぶりだ。うぅん、なんて言ったらいいか……
すると、アルルカが不機嫌そうに足を組み、膝に頬杖をついた。

「んっとに、可愛くないガキね。仲良しこよしする気はございませんってわけ?」

アルアがアルルカの方を向く。

「あなたは、私と仲良くしたいんですか?」

「んなわけないじゃない。けど、あんたが少しはかしずいてくるかと思ってたのよ。従順な下僕になるかと思いきや、ちっとも生意気が抜けてないじゃないの」

下僕って……呆れたな。だがそこから続いた言葉に、俺は心臓がひゅっとなった。

「それも、あの親の教えってわけ?」

わっ、バカ!俺たち全員がびくっとした。こいつまさか、さっきのことをアルアに話す気じゃ……

「……」

アルアは少し驚いた様子だが、それでも静かにアルルカを見つめ返している。対するアルルカも、これ以上喋る気はないのか、黙っていた。よかった、とりあえず余計なことを言う気はないらしい。

「……親の教え。まあ、そうですね」

だしぬけに、アルアがそう言った。

「もう皆さんも、気付いているかと思いますが。私の家は、普通とは少し変わっています」

俺とウィル、それにライラが息をのんだ。アルア自身も気付いていたのか……

「私の家は、ある目的を果たすことを家訓としています。その目的のためなら、例えどんな犠牲を払うことも厭いません。私もそのために生まれたと思っています」

「……その、目的とは?」

エラゼムが訊ねる。アルアは一瞬目を伏せると、顔を上げて、はっきりと言い切った。

「勇者ファーストの復讐。彼が遂げられなかった悲願を果たし、戦争に終止符を打つ事です」

復讐……?ファーストの死因は、セカンドに後ろから刺されたこと。それなら矛先が向くのは……

「ならお前は、二の国の勇者に仕返しを……?」

「……いいえ。確かに直接の原因となったのはセカンドだけれど、私たちは諸悪の根源は、魔王テオドールだと思ってる。あの悪の親玉が起こした戦争が、全ての原因だと」

アルアの目に、暗い炎が灯った。魔王が原因……俺は言いたいところもあったが、今は口を挟まないでおいた。

「もしセカンドが生きていたなら、その抹殺に生涯を捧げたでしょう。でも、奴は死んだ。一方で、魔王はまだ生きている。戦争は終わっていない。ファーストが生涯の目標とした、魔王を倒し、人類を解放する使命を、私は引き継いでいるの」

感情が高ぶったせいか、アルアの口調から敬語が抜けていた。けど、やっとわかった。アルアが傭兵をしているのは、いつでも戦争に赴けるようにするためだったんだ。

「だから、二の国の勇者だからと言って、むやみに殺そうとはしない。けど、やっぱり仲良くはできない。ファーストの死を招いたのは、二の国のせいだもの」

「……あれ?でもお前、初めて俺と会った時、襲い掛かって来なかったか?」

「あ、あれは!本気じゃなかった、から。どれくらいの実力か、計ろうとしただけ、です……」

フランが疑うような視線をアルアに向ける。あん時アルアは、フランに返り討ちにされたからな。アルアはこほんと咳ばらいをすると、口調を元に戻した。

「だから、あなたたちと親睦を深めることはできません。あなたたちが悪人でないことは分かっていますし、実力も知っています。それに、命を助けてももらって……恩人に対しての非礼は詫びます。だけど、分かってください。そのかわり、私をどう思ってもらってもいいので」

アルアはきっぱりそう言った。決意はかなり堅そうだ。それに、家のしきたりだと言われちゃ、どうしようもない。

(でも、そっか)

ひょっとしたら、アルアが過剰に俺たちを嫌っていたのは、そもそもどうやっても仲良くなれない相手だからってこともあったのかな。最初から距離を置いておけば、余計なことに悩まなくてもいいから……なんて、考えすぎか。

「わかったよ。あんたのやりやすいようにやってくれたら、それでいいから。あ、でも一つだけ、訊いていいか?」

「ありがとうございます。はい、なんですか?」

「さっきさ、自分の家は普通じゃないって言ったよな?つまり、家の教えとか、あー……お母さんの、こととか?それについて、アルアはどう思ってるんだ?」

俺はどうしても、訊ねずにはいられなかった。アルアが自分の置かれた境遇を異常だと思っているのなら。母親の仕打ちに憤りを覚え、辛いと感じているのなら……
だけどアルアは、首を横に振った。

「ああ、そのことですか。それは、以前家に招いた方に言われたことなんです。その時初めて、私の家が普通と違うことを知りました。なので私自身は、どうも感じていないんですよ。だって、生まれた時から、ずっとこうだったから」

アルアはそう言って、たぶん俺の前で初めて、微笑んだ。



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...