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15章 燃え尽きた松明
7-4
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「……」
「……」
仲間たちの下へ戻る間、俺とウィルは終始無言だった。結構きついものを見たせいで、口を開く気になれないんだ……
「あによあんたたち。せっかく面白いもん見せてあげたっていうのに、あたしにはなんもないわけ?」
俺を抱えて飛ぶアルルカが、不満そうな声を上げる。こいつはいつも通りだな。俺はため息をついた。
「はぁ。確かに、有力な情報ではあった。けど、さっき見たことはアルアには秘密だぞ」
「どうしてよ?あれをネタにゆすってやればいいじゃない」
「お前な……こんな覗き見で秘密を知ったなんて言ったら、それこそアルアはぶちぎれるぞ。見ちまったから俺も同罪だけど、やっぱりこんな方法はよくなかったんだ」
こんな方法、反則みたいなもんだ。知りたけりゃ、きちんと彼女の口から聞くべきだった。もっとも、訊いたところで教えてくれたとは思えないけど……アルルカもそう思ったらしい。
「バカねぇ。秘密ってのは、隠してるから秘密なんじゃない。知るには、暴くしかないのよ」
「だとしても!これ以上あいつと険悪になったんじゃ、たまんないよ」
すると、俺の腕に掴まっていたウィルが、眉をㇵの字にしてこっちを見てくる。
「このこと、皆さんにも秘密にしておきますか……?」
「あー……ほんとはその方がいいんだろうけど、みんなだって気にするだろうしなぁ」
俺とウィルが口をそろえて、何も見なかったなんて言ったら、かえって余計な詮索を招きそうだ。だったらいっそ、教えてしまったほうが面倒もないか。
「みなまでは言わないにしても、分かったことだけは伝えておこうか。アルアが、暴力を受けてるってこと……」
「そうですね……じゃないと、誤解したままになってしまいそうですし……」
うん。アルアは嫌なやつだと思っていたけど、彼女にもいろいろと事情があったんだ。そのことは、知っておいた方がいいだろう。
仲間たちの下に戻ってくると、俺はさっき見たことを簡潔に伝えた。
「……やはり、彼女の母親には」
エラゼムが腕を組み、うつむきながら話し出す。
「並々ならぬ執念を感じますな。単に、名家の生まれだからというだけではない。それこそ、本当に勇者ファーストの名を継ごうとでも言うかのような……」
「でも、だったらさ。人にやらせんじゃなくて、あいつが勝手にやればいいじゃんね」
ライラはぶすっとした顔で、小枝を焚き木に放り込んだ。薪が崩れて、火の粉がパチッと散る。
「ライラ嬢。あの方は、足を悪くしていたではありませんか。あれでは、武術で名を馳せるのは難しいでしょう」
「あ……そっか。だから子どもにやらせよーとしてるんだ」
ああ、なるほど。プリメラはずっと足を引いていた。自分が務めを果たせないからこそ、余計に娘に熱が入るんだろう。それこそ、やりすぎなくらいに。
「ふ~ん。アタシ、よく分かんないんだけど。そのファーストって人、そんなにすごい人だったの?」
勇者の歴史に詳しくないロウランは、小首をかしげていた。
「ええ。吾輩も詳しくはありませんが、かなりの武人だった様子。それこそ、人類の救世主のような扱いを受けていたとか」
「キューセーシュかぁ。でもさ、その人ってもう死んじゃってるんでしょ?死んだ人になり変わることはできないの。もちろん、生きてる人にもね」
「おっしゃる通りです。ただ、あの母親がそれを理解しているのかどうかは……」
まあ、そこだよな……プリメラはファースト、つまり自分の父の死を、受け入れられていないのかもしれない。無理もない、英雄が味方に背中を刺されたんだ。
亡き父の跡を継ぐ。俺だって、それ自体が悪いこととは言わない。言わないけど、でも娘まで巻き込むのは……
俺が悶々と考えていると、アルアが戻ってきた。
「ただいま戻りました……?」
アルアが戻ってきた途端、俺たち全員が挙動不審になったものだから、怪訝そうな顔をされてしまった。俺は固まり、ウィルは目を逸らし、ライラはわざとらしくあくびをし、エラゼムはうつむき、アルルカはニヤニヤ、ロウランは開きなおってしげしげ。ポーカーフェイスを貫いたのはフランだけだ。
「……なにか、ありました?」
「い、いや?別に、なにも?」
……俺が将来なるとしたら、役者だけはやめておいたほうがいいだろうな。棒読み過ぎる。
「ああーっと、アルア?」
「はい」
「その、昼間は悪かったな」
「昼間?」
「出発する前……門の前でさ」
アルアへの愚痴を聞かれてしまった件だ。あれは流石に俺が悪い。ずっと謝らなくちゃと思っていたから、いま言ってしまおう。
「ああ……」
アルアも思い出したのか、少し顔を曇らせる。だがすぐに首を横に振った。
「いいえ。謝罪は結構です。そもそも、先に失礼を働いたのは私ですから。むしろ、当然だと思っています」
「う、ん……」
俺は曖昧にうなずく。変に取り繕っても、本音を聞かれた後じゃ、何言っても白々しく聞こえるだろうしなぁ。
「だから、謝罪は不要です。私のことは、どう思っていただこうと構いません」
アルアは淡々と言う。どう思われようが、知ったことじゃないっていう口ぶりだ。うぅん、なんて言ったらいいか……
すると、アルルカが不機嫌そうに足を組み、膝に頬杖をついた。
「んっとに、可愛くないガキね。仲良しこよしする気はございませんってわけ?」
アルアがアルルカの方を向く。
「あなたは、私と仲良くしたいんですか?」
「んなわけないじゃない。けど、あんたが少しはかしずいてくるかと思ってたのよ。従順な下僕になるかと思いきや、ちっとも生意気が抜けてないじゃないの」
下僕って……呆れたな。だがそこから続いた言葉に、俺は心臓がひゅっとなった。
「それも、あの親の教えってわけ?」
わっ、バカ!俺たち全員がびくっとした。こいつまさか、さっきのことをアルアに話す気じゃ……
「……」
アルアは少し驚いた様子だが、それでも静かにアルルカを見つめ返している。対するアルルカも、これ以上喋る気はないのか、黙っていた。よかった、とりあえず余計なことを言う気はないらしい。
「……親の教え。まあ、そうですね」
だしぬけに、アルアがそう言った。
「もう皆さんも、気付いているかと思いますが。私の家は、普通とは少し変わっています」
俺とウィル、それにライラが息をのんだ。アルア自身も気付いていたのか……
「私の家は、ある目的を果たすことを家訓としています。その目的のためなら、例えどんな犠牲を払うことも厭いません。私もそのために生まれたと思っています」
「……その、目的とは?」
エラゼムが訊ねる。アルアは一瞬目を伏せると、顔を上げて、はっきりと言い切った。
「勇者ファーストの復讐。彼が遂げられなかった悲願を果たし、戦争に終止符を打つ事です」
復讐……?ファーストの死因は、セカンドに後ろから刺されたこと。それなら矛先が向くのは……
「ならお前は、二の国の勇者に仕返しを……?」
「……いいえ。確かに直接の原因となったのはセカンドだけれど、私たちは諸悪の根源は、魔王テオドールだと思ってる。あの悪の親玉が起こした戦争が、全ての原因だと」
アルアの目に、暗い炎が灯った。魔王が原因……俺は言いたいところもあったが、今は口を挟まないでおいた。
「もしセカンドが生きていたなら、その抹殺に生涯を捧げたでしょう。でも、奴は死んだ。一方で、魔王はまだ生きている。戦争は終わっていない。ファーストが生涯の目標とした、魔王を倒し、人類を解放する使命を、私は引き継いでいるの」
感情が高ぶったせいか、アルアの口調から敬語が抜けていた。けど、やっとわかった。アルアが傭兵をしているのは、いつでも戦争に赴けるようにするためだったんだ。
「だから、二の国の勇者だからと言って、むやみに殺そうとはしない。けど、やっぱり仲良くはできない。ファーストの死を招いたのは、二の国のせいだもの」
「……あれ?でもお前、初めて俺と会った時、襲い掛かって来なかったか?」
「あ、あれは!本気じゃなかった、から。どれくらいの実力か、計ろうとしただけ、です……」
フランが疑うような視線をアルアに向ける。あん時アルアは、フランに返り討ちにされたからな。アルアはこほんと咳ばらいをすると、口調を元に戻した。
「だから、あなたたちと親睦を深めることはできません。あなたたちが悪人でないことは分かっていますし、実力も知っています。それに、命を助けてももらって……恩人に対しての非礼は詫びます。だけど、分かってください。そのかわり、私をどう思ってもらってもいいので」
アルアはきっぱりそう言った。決意はかなり堅そうだ。それに、家のしきたりだと言われちゃ、どうしようもない。
(でも、そっか)
ひょっとしたら、アルアが過剰に俺たちを嫌っていたのは、そもそもどうやっても仲良くなれない相手だからってこともあったのかな。最初から距離を置いておけば、余計なことに悩まなくてもいいから……なんて、考えすぎか。
「わかったよ。あんたのやりやすいようにやってくれたら、それでいいから。あ、でも一つだけ、訊いていいか?」
「ありがとうございます。はい、なんですか?」
「さっきさ、自分の家は普通じゃないって言ったよな?つまり、家の教えとか、あー……お母さんの、こととか?それについて、アルアはどう思ってるんだ?」
俺はどうしても、訊ねずにはいられなかった。アルアが自分の置かれた境遇を異常だと思っているのなら。母親の仕打ちに憤りを覚え、辛いと感じているのなら……
だけどアルアは、首を横に振った。
「ああ、そのことですか。それは、以前家に招いた方に言われたことなんです。その時初めて、私の家が普通と違うことを知りました。なので私自身は、どうも感じていないんですよ。だって、生まれた時から、ずっとこうだったから」
アルアはそう言って、たぶん俺の前で初めて、微笑んだ。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「……」
「……」
仲間たちの下へ戻る間、俺とウィルは終始無言だった。結構きついものを見たせいで、口を開く気になれないんだ……
「あによあんたたち。せっかく面白いもん見せてあげたっていうのに、あたしにはなんもないわけ?」
俺を抱えて飛ぶアルルカが、不満そうな声を上げる。こいつはいつも通りだな。俺はため息をついた。
「はぁ。確かに、有力な情報ではあった。けど、さっき見たことはアルアには秘密だぞ」
「どうしてよ?あれをネタにゆすってやればいいじゃない」
「お前な……こんな覗き見で秘密を知ったなんて言ったら、それこそアルアはぶちぎれるぞ。見ちまったから俺も同罪だけど、やっぱりこんな方法はよくなかったんだ」
こんな方法、反則みたいなもんだ。知りたけりゃ、きちんと彼女の口から聞くべきだった。もっとも、訊いたところで教えてくれたとは思えないけど……アルルカもそう思ったらしい。
「バカねぇ。秘密ってのは、隠してるから秘密なんじゃない。知るには、暴くしかないのよ」
「だとしても!これ以上あいつと険悪になったんじゃ、たまんないよ」
すると、俺の腕に掴まっていたウィルが、眉をㇵの字にしてこっちを見てくる。
「このこと、皆さんにも秘密にしておきますか……?」
「あー……ほんとはその方がいいんだろうけど、みんなだって気にするだろうしなぁ」
俺とウィルが口をそろえて、何も見なかったなんて言ったら、かえって余計な詮索を招きそうだ。だったらいっそ、教えてしまったほうが面倒もないか。
「みなまでは言わないにしても、分かったことだけは伝えておこうか。アルアが、暴力を受けてるってこと……」
「そうですね……じゃないと、誤解したままになってしまいそうですし……」
うん。アルアは嫌なやつだと思っていたけど、彼女にもいろいろと事情があったんだ。そのことは、知っておいた方がいいだろう。
仲間たちの下に戻ってくると、俺はさっき見たことを簡潔に伝えた。
「……やはり、彼女の母親には」
エラゼムが腕を組み、うつむきながら話し出す。
「並々ならぬ執念を感じますな。単に、名家の生まれだからというだけではない。それこそ、本当に勇者ファーストの名を継ごうとでも言うかのような……」
「でも、だったらさ。人にやらせんじゃなくて、あいつが勝手にやればいいじゃんね」
ライラはぶすっとした顔で、小枝を焚き木に放り込んだ。薪が崩れて、火の粉がパチッと散る。
「ライラ嬢。あの方は、足を悪くしていたではありませんか。あれでは、武術で名を馳せるのは難しいでしょう」
「あ……そっか。だから子どもにやらせよーとしてるんだ」
ああ、なるほど。プリメラはずっと足を引いていた。自分が務めを果たせないからこそ、余計に娘に熱が入るんだろう。それこそ、やりすぎなくらいに。
「ふ~ん。アタシ、よく分かんないんだけど。そのファーストって人、そんなにすごい人だったの?」
勇者の歴史に詳しくないロウランは、小首をかしげていた。
「ええ。吾輩も詳しくはありませんが、かなりの武人だった様子。それこそ、人類の救世主のような扱いを受けていたとか」
「キューセーシュかぁ。でもさ、その人ってもう死んじゃってるんでしょ?死んだ人になり変わることはできないの。もちろん、生きてる人にもね」
「おっしゃる通りです。ただ、あの母親がそれを理解しているのかどうかは……」
まあ、そこだよな……プリメラはファースト、つまり自分の父の死を、受け入れられていないのかもしれない。無理もない、英雄が味方に背中を刺されたんだ。
亡き父の跡を継ぐ。俺だって、それ自体が悪いこととは言わない。言わないけど、でも娘まで巻き込むのは……
俺が悶々と考えていると、アルアが戻ってきた。
「ただいま戻りました……?」
アルアが戻ってきた途端、俺たち全員が挙動不審になったものだから、怪訝そうな顔をされてしまった。俺は固まり、ウィルは目を逸らし、ライラはわざとらしくあくびをし、エラゼムはうつむき、アルルカはニヤニヤ、ロウランは開きなおってしげしげ。ポーカーフェイスを貫いたのはフランだけだ。
「……なにか、ありました?」
「い、いや?別に、なにも?」
……俺が将来なるとしたら、役者だけはやめておいたほうがいいだろうな。棒読み過ぎる。
「ああーっと、アルア?」
「はい」
「その、昼間は悪かったな」
「昼間?」
「出発する前……門の前でさ」
アルアへの愚痴を聞かれてしまった件だ。あれは流石に俺が悪い。ずっと謝らなくちゃと思っていたから、いま言ってしまおう。
「ああ……」
アルアも思い出したのか、少し顔を曇らせる。だがすぐに首を横に振った。
「いいえ。謝罪は結構です。そもそも、先に失礼を働いたのは私ですから。むしろ、当然だと思っています」
「う、ん……」
俺は曖昧にうなずく。変に取り繕っても、本音を聞かれた後じゃ、何言っても白々しく聞こえるだろうしなぁ。
「だから、謝罪は不要です。私のことは、どう思っていただこうと構いません」
アルアは淡々と言う。どう思われようが、知ったことじゃないっていう口ぶりだ。うぅん、なんて言ったらいいか……
すると、アルルカが不機嫌そうに足を組み、膝に頬杖をついた。
「んっとに、可愛くないガキね。仲良しこよしする気はございませんってわけ?」
アルアがアルルカの方を向く。
「あなたは、私と仲良くしたいんですか?」
「んなわけないじゃない。けど、あんたが少しはかしずいてくるかと思ってたのよ。従順な下僕になるかと思いきや、ちっとも生意気が抜けてないじゃないの」
下僕って……呆れたな。だがそこから続いた言葉に、俺は心臓がひゅっとなった。
「それも、あの親の教えってわけ?」
わっ、バカ!俺たち全員がびくっとした。こいつまさか、さっきのことをアルアに話す気じゃ……
「……」
アルアは少し驚いた様子だが、それでも静かにアルルカを見つめ返している。対するアルルカも、これ以上喋る気はないのか、黙っていた。よかった、とりあえず余計なことを言う気はないらしい。
「……親の教え。まあ、そうですね」
だしぬけに、アルアがそう言った。
「もう皆さんも、気付いているかと思いますが。私の家は、普通とは少し変わっています」
俺とウィル、それにライラが息をのんだ。アルア自身も気付いていたのか……
「私の家は、ある目的を果たすことを家訓としています。その目的のためなら、例えどんな犠牲を払うことも厭いません。私もそのために生まれたと思っています」
「……その、目的とは?」
エラゼムが訊ねる。アルアは一瞬目を伏せると、顔を上げて、はっきりと言い切った。
「勇者ファーストの復讐。彼が遂げられなかった悲願を果たし、戦争に終止符を打つ事です」
復讐……?ファーストの死因は、セカンドに後ろから刺されたこと。それなら矛先が向くのは……
「ならお前は、二の国の勇者に仕返しを……?」
「……いいえ。確かに直接の原因となったのはセカンドだけれど、私たちは諸悪の根源は、魔王テオドールだと思ってる。あの悪の親玉が起こした戦争が、全ての原因だと」
アルアの目に、暗い炎が灯った。魔王が原因……俺は言いたいところもあったが、今は口を挟まないでおいた。
「もしセカンドが生きていたなら、その抹殺に生涯を捧げたでしょう。でも、奴は死んだ。一方で、魔王はまだ生きている。戦争は終わっていない。ファーストが生涯の目標とした、魔王を倒し、人類を解放する使命を、私は引き継いでいるの」
感情が高ぶったせいか、アルアの口調から敬語が抜けていた。けど、やっとわかった。アルアが傭兵をしているのは、いつでも戦争に赴けるようにするためだったんだ。
「だから、二の国の勇者だからと言って、むやみに殺そうとはしない。けど、やっぱり仲良くはできない。ファーストの死を招いたのは、二の国のせいだもの」
「……あれ?でもお前、初めて俺と会った時、襲い掛かって来なかったか?」
「あ、あれは!本気じゃなかった、から。どれくらいの実力か、計ろうとしただけ、です……」
フランが疑うような視線をアルアに向ける。あん時アルアは、フランに返り討ちにされたからな。アルアはこほんと咳ばらいをすると、口調を元に戻した。
「だから、あなたたちと親睦を深めることはできません。あなたたちが悪人でないことは分かっていますし、実力も知っています。それに、命を助けてももらって……恩人に対しての非礼は詫びます。だけど、分かってください。そのかわり、私をどう思ってもらってもいいので」
アルアはきっぱりそう言った。決意はかなり堅そうだ。それに、家のしきたりだと言われちゃ、どうしようもない。
(でも、そっか)
ひょっとしたら、アルアが過剰に俺たちを嫌っていたのは、そもそもどうやっても仲良くなれない相手だからってこともあったのかな。最初から距離を置いておけば、余計なことに悩まなくてもいいから……なんて、考えすぎか。
「わかったよ。あんたのやりやすいようにやってくれたら、それでいいから。あ、でも一つだけ、訊いていいか?」
「ありがとうございます。はい、なんですか?」
「さっきさ、自分の家は普通じゃないって言ったよな?つまり、家の教えとか、あー……お母さんの、こととか?それについて、アルアはどう思ってるんだ?」
俺はどうしても、訊ねずにはいられなかった。アルアが自分の置かれた境遇を異常だと思っているのなら。母親の仕打ちに憤りを覚え、辛いと感じているのなら……
だけどアルアは、首を横に振った。
「ああ、そのことですか。それは、以前家に招いた方に言われたことなんです。その時初めて、私の家が普通と違うことを知りました。なので私自身は、どうも感じていないんですよ。だって、生まれた時から、ずっとこうだったから」
アルアはそう言って、たぶん俺の前で初めて、微笑んだ。
つづく
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