じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
636 / 860
15章 燃え尽きた松明

9-4

しおりを挟む
9-4

「ただいまぁ……」

ふぅ、ようやく宿に帰ってこられた。俺はアルルカに横抱きにされたまま、窓から部屋に戻る。帰りは結局雲の下を飛んだので、俺はまたずぶ濡れになってしまった。

「あ、おかえりなさい、桜下さん。まぁ、この雨の中を飛んできたんですか?」

ウィルが同情半分、呆れ半分の顔で、タオルを渡してくれた。

「ほんとだよ、ったく。アルルカのやつが変に拘るもんだからさ」

ともかく、この濡れた服を着替えちまおう。俺は上着を脱ぐと、シャツのボタンを緩めた。

「あら?桜下さん、その首のところ……どうしたんですか?」

「へ?首?」

何のことだ?首を触ってみるが、特に何もないぞ。

「アルルカの噛み痕じゃないのか?」

「いえ、それとは別に、なんだか赤いぽちっとしたのが……って!」

な、なんだ?ウィルが突然、くわっと目を剥いた。そしていきなり、ぐいぃっと襟元を引っ掴んでくる。

「ぐえっ。ウィル、なにす……」

「こ、これは!フランさん!これ、見てくださいよ!これ!」

「ん?なに……っ!!!」

フランまで目を見開くと、まじまじと俺の首元を見つめる。そして視線をゆらりと、一人声を殺して腹を抱えているアルルカへと向けた。

「がうっ!」

「ぎゃあ!ちょっと、離れなさい!アイタッ!この、噛みつくんじゃないわよっ、それはあたしの専売特許でしょうが!」

二人がドタンバタンと大騒ぎしたもんだから、心配したおかみさんが様子を見に来てしまった。俺が平謝りしている後ろで、二人はまだ争っていたので、エラゼムは厳粛なる態度で二人を外に放りだす羽目になった。が、二人は外でもケンカを続けているようだ。

「もーほっとくか。付き合いきれん」

「それはいいですけど、桜下さん……?こっちはまだ、終わってないですからね……?」

ゆらぁっと、ウィルが俺に詰め寄ってくる。なんなんだよ、一体何があったって言うんだ!?
ライラとエラゼム、ロウランが、俺たちを遠巻きに見つめている。

「……エラゼム、どうしよっか?」

「うぅむ……雨降って地固まる、と言います。少し、様子を見てみましょうか?」

「それがいいの」

は、薄情者!外はざぁざぁ雨が降っているけど……明日になったら、地が固まるんだろうか?



翌朝。残念ながら、雨は止んでいなかった。けどだいぶ雨脚は弱まった、これなら外を出歩けるだろう。俺はベッドから起き上がると、出かける準備をした。

「あれ、ところであの二人は?」

「一晩中やり合ってましたよ。疲れないってのも考え物ですね……」

ウィルはやれやれと首を振る。昨晩きちんと釈明したので、ウィルはいつもの調子に戻っていた。が、フランとアルルカは、そうもいかなかったらしい。ううむ、普通のケンカなら、どちらかが倒れて決着が付くだろうが……疲れ知らずのアンデッド同士だと、それが無いのか。困ったもんだ。

「……ところで、桜下さん?昨日のあれ、本当に何もなかったんですよね?」

「うっ。ほんとに無実なんだって!嵌められたんだよ、アルルカに」

「ほんとかなぁ~……」

ウィルがじとーっと半目で睨んでくる。俺の潔白が、そんなに信じられないか?俺はため息を付くと、小声でボソボソと言う。

「しねーよ、そんなこと。彼女ができたばかりだってのに」

「へぅっ」

おかしな声を出して、ウィルは顔を赤くしてしまった。そういう反応をされると、こっちまで恥ずかしくなるじゃないか。



俺は二人のケンカを止めに行ったほうがいいかと思ったけれど、ウィルがそこまで大したものじゃないから気にするなと言うので、放っておくことにした。いわく、じゃれあいの延長線みたいなもんらしい。
宿の隣に併設された食堂で朝食を取る。朝の食堂には人もまばらで、俺たち以外の旅人はいないようだ。パラパラいる客も、この町の人だろう。

「あ、あの。すみません……」

俺はおずおずとおかみさんを呼び止めて、注文をする。昨日あれだけ大騒ぎしたから、気まずいんだよな……

「はいよ。なににする?」

「その、パンとミルクを貰えますか?」

「はいはい。ところで、昨日揉めてた方はいないのかい?」

「あ、はい。外にいますんで……すみません」

「そうかい。助かるよ、他のお客さんが怖がるからね」

返す言葉もございません。それでもおかみさんは、ねちねちと嫌味を言うようなことはしなかった。よかった、さっぱりした人で。あ、それならついでに、あっちのことも聞いておこうか。

「あ、あとちょっといいかな」

「はい?なにかね」

「この町に、光の魔力を持つ人が居たって話、聞いた事ありません?」

まずは基本のき、聞き込みだ。人の行きかう宿屋を営んでいるなら、色々な情報にも詳しいはず。

「光の魔力?そりゃ、一体何だい?」

だがおかみさんは、不思議そうに首を傾げるばかりだった。あ、ありゃ?おかしいな、あてが外れたか?

「えーっと、光の魔力っていうのは、とっても珍しい魔力で。奇跡を起こすことができるっていう……」

「奇跡?なんだか眉唾な話だねぇ。そんなものが本当にあるのかい?」

あ、あれれれ……?うーむ、まいったな。単に知らないだけのか、それとも情報が間違っていたのか。
俺が言葉に窮してしまったので、代わりにエラゼムが質問する。

「では、この町の名物について教えて下さらぬか。確か、癒しの神の神殿が在るとか」

「ああ、それならわかるよ。グランテンプルのことだろう?」

ああ、そういやそんな名前だったっけ。アニから一度聞いたけど、すっかり忘れていた。

「その、グランテンプルという御殿は、どのような場所なのでしょう?」

「どうって、そりゃ荘厳な建物だよ。行ってみりゃいいじゃないか。目で見たほうが絶対いいし、一度見れば一生忘れらないさ」

「ほお、それは興味をそそられますな。町のどこにあるのでしょう」

「表に出て、山を端から端まで眺めてごらん。てっぺんに見えるはずさ」

てっぺん?山頂に建っているのかな。目立ちそー。

「ありがとうございます。ぜひ行ってみましょう」

「そうしなよ。あそこに行けば、あんたらのお仲間だって、ちょっとは気も長くなるさ」

うっ。あの二人のことを言われているな……でも、行く価値はありそうだ。エラゼムが礼を言うと、おかみさんは片袖を揺らしながら、厨房の方に戻っていった。

「グランテンプルか。神殿って、誰でも入っていいのかな?」

俺の問い掛けには、シスターであるウィルが自信満々に答える。

「はい、もちろんです。居住区画などの込み入った場所には入れませんが、それでも大部分にはどなたでも立ち入れますよ。神の懐は、万人に開かれているものですか」

「おおー。そういや、ウィルんとこに寄った時も泊めてもらったもんな」

なら、門前払いを喰らうこともないだろう。よし、決まりだ!まずは、神殿へ! 



「お引き取り下さい」

「はぁ、はぁ……え?」

おい、嘘だろ?俺はぜぃはぁと息をしながら、目の前に立つ若い修道士を茫然と見つめた。

「聞こえませんでしたか。お引き取りを、と言ったのです」

跳ねのけるような態度で、修道士はそう繰り返した。じょ、冗談じゃないぞ……
グランテンプルは、町から見える小高い山の頂上に建てられた塔だった。塔と言っても、三の国のような西洋の塔じゃない。言うなれば、五重塔だ。京都にあってもおかしくないような見た目をしている。ミツキの町に引き続いて和風な外観に、初めはワクワクしたもんだ。
ただ、アクセスはサイアクの一言に尽きた。なにせ、山を延々登って行かなくちゃならない。山には傾斜のきつい石の階段が作られていて、それをず~~~~~っとのぼる羽目になったんだ。俺はだらだら汗をかきながら、ロウランと出会った遺跡を思い出していた。あそこの階段もきつかった……
ライラは速攻でへばり、いつものようにフランがおぶろうとしたが、なぜか今回は俺におんぶしろと執拗にせがんだ。根負けした俺が彼女を背負って数歩歩いたところで、足を滑らせてひっくり返りそうになったので、そこからは大人しくフランにおぶられたが。
ともかく、それだけ大変だったんだ。だってのに!

「おい、なあ、こんだけ苦労して登ってきたんだぞ?それを理由もなく突っぱねるのか?」

俺は修道士に言っているテイにしながら、目はウィルを睨んでいた。ウィルがあわあわと弁解する。

「こ、こんなの、普通はありえませんってば!この人、ほんとにほんとの修道士ブラザーなんですか?」

むう、確かに。目の前の修道士は、たぶん二十歳前後くらいの歳に見える。髪は短く、色は明るい茶髪で、目は釣り上がっていて鋭い。けっこうきつい顔立ちだ。服はローブのようだが、どことなく袈裟に見える。茶髪に袈裟が絶望的に似合っていなくて、なーんとなく信用できない雰囲気だ。

「理由?当方の神殿には、怪しい一団を入れることはできないまでです」

修道士はきっぱりとそう言い切る。

「な、なんだよその言い草は?俺たちが怪しいことは否定しないけど、あんまりじゃないか!」

「桜下さん、否定してください……」

「あ、そ、そうか。ともかく、人を見た目で判断するのかよ!」

修道士は俺を胡散臭い目で見つめた後、ふんと鼻を鳴らす。

「素性が分からない以上、見た目で判断するしかないでしょう。神の拠り所に来るにしちゃ、あまりにもみすぼらしい。施しならふもとで受けてください」

こ、こんの野郎……!これには俺だけじゃなく、ウィルまでカンカンになった。

「ま、貧しい人たちに手の差し伸べるのも神殿の役割でしょう!なんなんですかこの人は!こんななら、まだデュアンさんの方がマシですよ!」

ウィルにデュアン以下認定されたこの修道士は、相変わらず冷たい目で俺たちを睨んでいる。いや、あの目はさげすんでいる目だな。くぅー、どこまでも腹が立つ!

「ミゲル、誰と話しているの?」

あん?ふいに女の人の声がしてきた。誰だ?

「マルティナ!出てくるな、お前は中にいろ!」

修道士の男が振り返ると、血相を変えて声を張った。男の背後には、同じ格好をした女性が立っている。シスターだな。シスターの顔は修道士によく似ていて、釣り目と明るい茶髪をしている。だけど男と違って眉尻が下がっているから、どことなく気弱そうだ。この二人、兄妹かな?

「でも、ミゲル……」

「引っ込んでろ!こいつらは俺が片付けておくから!」

か、片付け……人を粗大ゴミみたいに言いやがって!憤慨した俺が言い返そうとした時。

「これこれ、二人とも」

と、またまたシスターの後ろから、新たな人物が近づいてきた。おうおう、今度は誰だ?兄妹が出てきたから、次は親か祖父母でも来るか?
俺の予想は、ニアピンだった。出てきたのは、長い髭の爺さんだった。

「ミゲル。マルティナ。何を騒いでおるのじゃ」

老人は落ち着いた声でそう言うと、二人を見、そして俺たちを見た。この爺さんもまた、袈裟のようなローブを羽織っている。さーて、この爺さんは、こいつらより話が通じるかな?



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...