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15章 燃え尽きた松明
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テレジア容疑者の家は、小高い丘の上にぽつんと建っていた。ていうか、あれは家か?テントじゃないか。
「すごいお家だねぇ」
「ん、ああ……ところでロウラン、ほんとに一緒に来る気か?」
「んもう、ここまで来て、それゆ~?」
ロウランがもちっとしたほっぺを、ぷぅっと膨らませる。誰がどう見ても、幼い女の子にしか見えないよなぁ……中身がゆうに三百歳を超えると言っても、絶対信じてもらえない。
「はぁー……まあ、仕方ないか。上手くやってくれよ、ランちゃん」
「はぁーい、おにぃちゃん♪」
ぎゅっと手を握ってくる。ロウランは妙にノリノリで、このためだけにコードネームまで作った。恐ろしく単純なものだが……不安だなぁ。
テントの前まで来ると、まず目に入ったのは、軒先に吊るされた毛むくじゃらの物体だった。動物の毛皮を干しているらしい。この人は確か、猟師だったっけ?
テントの中からはごそごそと人の気配がする。在宅ではあるようだ。ようし、気合を入れて。
「ごめんくださーい」
「はいはーい。どなたですかー?」
うん?俺とロウランは、顔を見合わせた。聞こえてきた声は、鈴のようなコロコロした声。はて?この家に住んでいるのは、テレジアさん一人じゃなかったか?
やがて入り口の布がめくれると、長いブロンド髪の女の子が顔をのぞかせた。あれえ?子どもがいたのか?少女は俺たちを見ると、目を丸くする。元々大きい目が丸くなると、いっそう幼く感じるな。
「うぅん?どうしたの、君たち?」
「あ、えっと。家の人っているかな?」
「はぁ?そりゃ、いるけど」
「じゃあ、呼んできてくれないか?」
「……?いいけど。もしもーし、テレジアさーん!はいはーい、なんですかー!」
はい?女の子はテントの中に向かって叫ぶと、なぜか自分で返事をした。
「まだ分かんない?あたしがテレジア。ここの家主」
「え!」
「えぇ!」
俺とロウランは、同時に声を上げた。だって、どう見てもライラと同い年か、少し上くらいにしか……
「むー。しっつれいしちゃうなぁ。こんなちびっ子たちにまで、子どもだと思われてるわけ?」
自称テレジアさんは、ぷくっと頬を膨らませる。ますます子どもっぽい……
「え、ええっと……あの、ほんとに……?」
「そうですぅー。あたしを何歳だと思ってるの?今年で二十八だよ」
ええー!み、見えない。この見た目で、俺の倍は生きているのか?ロウランまであんぐり口を開けている。おい、お前に驚く権利はないぞ。
「で、なんなの?用がないなら、もう戻るけど」
「ああ、待った待った!えっと、実は俺、いや僕たち、道に迷ってしまって……」
あまりの衝撃に本題を忘れていた。まあこの際、鬼だろうと蛇だろうと関係ない。大事なのは、この人が犯人かどうかだ。
「迷ったぁ?こんな、なんもない野っぱらで?」
テレジアは呆れたように肩をすくめる。
「君たち、筋金入りの方向音痴だね。後ろ向いてまっすぐ歩いてけば、そのうち町に着くよ。それじゃ」
「あああー、ちょっと待ってくれ!」
ここで引っ込まれちゃ意味がない。何とか引き留めないと。
「ぼ、僕たち、最近越してきたばかりで。町がどっちだったか、分かんなくなっちゃって……」
「えー?もう、しょーがないな」
テレジアはとことこと、テントの外に出てきた。横に並ばれると、ほんとに小さいことが分かる。俺の胸のところに頭があるぞ。
さて、なんとか釣り出すことには成功した。頼むぞ、ロウラン。俺が目配せすると、ロウランはわずかにこくりとうなずいた。
「ねーえ、おにぃちゃん?せっかくだから、あのことも訊いてみたらどう?」
「お、おお。そうだなライン。あの、すみません。もう一つ訊いてもいいですか?」
「うん?町の方角ならあっちだよ」
「えっと、それとは別にですね。実は僕たち、いなくなった母さんを探していて……」
かくかくしかじか。事前に決めた“事情”を話すと、テレジアは深くうなずいた。
「なるほど。それはさぞかし大変だねぇ」
「ええ、だから……」
「けど、それウソでしょ」
えっ。俺もロウランも面食らって、固まってしまった。テレジアは子どものような目で、俺をじっと見据えている。だが確かに、この人は大人だ。瞳の奥に、子どもじゃあり得ない、鋭い光が見える。
「あの、これはほんとのことで……」
「ダメダメ。君たちは、つい最近この町に来たんでしょ?それなのに、親が子を捨てて去るかな。初めから捨てる気なら、わざわざお金と手間の掛かる引っ越しなんてしなくない?」
「で、でも、母さんは何かの事件に巻き込まれたのかも……」
「だったら、なんで探しているのが君たちだけなの?それこそ、他の人たちにも事情を話せばいいのにさ。町民一人が消えたなら、さすがに手を貸してくれるはずだと思うけど」
「ぐ、う……」
「あとついでになんだけど、君たちは、本物の兄妹でもないんじゃない?」
「……」
二の句が継げないとは、まさにこのことだ。何も言えずにいると、テレジアはなぜか、ふっと笑った。
「でも、そう身構えなくていいよ。君たちの嘘を責める気はないから」
「え?」
「なにか事情があるんでしょ?ただのいたずらにしちゃ手が込んでるし、かと言ってタチの悪い詐欺にしちゃ、詰めが甘い」
うぅ……顔が熱くなる。
「だったらさ、腹を割って話そうじゃない。あんたたちの本音を聞かせてよ」
え?てっきり追い返されるかと思ったら、話を聞いてくれるのか?こっちとしては、願ってもないことだが。すると、ロウランがゆっくりと口を開く。
「……そう言ってくれるなら、お言葉に甘えちゃうの」
「え。おい、ロウラン……」
「もうこうなったら、ごまかしてもしょうがなくない?ストレートに訊いたほうがいいよ、きっと」
うーん……仕方ない。確かに、いまさら取り繕いようもないしな。
「……わかった。テレジアさん、単刀直入に言うぜ。俺たちは、とある事件の犯人を捜してるんだ。で、俺はあんたが、その容疑者の一人だと考えている」
「おお、いきなりだね」
俺はテレジアの顔色を注意深く伺った。かなり不躾な物言いだが、テレジアは特に気分を害した様子はない。もちろん、上機嫌というわけでもないが。
「あんまり楽しい話じゃあないね。けど、疑いを晴らすためにも、まずはよく聞く必要がありそう。続きを話してみて」
ほっ。テレジアは怒ってはいないようだ。ふぅむ、この人、子どもっぽい見かけによらず理知的だな。
「じゃあ、続きを。その事件が起こったのは、二週間前の昼過ぎだ。一日中薄暗かったその日に、事件は起きている。あんた、その日は何してたんだ?」
「二週間前……だいぶ前だね。でも、その薄暗かった日っていうのは覚えてるよ。で、幸いなことに……君たちにとっては残念かな?あたしはその日、仕事でずーっと外に出てました。つまり、この町自体に居なかったってわけ」
ふむ。犯行はできなかったと言いたいわけか。
「なら、それを証明できる人は?」
「いるよ。ん?待って……いた、の方が正しいかも」
「いた?過去形なのか」
「うん。その人、あたしが獲物を卸している革職人なんだけどさ。ちょうどその時間、あたしはその人と会ってるんだ」
「なるほど……でもその人、どうかしたのか?」
「いやぁそれが、帝都まで買い付けに行っちゃってるんだよ。二、三日前までは、隣町に居たんだけどね。たぶん一カ月は戻ってこないだろうなぁ」
なに?こりゃまた、厄介な状況だな。テレジアには、アリバイの証人はいる。が、その人とすぐには会えないと言う。アリバイがないことをごまかすための嘘とも捉えられるし、だがもし本当なら、下手に追及したこちらの方が悪者になってしまう。
「さあ、どう?あたしが嘘をついていると思う?犯人だって告発してもいいけど、一か月後、その職人が帰ってくれば、あたしの無実は証明されるよ」
テレジアもそれが分かっているのか、余裕の表情だ。決めつけてかかるには、あまりにもリスキーか……
「……現時点じゃ、判断はできないよ」
「んふふ、懸命だね。子どもの探偵ゴッコ、ってわけじゃなさそうかも」
テレジアはニマニマと笑っている。くうぅ、手玉に取られている感が否めない。
「ねえ。ところで君たちは、どうして犯人探しなんてやってんの?その被害者って、君たちの家族だったり?」
「いや……事情があるんだよ。そいつを見つけないと、仲間の大事な目的が果たせないんだ」
「ふーん、そっか。うーん、お手伝いしてあげたいところだけど、あたしが容疑者なんじゃなぁ。お仕事も放ってはおけないし」
「仕事……確か、猟師だっけ」
「猟師……?」
ん?突然黙り込むテレジア。なぜだか、プルプルと震えている……?
「そんなんじゃ……なぁーい!」
うわ!テレジアが突然、大声を出した。
「誰が猟師なんて!あたしはトレジャーハンターですぅ!」
「え?トレジャー……でも、さっき獲物を卸してるって」
「それは冒険の資金を得るため!本職はあくまでもこっち!まったく、そんなデマが飛び交っているの?」
テレジアは腕を組んでむくれている。
「デマ、かどうかは知らないけど……大体トレジャーハンターって、何してるんだよ?」
「ふふん。それはもちろん、この世に隠された財宝を見つけだすんだよ。そして手に入れる!」
「財宝……?」
俺とロウランは、そろってテレジアの背後の、小さなテントを見た。どこをどう探しても、銅貨一枚見つけるのが関の山に見えるが……テレジアはふっと自嘲気味に笑う。
「……お宝探しは、見返りが大きい分、準備も大変なんだよ。空振りが続けば、あっという間に干からびるものなの。それにほら、あたしらみたいな性分で、コツコツ貯金なんてできるわけないし」
ああー……一攫千金を狙う人たち、だもんな。今度は急に、この人が子どもに見えてきたぞ。
「っとまあ、あたしはロマンを追うので忙しいわけ。悪いけど、君たちの問題は、君たちで解決しなね。他に訊きたいことは?」
「あっ。ええっと……」
「なさそうね。ま、頑張りなよ。おねーさんは応援してあげるから。んじゃね!」
もたもたしている間に、テレジアはテントに引っ込んでしまった。後には俺と、ロウランだけが残される。
「……ダーリン、犯人、分かりそ?」
「……だはぁ~~~」
頭を抱えるしかない。今日聞き込みをした、容疑者三人。一体誰が、襲撃犯なんだ?
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「すごいお家だねぇ」
「ん、ああ……ところでロウラン、ほんとに一緒に来る気か?」
「んもう、ここまで来て、それゆ~?」
ロウランがもちっとしたほっぺを、ぷぅっと膨らませる。誰がどう見ても、幼い女の子にしか見えないよなぁ……中身がゆうに三百歳を超えると言っても、絶対信じてもらえない。
「はぁー……まあ、仕方ないか。上手くやってくれよ、ランちゃん」
「はぁーい、おにぃちゃん♪」
ぎゅっと手を握ってくる。ロウランは妙にノリノリで、このためだけにコードネームまで作った。恐ろしく単純なものだが……不安だなぁ。
テントの前まで来ると、まず目に入ったのは、軒先に吊るされた毛むくじゃらの物体だった。動物の毛皮を干しているらしい。この人は確か、猟師だったっけ?
テントの中からはごそごそと人の気配がする。在宅ではあるようだ。ようし、気合を入れて。
「ごめんくださーい」
「はいはーい。どなたですかー?」
うん?俺とロウランは、顔を見合わせた。聞こえてきた声は、鈴のようなコロコロした声。はて?この家に住んでいるのは、テレジアさん一人じゃなかったか?
やがて入り口の布がめくれると、長いブロンド髪の女の子が顔をのぞかせた。あれえ?子どもがいたのか?少女は俺たちを見ると、目を丸くする。元々大きい目が丸くなると、いっそう幼く感じるな。
「うぅん?どうしたの、君たち?」
「あ、えっと。家の人っているかな?」
「はぁ?そりゃ、いるけど」
「じゃあ、呼んできてくれないか?」
「……?いいけど。もしもーし、テレジアさーん!はいはーい、なんですかー!」
はい?女の子はテントの中に向かって叫ぶと、なぜか自分で返事をした。
「まだ分かんない?あたしがテレジア。ここの家主」
「え!」
「えぇ!」
俺とロウランは、同時に声を上げた。だって、どう見てもライラと同い年か、少し上くらいにしか……
「むー。しっつれいしちゃうなぁ。こんなちびっ子たちにまで、子どもだと思われてるわけ?」
自称テレジアさんは、ぷくっと頬を膨らませる。ますます子どもっぽい……
「え、ええっと……あの、ほんとに……?」
「そうですぅー。あたしを何歳だと思ってるの?今年で二十八だよ」
ええー!み、見えない。この見た目で、俺の倍は生きているのか?ロウランまであんぐり口を開けている。おい、お前に驚く権利はないぞ。
「で、なんなの?用がないなら、もう戻るけど」
「ああ、待った待った!えっと、実は俺、いや僕たち、道に迷ってしまって……」
あまりの衝撃に本題を忘れていた。まあこの際、鬼だろうと蛇だろうと関係ない。大事なのは、この人が犯人かどうかだ。
「迷ったぁ?こんな、なんもない野っぱらで?」
テレジアは呆れたように肩をすくめる。
「君たち、筋金入りの方向音痴だね。後ろ向いてまっすぐ歩いてけば、そのうち町に着くよ。それじゃ」
「あああー、ちょっと待ってくれ!」
ここで引っ込まれちゃ意味がない。何とか引き留めないと。
「ぼ、僕たち、最近越してきたばかりで。町がどっちだったか、分かんなくなっちゃって……」
「えー?もう、しょーがないな」
テレジアはとことこと、テントの外に出てきた。横に並ばれると、ほんとに小さいことが分かる。俺の胸のところに頭があるぞ。
さて、なんとか釣り出すことには成功した。頼むぞ、ロウラン。俺が目配せすると、ロウランはわずかにこくりとうなずいた。
「ねーえ、おにぃちゃん?せっかくだから、あのことも訊いてみたらどう?」
「お、おお。そうだなライン。あの、すみません。もう一つ訊いてもいいですか?」
「うん?町の方角ならあっちだよ」
「えっと、それとは別にですね。実は僕たち、いなくなった母さんを探していて……」
かくかくしかじか。事前に決めた“事情”を話すと、テレジアは深くうなずいた。
「なるほど。それはさぞかし大変だねぇ」
「ええ、だから……」
「けど、それウソでしょ」
えっ。俺もロウランも面食らって、固まってしまった。テレジアは子どものような目で、俺をじっと見据えている。だが確かに、この人は大人だ。瞳の奥に、子どもじゃあり得ない、鋭い光が見える。
「あの、これはほんとのことで……」
「ダメダメ。君たちは、つい最近この町に来たんでしょ?それなのに、親が子を捨てて去るかな。初めから捨てる気なら、わざわざお金と手間の掛かる引っ越しなんてしなくない?」
「で、でも、母さんは何かの事件に巻き込まれたのかも……」
「だったら、なんで探しているのが君たちだけなの?それこそ、他の人たちにも事情を話せばいいのにさ。町民一人が消えたなら、さすがに手を貸してくれるはずだと思うけど」
「ぐ、う……」
「あとついでになんだけど、君たちは、本物の兄妹でもないんじゃない?」
「……」
二の句が継げないとは、まさにこのことだ。何も言えずにいると、テレジアはなぜか、ふっと笑った。
「でも、そう身構えなくていいよ。君たちの嘘を責める気はないから」
「え?」
「なにか事情があるんでしょ?ただのいたずらにしちゃ手が込んでるし、かと言ってタチの悪い詐欺にしちゃ、詰めが甘い」
うぅ……顔が熱くなる。
「だったらさ、腹を割って話そうじゃない。あんたたちの本音を聞かせてよ」
え?てっきり追い返されるかと思ったら、話を聞いてくれるのか?こっちとしては、願ってもないことだが。すると、ロウランがゆっくりと口を開く。
「……そう言ってくれるなら、お言葉に甘えちゃうの」
「え。おい、ロウラン……」
「もうこうなったら、ごまかしてもしょうがなくない?ストレートに訊いたほうがいいよ、きっと」
うーん……仕方ない。確かに、いまさら取り繕いようもないしな。
「……わかった。テレジアさん、単刀直入に言うぜ。俺たちは、とある事件の犯人を捜してるんだ。で、俺はあんたが、その容疑者の一人だと考えている」
「おお、いきなりだね」
俺はテレジアの顔色を注意深く伺った。かなり不躾な物言いだが、テレジアは特に気分を害した様子はない。もちろん、上機嫌というわけでもないが。
「あんまり楽しい話じゃあないね。けど、疑いを晴らすためにも、まずはよく聞く必要がありそう。続きを話してみて」
ほっ。テレジアは怒ってはいないようだ。ふぅむ、この人、子どもっぽい見かけによらず理知的だな。
「じゃあ、続きを。その事件が起こったのは、二週間前の昼過ぎだ。一日中薄暗かったその日に、事件は起きている。あんた、その日は何してたんだ?」
「二週間前……だいぶ前だね。でも、その薄暗かった日っていうのは覚えてるよ。で、幸いなことに……君たちにとっては残念かな?あたしはその日、仕事でずーっと外に出てました。つまり、この町自体に居なかったってわけ」
ふむ。犯行はできなかったと言いたいわけか。
「なら、それを証明できる人は?」
「いるよ。ん?待って……いた、の方が正しいかも」
「いた?過去形なのか」
「うん。その人、あたしが獲物を卸している革職人なんだけどさ。ちょうどその時間、あたしはその人と会ってるんだ」
「なるほど……でもその人、どうかしたのか?」
「いやぁそれが、帝都まで買い付けに行っちゃってるんだよ。二、三日前までは、隣町に居たんだけどね。たぶん一カ月は戻ってこないだろうなぁ」
なに?こりゃまた、厄介な状況だな。テレジアには、アリバイの証人はいる。が、その人とすぐには会えないと言う。アリバイがないことをごまかすための嘘とも捉えられるし、だがもし本当なら、下手に追及したこちらの方が悪者になってしまう。
「さあ、どう?あたしが嘘をついていると思う?犯人だって告発してもいいけど、一か月後、その職人が帰ってくれば、あたしの無実は証明されるよ」
テレジアもそれが分かっているのか、余裕の表情だ。決めつけてかかるには、あまりにもリスキーか……
「……現時点じゃ、判断はできないよ」
「んふふ、懸命だね。子どもの探偵ゴッコ、ってわけじゃなさそうかも」
テレジアはニマニマと笑っている。くうぅ、手玉に取られている感が否めない。
「ねえ。ところで君たちは、どうして犯人探しなんてやってんの?その被害者って、君たちの家族だったり?」
「いや……事情があるんだよ。そいつを見つけないと、仲間の大事な目的が果たせないんだ」
「ふーん、そっか。うーん、お手伝いしてあげたいところだけど、あたしが容疑者なんじゃなぁ。お仕事も放ってはおけないし」
「仕事……確か、猟師だっけ」
「猟師……?」
ん?突然黙り込むテレジア。なぜだか、プルプルと震えている……?
「そんなんじゃ……なぁーい!」
うわ!テレジアが突然、大声を出した。
「誰が猟師なんて!あたしはトレジャーハンターですぅ!」
「え?トレジャー……でも、さっき獲物を卸してるって」
「それは冒険の資金を得るため!本職はあくまでもこっち!まったく、そんなデマが飛び交っているの?」
テレジアは腕を組んでむくれている。
「デマ、かどうかは知らないけど……大体トレジャーハンターって、何してるんだよ?」
「ふふん。それはもちろん、この世に隠された財宝を見つけだすんだよ。そして手に入れる!」
「財宝……?」
俺とロウランは、そろってテレジアの背後の、小さなテントを見た。どこをどう探しても、銅貨一枚見つけるのが関の山に見えるが……テレジアはふっと自嘲気味に笑う。
「……お宝探しは、見返りが大きい分、準備も大変なんだよ。空振りが続けば、あっという間に干からびるものなの。それにほら、あたしらみたいな性分で、コツコツ貯金なんてできるわけないし」
ああー……一攫千金を狙う人たち、だもんな。今度は急に、この人が子どもに見えてきたぞ。
「っとまあ、あたしはロマンを追うので忙しいわけ。悪いけど、君たちの問題は、君たちで解決しなね。他に訊きたいことは?」
「あっ。ええっと……」
「なさそうね。ま、頑張りなよ。おねーさんは応援してあげるから。んじゃね!」
もたもたしている間に、テレジアはテントに引っ込んでしまった。後には俺と、ロウランだけが残される。
「……ダーリン、犯人、分かりそ?」
「……だはぁ~~~」
頭を抱えるしかない。今日聞き込みをした、容疑者三人。一体誰が、襲撃犯なんだ?
つづく
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