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15章 燃え尽きた松明
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遠くでカラスが鳴いている……もう夕暮れ時だ。
俺たちは宿に帰り、部屋で輪になって座って、うんうんと唸っている。雁首揃えて熟考している議題は当然……
「いったい、誰が犯人なんだ……?」
日中に出会った、三人の容疑者。
ウォルフ爺さん、木こりのダンゲル、そして自称トレジャーハンターのテレジア。
俺は振り返りもかねて、一人ずつの特徴をあげていく。
「ウォルフ爺さんは、一年ほど前に町を出て、最近になって娘のヤンと一緒に戻ってきた。原因は体が悪くなったから。事件当日は、ずっと庭にいたと言ってる。ヤンもそれを見ていたから、アリバイは成立してるな」
「ええ、そうでしたね」
ウィルがうなずいた。
「お爺さんが植えたって言う野菜も、嘘じゃないと思います。」
爺さんがいじっていたタマネギが本物だってことは、ウィルが証明している。
「で、ダンゲル。流れ者のゴロツキで、半年前に町に居ついた。手に怪我をしていて、当日は家にいなかったらしい。体の特徴も一致してるし、実際中身も悪党そのものだけど……」
これには、ライラが不服そうにうなずいた。
「でも、あいつを見て、話しをしたって人がいるんだもんね」
「そうなんだよなぁ」
宿のおかみさんが証言したことだ。さらに俺たちは、その人の住所を教えてもらって、直接本人にも確かめもした。そうして戻ってきたのがついさっき。その人は怪訝そうな顔をしていたが、確かに事実だと認めた。
「あんなに怪しいのに……どうせ悪いことたくさんしてるんだし、犯人ってことにしちゃダメかなぁ」
「さすがにそれは……気持ちは分かるけど」
今回の目的は、犯人を捕まえることじゃなく、ステイン牧師の信頼を勝ち得ることだ。そこを忘れちゃいけない。
「で、最後が、テレジアか……」
「確か……トレジャーハンター、でしたかな?」
聞き慣れない言葉なのか、エラゼムの発音はぎこちない。
「ああ。見た目は子どもそっくりなんだけど、これがなかなか食えない人でさ。ていうか女の人だし、土台犯人像と食い違うんだけど」
襲撃犯は、立派な体躯の、恐らく男。小柄なテレジアじゃ根本的に食い違う。しかしまあ、皆まで言わずとも、それはみんなも分かっているだろう。
「ふぅむ……そちらの方は、自分の潔白を証明できる人物はいるが、現在は遠くにいるので会うことができない、とおっしゃったのでしたな」
「そ。帝都にいるって。嘘だと思うか?」
「難しいところです……真偽を確かめるすべがありません。帝都まで馬を走らせるというのも、現実的ではないでしょう」
そりゃそうだ。全速力で走っても、往復一か月はかかるだろう。とても無理だ。
「こうして並べてみると、全員が全員、犯人であることを否定する要素を持っているんですね……」
ウィルが暗い顔で言う。まったくだ。ウォルフ爺さんは歳が、ダンゲルはアリバイが、テレジアは証人がいる。
「ですけど、一方で怪しいと思える要素も、あるんですよね」
それも、そうなのだ。爺さんはかつて腕利きの冒険者だったという実績が、ダンゲルの場合は素行が。テレジアの場合は正確性という点で、疑わしい側面がある。
「つまり、だれとも言えない、と」
アルルカの総括に、誰も反論することができなかった。
「ねぇ、そもそもよ?この三人は容疑者というより、単に疑わしい連中ってことでしょ」
「何が言いたいんだよ、アルルカ?」
「だーら、必ずしもここに犯人がいるとが限らないってことよ。あのシスターが怪しいと思ってるだけで、実際どうかなんて分からないじゃない」
「お前……それを言い出したら、元も子もないじゃないか」
「じゃあ、否定できる?」
「それは……できないけど」
「そら見なさい」
確かに絶対違う!とは言えないけど、でもマルティナだって、全くのあてずっぽうで言ったわけじゃない。それに、いまさらそんなことを言いだしたら、それこそ議論は破綻だ。
「……視点を、変えてみよう」
うん?俺とアルルカが睨み合っていると、フランが床を見つめたまま、静かに言った。
「犯人だっていう証拠なんて、そう簡単に見つかる物じゃないでしょ。当然、本人は隠そうとしてくるはずだから」
「まあ……そうだな」
「なら、犯人の特徴はいったん忘れて。それ以外で、おかしなところが見つからない?」
「おかしなところ?」
「例えば、違和感。矛盾点、おかしな発言。あなたは直接見てきたんだから、態度とかも」
違和感、か……そりゃもちろん、無かったわけじゃない。
ウォルフ爺さんは、一日中庭にいたという。転寝していたからだと言うが、ちょっと長すぎないか?ご老体が固い土の上で、丸一日過ごして平気なもんだろうか。
ダンゲルとはまともに話もできていない。彼のアリバイを証明しているのは、彼と話したという町民だけ。もしもダンゲルに脅迫されていたとしたら?もしくは、グルだという可能性もある。
テレジアの場合、家を持っていないっていうのが引っ掛かるよな。テントなんて簡単に組み立てられるし、吊るしていた毛皮も事前に用意しておけば、あたかも猟師としての仕事をしていると装うこともできる。その裏で、マルティナを尾行していたのでは?襲撃犯は別の人間で、彼女は裏方で立ちまわっていたんじゃないか?
「……」
違和感も、不審点も多い。でもそのままでは、情報としてあまりにも粗すぎる。もっとふるいにかけて、精査していかなければ……
「……」
俺が黙り込むと、仲間たちも気を遣ったのか、しんと静かになった。その心遣いをありがたく頂戴して、俺は今日一日のことを思い出す。どこかに、決定的な違和感はなかっただろうか?誰かが、明らかな嘘をついていなかっただろうか……
そうしている間に、夜はとっぷりとふけてしまった。で、俺はというと……
「……はぁ~」
結局、なんにも分からなかった。だあぁー、俺が名探偵だったら、こういう時にビビッとした閃きが来るもんなのに……俺も結局、凡人に過ぎないってことか。
ずーっとうつむいて考え事をしていたので、背中が痛い。ぐりっと伸ばしたついでに、辺りを見回す。おや、誰もいないぞ?外に出ているのかな。部屋にいるのは俺一人だ。
(なんだよ、一声かけてくれてもいいのに……)
それとも、俺の邪魔をしないために、だろうか。だとしたら、ライラまで外に出ていることになるけど、あいつって今ぐらいにはいつも、スヤスヤ寝入っているはず。俺のために無理をさせているのなら申し訳ないな。
俺はとりあえず立ち上がって、ベッドのそばまで行ってみた。ベッドシーツの上にはカバンが置かれているだけで、中に誰かが潜り込んでいる様子もない。となると、やっぱり外に……
「お?」
ベッドのむこうに、赤いものが見えたぞ。もしや?ひょいとのぞき込んでみる。
「ライラ?」
「わひゃっ」
ベッドの陰に隠れるようにして、ライラがうずくまっていた。それになぜか、俺の上着を肩に羽織っている。俺が呼ぶと、ライラは恐る恐ると言った様子で振り返った。なぜか顔が赤い。
「……?どうした?なんかいたずらでもしたのか?」
「な、な、な、なんでもないよ!ち、ちょっとウトウトしてただけ……へへへ」
んん?なんか挙動不審だな……まあ、ボロの上着だ。ちょっとくらいいたずらされてもいいけど。
「まあいいけど、寝るならベッドで寝ろよ」
「は、はぁーい。桜下は、考え事は終わったの?」
「いいや。ぜんぜん成果なしで、嫌になってきた所だ……はーあ」
幼女に愚痴をこぼすなんて、我ながら情けない。俺は頭の後ろで手を組むと、部屋の中をうろうろと歩き回る。少し離れると、小さなライラはすっかりベッドの陰に隠れてしまう。こりゃ気付かないわけだな。静かにしていたのならなおさら……
「……?」
ん?いま、なんだろう。とても小さな、だけどチクッとするささくれのようなものが、あった気が……俺はもう一度、今度はちゃんと正面から、ベッドを見る。
「ライラ!悪いけど、もう少しそこに屈んでてくれないか?」
「ふえ?う、うん。いいけど……」
頭を出しかけたライラは、慌てて引っ込んだ。ベッド……見えなくなったライラ……俺はライラに気付かなった……
「……そうか。そういう、ことなのか?」
ほんの小さなほころびだが、確かにおかしい。“あの人”は、嘘を言っている。
「でも……そんな事、あり得るのか?」
「……桜下?どうかしたの?」
そろそろと、ライラが目だけをベッドの淵からのぞかせる。
「ああ、悪い。もういいぞ、ライラ。ありがとう。おかげで閃いたことがあるんだ」
「え、ほんと?すごい!じゃあ、三人のうちだれが犯人か、分かったの?」
「まだ犯人かは分からないけどな。ただ、一人だけ、嘘を言っているって気付いたんだ」
「え?だ、誰?あのお爺さん?テレジアって人?それとも、あの熊みたいな奴?」
「いや……その、誰でもないんだ」
「へ?」
ライラの目が、点になった。
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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遠くでカラスが鳴いている……もう夕暮れ時だ。
俺たちは宿に帰り、部屋で輪になって座って、うんうんと唸っている。雁首揃えて熟考している議題は当然……
「いったい、誰が犯人なんだ……?」
日中に出会った、三人の容疑者。
ウォルフ爺さん、木こりのダンゲル、そして自称トレジャーハンターのテレジア。
俺は振り返りもかねて、一人ずつの特徴をあげていく。
「ウォルフ爺さんは、一年ほど前に町を出て、最近になって娘のヤンと一緒に戻ってきた。原因は体が悪くなったから。事件当日は、ずっと庭にいたと言ってる。ヤンもそれを見ていたから、アリバイは成立してるな」
「ええ、そうでしたね」
ウィルがうなずいた。
「お爺さんが植えたって言う野菜も、嘘じゃないと思います。」
爺さんがいじっていたタマネギが本物だってことは、ウィルが証明している。
「で、ダンゲル。流れ者のゴロツキで、半年前に町に居ついた。手に怪我をしていて、当日は家にいなかったらしい。体の特徴も一致してるし、実際中身も悪党そのものだけど……」
これには、ライラが不服そうにうなずいた。
「でも、あいつを見て、話しをしたって人がいるんだもんね」
「そうなんだよなぁ」
宿のおかみさんが証言したことだ。さらに俺たちは、その人の住所を教えてもらって、直接本人にも確かめもした。そうして戻ってきたのがついさっき。その人は怪訝そうな顔をしていたが、確かに事実だと認めた。
「あんなに怪しいのに……どうせ悪いことたくさんしてるんだし、犯人ってことにしちゃダメかなぁ」
「さすがにそれは……気持ちは分かるけど」
今回の目的は、犯人を捕まえることじゃなく、ステイン牧師の信頼を勝ち得ることだ。そこを忘れちゃいけない。
「で、最後が、テレジアか……」
「確か……トレジャーハンター、でしたかな?」
聞き慣れない言葉なのか、エラゼムの発音はぎこちない。
「ああ。見た目は子どもそっくりなんだけど、これがなかなか食えない人でさ。ていうか女の人だし、土台犯人像と食い違うんだけど」
襲撃犯は、立派な体躯の、恐らく男。小柄なテレジアじゃ根本的に食い違う。しかしまあ、皆まで言わずとも、それはみんなも分かっているだろう。
「ふぅむ……そちらの方は、自分の潔白を証明できる人物はいるが、現在は遠くにいるので会うことができない、とおっしゃったのでしたな」
「そ。帝都にいるって。嘘だと思うか?」
「難しいところです……真偽を確かめるすべがありません。帝都まで馬を走らせるというのも、現実的ではないでしょう」
そりゃそうだ。全速力で走っても、往復一か月はかかるだろう。とても無理だ。
「こうして並べてみると、全員が全員、犯人であることを否定する要素を持っているんですね……」
ウィルが暗い顔で言う。まったくだ。ウォルフ爺さんは歳が、ダンゲルはアリバイが、テレジアは証人がいる。
「ですけど、一方で怪しいと思える要素も、あるんですよね」
それも、そうなのだ。爺さんはかつて腕利きの冒険者だったという実績が、ダンゲルの場合は素行が。テレジアの場合は正確性という点で、疑わしい側面がある。
「つまり、だれとも言えない、と」
アルルカの総括に、誰も反論することができなかった。
「ねぇ、そもそもよ?この三人は容疑者というより、単に疑わしい連中ってことでしょ」
「何が言いたいんだよ、アルルカ?」
「だーら、必ずしもここに犯人がいるとが限らないってことよ。あのシスターが怪しいと思ってるだけで、実際どうかなんて分からないじゃない」
「お前……それを言い出したら、元も子もないじゃないか」
「じゃあ、否定できる?」
「それは……できないけど」
「そら見なさい」
確かに絶対違う!とは言えないけど、でもマルティナだって、全くのあてずっぽうで言ったわけじゃない。それに、いまさらそんなことを言いだしたら、それこそ議論は破綻だ。
「……視点を、変えてみよう」
うん?俺とアルルカが睨み合っていると、フランが床を見つめたまま、静かに言った。
「犯人だっていう証拠なんて、そう簡単に見つかる物じゃないでしょ。当然、本人は隠そうとしてくるはずだから」
「まあ……そうだな」
「なら、犯人の特徴はいったん忘れて。それ以外で、おかしなところが見つからない?」
「おかしなところ?」
「例えば、違和感。矛盾点、おかしな発言。あなたは直接見てきたんだから、態度とかも」
違和感、か……そりゃもちろん、無かったわけじゃない。
ウォルフ爺さんは、一日中庭にいたという。転寝していたからだと言うが、ちょっと長すぎないか?ご老体が固い土の上で、丸一日過ごして平気なもんだろうか。
ダンゲルとはまともに話もできていない。彼のアリバイを証明しているのは、彼と話したという町民だけ。もしもダンゲルに脅迫されていたとしたら?もしくは、グルだという可能性もある。
テレジアの場合、家を持っていないっていうのが引っ掛かるよな。テントなんて簡単に組み立てられるし、吊るしていた毛皮も事前に用意しておけば、あたかも猟師としての仕事をしていると装うこともできる。その裏で、マルティナを尾行していたのでは?襲撃犯は別の人間で、彼女は裏方で立ちまわっていたんじゃないか?
「……」
違和感も、不審点も多い。でもそのままでは、情報としてあまりにも粗すぎる。もっとふるいにかけて、精査していかなければ……
「……」
俺が黙り込むと、仲間たちも気を遣ったのか、しんと静かになった。その心遣いをありがたく頂戴して、俺は今日一日のことを思い出す。どこかに、決定的な違和感はなかっただろうか?誰かが、明らかな嘘をついていなかっただろうか……
そうしている間に、夜はとっぷりとふけてしまった。で、俺はというと……
「……はぁ~」
結局、なんにも分からなかった。だあぁー、俺が名探偵だったら、こういう時にビビッとした閃きが来るもんなのに……俺も結局、凡人に過ぎないってことか。
ずーっとうつむいて考え事をしていたので、背中が痛い。ぐりっと伸ばしたついでに、辺りを見回す。おや、誰もいないぞ?外に出ているのかな。部屋にいるのは俺一人だ。
(なんだよ、一声かけてくれてもいいのに……)
それとも、俺の邪魔をしないために、だろうか。だとしたら、ライラまで外に出ていることになるけど、あいつって今ぐらいにはいつも、スヤスヤ寝入っているはず。俺のために無理をさせているのなら申し訳ないな。
俺はとりあえず立ち上がって、ベッドのそばまで行ってみた。ベッドシーツの上にはカバンが置かれているだけで、中に誰かが潜り込んでいる様子もない。となると、やっぱり外に……
「お?」
ベッドのむこうに、赤いものが見えたぞ。もしや?ひょいとのぞき込んでみる。
「ライラ?」
「わひゃっ」
ベッドの陰に隠れるようにして、ライラがうずくまっていた。それになぜか、俺の上着を肩に羽織っている。俺が呼ぶと、ライラは恐る恐ると言った様子で振り返った。なぜか顔が赤い。
「……?どうした?なんかいたずらでもしたのか?」
「な、な、な、なんでもないよ!ち、ちょっとウトウトしてただけ……へへへ」
んん?なんか挙動不審だな……まあ、ボロの上着だ。ちょっとくらいいたずらされてもいいけど。
「まあいいけど、寝るならベッドで寝ろよ」
「は、はぁーい。桜下は、考え事は終わったの?」
「いいや。ぜんぜん成果なしで、嫌になってきた所だ……はーあ」
幼女に愚痴をこぼすなんて、我ながら情けない。俺は頭の後ろで手を組むと、部屋の中をうろうろと歩き回る。少し離れると、小さなライラはすっかりベッドの陰に隠れてしまう。こりゃ気付かないわけだな。静かにしていたのならなおさら……
「……?」
ん?いま、なんだろう。とても小さな、だけどチクッとするささくれのようなものが、あった気が……俺はもう一度、今度はちゃんと正面から、ベッドを見る。
「ライラ!悪いけど、もう少しそこに屈んでてくれないか?」
「ふえ?う、うん。いいけど……」
頭を出しかけたライラは、慌てて引っ込んだ。ベッド……見えなくなったライラ……俺はライラに気付かなった……
「……そうか。そういう、ことなのか?」
ほんの小さなほころびだが、確かにおかしい。“あの人”は、嘘を言っている。
「でも……そんな事、あり得るのか?」
「……桜下?どうかしたの?」
そろそろと、ライラが目だけをベッドの淵からのぞかせる。
「ああ、悪い。もういいぞ、ライラ。ありがとう。おかげで閃いたことがあるんだ」
「え、ほんと?すごい!じゃあ、三人のうちだれが犯人か、分かったの?」
「まだ犯人かは分からないけどな。ただ、一人だけ、嘘を言っているって気付いたんだ」
「え?だ、誰?あのお爺さん?テレジアって人?それとも、あの熊みたいな奴?」
「いや……その、誰でもないんだ」
「へ?」
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