じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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16章 奪われた姫君

1-1 新たなる旅立ち

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1-1 新たなる旅立ち

「さてと。そんじゃ、出発するか」

ヒルコの町、シジンの宿。次の旅は、ここからがスタートだ。
俺はカバンを肩に担いだ。カバンに括りつけた兜がガシャリと揺れる。この兜は、俺たちの仲間だった騎士が身に着けていたものだ。

「ロウラン、重くないか?」

「うん。これくらい、へっちゃらなの♪」

薄桃色の髪を揺らして、ロウランは荷袋を担いだままぴょんぴょん跳ねて見せた。エラゼムが今まで持っていてくれた荷袋は、ロウランが引き継ぐことになった。あの細身の体の、一体どこにそんな力が……?俺がジロジロ見ているのに気づいてか、ロウランはぽっと頬を染めた。

「やだダーリン、そんなに見つめちゃ……」

い、今時古風なボケを……

「そうじゃなくて。ロウラン、前から思ってたけど……お前、体はどうなってるんだ?」

「えっ。ダーリン、見たいの……?でもダーリンになら、いいよ……?」

「いや、いい。悪かった、悪かったから脱ぐな!」

包帯の結び目に小指を立てて手を添えたロウランを、なんとか押しとどめる。こいつは裸に包帯を巻いただけというエキセントリックな格好をしているから、一枚脱いだら大参事だ。ロウランはぶーたれていたが、そんなのは無視して……って、あれ?

「あん?あれ、ロウラン。お前、靴って履いてないのか?」

ロウランの足もとを見た俺は、目を丸くする。裸足じゃないか。あれ?今までも、ずっとそうだったっけ?

「ああ、うん。だって、どうとでもなるもん」

ロウランはあっけからんと言うと、自分の体のあちこちから、金の液体をとろりと垂らす。それが足に絡みつくと、瞬く間に金色の靴が出来上がった。

「ああ、だから気付かなかったのか……でもそれ、不便じゃないか?」

「うん?別に、そうでもないけど……変かなぁ?」

「変ってわけじゃ……ただ、見てて痛々しくはあるかな。ずっと裸足なんてさ。あ、そうだ!」

こういう時に、便利なものがあったじゃないか。俺は早速、胸元に下がるガラスの鈴、アニに呼びかける。

「アニ。久々に、あれ出してくれよ」

『承知しました。……スクレイル・ストレージ!』

アニの声に応じるように、足元に魔法陣が浮かび上がる。中から現れたのは、いくつかの鎧のパーツ……フランのガントレットや、ウィルのコルセットのもとになった、魔法の馬具だ。

「アニ、こいつをブーツみたいにできないか?」

『造作もありません。もともと形は近いので、すぐにできますよ』

宣言通り、アニはあっという間に、細長い筒のような馬具(多分脚に付けるやつだ)をブーツの形に整えた。そいつをロウランに渡す。

「ほら、どうだ?履いてみてくれよ」

「う、うん」

ロウランはおっかなびっくり、それこそ人生で初めて履くかのように、そっと足を通した。

「どうかな。大きさとか」

「うん、ぴったり。不思議、よくなじむの」

「そんならよかった。ま、俺はなんもしてないけど」

アニが持参してくれた馬具も、残りはだいぶ少なくなった。思い返せば、俺の仲間になってくれたアンデッドには、みんな一つずつこれを渡していることになるんだな。カバンに括ってある兜もそうだし。その時のことを思い出すと、ふふ、ちょっと懐かしいな。
アニが魔法陣に馬具をしまうと、ロウランはまだぽーっとして、ブーツを撫でていた。

「ロウラン?やっぱ違和感あるか?」

「あっ、ううん。そうじゃないの。ただ……」

「ただ?気になるなら、言っとけよな」

直したいところがあるなら、出発する前に言ってくれよって意味だったんだけど……

「うん、じゃあ……あのね、アタシ、お姫様だって言ったでしょ?」

「へ?ああ、うん……?」

「将来は王様とケッコンするはずでしょ。だから、誰かから贈り物を貰うってこと、経験なかったの。そういうのは、ケッコンしてからになるって聞いてたから」

あ、あれ?今気づいたけど、ロウランの頬が真っ赤になっている。さっきみたいな、わざとらしいピンク色とはまるで違う。

「はじめて、プレゼントもらっちゃった。へへへ、嬉しい。大事にするね。ありがと、ダーリン」

うっ。今のは、ちょっと心臓に悪かった。何の気なしだったが、俺はひょっとして、とんでもない事をしてしまったんじゃ……?まあけど、もう遅いか。この笑顔を見た後じゃ、今さら取り消しにはできないな。

部屋を出て、宿のおかみさんに挨拶していく。顔の半分を布で覆い、片方の袖がペラペラと揺れているおかみさんは、朝から元気に働いていた。

「おかみさん。そろそろ出るよ。世話んなったな」

「あら、もう出るのかい?……って、一人いないんじゃないかい。ほら、あの鎧の」

「ああ、うん……ちょっとな」

おかみさんは、エラゼムに起きたことを知らない。たぶん説明しても、信じてはくれないだろうしな。不思議そうなおかみさんに曖昧に笑って、それから別れの挨拶をして、宿を出た。

「さてっと。で、だ。これから、どこ行く?」

毎度のことながら、旅の目的地は決まっていない。それを定めるところからだな。
特に予定もないし、さいあく木の枝が倒れた方向とかでもいいなと思って枝を探していると、幽霊シスター・ウィルが、俺の隣にふわりと立ち並んだ。

「桜下さん。そもそも、まだこっちの国にいる気ですか?一の国に」

「うん?あー、そっか。外国か」

ここは一の国、ライカニール。俺が召喚されたのは二の国ギネンベルナだ。正直こっちの世界に故郷感はないし、だからどの国にいても同じみたいなところはあるんだけど。

「いちおう俺たち、不法入国してるんだよな……」

「思い出しました?」

ふむ、ウィルの言う通りかもしれない。長居して厄介ごとに巻き込まれても面倒か。

「でも、二の国の戻るのも、それはそれで面倒かもよ」

お?対抗意見を出してきたのは、銀髪のゾンビ・フランだった。

「面倒ってのは、どうしてだ?」

「情勢だよ。戦争の準備だなんだで忙しくしてるはずでしょ?」

「うっ。それもあるな……」

二の国の女王ロアには、これまで何度も面倒事を吹っかけられてきた。次がある可能性は十分にある。特に、西にある魔王の大陸との摩擦が増してきている今は。

「うぅ、俺の居場所はどこにもないのか……」

「桜下、元気出して?

赤毛を揺らして、グールの幼女ライラが、俺の手を握ってきた。

「ライラたちがいるじゃない。それに、桜下はせんそーには行かないもんね?だってもう、勇者じゃないんだしさ」

「うぅ、ライラ。お前は優しいな……ま、その通りだ。行く気はないよ」

「そうそう。桜下がいなくても、絶対ぜんぜんだいじょーぶだよ!」

うっ。ライラ、その言い方はちょっと傷つく……

「それじゃ結局、どこに行くのよ。はっきりしないわね」

黒髪のヴァンパイア・アルルカが、イライラした様子で食い掛ってくる。

「あんたが決めなさいよ、ビシッと!それでも主なわけ?」

「う、うるさいな。わかってるよ……あん?まてアルルカ、今俺のこと、主って言ったか?」

「へ?あっ」

アルルカはしまったという顔で、マスク越しに口を押えた。びっくりだ。アルルカは今までずっと、俺のことをガキだとか小僧だとか呼んできたのに。

「へーえ。ふーん?」

「なっ、あっ、ちがっ」

「ウィル、今の聞いたか?」

「聞きました聞きました!」

「うらあぁぁぁぁ!」

うわぁ、アルルカが地面を蹴っ飛ばして、土をかけてきやがった!

「あははは。なんだか楽しそうねー」

あん?俺たちがギャーギャーと騒いでいると、知らない声が聞こえてきた。おっと、道の真ん中で騒いで、迷惑だったかな。
振り返ると、そこには小さな女の子が立っていた。ブロンドの長い髪だ。顔立ちは幼く、たぶんライラと同い年くらいか……って、ん?あれ、なんだか見覚えがあるな。確か……

「あ。あんた、テレジアさんか?」

「あったりー。ちょっとぶりだね、探偵くん?」

テレジアはひらひらと手を振った。そうだ、この前関わった事件で、容疑者の一人だった女性だ。どっからどう見ても少女にしか見えないんだけど、その年齢は俺の倍だと言う……ほんとかな?俺はまだ疑っているんだけど。

「で、あれからどう?事件の方は。解決した?それとも、まだあたしを疑ってる?」

「あっ、うん。無事解決したよ。ちゃんと犯人も分かったし、その、ごめんな。疑ったりして」

「そうなんだ。うん、じゃー事件を解決したお手柄に免じて、許してしんぜよう。なんてねっ」

テレジアはいたずらっぽくウィンクした。うーむ、やっぱり十歳くらいじゃないかな……

「それで君たち、ここでなにやってんの?なんだかずいぶん賑やかだけど」

「ああーっと。いや、もうこの町での用事も済んだから、今から出てくとこなんだ」

「あ、そーなんだ。奇遇だね、あたしも出かけるとこ。次のお宝を見つけにね!」

テレジアはびしっとポーズを決めて見せた。あー、そういやそうだっけ。この人は自称トレジャーハンターなんだ。

「それで?次はどこに行くつもりなんだ?」

「んふふ。ズバリ、竜の死んだ地よ!」

「は、はあ!?竜の死んだ地?」

「まーね。なんでも、そこではかつてドラゴン対勇者の決戦があったらしいわ。その時の勇者の装備がまるっとそのまま残ってるって噂よ!」

な、おいそれって、七つの魔境のことじゃないか!

「お、おい。竜って!危険なところなんだろ?」

「リスクなくしてロマンはないわ!」

「んな……」

テレジアは俺の警告を一蹴した。まぁ、リスクを恐れる人がトレジャーハンターなんてやらないだろうが……

「それにね、ドラゴンの墓場は今かなりホットなハンティング場所なの。後れを取るわけには行かないわ!」

「ホット、だって?」

「そう。トレジャーハンターの間ではね。なんでも、その筋の好事家こうずかがいるとか何とかで……おっと、こうしちゃいられない!すぐにでも出発しないと!」

「あ、ちょっと」

「じゃね君たち、お互い生きてたら、またどこかで会いましょー!」

待て、まだ話を……って、あーあ。テレジアは勝手に話を切り上げて、たったか走って行ってしまった。落ち着きがない所まで、子どもにそっくりだ。

「ちょっと。さっきの子、誰なの」

フランが少し不機嫌そうに、俺を肘で突いてくる。うん?あ、そういや、フランはテレジアに会ったことがなかったっけ?

「あの人は、あれだよ。マルティナを襲った犯人捜しん時の容疑者。居ただろ、自称トレジャーハンターの女の人って」

「えっ。だって今の、どう見ても子ども……」

「ま、そう見えるよな。あれで二十八なんだと」

「……」

フランは絶句している。だよなぁ、うんうん。

「でも桜下さん、何だか聞き捨てならないことも言ってましたよ、あの人。竜の墓場がどうたらって」

ウィルは疑うような目で、テレジアが走って行った方を見ている。

「ああ……引っかかるよな。マスカレードと同じで、七つの魔境を漁ってるかもしれない」

マスカレード、仮面の危険人物。一切の目的は不明だが、七つの魔境と呼ばれる、竜の死んだ地に現れることだけが分かっている。あいつと同じ場所を、テレジアは目指すと言うんだ。

「ですが……あんな恐ろしい所に立ち入って、無事で済むとは思えません。テレジアさんが、そんなにすごい冒険家には見えませんでしたよ」

「だよなぁ。それに、噂ってのも気になるな」

「ああ、言っていましたね。物好きが彼女たちを焚きつけてるとか」

「ったく、誰がそんな与太話を流しているんだか。あんなとこに、お宝なんかあるわけないのに」

「そうですよね……あんな危険な場所に行っちゃったら、一番大事な宝まで失くしてしまいますよ」

まったくだ。もっとも大事な、命という宝を失っては、元も子もないだろう。

(お互い生きていれば、か)

俺はテレジアが走り去っていった方を見つめる。命知らずな冒険家に、また会える日が来るといいのだけれど。もちろん、その時まで、俺がくたばっていなかったらの話だが。

(せいぜい、次の旅も無事にいくことを祈ろうか)



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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