じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
665 / 860
16章 奪われた姫君

3-4

しおりを挟む
3-4

「昼間俺たちが出会った人たちは、実は人間じゃなくて、全員ゴブリンだった……」

導き出されたのは、衝撃的な結論だった。

「いや……ちょっと待ちなさいよ!とっぴょーしもなさすぎるわ!」

アルルカが珍しく、少し焦った顔で言う。

「ゴブリンなんて、低級なザコモンスターよ!そいつらが精巧な変身なんてできるわけないじゃない!」

「わたしだって、そう思ったよ。でも……」

フランは過去を思い出すように、まぶたを伏してうつむく。

「つい最近、似たようなことがあった。人間そっくりに変身する、モンスターの話」

「……この前の、サイクロプスのことを言いたいわけ?なによ、さっきのゴブリンとサイクロプスが仲間だったって?」

「少なくとも、やり口はよく似てる。忘れてない?あのゴブリンたち、わたしを連れ去ろうとしてたんだ」

あいつらは、執拗にフランをよこせと言ってきた。マルティナの場合も、敵は彼女をじっくりと調べ上げた後、連れ去ろうと企んだ。それに……そうだ。今朝、俺たちが太った男に声を掛けられた時。俺はあの時、妙にわだちが多いと思った。もしもあいつが、何日も前から、あそこを行ったり来たりしていたんだとしたら。やつらは、たまたま俺たちを見つけたんじゃない。何日も何日も、あそこで網を張っていたことになる。
これは単純な、モンスターの襲撃じゃない。周到な準備のなされた、計画誘拐だ。

「どういう、ことですか……?前の事件と今の戦闘は、一つに繋がるってことですか?」

ウィルが青い顔で言う。だんだん壮大になってくる話に、恐れをなしているようだ。フランは分かるとも分からないとも取れる、あいまいなうなずき方をした。

「……共通点は、多い。まだ、推測に過ぎないけど」

「では……推測ベースで、私も話させてもらいます。この前、噂を聞きましたよね?各地で、人々の失踪が相次いでいるって。もしや、それも関係があるんじゃ……」

「……」

フランはうつむいたまま、何も言わない。だが、だれもウィルの意見を否定しなかった。

(一の国で聞いた噂が、実際に二の国で起こっている)

事態は、思ったよりも迅速に、かつ深刻に広がっているらしい。
なんだか俺は、空が曇ってきたような気がした。実際には青空が広がっているんだけれど……見えない黒雲が、じわじわと迫ってきているような……

「……急ごう。何となくだけど、早く王都に着いたほうがいい気がする」

俺が言うと、みんなは無言でうなずいた。世界を揺るがしかねない陰謀の、その一端に触れてしまった気分だった。小さな芽だと思って引き抜いたら、とんでもない巨木に繋がってしまったのか……ただの気のせい、勘違いだったら、どんなにいい事か。願わずにはいられない。
俺は止めていたストームスティードを再び走らせ始める。急く気がそうさせたのか、俺はいつの間にかトップスピードで駆け抜け、風の如く街道を疾走していた。王都までは、もう何日も掛からないはず。今はとにかく、正確な情報を知りたかった。



丸一日が経った。あれから懸命に走り続けたおかげで、もう王都は目前だ。

「なんだか、ずいぶん久々に感じるね」

迫りくる王都を見つめて、ライラが溢す。

「確かにな。前に寄ったのが、エドガーの治療が済んだ時だから……ひゃあ、はるか昔に感じるぜ」

あれ以来、俺たちは王都に立ち寄ってはいない。けど、ロアとは何かと顔を合わせる機会が多かったせいで、そこまで久しぶりな感じはしないな。あの女王様は、今どうしているだろうか?揺れ動く情勢の対策に追われて、また目の下にクマを作っていそうだ。

「あれ?」

ん?俺の前で、ライラが不思議そうに首をかしげる。

「なんだろ、あれ。王都の上に、なんかもやもやしたのが……」

「え?」

俺は手を庇にして、遠くを見つめる。王都の高い城壁の、その上の方。ん……確かに、何か黒いもやのようなものが見えるな。煙?にしちゃ、ちょっと変だ。なんだか、うごめいているような……鳥の群れ?それとも……

「……嫌な予感がするな。フラーン!」

俺は、隣を鹿のように跳ねながら走るフランに、大声で呼びかけた。

「なんか、王都の上の方に、鳥の群れみたいなのがいるんだー!見てくれー!」

フランの目は、ずば抜けて良い。俺たちに見えなくても、彼女の目には見えるんじゃないだろうか。
フランは速度を落とさず、前方を注視して、じっと目を凝らした。走りながらだから、見えづらいかもしれないけど……

「……え?」

ん?フランは目を見張ると、信じられないという顔になった。彼女がこういう顔をする時は、大抵ろくなことじゃない。

「フラン……?」

「あれは……わからない。けど、鳥じゃない」

「分からない?」

曖昧な物言いも、フランにしては珍しい。しかも、鳥じゃない、とはっきり言い切るあたり、見えていないわけでもない。

「フラン、詳しく教えてくれ。何が見えてる?」

「……大きな、翼が見える。でも、普通の鳥じゃ、絶対にない。だって、手と足が生えてる。人間の」

人間の手と足がある鳥……?瞬間的に、ぞわっと鳥肌が立った。

「ちくしょう!飛ばすぞ!」

俺はストームスティードの腹を蹴って、さらに加速した。王都の上空を舞う、不気味な群れ。最近のきな臭い噂。結びつけるのは、ごく簡単だった。

「まさか、王都が……!」

俺の悪い予感は、想像以上に悪い方向へ流れ始めたのかもしれない。



「見えたぞ!城門だ!」

ストームスティードが懸命に走ってくれたおかげで、俺たちはかなりの速さで王都へ辿り着いた。ただ、それでも一瞬というわけではない。俺たちが門をくぐるまでの間に、上空に大挙していた群れは、どこかへ飛び去ってしまっていた。退却したのか、攻撃しつくして去ったのかは分からない。

「王都の様子は……」

城門を素通りすると、大通りに出た。だが、人の姿はどこにもない。

「人がいない……」

「桜下さん、それに変です!城門に、警備の方が誰もいないなんて」

ああ、そう言われればそうだ。普通は衛兵がいて、素通りなんてできるはずがない。

「てことは、やっぱり何か異常が……」

しかし、王都の町の様子を見る限りでは、どこも被害を受けた様子はない。人がいないだけだ。

「みんな、一体どこに……」

その時だった。
ガガガーン!空を震わせそうなほどの轟音が響き、空気をビリビリと震わせた。ウィルが小さく悲鳴を上げ、ライラは怯えて、俺の腕をきゅっと掴んだ。

「あっち!城の方だわ!」

空を飛ぶアルルカが指さしている。俺は迷わず、ストームスティードの鼻先をそちらに向けた。

「行くぞ!」

俺は手綱を引き、不気味に静まり返った町を、王城へ向けて走り出した。



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...