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16章 奪われた姫君

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そんなこんな、アルルカの番も終わった。残すは一人だ。

「そんで次は、ロウランの……」

「はぁーい」

うわっ!耳元で声が聞こえて、俺は飛び上がった。いつのまにか、ロウランがすぐ後ろにいる。

「び、びっくりした。脅かすなよ……」

「ええ~?だぁって、いまさらなの。霊体だった時は、ずうっと一緒だったのに」

「……お前まさか、トイレとかにも……あいや、なんでもない。聞くのが怖いや」

ロウランは黙ったまま、ニコニコ笑っている。その笑みの意味が分からないが……

「ごほん。ともかく、もう始めていいか?」

「どんとこい!なの」

「じゃ、さっそく。つっても、まずはお前の能力から教えてもらわないとか」

「いいよー。アタシの能力って言ったら、やっぱりこれとコレなの」

ロウランの体に巻かれた包帯が、ウネウネと生き物のように動く。さらに、とろりとした金色の液体が、どこからともなく流れてきて、ロウランの膝下に水溜りを作った。

「包帯と、金か。これって、ロウランの魔法なんだよな?」

「そうだよ。どっちも同じ、鉄を操る魔法なの。この包帯にも、細ーい鉄の糸が編み込まれてるんだ」

「ふぅーん。じゃあ、この金色のも鉄なのか?」

「そう。鉄と金を混ぜた、合金なの」

「ああ、聞いたことあるかも。そうすると、強度が増すってわけだろ?」

「ううん、別に」

「へ?」

「見栄えがいいから金色にしてるの。こっちの方がキレイでしょ?」

み、見栄え……まあ、黒い鉄よりか、金の方が栄えるだろうけど。

「ずいぶんしょうもない理由なんだな……」

「ああー、ひどいの!しょうもなくなんかないよ、むしろとっても大事なことなんだから。姫として、煌びやかに見えるようにってした結果なのに!」

「あ、そっちの理由か。ごめん、てっきりお前個人の趣味かと」

「ちがうよー!あの時は、これが最先端の装いだったんだから。今だって、ダーリンに合わせた格好にしてるんだよ?」

「えっ」

この、裸に包帯って恰好がか……?俺を何だと思ってるんだ。だがロウランは、大真面目にうなずくと、膝元の合金を手でつぅと掬い上げた。

「見せてあげる。昔は、こんなだったんだから……」

ロウランは手をひっくり返して、合金を胸元に垂らした。とろっとした金色がロウランの肌に触れると、金はアメーバのように、体の上を這いまわり始めた。

「え」

な、なんか……うわ!ほ、包帯がほどけて……え!?き、金が、そ、そんなとこを、そんな風に……!

「やぁ、やめろ!わかった、もういいって!」

「ほらあ。そう言われると思ったから、ブナンなかっこにしてたの」

「わ、悪かった。だから、これからも無難にお願いします……」

思わず謝ってしまったが、これ、俺が悪いのか?
しかし……さっき見たものが、脳裏から離れない。ものすごい衝撃映像だった……あれが、あんなに……

(はっ。いかんいかん!)

頭を振って、もやもやと浮かんできたイメージを振り払う。こんなんじゃ、アルルカのことを言えなくなっちゃうぞ!

「ぁえーっと……ああそうだ、能力についてだったな。その合金って、どれくらい自由に操れるんだ?」

「わりと何でもできるの。しようと思えば、カチカチにでもフニャフニャにでもできるよ」

ロウランは片手を突き出すと、指先からとろーっと合金を垂らした。それは床に触れる瞬間に固まり、何かの形になっていく。足ができて、体ができて……あっという間に、ミニチュアのロウラン像ができあがった。詠唱もしていなから、本当に自由自在らしい。

「へえぇ、器用なもんだなぁ。そういや、前に戦った時も、ロウランの人形を作りだしてたか」

「あー、あれね。あれはもう、できないかなぁ」

「あれ、そうなの?」

「うーん、あそこって、アタシの庭みたいな場所だから色々できたんだよ。外に出ちゃったら、あそこまでの力は出せないの」

「そうなのか。そりゃ、ちょっと残念だな。あれが使えれば、攻めも守りも行けそうだったのに」

鋼鉄の分身や、巨大な岩石の大蛇は、凄まじい強敵だった。あれができるなら、ロウランもオールラウンダー気質があったんだが。

「そうなるとやっぱり、ロウランには守りを担当してもらう方がいいのかもな」

「アタシもそう思う。守りは得意だし、鉄は攻撃には使いづらいから」

「え?むしろ強そうなイメージだけど……」

「やれないことは、もちろんないよ?でも、鉄って重いでしょ。どうしてもスピードがでないんだよ。おっきくて遅い相手なら、自信もあるんだけどね」

なるほど……ならやっぱり、ロウランは防御担当だな。ちょうどエラゼムが抜けた穴を埋める形になるわけだ。

「じゃあ、今後はそういう方向で頼む。つっても、前のゴブリン戦で、自然とそういう流れになってたけどな」

「そうだったねぇ、いい予行演習になったの。まかせて!なんだったら、金でお城を作って、ダーリンを守ってあげる♪」

「それは悪目立ちしそうだから遠慮しとくかな……」

かくして、五人全員の面談が終わった。新しい戦い方を見出した者もいれば、自分の力の認識がより深まった者もいた。うん、暇つぶしにしちゃ、ずいぶんと有意義なものになっただろう。

「さて。これで終わりにしてもいいけど、せっかくだ。あと一人分もやっておこうかね」

俺がそういうと、五人の仲間が、え?という目を向けた。アンデッドの面談は、確かに終わった。けど、それ以外のやつらがいるだろう。一人と、一個ほど。

「アニ」

『はい?まさか、私にもする気ですか?面談とやらを』

見下ろした胸元で、ガラスの鈴が、りりんと左右に揺れる。アニだって、俺たちの仲間だ。だし、忘れちゃならないのが一人いるだろう。

『私は道具ですので、主様たちのように成長するということはできませんよ。定められたこと以上ができないのが、私達エゴバイブルです』

「そういうもんなのか?それなら、相談に乗ってくれよ」

『相談、ですか?』

「そ。俺の、能力について」

そう。俺だって、戦力の一人なのだ。といっても、実質的な戦闘力は無きに等しいが……しかし、俺だって成長している。特定の状況であれば、けっこうやれるんだぜ。

『能力といいますと……主様が、ソウルレゾナンスと名付けた、あの力のことですか?』

「お、さすがアニ。まさにそれだ」

俺の新たな切り札、ソウルレゾナンス。仲間の魂と融合することで、俺は一時的に、超人の力を得ることができる。ただ、威力は絶大な分、反動も大きい。

「確かアニは、俺の能力の補助をしてくれてるんだよな。だったら、使う魔力の量とか、それの回復にどれくらいかかるのかとか、分からないか?」

『魔力、ですか。ええ、確かに私たちは、魔力の出力を補助する役割を持ちます。その時の記録を参照すると……おおむね、八割ほどの魔力を消費するものと思われます』

「八割もか……少なくないとは思ってたけど、やっぱり多いな。なら、連続で使うってことは無理か?」

『まず間違いなく無理でしょう。それに、使用後は主様の体もダメージを負うのでしょう?そんな状態で無理をすれば、命にかかわりますよ』

うーむ、やっぱそうか。ソウルレゾナンスを使うと、全身が重い筋肉痛になったような痛みに襲われる。のたうち回るほどの痛みってことはないが、そこに無理を重ねれば、どうなるかは想像に難くない。

「なら、魔力の回復は?」

『そうですね……主様は他より魔力の回復も早いですが、消費量も甚大です。元々多い主様の魔力を、八割も使うのですから』

「もとが大きい分、割合も増えるってわけか」

『ええ。ですので、完全に回復するにはほぼ一日。再使用が可能なラインに絞っても、半日は空けないと危険でしょうね』

「半日、か……」

となるとやはり、ほぼ一回こっきりの必殺技ということになるな。一日に最大二回が限度じゃ、おいそれと使うことはできないってことだ。

「やっぱり、連続融合は無理、かぁ」

『無理、です。土台、死霊と魂を融合するということ自体がむちゃくちゃなんです。気軽に使える技だとは思わないでくださいよ』

「ちぇ。じゃあやっぱり俺は、基本は後ろに下がってるしかないんだな」

『むしろそれが、主様の一番の仕事でしょう。キングが倒れたら、ゲームは終わってしまうのですよ』

俺の居た世界の知識もあるアニは、チェスになぞらえて警告してきた。その通りだし、それは今までもやってきたことなんだけれど……

(でも、主として、それでいいのかな)

みんなの主が、みんなの後ろに隠れっぱなし。もちろん、そうするのが一番いいのは理解しているよ。けど、もし……もし、みんなが立ち上がれなくなった時。その時には、俺がみんなの前を歩きたい。みんなは強いし、そんな時は来ないに越したことはないが。

(この戦いで、俺に何ができるのか)

一の国までは、まだしばらくかかる。考えてみよう。俺にできることを。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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